―村山富市インタービュ―

■近頃、想うこと     村山 富市

          ―村山富市インタービュー―
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 元総理大臣村山富市氏とのインタービューは2012年9月7日東京・キャピ
トル東急ホテルで行い、編集部側からは加藤宣幸(オルタ編集代表)・竹中一雄
(元村山内閣行政改革委員会委員長代理)・浜谷惇(元社会党政策審議会事務局
長)の3人が出席しました。

【加藤宣幸】昨日中国からお帰りになったばかりでお疲れのところ「オルタ」に
お時間を戴き有難うございます。今回はどちらに行かれましたか。中国では尖閣
問題での異常な雰囲気など感じられましたか。

【村山富市】今回は長春で開かれた「第32回日中経済知識交流会」(9月2~
3日)に行きました。日本側は元日銀総裁の福井俊彦氏など金融・経済関係から
30人位が出席し、中国側は国務院発展研究センターと吉林省人民政府が主催で
した。瀋陽・長春などでは尖閣騒ぎがあるという感じは全然しなかったです。瀋
陽では日本のテレビも見られたし、帰りには北京にも寄りましたが空港では何も
ない印象でした。

 会議では日本側の座長は福井俊彦(元日銀総裁)さんで中国側は李偉(国務院
発展研究センター主任)で、今日の世界経済情勢、日中経済情勢、投資貿易協力
などをテーマについてそれぞれ報告、中国経済に注文をつけたり、日本に対して
意見があったり、2日間みっちり話し合った。

【加藤】石原都知事の煽動について、先方の指導層にはどのように認識されてい
るのでしょうか。

【村山】それは中国側もある程度分かっているのではないですか。だから、あん
まり問題にしていない感じでした。日本の政府もある程度いろんな配慮をした動
きをしているというふうには受け止めていたようですから、中国側は相当に抑制
しているのだなと感じました。

【加藤】2年前の尖閣の騒ぎみたいに広がらないと思われますか。

【村山】日本側の対応次第だけれど、現時点では、あのときのようには広がらな
いと思います。日本に対して相当配慮しているような気がするのです。だから石
原都知事がなんで言いだすのかよくわかりません。2年前のときには、ちょうど
北京にいていろいろ感じることもあったのですが、今回は指導者交替の時期でも
あり、事を荒立てたくないという配慮あるのかもしれません。

 しかし、かつて靖国問題や歴史教科書問題などで反日デモがありましたが、日
本政府の出方についてはわかりません。今は情報がたちどころに中国全土に広が
りますからね。

【加藤】自民党のときは、何かトラブルがあった時にはそれなりにパイプらしい
ものがあったようですが、今の政権にはそれがなくて、中国側も民主党の誰と話
を付ければいいのか分からないのではないでしょうか。

【村山】そう思います。今度、経済界の人たちの発言を聞いていると日本政府の
対中国政策について非常に心配していた。もっとも、今の政府や与野党の議員は、
自分たちが明日どうなるかわからないのだから外交どころではないのではないか。
やはり政治はある程度安定して、きちっとした国の方針というのを示さないと外
国とも対話のしようがない。

【加藤】それにしても、日本の政治状況は、既成政党批判が強く、それが「維新
の会」への期待を生むなど混沌としています。村山さんは、短期的にはともかく、
長期的には日本政治はどうなって行くべきだとお考えでしょうか。

【村山】今は、共産党や特に社民党が駄目だし、みんなどんぐりでどっちを向い
ているのかさっぱりわからない。政局ばかりで動いている感じで、まさに政策不
在、国民不在ですね。

 私は長期的には、いくつかの保守勢力にたいして、広い意味での社会民主主義
的な考え方をもつ政治勢力の存在が必要ではないかと思います。今でも僕らに対
して、お世辞でなく「日本は社会民主主義的な立場の者がもっと力を持ってこな
きゃ駄目ですよ」と言ってくれる識者の人は多いのですが、そういう人がもっと
対外的に積極的に発言をして欲しいものです。

【加藤】今から見れば、村山さんは自社さ政権をつくり、『村山談話』を出して、
その後の歴代内閣に遵守させている実績がある。是非、社民党の枠にこだわらず、
広くリベラル派を結集して、どちらかと言えば社会民主主義的な考えをもつとい
う程度の人々も含めた大きな政治的勢力をつくって戴きたいと思います。

【村山】僕は総理を辞めて社会党に戻り議員を辞めてから、社民党は「自衛隊は
憲法違反だ」という原則にまた戻ったという話を聞きましたから、その会の責任
者と会って確かめたら、「それは誤解です。自衛隊は憲法違反だなんて言いませ
ん。イラクに派遣されているような現状が違憲状態にある、という主張です」と
いう話でしたので僕も了解した。

 自衛隊が違憲か合憲かなんてことは、学者でもないし、憲法の専門家でもない
ので、そういう議論をしても不毛で意味がない。それより、現実の自衛隊がどう
いう行動をしているのか、何をなすべきか、というようなことを議論するなら、
したらいい。現実に政治にたいする一定の責任と役割を担っている政党ですから、
もっと現実的な国民からも関心を持たれ、納得してもらえるような議論をすべき
だと思う。

 昔の社会党では不毛の議論が多かったし、議論の仕方にも問題もあったと思う。
僕は昔、片山内閣の頃、党青年部の大会に出席して、会場に西尾書記長や片山総
理が来たら、先輩であり党幹部である彼らに「カエレ、カエレ」って野次を飛ば
す。全く驚いたことを覚えている。

【加藤】僕らも青年部でそういうことやっていました。

【村山】社会党は、ソ連が崩壊し冷戦構造が崩れるという急激な世界情勢の変化
についていけなかったが、違った意味で自民党も共産党も情勢の根本的な変化に
対応しきれていない。今の日本は政権が安定せず、誰が今度総理になるのか、そ
んなことばっかりで動いている。外国からみたらもう日本は一体どうなっている
のかとなっている。

 東日本のあれだけの大きな災害があったときの内閣は、何をおいても復興に全
力を投入し、野党も与党もなく全員を巻き込む体制を作るべきなのに、バラバラ
だった。阪神淡路大震災のときは、少なくとも復旧復興という災害対策では与党
も野党もなく、官も民もみんな協力してくれた。

【加藤】たしかに阪神淡路大震災のときには、法の未整備で初動の遅れなど村山
内閣に課題もあったが、与野党・官民の協力体制が今よりできていた感じがしま
す。これはリーダーシップの問題だと思います。

 リーダーシップといえば、日本とアジア諸国との間に戦後長くタブー視されて
きた歴史認識について『戦後50年に際しての談話』(「村山談話」)を出して
“ケジメ”をつけられ、その後歴代の政権はいずれもこれを公式見解として踏襲
し、近隣諸国も一応受け入れていることは重要なことだと思います。今、石原都
知事の政治的な野心からの煽動でナショナリズムに火が付きやすい領土問題で近
隣諸国ともめているのですが、私たちはどのように対処したら良いとお考えです
か。

【村山】領土問題は、戦争するか話し合いで解決するかしかないのだが、戦争は
できないのだから話し合いする外かない。それには自分の言い分を言うだけでな
く相手の主張も聞かなくてはならない。話し合いをするには、まずお互いがテー
ブルに着かなければ始まらない。まず双方がテーブルに着くためにはどうするか
について知恵を絞らなくてはならない。

 『村山談話』は日本がアジアの人々といかに信頼関係を築くかという率直な気
持ちを表したもので、閣議で決めて政府の公式見解として出したものだ。アジア
諸国からも受け入れられている。しかし大事なことは、単なる言葉、文章ではな
く、普段からあらゆる分野で交流を深める理解と信頼関係を築いていく努力は双
方がすべきだと思う。

【加藤】今村山さんは個人的にはどのような国際交流活動をされていますか。

【村山】いろいろやっていますが、特にやっているのは中国・ベトナム・モンゴ
ルです。ベトナムには、僕は最初に訪問した総理大臣ですが、その後、日本ベト
ナム平和友好連絡会議の議長をしており、主として枯れ葉剤の被害を受けた子ど
もたちのリハビリ施設や職業指導の施設、高校生への授業料の援助などをやり、
ホーチーミンの高等学校の教室を借りて日本語を教える「村山学校」を設立して
います。

 日中関係では、現在、日中友好協会の名誉顧問として建国50周年、60周年
の国慶節には招待されて訪問しました。なお、日本の漫画家の皆さんが「私の8
月15日の会」を設立して、当時の思い出を文章に書き、これを漫画に書いた展
示会が盧溝橋の抗日戦争記念館で開かれ、そのオープニングセレモニーに参加し
た。今年3月には中国の宋慶齢基金会が東北4県の中学生、高校生の100人を
招待してくれて、その団長として訪中しました。主として民間団体のいろいろな
行事に招かれて訪中して、友好交流に努めています。

 話は変わるが今年は「平壌宣言」から10周年です。北朝鮮もいくらか変わる
気配もあるし、日本の援助を期待している筈だから、日本側に取り組む体制がな
ければ駄目だが、何か動く良い機会ではないかと思う。

 僕は「平壌宣言」が出たときしめたと思った。これは北朝鮮がはじめて拉致を
認めて謝罪し、今後の日朝関係の方向について道筋を示したもので、僕は良くで
きたこの宣言を中心に両国が誠意を持って話し合いをすれば、拉致の問題を含め、
良い方向に進むのではないかと期待を持ったのだが、うまくいかなかった。北朝
鮮は指導者も替わったことだし、今年の平壌宣言10周年を機会に何とか打開の
努力をして、交渉によって拉致問題はもとより日朝国交正常化を達成してほしい
と思う。

 1999年、僕は各党の代表と一緒に北朝鮮を訪問した。その目的は決裂した
ままになっている関係を何とか交渉のテーブルに着けるようにするために訪朝し
たのですが、それはテーブルにつくようになって一応目的は達した。しかし、拉
致を一切認めない、という頑な北朝鮮の態度は変わらず話は進まなかった。

 2002年に小泉総理が訪朝して共同宣言に調印、大きく前進した。この宣言
を足がかりに何とか打開できないものか。何と言っても隣の国だ。南北朝鮮が和
解、日朝国交正常化ができれば東北アジアは安定する。

 亡くなった三木元首相の奥さんの三木睦子さんは北の問題に熱心で、子供に絵
本や服を送ったりして感謝されていたが、一緒に行ったときに、あのお年で終始
行動をともにされたのには驚いた。そして、さすがだと思ったのは、お土産に日
本の土と韓国の土と北朝鮮の土と3つの土を混ぜて自分がつくった焼物を持って
行って、ご自分でそれを説明したのだ。

 こうやって、多くの人が一生懸命やってきたのだが、そのわりに北朝鮮の反応
は余り感じなかった。三木睦子さんの追悼の会に行ったとき、参加者は大変多か
った。睦子さんの生前の活躍が偲ばれる追悼の会でした。

【加藤】そういうリベラル派の力をできるだけ広く集めたいものですね。

【村山】そうです。自民党の総裁は誰になるのか、民主党がどう変わるのか、間
もなく衆議院は解散するのだろうけど、選挙の結果はわからないが一つの政党が
過半数はとれないだろうから第1党になった政党が政策を提示して、その政策に
賛同するものが集まって、連立政権をつくるしかない。その場合中心になる政党
がキチッと仕切らないと駄目だ。

 細川政権のときは、社会党は一番議席が多かったけれど、ちょっと別格扱いで
議長かなんか渡されて、少し外された感じで影響力を出し切れてなかった。小沢
一郎氏が全部牛耳っていたのではないか。当時は「一・一ライン」とか二重権力
支配などと言われていた。政権運営は民主的でないと駄目だ。僕と小沢さんは当
時から今までずっと口聞いたことがない。そういえば、いっぺんだけ聞いたこと
がある。

 なんのときだったか、細川さんがいて、僕がその隣で、ちょうど小沢さんがテ
ーブルを挟んで僕の目の前にいた。ちょっとこのさいだから話してやろうかと思
って、小沢さんに新聞報道によると、またイギリスに行くらしいけども、いつお
発ちですかと聞いた。そしたらまだ決まっていません。ああそうですか。とそれ
だけだったけれど、そしたら次の日に行った(笑)。

 彼がなんかの雑誌に、社会党を潰さなきゃ駄目だっていうようなことを書いて
いたらしいから、そういう先入観があるのか、向こうもあんまり近寄らない。し
かし、考えてみると、政局が動く背景には必ず小沢さんがいた。金だけでなく影
響力を持った男だと思う。宮沢政権を潰して、細川政権を作ったのも彼だし。羽
田連立政権を潰したのも彼だ。

 あえて言えば、なろうと思ったわけではないが、彼のおかげで僕は総理にさせ
られたようなものだ。それから、麻生政権になって、解散総選挙やって、やっぱ
り彼が中心で民主党を束ねて、政局が動くたびに彼が中心にいて政権を握った。
今度また野田政権から民主党を離党して、もうかつてのような力はないと思うけ
れど、またなんかやるのではじゃないか。

【竹中】アメリカのアーミテージなんかの座談会を読んでいると、とにかく小沢
だけは絶対に権力握らしちゃ駄目だという意識が非常に強い。アメリカがなぜ小
沢は絶対駄目だというのかは、1つは10年間1度もアメリカ・ワシントンに来
ていないこと。2番目は中国への大量訪問団。3番目は国連中心主義というと中
ソは拒否権を持っているから、要するに中ソが賛成しない限り日本は何も動かな
いということだという。その3つで小沢だけは総理にしては駄目だとアーミテー
ジは非常に強い調子で云っている。だから一応そういう意向では目的を果たして
いる。

【加藤】ところでアメリカ大統領選挙の結果は日本に大きな影響がありますね。

【村山】大いに影響はあるが、オバマが強いのではないだろうか。

【加藤】自民党のパイプといっても、結局向こうの共和党政権とのパイプが主で、
日本の民主党は共和党にも民主党にも弱いということですか。

【村山】自民党は政権運営の歴史が長い。ただ民主党は中国にも韓国にもパイプ
らしいものがない。まあ交流の蓄積もないから無理だ。民主党は自分の力で政権
を握ったというより自民党が風を吹かせてくれてできたという感じだ。これは自
民党も同じだが、選挙前に、この党首では勝てないから取り替えようと盛んに議
論しているのも醜態だ。こんなこと社会党ではなかった。今の民主党は綱領もな
いし政党の体をなしていない選挙互助会のレベルだと思う。

【加藤】民主党が中国にパイプがないのは明らかですが日本の経済界は中国の動
きをどう見ていますか。

【村山】経済界の中国に対する期待はとても大きい。そして中国に対しても遠慮
なく発言もしていたし、また日本がどんどん高齢化し、人口が減っていく状態に
ついても率直に話していた。中国も一人っ子政策で高齢化が進むことなども話題
となっていた。

【竹中】どっちにしても中国は日本の11~12倍の人口があり、指導部は12
億人の中から優れた者が選ばれる。それから必ず自衛隊よりは10倍大きい軍隊
を持つようになる。

 その横で日本はどうやるかといえば、カナダのやり方だと思う。アメリカ3億
人の横で3000万人の国民がちゃんと独自の立場を守っている。たとえばイラ
クに最後まで出兵しないでしかもアメリカとは友好的にやっている。

 また、スウェーデンも8百何10万でドイツの人口の10分の1だけど、外交
の舞台ではドイツと一歩も引けを取らないでちゃんと自分の立場を守っている。
国が10分の1の民族でもちゃんと立場を確立しているが、日本はとても期待で
きそうもない(笑)。

【村山】本当に残念だ。外国から見たら日本はどこを信頼していいのか話のしよ
うがないのではないか。日本はこれからどういう方向に向かっていくのかその展
望もみえない。

【竹中】ちょうど中国のGDPが日本を超えたというときに、オーストラリアの
元首相がフィナンシャルタイムズで、今まではNo2の大国がNo1の属国だと
いう異例な国際関係だった、これからは正常な国際関係になる、と書いていた
(笑)。まさに異常な国際関係として見られていたのだ。

【村山】そのNo2がやがてアメリカを抜いて世界第1位になるのではないかと
言われている。日本人も嘆いてばかりいてもしょうがないから。どっかで活を入
れて、世界の大きな変化を見据えて生きていかなければならない。

【加藤】長時間ありがとうございました。

注)この記事は編集部が記録をとり整理したものを出席者に校閲を受けたもので
すが、文責は編集部にあります。

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