■【闘病記】
ガンと向き合って7年                  貴志 八郎

―負けるもんか! 肺癌との闘いを綴る―(その3)

───────────────────────────────────

●「見くびれない癌疾」 これからが本番だ。

  こうして、7年前に最初の左肺上葉部の癌が発見され、上葉部切除で、ほとん
ど完全に克服できたものの、5年後に肺尖癌、さらに7年後に同じ左肺下葉部に
新しい癌が見つかったのである。恐るべし。ひと度、癌に冒された体には、たと
え転移はなかったとしても、次々と新しい癌疾を発生させる要素が体質的に潜在
しているのではなかろうか。

 この段階で私は「癌」に対する認識を新たにした。「ナメたらいかんぞ。」と
心に決め、和歌山医大肺外科の吉増担当医の診断を仰ぐことになる。吉増先生に
は、「まず、左肺は6年前に手術をしているので、今回の癌は手術は無理だ。リ
スクが高い。放射線も、1年前の治療の痕もあるので採用できない。残る選択肢
は『薬剤』を使った化学的療法を実施することになる。」と説明され、さらに従
来の点滴による治療ではなく、錠剤『タルセバ』を処方された。

 最初は、1日当たり空腹時に2錠(50mg×2)を服用することになった。そ
の時、様々な副作用の説明があったが、私の頭をよぎったのは、肺癌の特効薬と
して売り出された『イレッサ』による間質性肺炎多発の報道である。それが気に
かかるが、説明では「タルセバの副作用の一つに、間質性肺炎も挙げられている
ので、経過を充分注意して見守っていきましょう。」ということになった。

 こうした副作用の説明を受け『タルセバ』の服用を始めた。服用11日目で
は、左下腕部の「発疹」、上半身・顔面などの「皮膚乾燥」程度の軽い副作用が
出てきたが、苦痛という程のものではない。

●「抗癌剤『タルセバ』」 副作用と対峙して

  抗癌剤「タルセバ」は、調剤薬局で貰った説明書によると、「中外製薬・平成
8年に新薬として認可。手術や他の療法の困難な肺癌に対して最後の手段として
用いられる」とある。また副作用は、「上半身の発疹、発赤、爪の異状、下痢な
どのほか、間質性肺炎が心配される」とある。

 私の場合、2月9日より「タルセバ25mg錠剤」2錠を「食前少なくとも1時
間以上、食後も2時間以上、1日1回」とあるから、朝6時30分を定時として
服用することにした。

 こうして1ヶ月、3月9日迄、服用を続けたが、幸い、重篤な副作用に見舞わ
れることなく、その日を迎えた。もっとも、上半身、特に両肩から背中にかけて
の発疹や顔面の発赤、倦怠感に悩まされたが、何れも忍耐の限度を超えるもので
はなかった。

 そしてその間には、「日常生活を従前どおりにしてくれたら良い。」とのこ
と。また私は、ビール(1缶)、日本酒(1合)を晩酌にしていることを告げた
が、吉増医師には笑顔で、「その程度なら続けても結構だ。」との返事を頂いた。
旅行や会議なども「疲労が重ならないように注意さえしてくれれば宜しい。」
と、事前の許可を貰った。 ただし、副作用症状のひどい時は、「予約なしで
も、いつでも受診に来るように。」とのことであった。

●「服用1ヶ月目の検診」 癌マーカーの数値が下降

  さて、3月9日、私は抗癌剤服用後初めて、採血・レントゲン撮影の後、和医
大肺外科の担当医(吉増先生)に面接。採血の結果、癌マーカーの値は下降をし
ている。数値のみならずグラフが明確に示しているのである。 私は、心の中で
思わず「万歳 」と叫んだ。

 思えば、癌に侵され、抗癌剤点滴を長期にわたって実施し、髪の毛が全部抜け
落ちたり、極端な消耗で痩せ細ったりしながら、闘病を続けた仲間も身近に存在
していた。また、放射線治療のため、食事が一時不能となった友達もいた。

 それに引き替え、私の場合、日常の生活を保ちながら(脱酌や車の運転・麻
雀・読書等)1日1回の「タルセバ」1ヶ月服用で効果が表れたのである。誠に
ラッキーと言うべきだ。担当医の吉増先生も、グラフを見ながら「良い傾向で
す。もう少し量を増やし、更に結果を見ることにしましょう。」と、今後は「タ
ルセバ150mg」1錠を1日1回服用するように処方してくれた。従前の3倍で
ある。 私にとって、第2ラウンドの始まりだ。

 「閑話休題」となるか、この「タルセバ150mg」値段だ。調剤薬局から出さ
れた資料によると、30日分30錠で291,650円、私の場合、保険で3割
負担なので、約9万円。保険が適用されなければ1日1錠約1万円。保険でも3
千円となる。毎朝、連れ合いが寝床迄運んでくれる「タルセバ」を「ハイ1万円
也」と言って、飲み干している。

 年金生活で、癌の薬と糖尿病のインスリン注射などの投薬を受けるだけで、1
ヶ月10万円程の自己負担となる出費は、かなりの負担である。もしその負担能
力が尽きてしまったら「万事休す」ということになる。また、年金などの収入が
少なく、自己負担に耐えられない人はどうすれば良いのだろう。

 数ヶ月後になって、後期高齢者保険連合会より、44,400万円を超えた医
療費に対して、還付金が振り込まれてきた。したがって、私の他の医療費(糖尿
病や歯科)の自己負担を含めて、限度額44,400円を負担すれば良いことに
なるので、一応、治療費の予算が組めることになっていたのである。後期高齢者
医療という表現に、いささか気を悪くしていたが、「まあ、こんなこともあるの
か」と、勝手なもので、社会からの助けに頭を下げている次第。

註: 平成24年7月以降は、患者本人が限度額まで支払えば、超過分は、医療
  機関や調剤薬局から後期高齢者連合会への申告となった。もちろん、私の場合、
  調剤薬局だけで限度額に達するので、それだけ支払えば、他の病院や歯医者で
  支払った自己負担金は、限度額超過分を還付してくれる仕組みとなっている。

 (筆者は和歌山県在住・元衆議院議員)

                                                    目次へ