―ブログをめぐってせめぎ合う 政府と反体制派―

■中国ネット事情

―ブログをめぐってせめぎ合う 政府と反体制派― 有留 修

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 「民衆により近づくため首相はブログを開設してほしい」――昨年「ブログ元
年」を迎えたといわれる中国でブログの存在感が大きくなりつつある中、先ごろ
開催された全国人民代表大会(全人代)では、広東省の代表が行ったこの提案が
話題を呼んだ。さらに今年の全人代では、中国中央テレビと大手ウェブサイトの
「新浪網」がネット上で「首相への質問」を募集、それを参考にしながら温首相
が最終日に記者会見を行ったことも注目を集めた。こうした動きを見てわかるよ
うに、人民第一主義を掲げる現政権は、ブログを含むインターネット全般の政治
的な利用価値を重視し始めているようだ。

 もちろんインターネットを政治的に利用しようとしているのは政権側だけで
はない。真正面からの批判が許されていない以上、中国の反体制派にとってブロ
グなどは、彼らがゲリラ情報戦を戦ううえでの重要な武器となっている。ただし、
一昨年あたりから強化され始めたメディア規制のために、当局にとって問題あり
とみなされたブログが閉鎖を余儀なくされるなど、中国のインターネットをめぐ
る環境は厳しさを増している(ただし、それがすべて悪だというわけではない。
暴力的なコンテンツやポルノなど、青少年の教育上好ましくない情報がネット上
で自由に手に入ることは問題であり、それを監視・抑制することは当然のことと
いえよう)。

◆ダブルスタンダードを批判

 一説によると、中国には3万人に上る「ネット警察」が存在しており、日夜、
彼らはネット上で文字通り目を光らせている。また、当局が検索サービスなどを
提供する企業に対して、特定の検索結果をブロックするよう要求するほか、体制
批判などを展開するブログの書き手に関する個人情報を提供するよう迫ること
もあると伝えられる。これについては、先ごろグーグルやヤフーなど世界的な検
索サービス提供会社大手が米議会で「中国政府による言論統制に手を貸す悪者」
として強烈な批判を受けたばかりだ。

 こうしたネット規制について、規制する側の担当者は、中国の規制が国際的に
見て別段驚くようなものではないと反論している(「チャイナ・デイリー」2006
年2月16日付記事「ネット規制は世界的な慣行」)。同担当者は、ヤフーやニュ
ーヨーク・タイムズといった米大手ウェブサイトでも、フォーラム等で発言を載
せる場合には明確な規約があり、「違法および有害な発言を削除するという行為
が米ウェブサイトでは合法的とされる一方、(そうした行為を行う)中国を批判
するのは不公平であり、また(そこには)多少のダブルスタンダードがある」と
述べる。

 確かにネットの世界も完全に自由とはいかない。前述したとおり、ネット上に
有害な情報があるのは事実であり、どの国においても守られるべきルールという
ものがあるからだ。しかし、米ウェブサイトのルールと中国の規制を同レベルで
論じることにはかなりの無理があるといわざるを得ない。「政府に都合の悪い発
言をしたブログは閉鎖する」といった明確な指導あるいは決まりがあるのかどう
かはわからないが、結果としてそうした事例があるということは、やはり中国で
はネット規制が、少なくとも言論の自由が法的にも現実的にも保護されている国
に比べれば、厳しく行われていることを示している。

 しかし、だからといって「中国ではネットががんじがらめに縛られている」と
短絡的に結論づけられるわけではない。さすが「上に政策あれば下に対策あり」
といわれる国だけあって、どんなに強力な規制がかかろうとも、必ずそれをうま
くすり抜ける人間・勢力が出てくるのが中国の現実だといえる。

◆巧妙化するネット規制回避の術

 イギリスの「ガーディアン」紙に掲載された「プロパガンダの万里の長城を打
ち壊す海賊版とブロッガーたち」と題する記事(06年2月14日付)によると、
規制する側と規制される側の戦いはまさに「いたちごっこ」そのものだ。つまり、
当局がいかに取り締りを強化しても、すぐにそれをかいくぐるテクニックを編み
出し、当局を困らせる連中はいくらでもいるということだ。

 同記事はまず、検閲官自らがさじを投げていることを指摘する。1997年にわ
ずか62万人にすぎなかった中国のネットユーザーが今では1億人を突破し、さ
らにブログの数も500万から1000万に上るといわれる。わずか3万人程度のネ
ット警察では、全部を検閲することなど物理的に不可能だ。そうである以上、「今
後は、問題のある情報をブロックするのではなく、情報の流れを上手に導いてい
くための努力を強化していかなくてはならない」と同検閲官がいみじくも述べて
いるように、中国のネット規制は新たな方法を模索しなければならない段階に入
っている。

 そうした量の問題もさることながら、検閲を回避するテクニックも洗練されて
きているようだ。同記事が紹介するブロッガーたちのテクニックには以下のよう
なものが含まれる。政治的に敏感な表現の場合、それを意味するスラングを使う
者もいれば、イニシャル、あるいは中国語と英語を混ぜ合わせて記述する者もい
るという。さらには、文字と文字の間にスペースや感嘆符などをつけ加えて、検
閲に引っかからないようにする者もいると同記事は伝える。また、「政府が何か
を禁止したら、かえってそれについて知りたくなるものだ」とあるブロッガーが
証言しているように、検閲することで逆に人々の関心を高める結果となり、本来
の目的を達成するどころか、検閲が格好の「宣伝」になってしまうこともあるに
違いない。

◆政府側を助けるかもしれない新技術の誕生

 ちなみに、このところの言論規制の強化については、党の「ご意見番」ともい
えるベテラン党員たちから、それを批判する異例の共同声明が出されている。同
じく「ガーディアン」紙の記事(06年2月15日付)によると、声明を出したの
は胡績偉・元人民日報など元党幹部13名で、その中で彼らは今年2月に停刊処
分となった雑誌「氷点週刊」に関連して、中国の不透明なメディア関連法を明ら
かにすると同時に、メディア検閲のあらゆる手段を廃棄し、メディアの専門的権
利を保護せよと迫っている。

 つまり、壁の外にいる体制批判派だけでなく、いわば足元の長老たちからも批
判を受けて、現指導部の舵取りは難しくなる一方だということだ。しかし、彼ら
のネット規制を助けることになりそうな新しい技術が生まれている。それについ
て伝える「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」紙の記事(06年3
月20日付)によれば、その技術とは次世代インターネットと呼ばれるIPv6の
ことを指す。これはネットユーザーの特定化をより簡単にする技術であり、反政
府的な発言をする者を危険にさらす可能性があると同記事は指摘している。

 そうである以上、「こうしたシステムは中国当局にとって夢のようなものだ」
とアメリカ人研究者が述べるのは無理のないことかもしれない。しかし、別の専
門家は「わざわざ自宅からネットに接続して政府批判をするようなバカな人間は
いないはずだ。彼らは、何万台という数のパソコンに接続されたネットワークに
アクセスするはず」と述べて、まったく意に介するところがないと同記事は伝え
る。

 はたしてこうした新しい技術が、中国において政治的にどのような役割を果た
すことになるのか。その結果が前述の二つの意見のうちのどちらに転ぶにせよ、
これまでの「いたちごっこ」が当分続くことは間違いなさそうだ。
          (筆者は在上海・フリー・ジャーナリスト)

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