―問われるべき脱原発政党の中身―

■「未来の党」の自滅      濱田 幸生

  ―問われるべき脱原発政党の中身―
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 今回の衆院選で、私は「日本未来の党」を注目していました。初めはかなり好
意的に、そして途中からは失望と共に、ですが。そして結果は報じられていると
おり、公示前62議席、買戦後9議席でした。もはや出直しが効くかどうか分から
ない負けっぷりです。特に小選挙区ではわずか2人しか勝利できず、そのひとり
は「あの」小沢一郎氏です。

 「原発ゼロの会」の阿部知子氏もかろうじて比例で復活しているありさまです
から、脱原発派はほとんど国会に議員を送り込めなかったことになります。「未
来の党」代表代行で、脱原発運動の中心的存在だった飯田哲也氏は、中国電力上
関原発の着工問題で揺れる山口1区においてもダブルスコアで敗北し、惜敗率に
より比例復活もかないませんでした。

 この党は党として当然持つべき組織体制や綱領がまったく整っていない上、党
首嘉田氏は現職知事とのパートタイムですので、このまま個々別々に他の政党に
吸収されていくか、小沢氏のミニ私党となっていくことでしょう。
 もっとも小沢氏に今後も政治生命が残っていればですが。彼と組んだことにつ
いてはここでは触れませんが、おそらくもっとも後悔しているのは、嘉田氏と飯
田氏のはずです。

 一方民主党は、鳩山、菅内閣時代までは原発比率50%路線の原発推進政策に邁
進していたので、「にわか脱原発派」と呼ぶことにしますが、この「にわか派」
ですら原発立地を抱える13選挙区中わずか1選挙区で勝ったにとどまっています。
 「原発銀座」の異名がある若狭湾の福井3区でも自民の圧勝、今、活断層が問
題となっている東通原発がある青森2区でも自民が勝利しました。

 さて、飯田氏は現実政治の中でもみくちゃにされました。
 大阪市特別顧問で橋下氏の下にいたかと思うと、橋下氏の大飯原発再稼働容認
あたりからきしみ始め、「維新の会」そのものが原発推進派の石原老人に乗っ取
られてしまった為に、いまや公然と罵り合う仲です。

 山口知事選での敗北に続いて、今度はピュアな学者肌の嘉田氏と組んだのです
が、またもや今度はあろうことか、エコが日本一似合わない男・小沢一郎氏に冷
や飯を食わされ、締め切りに名簿提出できずに、嘉田氏の元部下に「よしなに」
計らってもらったという醜態ぶりでした。

 私はこの「未来の党」の飯田氏が書いた「未来の党」の事実上の綱領である
「原発完全ゼロへの現実的なカリキュラム」を読んだ時に、そうかこの人におい
てすらこんなレベルだったんだ、となんともいえない落胆を味わったことを思い
出します。

 この飯田氏は、現在ある電力体制を批判する時の切り口は大変にシャープでし
た。実際にこの部分で私も教えられたことが多くありました。
 しかし、現実に脱原発をする上では難問は山積しています。このブログで取り
上げただけでもこれだけあります。

①使用済み燃料の最終処分はどうするのか
②代替エネルギーは何を考えるのか
③その拡大のための財源はどうするのか
④電気料金値上がりによる国民生活や経済への圧迫をどのように回避するのか
⑤脱原発が完了するまでの期間の原子力安全・規制機関はどのようにあるべきな
 のか
⑥化石燃料の増大によるCO2対策はどうするのか

 私は飯田氏の著書を何冊か読んでいますが、それについてほとんど書かれてお
らず、ドイツのFIT(電力の全量固定買い入れ制度)だけを、理想的事例とし
て持ち上げているだけでした。

 そして元々工学系の人ですから、スーパーグリッドなどの技術の進歩がありさ
えすれば、再生可能エネルギーが直ちに代替エネルギーとなるかのような書きぶ
りでした。
 もちろんその新規送電網投資や電気料金の大幅な値上がりで、厭戦気分のドイ
ツの現状などおくびにも出てきません。

 何度か言っていますが、個人が脱原発を叫ぶのと、国政に参加する政党がそれ
を言うのとはまったく次元が違うのです。
 個人としての市民や研究者が脱原発を叫ぶ場合、必ずしも使用済み燃料問題ま
でを考える必要はありません。あるいは、代替エネルギーの財源まで踏み込んで
考える必要はないのです。

 しかし、政党となると違います。特に、「未来の党」は脱原発の専門店ですか
ら、経済や農業政策について素人であっても愛嬌ですが、ことこの分野について
は完全な回答を準備しておかねばなりません。
 それでなくしては、国政に参画するなど10年早いのです。

 「未来の党」は、「卒原発」で電気代が値上がりするので、交付国債で値上げ
を先送りする、という公約を打ち出しました。
 交付国債の償還財源は最終的には送電費に上乗せされると書いていますから、
いずれにせよ電気代が上がる事には変わりはありません。

 飯田氏は経済がわかっていませんね。電気料金の値上げを国債で充当したとし
ても、問題を先送りしただけなんですよ。
 それは本来は消費者が払うべきコストを、国が立て替えただけで、どこの会社
もそれによって売り上げが増えるわけでもなく、従業員の収入や雇用も増えるわ
けでもありません。

 要するに、「卒原発」をした結果の電気料金値上げ分を、国(税金)が尻拭い
をしているだけで、まったく無駄な国債の利用方法です。景気はピクリともせ
ず、財政負担のみが増大します。
 一種の福祉政策のような発想なのでしょうが、エネルギー問題を福祉問題と同
じ発想法で混同されては困ります。

 このような発想は、飯田氏のオリジナルというより、小沢氏が民主党に持ち込
んだバラ撒き政策の帳尻を国債などの政府支出で充当しようという考え方に影響
されたみたいです。
 いわゆる「政府所得移転」政策といって、ただ政府が国民にその財源(政府所
得)の金庫を開けて金をバラ撒いているだけです。飯田氏は「電気料金値上げ手
当」とでも称するのでしょうか。あまり選挙民は喜ばないと思うけど(笑)。

 このような方法をとる限り、もし「未来の党」が政権をとっても、小沢氏が言
ったような「政権とれば金などいくらでも湧いて出る」などということがないの
は証明済みな以上、民主党政権の子供手当てと同じ運命をたどるでしょう。
 これでは「卒原発」は財源枯渇で、子供手当と一緒でただの1年で廃止です。
原発ゼロまでにはどう少なめに見積もっても20年はかかるので、これでは政策に
なりません。

 また、飯田氏は新規着工住宅に太陽光パネルを設置すれば、原発の代替となる
というのが持論でしたが、このパネルの財源も国債を当て込んでいるのだと思い
ます。
 これは一見自民の建設国債と似た発想ですが、自民党案が国内雇用を創出する
のに対して、太陽光パネルはサンテックパワーなどの中国製が優勢なために、国
富は中国へと流出していくことになります。ドイツはまさにそうでした。

 使用済み核燃料の最終処分問題についても、脱原発派はひたすら六ヶ所村の再
処理工場を批判するだけでよかったわけですが、国政政党となった場合、現在約
2万8千トン積み上がったプルトニウムをどのように処分していくのか回答せねば
なりません。

 また、飯田氏がいくらスウェーデンで学んできたからといって、かの国は消費
税率25%(最大・軽減税率あり)ですよ。
 スウェーデンを見習えと言って、消費税反対とはこれいかに。脱原発を押し進
めていくなら、増税は不可避です。一種の環境税として徴収し、合わせて電気料
金も値上がりしますから、国民生活は苦しくなる一方なのは当然です。
 それをこのデフレ不況の真っ只中でやればいかなることになるのか、少し想像
力を働かせてほしいものです。

 もし増税に頼らないというなら、景気をよくして税収を上げるしかないのは当
然ですが、すると自民党的な積極財政を取るしかないわけです。そのためには経
済・財政・金融政策が必要です。
 つまりは「未来の党」は、原発反対・消費税反対・TPP反対と「反対」ばか
りをつなぎ合わせた無責任な党でしかなかったのです。

 原発問題はいくつもの方程式のようなものです。
 原発を止めようと思えば、財政問題について考えねばならず、「核のゴミ」を
解決するにはプルトニウムの核不拡散問題という外交・安全保障の問題になり、
代替エネルギーで化石燃料が増えてしまうことによるCO2増大や、貿易赤字の
増加も考えていかねばなりません。

 「命が大事か、経済が大事か」、というようなムード的な二分法ではなにも答
えていないのと一緒です。繰り返しますが市民が言うのはかまいませんか、政党
が言うのは愚かです。 私はこのような形で、日本で初めて本格的に誕生した脱
原発政党が挫折したことを実に残念に思います。

 東京新聞政治部長は選挙後に紙面で、官邸前のデモの盛り上がりや、6割の人
が原発に反対していることを捉えて、「原発の存続をもくろむ自民党は民意を反
映していない」と批判しています。 確かに自民党の大勝は小選挙区制度のマ
ジックです。それを一番よく承知しているのは自民党です。だから自民党は、今
回の選挙で「風」をまったく頼りにせず、ドブ板選挙に徹しました。

 ドブ板選挙の是非はともかく、この方法に徹する限り、基礎組織がない「未来
の党」に勝機はありません。 ならば、自民党批判をしても仕方がないではあり
ませんか。問われるべきは脱原発派の主体そのものなのです。

 では「風」は脱原発に吹いたのでしょうか。東京新聞政治部長が言う6割の
「脱原発」を支持する国民が、比例区で「未来の党」に投票すれば、このような
結果にはならなかったはずです。
 無党派の「風」をもっともよく反映するはずの比例区は、自民と維新で二分し
ました。「未来の党」は、60%の脱原発の「風」どころか、5.61%(北関東ブロ
ック)にすぎませんでした。

 政党たる基礎組織がない、綱領はやっつけ、そして「風」は吹かないの、ない
ない尽くしの「未来の党」が勝てるほど世の中は甘くありません。
 これは、脱原発派政党たる「未来の党」が、原発ゼロへの「回答」を真面目に
用意してこなかったことに対する国民の評価です。

 国民は民主党の空手形にうんざりしているのです。にもかかわらず脱原発政党
は、「風」頼みに終始しました。 つまりは脱原発派は、自民党に負けたのでは
なく自滅したのです。その反省をしないで、自民党批判をしてもなんの意味もな
いではありませんか。

 私は、本気で脱原発政党を作ろうと思うならば、他政党批判をするのではな
く、真剣な脱原発シナリオを書き込んで、それを国民と共に議論していく地道な
作業が必要だと思うのです。
 少なくと、私が挙げた脱原発するにあたっての6つの問題程度に関しては、き
っちりした、国民誰もが納得する回答を準備せねばなりません。

 迂遠なようですが、脱原発政党が再起するにはそれしかありません。そしてあ
まり時間がない。その期限は来年7月末の参院選なのですから。

            (筆者は茨城県・行方市在住・農業者)