■【運動資料】

TPPの見本、米韓FTAで混乱する韓国          篠原 孝

   ―見て見ぬふりをする狡い野田内閣・マスコミ―
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  <催涙ガスの中での強行採決>
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 韓国は日本と比べ報道の自由がかなり制限され情報も公開されない国である。
米韓FTAは2004年から始まり、2007年一旦妥協し、再交渉し5年以上
の年限が経っているのに、韓国国民に対してその内容がほとんど明らかにされな
かった。

 1993年、ウルグアイ・ラウンドの決着時、ソウル市内に数百頭の牛を放
ち、内閣が総辞職したりする国である。したがって、ただで済むはずがないと
思っていたところ、予想どおり、韓国の批准手続きは迷走に迷走を続けた。11
月10日、日本のTPP参加表明より先に批准したい政府・与党は、野党と調整
するも失敗、本会議の批准処理延期。APECから帰国した李大統領が15日、
異例の国会訪問で野党に協力要請するもまた失敗。そしてとうとう11月22日
には野党が採決をボイコットし、金先東議員(民主労働党)が催涙弾を持ち込む
強硬採決となった。

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  <批准された米韓FTAの無効を求める韓国のデモ騒ぎ>
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 これを契機として、批准された米韓FTAの無効と李明博大統領の退陣を求める
デモが各地に広がった。翌23日のソウルの1万人集会では、参加者の大半は若
者で、FTAで利益を受けるのは大企業などの強者だけ、弱者との格差が広がる
だけだと訴えた。
  ウォール街の格差反対デモと全く同じ主張である。

 その後、焦った李大統領は、11月29日法案に署名し、2012年1月1日
の発行を目指すも、12月30日には与党議員も賛成して、国会でFTA再交渉を
求める決議案が可決され、完全に泥沼に入り込んだ。米韓FTAの参謀本部に当た
る通商交渉部は、発効時期について言及できる段階ではないと、匙を投げた格好
になっている。そして、今や米韓FTAが4月の総選挙の争点となり、与党は窮
地に立たされている。国賓として招かれた10月12日のオバマ大統領との会談
からまだどれほども経っていない。

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  <日本の見本という韓国の危険なチキンレース>
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 このような反発がある程度予想されるなかで、李明博政権が強行採決を急いだ
理由は、日本の突然の動きにある。韓国は何かにつけて日本をライバル視し、
「日本に追い着け」から、今は「日本を追い越せ」に変わっている。東日本大震
災で日本のTPP交渉参加はないと踏んでいた。それが韓国のみならず、世界の
常識である。ところが、案に相違して、農民にも、そして東北の被災民にも冷た
い野田総理は、9月21日の訪米後突然暴走し出した。

 党の意見を聞くといいつつ、TPPには慎重に対応すべしという党の提言もな
んのその、11月11日には交渉参加に向けて協議を開始する、と宣言しAPECに
向かった。困ったのは李政権である。日本の5大紙がこぞってTPP参加を主張
するのと同じく、韓国マスコミも、なぜかしら日本より先にアメリカとFTAを
結び、巨大な市場を手にしたことを是としていた。それが日本が急激にアメリカ
に接近されては、せっかくの李政権のセールスポイントが色褪せてくる。そうし
た焦燥感からの強行採決である。

 日本の財界や経産省は韓国を見本とすべしといい、韓国は韓国で日本より先の
FTAだと国民にPRする。軍事大国がお互いに相手国の軍事力の増強を口実に
して、自国の軍事力の増強を図るのと似ている。両国とも国民の生活を犠牲にし
て、国家の存亡にかかわるべき重大な経済外交で、危険なチキンレースをしてい
るのだ。

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  <李大統領の不人気が慰安婦問題に再び火をつける>
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 李明博大統領は自らCEO大統領を称し、出身企業の現代グループをはじめと
するサムソン、LG等の財閥系企業の目指す米韓FTAを推し進めた。その結果
が、早々のレイムダック状態である。そうした不満をそらすべく、12月18
日、日韓首脳会議で李大統領は突然慰安婦問題を持ち出し、国民の目を日本に向
けんとしている。政権末期を迎えた韓国が「日本叩き」で浮揚を狙ういつもの常
套手段である。

 2010年秋以来、あれだけ韓国に遅れをとるなと囃し立てた続けた日本のマ
スコミは、お手本の韓国の混乱状態に対し沈黙したままである。

 そのマスコミに乗せられたのかどうか知らないが、突然TPPを言い出した野
田政権は、これまた韓国を見習って政界を混乱させんとしているのだろうか。日
本を同じ混乱状態にさせてはならないと舵を切り直すべきところだが、こちらも
見て見ぬふりを決め込んでいる。極めてずるい対応である。

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  <ハンナラ党の党名を変えての出直し>
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 与党ハンナラ党も哀れである。洪準杓代表の辞任論が高まり、与党そのものも
李大統領と一歩距離を置くようになった。米韓FTAを推進した経済成長路線か
ら福祉と雇用を優先する方向に転換し、2月13日の党大会で、「大きな国」を
意味するハンナラ党から、「新しい世」を意味するセヌリ党に改名せざるをえな
くなった。FTA対象国が40%に近づいたとか、経済領土だとか、党名どおり
大きな国を目指しすぎたための大失敗である。

 米韓FTAを積極的に進めた南景粥通商委員長は、直ちに「国民の警告に対応
できていなかった我が党と李明博大統領は、国民から非難されるだろう」と認め
ざるを得なくなっている。米韓FTAを失敗と認めたのである。最新(2月上
旬)の世論調査によると、ハンナラ党の支持率は30.3%に落ち、最大野党民
主党が統合して発足された民主総合党は37.1%となりリードされている。

 そこに、朴元淳ソウル市長も野党大統領候補支持も宣言するに及び、このまま
いけば4月の総選挙ではぼろ負けし、12月の大統領選も野党大統領候補が有利と
言われている。

 私は、この混乱をみて、我が日本国のこと、そして私の所属する民主党のこと
を考えざるをえない。鳩山政権、菅政権も短命で終わり、統一地方選も参議院選
もぼろ負けである。ところが、執行部も内閣も誰も責任をとらず、ポストをぐる
ぐる回しするだけで、同じ顔ぶれがダラダラと政権運営している。その点、韓国
の政治家のほうが潔い。非をしっかりと非と認め幹部は辞任し、党名まで変えて
出直さんとしている。

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  <日韓首脳の危険な捨てばち路線>
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 韓国の混乱は対岸の火事ではすまされない。明日は我が身なのだ。総理を目指
して松下政経塾に行き、それを達成した野田総理が、3人目の総理がないという
声に自信過剰になっているむきがある。年末の任期の李明博大統領の、どうなろ
うと構わないという強硬な姿勢と重なって見えてくる。国民の生活への視点も、
同僚議員への思いやりも見られない点も共通である。韓国政治も日本政治も自暴
自棄に陥っているように思えてならない。
  
  野田総理は、社会保障と税の一体改革に政治生命を賭してやり抜くと言いつ
つ、欲張ってTPPもと言い出した。いつもの通り、なんでも強引に進める野田
内閣と執行部は、やみくもに突っ走っている。それまでして、なぜTPPを急ぐ
のかさっぱり理解できない。私には、日本がTPPを米韓FTAと同じように進
めたら、韓国以上の悲惨な混乱が待ち受けているとしか思えない。これがなぜ見
えてこないか不思議でならない。

 私は、2月19日(日)と20日(月)、TPPを慎重に考える会の訪韓団長
として韓国の関係者と意見交換のため、韓国に出張する予定である。

      (民主党衆議院議員 篠原 孝メールマガジン271号より転載)

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