―共和党大会 フロリダ、タンパ―

■【米国大統領選挙報告】

2012年、共和党、民主党 全国大会       武田 尚子

  ― 共和党大会 フロリダ、タンパ ―
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 激戦のプライマリーを生き延びたロムニーの、大統領候補指名が確実になって
間もない8月11日、彼は副大統領候補としてポール・ライアンを選んだと発表
した。

 コンドレッサ・ライスやクリス・クリステイをも交えた多数がうわさに上って
いたのだから、これはかなりの驚きだった。局外者にとって驚きの最大の理由は、
ポールが、妥協を許さぬ政府プログラムのカットで、何が何でも政府の予算を枠
内におさめることを第一義にしている最右翼であり、資本主義至上主義のアン・
ランドに心酔し、彼女のいう規制皆無の自由市場こそ繁栄への道と信じて疑わな
いという。

 ポール・ライアンは40代の若さで活力にみち、ぎこちないとか、ロボットの
ようだとまで評されるロムニーより、言葉でも動作でもよほど活発である。人気
投票の好感度ではかならずオバマに劣っていたロムニーは、ライアンとのチーム
を組んで、眼に見えて自信を増した。

 このロムニーのライアン選択は、いったいどんな考えからでたものだろう? 
オバマに対抗できる唯一の候補として、結局は党として彼をもり立てて、大統領
にするほかないと決断させたのは、共和党中枢にとってはいわば「仕方のない」
ことだった。ロムニーは品の良い億万長者で、間違いなく秀才であるとしても、
彼は人々に、自然な親しみを感じさせにくいという。

 しかもオバマケアの下書きといわれる彼の医療保険ロムニーケアに示される、
ロムニーのマサチューセッツ時代の業績は、真の保守を目指す共和党のお偉方に
とっては、未だにリベラルすぎるという不安がある。大統領になるためには、そ
の右に並ぶものがないほどの極右ライアンを選んだ大きな理由は、自分は此の通
り真の保守主義者だと共和党中枢を安心させるために必要だった。そしてロムニ
ーは、ライアンの極右予算案に全て賛成だと言明した。

 こんなわけで共和党側はもとより、民主党からもこの選択は大歓迎を受けた。
民主党は、ライアンの代表する極右路線が、民主党支持者の望むところでないこ
とを知っているためである。こうして8月27日の共和党大会がやってきたが、
アイザック台風のおかげで、27日から30日までの4日間を予定されていた共
和党大会は、その第1日を割愛することになった。

 28日のスピーチを彩った面々のなかで、基調演説をしたのはニュージャージ
ーの知事、クリス・クリステイーであった。彼は400ポンドをゆうに超えよう
という巨漢で、大統領候補に選ばれなかったのはそのためだといわれるほど。ロ
ムニーが彼を基調演説者として選んだのは、その演説力と、ロムニーとはぎくし
ゃくするティーパーティとの円満な関係を求めてのことだ。

 党大会での基調スピーチは往々にして、将来の大統領選挙への伏線と見られる。
2004年、誰も知らない上院議員だったオバマが、民主党大会での基調演説で
4年後には大統領候補指名を受け、さらに4年後には大統領になったのは有名な
事実である。

 クリステイは、移民として来米し、第2次大戦後のGIビルでニュージャージ
ーのラトガーズ大学を卒業し、彼の家族では最初の大学卒業者になった父親の話
からはじめて、「いつもお前自身であることです。そうすれば、自分は前日には
何者だっか迷うことはないからね」と教えたという母親の話をした。そして、ア
メリカ人一般は愛されよう、気にいられようとするあまりに、相手の聞きたくな
いことは避けてきた。今は言いにくいことを、つまり真実を語るべきときだ。

 ロムニー・ライアンチームはそれをするだろう、我々は愛よりも尊敬を求める
べきだというスピーチである。演説力は定評通りとしても、自分がもり立てるべ
きロムニーの話よりも、自分を売ることに熱心だったという批評が共和党自体か
らも出されたのは皮肉である。

 ついでニュート・ギングリッチ夫妻、マイク・ハカビー、ジョン・マッケイン、
コンドレッサ・ライス、ランド・ポール(ロン・ポールの子息)など著名人をふ
くむ多数の共和党員が、次々に現れる。その大半がまず、貧苦から身を起こした
出自を語る。これは皆、近い過去に移民であった祖先を持つ米国民に共通するア
メリカ物語であり、パイオニア時代から続くアメリカの夢の体現者である彼等が
どんなに働いて今日の繁栄を築いたかの自伝である。

 その底に流れているのは、働きさえすれば、夢は全てかなえられるはずだ、そ
れを実現できないものは間違った政策と当人が怠け者だからだという、言外の思
考である。それは現在の共和党の理想とする、小さくて規制のない政府を知れば
よく分かる。アメリカの伝統である自由を市場を与えれば、そのメカニズムで現
在のように失職者が増え膨大な赤字を抱えるアメリカは、オバマ以前の、アメリ
カの夢を満たすアメリカになる。

 現在の社会保障制度は、健康保険、失業保険、大学教育費援助、老齢年金その
ほか、あらゆる方法で働く意欲をなくさせるアメリカ人を生む温床になっている
というのが、大半のスピーカーに共通している。オバマはこれを理解しないで政
府と市場を規則づくめにするために、4年経ってもアメリカ経済を復元できない
のだと。

 ノーベル受賞の経済学者クルーグマンは、オバマの就任直後から共和党が彼を
1期だけの大統領にとどめることを政策の中心に据えていたこと。2010年の
中間選挙で下院のマジョリテイ議席を得た共和党は、リーダーのベーナーにした
がって、2012年の選挙を目指して、文字通りあらゆるオバマの法案を通さぬ
作戦を貫いてきたことをあげて、オバマを応援している。

 つまり、共和党は「オバマを妨害して、その結果を利用せよ」という戦術で臨
み、それが成功して、オバマの職を増やすための提案は何一つ議会をパスせず、
失職者救済を不可能にしてきたのである。例えば州政府の予算縮小のための政府
関係の失職者―教職者、消防夫のために job Act を提案した。

 専門の分析者によれば2012年の終りには130万の失職者を救ったはずだ
が、むろん共和党の議会は通さなかった。彼等は期待通り、その結果の就職者数
のあまりに緩慢な上昇ぶりを見てオバマにはアメリカの経済を救うことはできな
いと合唱する。

 オバマの、失職者の職を増やすための提案はこれだけではないが、どんなにア
メリカ人全体の利益になろうと、彼を追い落とすことが共和党の最重要政策なの
だから何も起らない。それでも中産階級の給料生活者の税金の半分にもならない、
人口の0.1%にすぎない富者の税金は、共和党政権になればもっと削減すると
いう。

 著名なジャーナリスト、デヴィッド・ブルックスは、此の考え方の誤りはあま
りにも個人中心で、我々全ての生活を結びつけている一小村から国家に至るコミ
ュニティの人々を全く無視していることだと論じた。同感である。

 さて移民成功物語の伝統は、意外なことに、ロムニー夫人アンのスピーチでも
繰り返された。シンプルな深紅のシャツドレスを身につけたアン夫人は、夫ロム
ニーを中心にする彼等の家庭を語る。彼女の祖父がウエールズ出身の炭坑夫だっ
たとははじめて知ったが、サントーラムを始め、祖父が炭坑夫だったというスピ
ーカーが、次々壇上に現れるのには一驚した。

 アンの祖父は子供たちに炭坑の地下生活をさせたくないと来米を決意した。ア
ンの父親は6歳のとき既に食器洗いの仕事をしていたという。15歳でアメリカ
に来て、働けば、貧困から免れる希望や機会のあることを知る。ミシガンに定住
し、彼自身のビジネスを始め、居住市の市長になり、息子エドワードと娘アンに
めぐまれた。

 アンは、大学生としてダンスで夫と出会い、何一つ持たないで結婚し、アパー
トビルの地下室に住んで、アイロン台を食堂のテーブルとして使ったという彼女
なりの貧困譚を語った。これがどうやら彼等の生活のどん底だったらしい。5人
の成人した息子の母親、18人の孫の祖母としてなお若々しいアン夫人は、暖か
く忍耐強い夫を深く愛していること、大統領を選ぼうとしているアメリカ人に知
ってもらいたいのは、次のことであるという。

 誰一人、ロムニー以上に働く人間はいないでしょう。  
 彼ほど人々の生活を心配し、彼等の世話をする人間はいないでしょう。
 天と地を動かしても此の国をより住みやすい国にするのは、ミット・ロムニー
のほかいないでしょう。

(此の後、要約。アンのスピーチに戻る)

 『そして伺いたいが、彼が両親からよい価値観を受け継ぎ、懸命に働いて成功
したことは、此の国では歓迎されないことなのでしょうか。彼が成功していなか
ったら、今ほど彼の成功を非難されることが考えられるでしょうか』。

 (これはロムニーの築いた会社ベインキャピタルが、倒産寸前あるいは経営不
振の会社を買いあげては、多くの失職者を出し、当然の支払いもしないで彼等を
放り出したが、ロムニー自身は会社をリストラして巨富を得、被解雇者にうらま
れているという民主党の攻撃と巷の噂へのアンの反発である。現在アメリカの0.
01%の富豪になり、庶民の生活を知らないといわれるロムニーを、移民の祖父
や実父の苦労話とともに応援する目的であったろう。筆者はロムニーにどこまで
被解雇者への責任があったのかを知らないので、この点では中立である。アンの
スピーチに戻る)

 ミットは決して失敗はしません。
 ミットはあなたがたを決してへこたれさせません。
 ミットはアメリカをもち上げるでしょう。

 あなた方は彼を信頼して大丈夫です。
 彼はアメリカを愛しているのです。
 或るとき彼が私をダンスから今のホームに導いたように、彼はアメリカ人をよ
りよい場所につれていくでしょう。
 彼にその機会を与えて下さい。アメリカにその機会を与えて下さい。

 「今夜わたしは愛について語ります」と前置きしたアンのかなり長いスピーチ
は、共和党聴衆の大きな拍手で迎えられた。40年以上を彼とともに支え合って
暮らしてきた妻の、大統領職への夫の野心を助けたいという心情は素直に伝わり、
非常に限られた視野でのロムニー観ではあるが、それなりに快かった。ミットを
知らぬ聴衆が、彼女がうけあってくれたのだからと、ロムニーを信頼して1票を
捧げるかどうかは保証のかぎりでないとしても。


●ミット・ロムニーのスピーチ

 この日、正式に大統領候補としての指名を受けたロムニーは、モルモン教の祖
父が5人の妻を持っていたためにメキシコに逃げた事実には触れず、家族の移民
話としては、メキシコで生まれアメリカにやってきた父親のことを語った。彼は
「アメリカンモーターズ社」のCEOになり、ミシガン州の知事にもなった。

 その父は大統領選にも立候補して破れたが、候補者としては、1年でなく12
年間の納税申告書を公開した。この清潔さが息子ロムニーには災いして、ケイマ
ン島やスイスに預金投資をしているロムニーにかぎって(実際には他にもいたの
かもしれないが)、民主党やアメリカ人大衆から、あなたの父上のように納税申
告書をもっと見せろと責められるのは、なぜだろう? それはこれまでのロムニ
ーの、情勢次第でフリップ・フロップする取り消しや逆戻りの手軽さが、彼の誠
実さを疑わせているのではないかとも思われる。

 ロムニーはなんといわれても2年以上の納税証明書は絶対に見せない。法律的
には1年間を見せればよいが、彼の正体を知りたいという国民感情は当然のこと
だろう。あまりにやかましい問題になってきたので、とうとうオバマは、5年間
の納税申告書さえみせてくれれば、民主党は決してそれ以上何も言わないという
提案までしたが、ロムニーは見せない。ひたすら無視して、この話題の鎮まるの
を待っている。ちなみにオバマ夫妻とバイデン夫妻も12年間を公開した。そし
てこの問題は、切迫した共和党、民主党大会の話題のおかげで今はなりをひそめ
てはいる。

 長広舌といいたいロムニーのかなり退屈なスピーチは、オバマ攻撃のくだりで
は俄然活発になった。ただ彼の非難するオバマ政策の失敗は、既述の共和党議会
の妨害によるものと、ロムニーの歪曲や文脈を無視した我田引水の引用などによ
るものが多く、後に「FACT CHECK」によって多数の誤りが指摘された。民主党の
側も清廉潔白とはいえないが、事実に照らしての虚偽や誤りの頻度は民主党側の
方がかなり少ないという。

 スピーチの終わりに近く、彼は大統領になれば「オバマと違って自分は120
0万の仕事を創造することができる。それには以下の通り5段階のステップが必
要だという。

 1.2020年までに、北米は油と石炭とガスと核パワーと(風力や太陽など
の)更新エネルギーによって、エネルギーでは自立できるようにする。

 2.我々の盟友であるアメリカ市民に、今日の仕事、将来のキャリアの確保に
必要な技術を与えるつもりだ。子供の学校に関しては、両親は皆望みの学校を選
択できるようにする。親には選択を、子供には機会を。(私立学校を増やすこと
を意味する―筆者)

 3.我々はアメリカのための通商協定では新しい同意条項を取り付けたい。も
しもその取り決めをごまかしたり違反する国があれば、その国はかならず重大な
結果に見舞われるだろう。

 4.全ての起業家や仕事の創造者が行うアメリカ国内での投資は、ギリシャの
ように無にはしない。われわれは赤字を減らし、アメリカをバランスのとれた正
常路線に戻す。

 5.我々はアメリカの成長のエンジンである小企業の擁護者になる。つまり彼
等の税金をあげないで、減らす。小企業を最も苦しませる規制を簡易化し、近代
化する。それはオバマケア保険を廃棄することによって、無限に拡大する健康保
険のコストを減らすことでもある。

 新しいビジネスを発足させようという女性が、今日は男性より多い。彼女等は
自分たちを理解する大統領を必要としている。(ではなぜ女性の権利である避妊
薬や堕胎の権利を認めないのだろう?―筆者)

 そして明確にしたいが、オバマ大統領と違って、私は中産階級の税金を上げる
つもりはない。(オバマは上げるどころか引き下げている。―筆者)

 アメリカは強力な軍隊を維持し、どんな国にも手をださせない。(彼は強力な
軍隊を主張するが、アフガニスタンについては一言もなかったことを批判された
―筆者)

 大統領として私は生命の尊厳を保護する。私は結婚制度を重んじる。(同性結
婚に反対―筆者)
 アメリカ人には第1の自由である信仰の自由を尊敬する。

 アメリカは貧しいものや、病めるものの世話をする。高齢者を敬い、困窮者に
は手を差し伸べる。(ではなぜオバマの健康保険を廃棄するのだろう?―筆者)

   ***********************************

 何千という3色の風船をふらせた共和党の全国大会は、こうした集まりにふさ
わしい熱気で幕を閉じた。

 ロムニーのスピーチについては、歴史を改ざんするロムニー、ロムニーの実像、
改造されたロムニーなど、多くのまじめな論評がロムニーの新路線を批判した。
共和党が一致して提供しようとした親切な父親像、愛される人気者といった暖か
いロムニー像と彼の心ない政策との大きな差異のためである。


●民主党大会

 共和党大会の1週間後、ノースカロライナのシャーロットで、民主党大会が開
かれた。ハリケーンの影響で雨天になったため大会は野外で行われず、用意され
たホールで、9月4、5、6日の3日間開かれた。

 才能あふれるスピーカーをよくもこれだけそろえたものだと思えるほど、多彩
なスピーカーが熱弁をふるった。そのなかでことに傑出した2-3人のスピーチ
を紹介したい。


●ビル・クリントンのスピーチ

 45分にわたるスピーチで、オバマの再選を心から願うというビル・クリント
ンは、オバマの第1期の仕事として、自動車産業のベイルアウトから健康保険に
至る業績を、統計をふくめてとりあげ、そしてその各々が、アメリカを確かに4
年前より良い状態にしたと述べた。

 「では大統領はこれで満足しているでしょうか? もちろんしていない。そし
て事実、彼の就任当時よりも我々の状況はましになったでしょうか?」クリント
ンは一息入れて聴衆を見渡す。そしてかれらの割れるような声に答えていった。
「答えはイエスです」と。

 クリントンはオバマのために彼自身大統領として成功した経済管理の業績にふ
れた。「オバマ大統領は、私が大統領になったときよりも、よほど弱体化した経
済に向き合うことになった。私を含めてそれまでのどんな大統領にも、彼の直面
した重大な諸問題をたった4年で解決することは不可能だったのはたしかです。」

 (クリントンは、ブッシュ政権が、富裕階級への税金カットと、イラク、アフ
ガンに対する2つの戦争で、彼の残した剰余金を使い果たして大きな赤字を生み、
アメリカ経済を恐慌に近い景気後退に導いたことをさしている。)

 彼はオバマ支持の聴衆がまさに聞きたいこと、全アメリカに向かってオバマを
説明してほしいと願うことを、やさしい言葉で話してくれたのである。彼のスピ
ーチは大会第2夜のハイライトとなり、その前夜の会場をさらったミシェル・オ
バマの名スピーチとともに、長く残るだろうと高い評価を受けた。

 ではその前夜の、ミシェル・オバマのスピーチを聴こう。ミシェルはオバマと
背丈のあまり違わない堂々たる体躯に、絹のような光沢のあるピンクとグレイの、
優雅なワンピースに身を包んで壇上に上った。ミシェルはプリンストンからハー
バードの大学院に進んで法律を勉強し、腕の良い弁護士として活躍していた有能
な女性で、オバマとはハーバードで出会った。

 彼女のスピーチは実は全文を紹介したいほどなのだが、オルタ105号には長
すぎる。要約にすればそのフレイバーが失われるのは必定だが、ともかく彼女の
人柄をできるだけストレートにお伝えできればと、挑戦してみよう。


●ミシェル・オバマのスピーチ

 過去2-3年の間に、私はファーストレデイとして、此の国をくまなく旅して
回るという特典に恵まれました。そして至る所で私が出会ったのは、話にきき本
で読み知っていたアメリカンスピリットの最善の姿でした。

 それは人々の私たちへの親切、ことに娘たちへの深い思いやりに示されました。
地域経済の破綻のために職を失ってなお、子供たちに教えなくてはならないと給
与なしに学校に戻ってゆく教師たちにも、明らかな危険を顧みず火のなかに飛び
込む消防夫たちにも、水びたしになった町を救うために何時間も何時間もドライ
ブする人達にも、他人を救うために我が身を犠牲にして悔いない英雄たちの姿に、
私は何度心をうたれたことでしょう。

 英雄はまた誇りある兵士の家で、大きな傷を受け、軍服姿で会ってくれた兵士
たちの間にも見られました。或る兵士は両足を失ってなお、自分はまだまだ走れ
る、いやただ走るのではない、マラソンができると断言します。両眼を失いなが
ら、あのときの状況におかれて、自分がやったことをもういちどやれるなら、両
眼を100度失っても惜しくないという兵士にも・・・。私は、人々に会っては
日ごとに励まされ勇気を与えられました。日ごとに、彼等は私に誇りを持たせて
くれ、世界で最も偉大な国に暮らせる祝福を感じさせてくれるのでした。

 ファーストレデイとしてつかえることは名誉であり、特典でもあります。けれ
ども4年前にはじめて家族でワシントンにいったときに、私はまだある心配を持
っていました。

 私は夫がアメリカに抱いているヴィジョンを深く信じていましたし、彼がなみ
なみでない大統領になれるだろうと確信してはいました・・・けれど母親なら誰
でも思うように、娘たちがそれまでの生活から引き離されたらどんなことになる
かを心配したのです。

 国中のスポットライトのギラギラする光を受けて、彼女らがどうして地に着い
た暮らしをすることができるでしょう。それまでの学校からも、友達からも、彼
女たちの知っていた唯一の家からも遠くはなれて?

 ワシントンへ引っ越す前の我々の生活は、単純な喜びに満ちていて、実は私は
その生活をとても愛していたのです。土曜日にはサッカーに、日曜日にはおばあ
ちゃんの家に、・・・と。

 そして夫とふたりで、娘たちのために築いた生活を・・・、そしてその生活を
ともに築いた男性を深く愛していましたから、彼が大統領になったために変わる
ことをのぞまなかったのです。・・・私はバラクが、それまでと同じのバラクで
あってほしかったのです。

 バラクはその頃上院議員であり、大統領候補ではありましたが・・・、私にと
って彼は未だにさびついたオンボロ車で私をデートに連れ出しにきたバラクだっ
たのであり、車のドアにはアナが開いていて、実際にそのアナから歩道を見るこ
とができたものです・・・。彼の最も誇り得る資産といえば、ゴミ捨て場で見つ
けたコーヒーテーブルだったのですし、彼の最上の靴は半インチ小さすぎるとい
うしろものでした。

 けれど彼が家族の話を始めたとき、私は彼が自分と共通する精神を持った人で
あること、価値観や育ち方が、私のそれと非常に似ていることを発見したのです。
バラクも私も、お金にも物質的な所有物にもあまり縁のない家庭で育ちましたが、
両親はそれらより何倍も価値あるもの―つまり無条件の愛、ひるまない犠牲心、
自分のためには想像もできなかった遠くまで私たちを歩ませる機会を与えてくれ
たのでした。

 私の父は市の水道局のポンプ係でした。そして彼は、私と弟が幼いときから、
多発生硬化症におかされていました。

 『ミシェルのお父さんは、それでも毎朝笑顔でおき、身支度をすると仕事に出
かけ、1日も仕事を休まなかった。そして帰ってくると、ミシェルと弟はアパー
トの階段の最上階に座って、父親が片足ずつ足を揚げては、ゆっくりと階段を上
り、やがて2人の腕のなかに飛び込むのを待ち受けるのだった。

 ミシェルと弟は大学へ政府の学資援助でいくようになったが、それでもなお小
部分は父親の負担になった。彼は子供たちのための小切手が、間違いなく時間内
につくように、学期ごとに入念な心使いをした。彼は子供たちを大学へ送ってい
ることに大きな誇りを抱き、家族を支え、子供たちを学校にやることこそ、彼を
男にしていると信じていた。

 多くのアメリカ人同様、彼女の家族は多くを求めず、持っている人をうらやむ
こともなかった。逆に成功した人達を共に祝う気持ちだったという。彼等はアメ
リカという国の約束通り、貧しく出発しても、真剣に働けば恥ずかしくない生活
に恵まれることを知っていた。』(2重括弧内は筆者)

 私たちは尊厳と品位をこうして学びました。正直と誠実、そして真実がどんな
に重要かを学んだのです。そして真っ正直に公平に得たものでなければ、成功は
成功といえないことをも。

 私たちは感謝と謙遜をもこうして学びました――私たちの成功にはどんなに多
数の人々が手を貸してくれたことでしょう。学校の先生たち、教室を掃除してく
れたジャニターさん達・・・。そして我々は人々それぞれの与えてくれた恩恵を
尊重し、一人一人を尊敬しなくてはならないことをも教えられました。私たちは
こうした価値観をこどもたちに伝えたいと願っています。皆さんの多くと同じよ
うに。

 これが私たちなのです。4年前、皆さんの前に立って、バラクが大統領になっ
たとき、これらの価値観が変わらないことを私は願っていました。

 そして数々の挫折や勝利が、私の想像も及ばないところで夫をテストしたこと
を知っている今日、私ははっきりと夫が変わらなかったのを知っています。バラ
クは変わったのでなく、彼がどんな人間であるかを見せてくれたのです。高い給
料のでる仕事を断って、コミュニテイで働く仕事を選んだあの同じバラクなので
す。

 大統領の机に載せられるのは困難な問題で、統計の数字など一切役に立たず、
非常に危険な、少しの過ちも許されないところで判断をしなくてはならないこと
ばかりです。

 大統領には多くの忠告が寄せられます。けれど最終的に大統領がその判断をす
るのは、彼の重んじる価値であり、ヴィジョンであり、彼を彼自身にしている人
生経験なのです。彼にとっての成功はどれだけの金を得るかではなく、人々の生
活をどれだけ変えることができたかなのです。

 そしてこんなことができようとは思ってもいなかったのですが、私は今バラク
を何年か前よりもっと深く愛しています。そして彼には‘我々’と‘彼等’の区
別がないことを愛しています。そしてまた、どんなに周囲が騒がしくとも、決し
て乱されないで集中でききるバラクを、そして我々の出発点を決して忘れないバ
ラクを愛しています。愛しています。

 彼はよく、僕たちがここでやっていることは長い間続くゲームなのだよと私に
思い出させてくれます。そして変化は難しいものだし、のろのろしているし、決
して全てが一度になど起りっこないのだよと。

 けれどついには、私たちはゆきつくでしよう。

 今日、私たちへの挑戦があまりにも大きすぎると見え始めたとき―あるいは不
可能にさえ思えるとき、思い出しましょう、不可能なことを成し遂げるのが私た
ちの国の歴史であったことを・・・。それこそ私たちなのであり、それが此の国
を作ったのだということを決して忘れますまい。

 あれほど多くの男性女性が軍服に身を包み、最も基本的な権利のために命を犠
牲にすることができるのでしたら、確かに私たちは此の偉大な民主主義を行使す
るために、市民としての役割を果たせるはずです。総選挙の日には確かに、投票
所へ行って我々の声を世界に響かせられるはずです。

 私のタイトル(称号)は今でも「親分お母さん」であり、娘たちが我が心の中
心を占めています。そして私は自分の娘たちにも、アメリカの息子、娘たちにも、
よりよい世界を残したいと心から願うのです。このアメリカには無限の可能性が
あるという意識を彼等に与えることができたなら・・・、喜んでそれに向かって
働く限り、アメリカにはいつも何かよりよいものがあることを感じさせられたな
ら・・・、そのとき我々はみな、これまでにないほど働かなくてはなりますまい。
我々はもう一度、此の偉大な国を前方に向かって動かすと信頼できるあの男、我
が夫バラク・オバマ、アメリカ大統領バラク・オバマのもとに集い、共に立たな
くてはなりません。ありがとうございました。」

 紙数の関係でかなり略したが、ミシェルのメッセージは明らかである。ミシェ
ルはオバマとその家族にとってだけでなく、民主党にとって、いやアメリカ全体
にとって、大きな資産であると筆者は信じる。では民主党大会最終日の、オバマ
のスピーチを聞こう。


●オバマのスピーチ(要約)

 2004年、私はまだまだ若い青年でした。イリノイからの上院議員候補であ
り、希望について話しましたが、それも盲目の、楽観的な、希望的観測だけによ
る希望ではなく、困難に立ち向かう希望、不確実を前にしての希望、成功をほと
んど見込めないとき、あるいはその道がきわめて長いときにも此の国を前方へと
進ませたあの希望について語りました。

 8年後、その希望は、戦争の費用のおかげで直面したアメリカ史最大の経済危
機の1つのために、そしてまた2党間の政治的な硬直状態のために、歴史的な試
練に立たされています。それは我々をして、これらの挑戦を受けてどうして立つ
ことができるのだろうかと危ぶませるほどです。そんな中で選挙キャンペーンは
小さな問題、時にはばかばかしいとさえ見えかねません。

 些細な問題が大きな障害になります。真剣な問題がサウンドバイトにすぎなく
なります。真実は雪崩のような金と宣伝広告の下に葬られてしまいます。

 しかし結局皆さんが投票なさるとき、皆さんは一世代を通して最も明確な選択
に直面しているのです。これから2-3年にわたって、ワシントンでは仕事口、
税金、赤字、エネルギー、教育、戦争か平和か―について大きな決断がなされる
ことでしょう。その決断はこれから何十年にもわたって、我々の生活にも、子供
たちの生活にも重大な影響を与えるものです。

 そして皆さんの直面する選択は、ただ候補者を選ぶとか、2つの党のどちらを
選ぶかだけではない。どのような未来をアメリカのために選ぶかが問題なのです。
我々の選択は、世界の知る最大のミドルクラス、最強の経済を築き上げた価値の
ために戦う道であり、パットンの軍隊で戦った私の祖父の価値観、彼が世を去っ
た後、毎日組み立てラインで働いた祖母の価値観であります。彼等は、自分たち
が何かより大きなもの、ファシズムにも大恐慌にも打ち勝った国、世界で最良の
製品を革新的な方法で産出した国の一部であることを知っていました。

 祖父母は大学へ行き、家を買うチャンスに恵まれました。彼ら自身の家であり、
アメリカ物語の核心、よく働けば必ず誰でも公平な分け前を与えられ、誰もが同
じルールに従ってプレイをするというアメリカの基本的な取り決めが、その約束
を満たしてくれたのです。

 私が大統領に立候補したのは、そのアメリカの良い仕事が海外に流れ出したこ
ろのことです。2008年までには、高騰する物価に悩み、給料がその物価高に
追いつかない多数の家族が生まれてきました。そして大きな景気後退のなかでハ
ウスバブルがはじけたときには、何百万のアメリカ人が職を、家屋を、貯金を失
うという悲劇の到来です。我々はそこから、まだ立ち直っていません。

『このように話し始めたオバマは、共和党が此の状態を直すためにこれまで30
年の使い古された同じ手段しかなく、税金を減らせよ、それでもだめなら、もっ
と減らせよというばかりでらちがあかないという。』(2重括弧内は筆者)

 私は小さいビジネスのために税金をカットしました。しかし共和党のように、
もう一度百万長者の税金をカットすることで仕事口が増えたり、赤字を減らせる
とは思いません。私は、教師を解雇し学生の財政援助を減らすことで経済が成長
できるとは思いません。あるいはそんな手段で、中国に出現している科学者や技
術者と対抗できるとは思いません。

 私は私の提供する道が容易だとも敏速だともいってはいません。あなた方は真
実を求めていられると思う。その真実とは、これまで何十年もかかって積み上げ
られた困難への挑戦を2-3年で解決はできないことなのです。それは共同の努
力、責任の分担、大胆でたゆみない実験―フランクリン・ルーズベルトが、現在
の経済危機以上にひどかった唯一の危機において追求した実験を必要とするでし
ょう。

 ついでながら、彼の党の遺産を受けつでいく我々は、全ての問題が政府のプロ
グラムやワシントンの命令一下解決するわけではないことを思い出さなくてはな
りません。しかしアメリカよ。それでも問題は解決するでしょう。我々のさしだ
す道はより困難かもしれないが、よりよい場所に導きます。そして私はあなた方
に、その道を選んでいただきたいのです。

 私はあなた方に、国のために1組の目標のもとに集っていただきたいのですが、
その目標とは製造業、エネルギー、教育、国家保安、赤字問題であります。現実
的な、達成可能な計画によって、それは新しい仕事口、より多くの機会に導き、
此の国の経済をより強力な基盤の上に再建するでしょう。それを我々は来る4年
間に実現できるのです、そのために私は大統領再選を願っているのです。

 製造業についていえば、我々はより多くの製品を輸出し、国外への仕事の持出
し―アウトソーシングには今ほど頼らないという道を選ぶことができます。
 我々が外から買ったり借りたりした10年間の後で、我々は基本線に戻り、ア
メリカが最も得意とすることをしている、つまり我々はまた物を作っているので
す。

 自動車産業は戻ってきました。死にかかっていたこの産業はいま、注文に間に
合わないほどなのです。労働者の給料が下げられたわけではなく、誰にもまして
スマートによく働き、誰にも負けない製品を作れるからなのです。
 誇らかに Made In USA の3文字を製品に記した会社が新しい大量のお客に売
れるよう、私は通商条約にサインもしました。

 こうして過去2年半のうちに、50万以上の製造業での仕事口を作り出すこと
ができました。

 『この他、オバマは、アメリカに新しい会社を興し、新しい仕事口を作り出す
企業に報酬を与えることを提案している。大工場や小ビジネスが輸出を倍増する
よう援助を与えることもできる。此の道を選べば、来る4年間に100万の新し
い仕事口を作り出せるという。』

 『エネルギーについても、自立の道を選ぶことができる。30年間何も手をう
たれなかったが、つぎの10年間にはトラックも乗用車も1ガロンにつき現在の
倍は走れるようにする。更新エネルギーの使用量は倍増した。何千人ものアメリ
カ人が風車や長時間使用のバッテリーを作る仕事で働いている。昨年1年で、1
日100樽の石油の輸入を減らしたがそれは近年のどの政府よりも大量の輸入減
である。そしてアメリカは過去20年で最も大きなエネルギー独立を果たしてい
る。』

 『過去3年間でアメリカはオイルとガス探索のために、何百万エーカの土地を
開いた。さらにそれを拡張する予定。』

 『気候変化については、我々は地球を暖めている炭素汚染をへらす仕事を継続
する。気候変化説はインチキなどではない、旱魃や洪水がますます増えるのは冗
談どころではない。気候変化は子供たちの将来への脅威である』

 さて、教育は私にとってもミシェルにとっても、未来への機会の入り口でした
―それは皆さんの大方にも同じですが、現在はそれがかつてないほど、ミドルク
ラスの生活を得るためには重要になりました・・・。

 『こうしてオバマは科学と数学、さらに幼児教育の必要、200万の労働者が
技術をコミュニテイ大学で学べば、直ぐ仕事口につながること。諸大学の授業料
を半減するために協力してほしい。そのゴールは共に実現可能なアメリカの未来
なのだという。』

 『彼はまたイラク戦争の終焉のあと、2014年にはアフガニスタン戦争を終
わらせること、そして国のために散った多数の青年男女を記憶し、帰還兵士には
仕事口を保証することを告げ、実行している。』

 『オバマは赤字解消のために、政府のプログラムをカットするのではなく、で
きるだけ無駄な部分を除去していくという。超党派の分析家によると、オバマの
計画では赤字を4兆ドル抹消できる。』

 『オバマは税金についてもその規則をシンプルかつ公平なものにしたいので、
25万ドル以上の年収を持つ者には今より高い税金を払ってもらう。・・・とは
いってもそれはビル・クリントンが大統領で、2300万の新しい仕事、さらに
史上最大の剰余金が生まれたときと同率である。』

 『そして彼は彼の超党派の借金委員会の原則に従って共和党の同意を求めたい。
知恵の独占はどちらの党にもあり得ないし、民主主義は妥協なくしては成立しな
い。オバマはこれを実現したいしできると信じている』。

 だがロムニー氏と彼の盟友である議会が、何兆ドルもの新たな税金控除を富裕
者に提供すれば、なんとなく赤字は減るというのはいかがなものか? ビル・ク
リントン曰く『算術をしてみたまえ』と。まあやってご覧なさい。

 『そして彼はロムニーの言うように、健康保険をバウチャー方式には絶対にし
ない。どんなアメリカ人も、人生の黄金期を保険会社の慈悲心で生き延びたりし
てはならない。彼等は働いて得たケアと尊厳を持って引退すべきだ。オバマはメ
ディケアが長期間、強力に働くように改革はするが、老人に高額の金を払わせる
ことはしない。

 (ロムニー/ライアンの提案する健康保険は、現在57歳以上の人はそのまま
におき、56歳以下の人には政府が決まった金額のバウチャー(購入券)を渡し、
医者にかかるたびにそれで支払う。しかし、それがなくなった暁には、老人は全
て自前で医療費をはらわなくてはならない。バウチャーの金額ほか詳細はまった
く知らされない。)

 現在のオバマケアでは、全てを政府が支払う。オバマにとって医療保険改革は
就任後最初にして最大の挑戦であり、歴代の大統領が果たせなかった困難事をや
り遂げた。その為に時間がかかり、失職者救済が後れた一因といわれるが、おそ
らくその点はその通りだろう―筆者』

 『社会保障制度も同じ。オバマは責任を持って改革の処置をとりそれを維持す
る。企業が毒性のある空気を子供たちの吸う空気に流すなら、それはかれらのい
う“進歩の代償”などではない。ビジネスを始めたり、あるいは大学へ行く金が
なければ、‘親御さんに相談して金を借りなさい’というロムニーの解決法が役
に立つだろうか。』

 さて我々の直面している選択とはこのようなもので、選挙の意味はまさにそこ
にあるのです。我々は何度も共和党陣営から、富者の税金カットとできるだけ小
さい政府のできるだけ少ない規制こそが現在の困難の唯一の解決法だといわれて
きました。政府は何もかも解決できるわけではないので、いっそほとんど何もし
ない方がよいというのです。健康保険の金が払えないなら、まあ病気にならない
よう、気をつけるんだねというだけなのです。

 しかし我々はそうはいわない。アメリカもそんな国ではない。我々は必ずしも
成功するとは限りません。それは努力して手に入れなくてはならないものなので
す。我々は努力家を、夢見る人を、リスクをあえてとる人を、常に自由企業の背
後にいて世界の知らなかった成長と繁栄を生んだ人々を尊敬します。

 しかし我々は同時に、citizenship ―市民権、と呼ばれるものを尊重します。
それは此の国の建国の中心にあった言葉であり、我々の民主主義の核心にあった
言葉であり、その意味するところは、我々が相互へのそして未来への義務を受け
入れたときはじめて、此の国は機能するという考えであります。

 例えばCEOがその工員たちに、彼等が自分で作った車を買えるだけの給料を
払うなら、その会社全体が好転するでしょう。

 我々は例えば一少女が、偉大な先生あるいはグラント金のおかげで貧困から免
れ、次世代のスチーブ・ジョブスあるいは・・・あるいはアメリカの大統領にな
ったとしたら。・・・そんな機会を与える力を我々は持っているのです。我々は
政府が全ての問題を解決できるとは思いません。しかし我々の社会福祉の受領者
や会社や組合や移民やゲイの人など、我々の問題の禍根であり、非難すべきだと
いわれるグループ以上に、我々の問題の全ての原因が政府にあるとは思いません。

 我々国民は権利とともに責任を持っていること、そして我々の運命はともに或
ることを認識しています。それは皆つながり合っていて、自分1人だけには何を
あたえてくれるのだろうという自由、他人のために何のコミットメントもしない
自由、愛も慈善心も義務も愛国心もない自由は、我々の建国の理想に値しない自
由であり、それを守るために命を捧げた人々にも値しないのです。

 市民たちよ、我々はアメリカが我々に何をしてくれるかでなく、我々が力を合
わせて、難しく失敗も多いが必要欠くべからざる自己政府の仕事を通して、アメ
リカのために何をなし得るかが問題であることを理解しています。

 ですから4年前の選挙は、実は私についてではなく、あなた方皆さんについて
だったことをお分かりでしょう。あなた方こそ変化を起こしたのです。

 小さな女の子が、心臓障害の手術を受けられたのは保険会社がその保証の限界
を限ることができなかったためでした。あなた方がそれを実現させたのです。医
学の勉強の夢を叶えられそうもなかったコロラドの学生が、その機会を得ようと
しているのも、あなた方の力が可能にしたことでした。

 移民として親と来た子供が此の国で成長し、この国で学校にいき、アメリカの
国旗に忠誠を誓った。此の人はもう自分が故郷と思う此の国から、送還されなく
てすむのです――みなあなたがたの力がしたことです。

 もしも今あなた方が目を背け、我々の声こそが差異をもたらすという考えを捨
てたら、他の声がその空虚を満たし、ロビイストや特別利益集団や、1000万
ドルの現金でこの選挙を買おうという人などが現れて、変化は決して起りません。
あなた方だけが我々を前方に動かす力を持っているのです。

 私ははじめて全国党大会で演説をしたときから、時が変わったことを認識して
います。時は移り、そして私も変わりました。私はもはや候補者ではなく、大統
領なのですから。

 そしてその意味するところは、私は、もはや帰ってこない息子たちの母親や父
親をこの腕で抱き、彼等の心の痛みを知ったということです。私には家を失った
人達の嘆きがわかる。職を失った働き手の挫折感がわかります。もしも批評家た
ちが、オバマは全ての決断を人気投票の数字によって決めたというなら、私の目
ではよくその数字が読めなかったのでしょう。

 なし遂げた業績に私は誇りを抱いていますが、私はそれ以上に自身のおかした
失敗に心をとどめています。私にはリンカーンが『私はどこにも外に行き場のな
いまま、幾度もいくども、膝をついて折るしかなかった』といった言葉の意味が
正確に分かりました。私の腕は、帰ってくることのない息子や娘の父や母を抱擁
したのですから。

 しかし今宵、私はもっとアメリカに希望を持っています。私に全ての答えがあ
るためでもなければ、我々の受けている挑戦を軽くナイーブに見ているためでも
ありません

 私はあなた方ゆえに希望を持っているのです。私は科学フェアにおいて生物学
の研究で全国賞を得た若い女性に会いました。彼女はホームレスのシェルターで
家族と暮らしていたのです。彼女は私に希望をあたえてくれます。

 ミネソタのワーロードの家族事業家は、リセションに見舞われ、同業者が仕事
を閉鎖し、オーナーには大きな犠牲を強いるようになっても、4000人の従業
員を解雇しませんでした。彼は自分の最大の資産はコミュニティであり、その仕
事を築くために尽くしたワーカーたちであることを知っていたからです。彼は大
きな希望を与えてくれます。

 ウオルター・リードの軍隊病院で会った青年は、手榴弾のために膝の上から片
足を失うのですが、半年前、私はイラク戦争の帰還者に栄誉を捧げるホワイトハ
ウスの晩餐会に彼が歩みいるのを見ました。20ポンドも重くはなっていました
が、颯爽と軍服を身に着け、大きな微笑をたたえ、新しい義足でしっかりと歩き
ました。そしてその2-3ヶ月後には、他の傷病兵に彼の歩んだ道を見せて激励
するために、自転車を乗りこなしているのを見ました。彼は私に希望を与えてく
れます。

 これらの男女がどの党に属しているか私は知りません。誰に投票するかも知り
ません。わかっているのは、彼等のスピリットこそアメリカを定義するものだと
いうことです。彼等は『我々には希望に満ちた未来がある』という聖書の言葉を
思いださせてくれます。そしてあなたがたがその信頼を、その希望を私と分かち
合ってくださるなら、今夜私はあなた方にお願いしたい。どうか投票してくださ
いと。

 もしも貴方が、アメリカの約束は少数者にだけ保留されているという考えを拒
否なさるなら、この選挙であなたの声を聞かせて下さい。

 もしも貴方が、我々の政府はいつまでも最高の入札者の恩義を受けているとい
う考えを拒否なさるなら、この選挙で立ち上がらなくてはなりません。

 もしも貴方が、新しい工場や機械装置が我々の背景に散らばることができ、新
しいエネルギーが我々の未来に力を与えることができ、新しい学校がこの夢見る
人々の国に機会への手づるを提供しすることができると思われるなら、誰もが公
平な射程を持つことができ、公平な分け前にあずかることができ、誰もが同じル
ールで競うことができると信じられるなら、ぜひともこの11月に投票して下さ
い。

 アメリカの人々よ、私は此の旅路が容易だとは一度も言わなかったし、今もそ
の約束はいたしません。そうです、我々の道はより困難ですが、よりよい場所に
導くでしょう。そうです、我々の行く手は遠い。しかし我々は共にあるくのです。

 我々は引き返しません。誰一人置き去りにもしない。我々は互いを引き上げる。
そして間違いから学んでゆくのです。けれども天が我々とともにあることを知る
が故に、われわれが地上で最も偉大な国の祝福された市民であることを知る故に、
遥か彼方の地平をみつめつづけてゆくのです。

 ありがとうございました。神の祝福が皆さんに、そしてアメリカ合衆国に恵ま
れますように。

 此の他、テキサス州、サン・アントニオの市長、ジュリアン・カストロ、マサ
チューセッツの上院議員、エリザベス・ワレンのスピリットにあふれるスピーチ、
さらに副大統領バイデンの描く素顔のオバマもすばらしかった。
 民主党大会は参加者の多くの胸に、決意と希望を残したにちがいない。
 (筆者は米国ニュージャーシー州在住・翻訳家)

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