―アメリカの制度(ルール)は世界の見本たりえず―

【運動資料】

大枠合意もできず破綻するアメリカの世界改造計画
—アメリカの制度(ルール)は世界の見本たりえず—

                          篠原 孝


10月8日記(10月11日加筆)

 私は今バリ島のグランドニッコーホテルの315号室で怒りに震えながらこの原稿を書いている。第一に、また逆戻りした政府・自民党の騙しの政策変更、第二に、アメリカの傍若無人な世界改造計画、そして第三に思い出すのが、自民党と民主党の成熟度合の差である。

<繰り返される「出来」レース>
 民主党がボロ負けした、12年末の野田自爆解散の時の自民党の公約、「政府が、「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、交渉参加に反対する」は、自民党政治の最高文学の一つだというのは、私の40年来の畏友、手嶋龍一の至言である。政権交代を見込み、聖域でなくせば(つまり、例外が認められれば)TPPに参加できるという言訳を残しながら、農民や地方を欺いたのだ。
 TPP首脳会合でも、予想された数分野の合意やアメリカの望む、大枠合意すらできなかった。西川公也TPP対策委員長のフェイント発言「重要5項目について、例外の対象から抜くか抜かないか検討はしなければならない」という、完全に昔に逆戻りした自民党政治の復活である。今や大半の人が忘れているが、安倍自民党は「日本を取り戻す」という意味不明のキャッチフレーズを多用した。アメリカでも「Japan is back」とやら述べたが、自民党のずるい政治は完璧に取り戻している。

<民主的な安倍首相の馬鹿馬鹿しい「ドリルの刃」発言>

 安倍首相がスピーチを英語で行うのはなかなか大したものである。ただ、公式のスピーチと民間団体の非公式のスピーチを分け、前者は日本語で後者は英語にしていることがうかがわれる。バリ島のAPECのCEOサミットは、後者に属すると思いきや、日本語だった。
 民主党三代の首相は軽い首相だった。野田首相はその風貌から重々しいと勘違いされているようだが、いつも格好いい言い回しをしようとする姿勢は、あざとい方便としか映らなかった。安倍首相も、大衆受けのすることを言おうとしている点では、まるで民主党の首相のようであり、特に口先の言い回しで世の中の関心を得ようとしている点では瓜二つに映る。
 菅直人首相は、「平成の開国」「第三の開国」とダボス会議でも大見得を切った。日本が閉鎖的な国だと言わんばかりの抜けた発言である。安倍首相は、岩盤のような規制を打ち砕く「ドリルの刃」の役割を果たすと変な譬えを述べた。日本にはあたかも規制すなわち、非関税障壁だらけだと宣言していると同じなのだ。こんな自(国)虐的首相ばかりを抱える日本も大変である。

<TPP交渉を透明化し、注文をつけていく以外に是正の途はなし>

 かくなるうえは、一刻も早くTPP特別委員会をつくり、問題点を洗い出し、国益に反するなら脱退していくべきである。12年の総選挙では、政治を知らない民主党は、TPPを推進する、と愚かな公約に掲げ、農村部で大敗北を喫した。しかし、13年夏の参院選では、自民党も民主党も国益に反する場合は、脱退も辞さないと同じような公約を掲げている。国益に反するかどうか国会の場で明らかにしていくしかない。
 バリで英語のニュースを見ていたら、何かの問題で“The process is more important than the result. (過程が結果より大事だ)”という解説者がいた。
 TPPにも全く当てはまることだ。こんなやり方でまとめたTPPが、まっとうな協定であるはずがない。

<日本改造計画から世界改造計画に進むアメリカ>

 アメリカのTPPの狙いは、日本大改造計画だと拙著『TPPはいらない!』に書いた。1989年の「日米構造協議」以来、「日米包括経済協議」(93年〜)、「年次改革要望書」(94年〜)、「日米投資イニシアティブ」(06年〜)、「日米経済調和対話」(10年〜)と名前を変えつつ、日本に制度変更を迫ってきた。
 世界でも、北米自由協定(94年)を結び、国際投資協定(MAI)を画策し失敗、中南米に貿易・投資の自由化を迫り、また失敗と、同じことをしてきている。そして、そのとどのつまりがTPPなのだ。つまり、アメリカは、それこそしつこく自国のルールを世界のルールにして、世界中を自らの意に添うように操ろうとしているのだ。

<アメリカのルールは世界のルールたりえず>

 しかし、そのアメリカがうまくいっているのだろうか。答えは否である。オバマ大統領は、自ら議長を務め、大枠合意を取り付けようとしたTPP首脳会合にも出席できず、所期の目的を達成できなかったのである、
 原因を辿ってみると思わぬ皮肉に突き当たる。アメリカは、お互いに助け合う互助組合を認めず、保険はすべて民間に任せるべきと主張し、上記の一連の日米協議でもかんぽや共済を攻撃し続けている。そうした中、クリントン政権からの悲願である国の医療保険制度の第一歩がオバマ政権下で始めんとしている。ところが、その「オバマケア」が、自由を標榜する共和党の大反対にあい、暫定予算すら成立しないでいるのだ。
 医療保険については、日本からアメリカも日本の制度をまねたほうがうまくいく、と声をかけてやるべきかもしれない。ところが、外交手段にたけているという自民党安倍内閣は、TPPでもアメリカにただただ追従するだけで、そうした気配はどこにも感じられない。「攻めるべきは攻め、守るべきは守る」というが、どこを攻めているのか(どういう日本提案をしているのか)さっぱり伝わってこない。

<新興国の台頭で変わる世界の交渉>

 20年前は、米、EU、日、加の4か国が話をすれば大体の国際会議は決着した。そのため、ウルグアイ・ラウンドの折には、年に数回四極通商会議が開かれ、私もカルフォルニアのナッパバレーとカナダのニューファンドランドの会合には出席した。また、オーストラリアを加えた五か国農相会議も開かれて、妥協の途を探った。極端な言い方をすれば、アメリカとEUが手を握れば、大半のことはまとまっていったのだ。たぶん、その最後が1993年のウルグアイ・ラウンドの妥結だったのかもしれない。しかし、BRICSと呼ばれるブラジル、ロシア、インド、中国、南ア等が力をつけ、これらの国々が納得しないと国際会議は動かなくなった。そこで新たに生じたのが先進国と新興国の対立である。その結果、まとまりかけたドーハ・ラウンドは農産物の輸入が急増した時に輸入を止めるセーフガードを巡り、土壇場で中国とインドが了解せず決裂し、今日に至っている。

<昔の夢を見続けるアメリカ>

 世界は、アメリカの思うとおりには動かなくなりつつあるのだが、それに当のアメリカがしっかりとは気付いていない。それにもかかわらず、TPPを使ってアメリカの意を通そうと悪巧み始めたのだ。
 P4は小国であり、そんな交渉能力はない。オーストラリアとNZは気心知れた英連邦諸国である。ベトナムは、中国との対立という安全保障上の理由でアメリカ側につかざるを得ない…と、たかをくくっていたに違いない。しかし、そうは問屋が卸さなかった。マレーシアとベトナムは国有企業でアメリカ案には反対し、繊維製品や履物ではベトナムが一歩も引かない。シンガポールもブルネイもアジアの小さな隣国が味方をする。といった具合で、ここでもアメリカ等先進国対新興国の対立構図が浮き彫りにされ出した。ナジブ・マレーシア首相は、年内妥結は急ぎ過ぎだと公然と述べている。
 そこに、言い出しっぺのオバマ大統領が首脳会合に欠席しては、どうあがいてもTPPはアメリカの思い通りには進まなくなった。シリア問題で一旦振り上げたこぶしを下ろせなかったのと同様に、経済外交でも汚点を残しつつある。
 圧倒的な経済力を背景にした軍事力で、まさに世界の警察官をもって任じてきたアメリカだが、国力の元の経済力に弱まりがみられ、その延長線上で、政治・軍事の面でも思い通りにいかなくなりつつある。それに気づいた各国は、新興国でさえアメリカに対して公然とモノを言い始めているのに、日本ただ一国だけ、相変わらず追従的でしかない。

<したたかな韓国>

 毎度お馴染みのきれいごとの羅列の首脳声明に、おやと思われることが二つあった。
 一つは、TPPに将来参加する可能性について関心を表明する他のAPEC諸国と接触している、というくだりである。日本を過剰に意識する韓国が、TPPへの参加を仄めかしているそうであり、その受け皿の文言を設けたようだ。韓国にしてみれば、TPPの見本の米韓FTAで苦しめられている中で、それならいっそのことTPP本体に参加した方が、緩い協定になるのではないかという思惑もあるのだろう。また、ISDSを巡り、再交渉せよという国民の言のある中で、他の国々と一緒だというのは言い訳に使えることになる。やはり韓国のほうが、FTAについては一歩上手の交渉をしている。

<秘密交渉の是正も虚しく響く>

 二つ目は、ステークホルダー(利害関係者)との協議を更に強化するという表現である。
 アメリカでも、あまりの秘密振りと大企業ベッタリ(600人のアドバイザーは逐一相談)であることが問題にされている。その不満を拭い去るべく一文を付け加えたのであろう。
 オバマは正直に自らの不参加はまずかったと述べている。
 ただオバマケアについては、アメリカ国民は支持しており、予算を盾に抵抗する共和党は支持率を下げている。オバマのAPEC・TPPを犠牲にした大博打は、国内政治ではうまくいくような気もする。しかし、TPPはおいそれと進まなくなったと見るべきだろう。
 そんな中で、腰砕けの586品目のえり分けを言い出し、3度目の騙し(1度目は「TPP断固反対」という選挙公約、2度目は何もないのに大宣伝した日米共同声明)に乗り出した自民党のTPP対応は許し難く、臨時国会で糾弾していくべきである。

(篠原孝メールマガジン343号 e-mail :t-sino@dia.janis.or.jp)より転載)  13.10.13

 (筆者は長野1区選出・民主党衆議院議員)

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