◇北の便り(10)                 南  忠男

─学校の閉校・郵便局の廃止 過疎化ますます深刻に─

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◆ コミュニテイ崩壊の序章~小学校の閉校

 春3月と言え北海道では未だ真っ白な雪に覆われたところが多い。そんななか、
小・中学校、高等学校では一斉に卒業式があり、卒業する児童生徒の姿は飛び立
つ雛のようで雄雄しくそしてさわやかである。しかし、卒業式が閉校式と兼ねて
行われる学校も毎年少なからずある。

 今年も私の住んでいる旭川市内で2校、隣町の美瑛町で1校がこの3月に閉校
となった。いずれも一世紀を超える歴史を刻み、多くの人材を世に送り出しただ
けでなく、地域の核として様々な使命を担ってきた。
 
 昔から、学校・郵便局・駐在所・農協(漁協)が地域の4点セットであった。
駐在所の統廃合は60年代から始まっているが、この10年位顕著なのは学校、
農協(漁協)が地域から消えていることである。農協・漁協の超大型合併の問題
は別の機会に譲ることとして、ここでは小・中・高等学校の統廃合問題について
ふれたい。
 
 教育とりわけ小・中学・高等学校においては、学校・地域・家庭が三位一体で
なければならない。都会の学校では子どもは学校に任せ放しだが、田舎では学
校・地域・家庭が一体になって子どもの教育にあたっているところが見受けられ
た。しかし、これも今では稀少価値で、学校の統廃合がすすむなかで、その火は
消えつつある。
 
 さきにとりあげた美瑛町の町立北瑛小学校は「スキーによる登下校」で有名で
あった。美瑛町は人口約1万1千7百で馬鈴薯、麦、豆類等々の畑作を中心とし
た町で、「丘の町・美瑛」として知られるようになった。これは、写真家・故前
田真三氏の「大地の詩」等の風景写真集で紹介されてから始まったものである。
 
 美瑛町の広大でなだらかな丘の風景は、四季折々の変化に富み、訪れる人たち
の目を楽しませてくれる。冬は白一色の銀世界。やがて迎える春は、黄金色に実
りだした秋蒔き小麦と一斉に芽を吹いた作物の緑色とのコントラスト。初夏に入
れば、ラベンダーの紫が加わり、真っ白な花を咲かせる馬鈴薯、そして様々な作
物の個性豊かな色が加って、繚乱たる姿を見せてくる。秋には紅葉が加わる。
 
 北瑛小学校の児童は、雪の季節になると全校生徒がスキーで登下校する(夏は
勿論自転車)。しかし、毎日がスキー日和とはいかない。吹雪とりわけ原野の突
風は視界ゼロのことも珍しくないので、地域の人たちが当番制で児童の引率をし
ていたが、閉校とともにその光景は見られなくなり、児童をかすがいにして結ば
れていたコミユニテイも一世紀を超える様々な歴史とともに消えようとしてい
る。
 
◆過疎地の学校は風前のともし火
 
 根室市の隣に別海町という酪農の町がある。東西61k、南北44kという広大
な土地に人口約1万6千、1960年の2万2千をピークに減少の一途をたどって
いる。現在小学校12校あり、そのうちの8校が複式学級である。昨年、町教委
は、短・中・長期の統廃合計画を立て、当面、「1学年10人以上」を存続の要件
とし、08年までに4校を閉校して、近隣校に統合する案を町民に示した。
 
 勿論、地元民は反対が多く、一部の地区では町内会が「住民投票」を行い、閉
校反対の決議までしている。町内会が反対決議をした光進小にはこの4月に入学
する児童は4人で、その後も1~3人が続く状況。まさに過疎地の学校は風前の
ともし火である。全道では60年代初め公立小中学校が3670校あったのに、現
在は2054と半数近くに減少している。
 
 学校の統廃合は小・中学校にとどまらず、公立(道立)高校にまで進展してい
る。道教委が今回まとめた「高校教育に関する指針」の素案によれば、全道24
1校のうち半数近くの109校が廃合の対象になっている。この素案は、1学年
4-8学級を適正規模とし、3学級以下の小規模校を統廃合の対象(離島は除外)
としているものであるが、「数がものを言う」とはこのことで、「学級数だけでば
っさり切られてはたまらない」と憤慨の声が高まり、大きな波紋を描いている。
 
 旭川市のような都市部でも、高校生の1月のバスの定期代が1万円を超え父母
負担の重荷になっているが、統廃合の対象になる地域では、1月のバス代が3万
円を超えるケースも見られ、「高校全入の時代」が過疎と少子化によって深刻な
事態となっている。
 
◆消える郵便局・鉄道~そして代替バスまでが

 小泉首相は「郵政が民営化されても郵便局はなくならない」と強弁してきたが、
民営化に移行していないいまから化けの皮がはがれてきた。郵便物の集配局の統
合問題が検討されている。最近、郵便物の誤配、遅配が増えているのに、集配局
が統合されればこの傾向に一層の拍車がかけられることになる。
 
 いま、検討されているのは、郡部を中心に道内141局で集配業務をやめ、窓
口業務だけの特定郵便局に変質する案である。一方、過疎地にある特定郵便局も
この3月末に4局が廃局となる。廃局後は村や個人が業務を受託して、簡易郵便
局に移行されることになっているが、その村も市町村合併でなくなり、新しい市
に委託を予定しているもの、いまだ業務開始日もさだかでないところがある。こ
の5年間で廃局は15ヶ所にのぼった。
 
 JR北海道への移行と共に廃止されることとなった「旧池北線」(十勝ワイン
で有名な池田町と北見を結ぶ幹線)を何とか存続させたいと、道・沿線自治体が
第三セクター「北海道ちほく高原鉄道」を立ち上げ、「ふるさと銀河線」として
運行してきたが、道が撤退することになり、矢尽き、刀折れて、この4月20日
をもって廃線となる。苦闘の17年~旧国鉄時代を含めて95年の歴史に幕が下
ろされる。
 
 以降代替バスが運行されるが、北海道ではバス路線も廃線に追い込まれている。
これは、列車が廃止となり、代替バスとなるより深刻な事態である。
           (筆者は旭川市在住・元旭川大学非常勤講師)