■ 【運動資料】

《米軍計画》:普天間基地はグアムの空軍基地へ    吉田 健正

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 「そこ(アンダーセン空軍基地)は、沖縄からの移転が提案されている航空機を
受け入れるのに十分のスペースをもつ、国防総省の現存空港である」
  「空港機能に対する海兵隊の要件は、アンダーセン空軍基地の現存飛行場で対
応できる」

 米海軍が11月20日に公表した沖縄からグアムへの海兵隊移転やグアムでの原子
力空母接岸埠頭建設などに備えて作成した環境影響報告書案からの引用である。
建設・整備が提案されているそれぞれの米軍施設の用途、内容、配置、配備部隊
などについては、基本的に、米太平洋軍司令部が2006年に発表した「グアム統合
軍事計画案」や2008年に発表したその改訂版「グアム合同軍事マスタープラン(
基本基地配置計画)素案」に基いており、海兵隊移転などに対する米軍の詳しい
計画を知ることができる貴重な資料である。
 
海軍グアム統合計画室が基地建設に関する環境アセスメントをまとめてウェブ
サイトで公表した報告書案は、住民が閲覧できるようにグアム各地の図書館にも
配布され、公聴会も開かれて、来年2月中旬までに意見を聴取し、それを取り入
れて最終版にまとめる。環境影響に関する最終版は、軍事マスタープラン最終版
に反映させる。これが予定通り進めば、いよいよ2012年に海兵隊のグアム移転や
原子力空母埠頭建設がスタートすることになる。
 
在日米軍再編ロードマップが調印されたのは2006年5月1日。「グアム統合軍事
計画案」は、そのわずか4か月後に公表された。ロードマップ合意に基づく在沖
海兵隊のグアム移転を含むグアム軍事要塞化計画とその環境への影響をまとめ
たこの計画案には、すでに、沖縄からの移駐が予定されている海兵隊の受け入れ
先として、アンダーセン空軍基地内の北東部に位置する2本の滑走路と周辺施設、
および北西部飛行場が、候補に挙がっている。

 その後、米国は普天間基地を含む在沖海兵隊のグアム移転計画を着々と進めて
きた。普天間基地の国内(沖縄)移設が実現しなければ、海兵隊のグアム移転も
、その後の嘉手納以南の基地返還もない、という主張とは相容れない。海兵隊の
グアム移転計画には、沖縄住民のストレス軽減の狙いがあったという環境影響
報告書の文言とも矛盾する。

報道によれば、米連邦議会(下院12月8日、上院13日)は、2010会計年度の
国防予算で、オバマ政権の要求通り、在沖海兵隊のグアム移転費約3億ドル
(約264億円)を計上することに合意した。予算案は、オバマ大統領が署名
すると成立する。これでも、普天間の辺野古移設がなければ米国は在沖海兵隊
のグアム移転を取り止める、と辺野古移設主張派は言い続けるのだろうか。


■グアム軍事機能復活計画


  ちなみに、日本人の観光地として知られる亜熱帯の島・グアムは、太平洋戦争
、朝鮮戦争、ベトナム戦争で出撃基地として重要な役割を担った、アジアに最も
近い米国最西端の軍事拠点でもある。主な軍事施設は、日本に対する爆撃基地と
して1944年に建設され、近年はB52爆撃が訓練のため頻繁に飛来するアンダーセ
ン空軍基地のほか、原子力潜水艦の母港があり、原子力空母も寄港するアプラ港
海軍基地、海軍基地の西に位置する広大な弾薬庫地区、島中央部の東側に位置す
るアンダーセン訓練場、北東部に飛行場を構えるバリガダ空軍・海軍訓練場など。

 しかし、1980年代以降、連邦政府の基地再編閉鎖(BRAC)政策により、艦船補修
場など多くの海軍施設が閉鎖され、グアムにおける国防総省のプレゼンスが大幅
に縮小された結果、軍人人口も93年の11,500人から90年代から2000年代にかけて
急減した。2008年3月末現在の軍人人口は、わずか2.970人(空軍1,815人、海軍1
,105人、陸軍41人、海兵隊9人)。在沖米軍(08年9月末)の空軍5,900人、海軍
1,300人、陸軍1,700人、海兵隊12,000人(計21,000人)の7分の1に過ぎない。
 
沖縄本島のおよそ半分550平方キロを占める土地(3分の1は米軍所有地)に、
沖縄本島の人口のおよそ13%に相当する約16万人が住む米国領グアムは、軍事的
価値を失ったのであろうか。沖縄とグアムに駐留する海兵隊の規模は、比較にさ
えならない。
 
米太平洋軍司令部のグアム統合軍事計画は、まさしく、広大な軍事施設をもち
、冷戦時に前線軍事展開基地として重宝されてきたグアムの軍事機能復活計画で
ある。上掲の米軍資料によれば、グアムの軍事的魅力は、(1)紛争が予想される地
域に近く、戦闘訓練→出撃→敵地攻撃に緊急に対応できる、(2)米国が東アジア・
太平洋地域の安全保障を確保するのに好都合な場所に位置している、(3)米国領で
あるため、米軍は外国のような法的制約を受けることなく、自由に行動できるこ
とにある。しかも、海兵隊は、船や飛行機で世界どこへでも緊急展開できる「殴
り込み部隊」だから、アンダーセン空軍基地、アプラ湾、海・空・陸・沿岸の演
習場、弾薬庫地区を擁する海兵隊には、理想的な場所と言える。

 北端の海を臨む台地の上に位置するアンダーセン空軍基地は、広大(総面積63
.5平方キロ、普天間基地のほぼ13倍)な敷地にあり、アンダーセン空軍基地と呼
ばれる北東側には現在は戦略爆撃機の飛来地として米空軍が利用している全長3,
400メートルと3,200メートルの舗装滑走路が、岸壁から海に向かうようにして並
ぶ。

基地の北西部のアンダーセン空軍基地北西飛行場(NWF)にも滑走路が伸びて
いるが、今は主に爆発物処理場として使われているようだ。基地のほぼ中央には
弾薬庫がある。基地の北・西・東の岸壁の下にはビーチが広がり、南西には基地
関連の施設、南にはゴルフ場やリゾートホテルのほか、いくつかの学校や教会が
あるが、グアム住民は大半がタモン湾やハガニア湾に面する島中央部の東岸に集
中しており、この地区の人口はあまり多くない。なお、アンダーセン空軍基地を
含むこの一帯(ジーゴ)は太平洋戦争における激戦地であった。

 一方、沖縄本島中部の東沿岸から1キロほどの内陸部、国道58号線に沿うよう
な形で、4.8平方キロの敷地内に位置する普天間基地には、海に向かうのではな
く、国道に並行するように全長2,800メートルの滑走路が一本、その東南に駐機
場や誘導路として使われるフライトラインが走っている。終戦直後、米軍が農地
に日本本土爆撃のために建設したこの基地は、沖縄の人口増加や宜野湾市の発展
にともない、現在では病院や学校を含む住宅街に囲まれている。

しかも住宅地との間に安全地帯もないままに、ヘリや固定翼機が空港と市街地
の真上を低空旋回飛行するため、世界でも最も危険な航空基地とされている。
2004年に、同航空基地の大型輸送機が隣接する沖縄国際大学の建物に墜落・炎
上したのは、記憶に新しい。低空飛行する軍用機の轟音もすさまじい。米国が
普天間基地をアンダーセン空軍基地に移設する計画を立てたとしても、不思議
はない。

 環境影響評価書(2冊目の2-76ページ)が、「そこ(アンダーセン空軍基地)は
、沖縄からの移転が提案されている航空機を受け入れるのに十分のスペースをも
つ、国防総省の現存空港である」「空港機能に対する海兵隊の要件は、アンダー
セン空軍基地の現存飛行場で対応できる」と述べるように、アンダーセン空軍基
地は普天間航空基地とその機能を十分受け入れられるスペースと条件を備えてい
るのだ。


■海兵隊グアム移転計画の概要


  ここで、改めて、環境影響評価書で、米太平洋軍司令部の海兵隊グアム移転計
画を見ることにしよう。
  移転により、グアムに駐留する海兵隊員は8,552人。家族は9,000人、一時駐留
隊員は2,000人、合計およそ1万人になる(海軍は一時駐留兵7,200人、陸軍は駐
留隊員と家族を合わせて約1,600人、空軍は不明)。

 移駐海兵隊の構成は、次の通り。
  (1)第三海兵遠征隊(IIIMEF)の司令部、3,046人。第三海兵遠征隊は、前線展
開の空陸機動軍、司令部は指令本部と支援組織からなる。
  (2)第三海兵師団の地上戦闘部隊(GCE)、1,100人。歩兵隊、装甲車両、迫撃砲、
対戦車兵器、偵察装備、その他の戦闘兵器を備え、火力、作戦、接近戦で敵を破
壊する任務をもつ。司令部を除く戦闘部隊と戦闘支援部隊は、近くに射撃場など
の訓練場、兵舎などの基地支援施設が必要。

(1)第一航空団の航空戦闘部隊と付属部隊、1,856人。海兵隊地上・航空機動部隊
(MAGTF)
の遠征作戦を支援する部隊で、空港および上部司令部の近くに駐留させる。
垂直離着陸機MV-22オスプレイ12機、UH-1多目的ヘリコプター3機、AH-1攻撃
ヘリコプター6機、CH-53E重輸送ヘリコプター 4機と、一時的に飛来するKC-130空
中給油輸送機,F/A-18戦闘攻撃機などの固定翼機による空港管制、計器飛行、離着
陸、編隊飛行、艦載機着陸訓練、空中射撃、防御などの訓練を、週7日、昼夜行う
計画だという。

(2)第3海兵兵站団の兵站戦闘部隊(LCE)、2,550人。通信、工兵支援。車両による輸
送、空中輸送、医療、補修、着陸支援などを担当する。
(3)その他、歩兵大隊(800人)、砲兵隊(150人)、航空部隊(250人)、その他
(800人)などの一時駐留部隊。
一時駐留部隊2,000人を含めて合計1万人強のうち、司令部要員は3,046人に過
ぎない。移駐する海兵隊は主として司令部という、政府の説明とは矛盾する。

環境影響評価書によれば、移駐してくる海兵隊には、以下のような施設が必要と
なる。

(1)司令部 司令部建物、独身要員用住宅、家族住宅、補給物資、倉庫、売店
・学校・娯楽施設、医療施設、保育園、公民館やパレードなどのための広場、
光熱水道インフラなど。
  (2)射撃演習場 実弾と摸擬弾を使った演習場で、安全地帯や武器弾薬によって
特別使用空域を設ける。
  (3)非火力演習場 車列(コンボイ)移動訓練、歩兵訓練、都市型(対テロ)戦
闘訓練を行う。
(4)飛行訓練場 舗装滑走路や非舗装滑走路を使って、隊員の乗降や離着陸訓練、
燃料・弾薬・荷物の積み下ろし訓練を行う。
(5)飛行場 アンダーセン航空基地の東部に位置する空軍飛行場と共存できる搭
乗・離発着場をもつ飛行場。
(6)水辺(ウォーターフロント)訓練場 移駐海兵隊と、グアムおよび(サイパンや
テニアンのある)北マリアナ諸島で訓練している一時駐留部隊が艦船や強襲揚陸艇
を使って上陸訓練を行う。

(7)の他の訓練場:グアムには(沖縄の北部訓練場のような)中隊規模でジャングル
訓練ができる広大な場所は得られないが、懸垂下降訓練、障害物乗り越え訓練、
ロープを使ったヘリコプター昇降訓練はアンダーセン・サウスや海軍弾薬庫
地区などに設置できる。

なお、実弾演習によりたびたび山火事が起こり、民間住宅地域に流れ弾が飛ん
できたりする沖縄のキャンプ・ハンセンと違い、グアムの演習では、危険防止
や環境保護のため、基本的に実弾ではなく、摸擬弾、空砲、着弾煙を使うとい
う。空軍基地の南側に位置するアンダーセン・サウスは、かつてアンダーセン
空軍基地が住宅地区として使用していた地域であるが、海兵隊は2001年9月、
そこを戦闘訓練場とすべく、土地の移譲を申し入れ、翌年2月になって米国議
会が1,500エーカーの移譲を承認した。

これらのうち、司令部と要員居住地区にはアンダーセン空軍基地の南西に位置す
るフィネガヤン、海兵隊航空基地としてはアンダーセン基地(北西部滑走路の北
側は航空戦闘訓練場、南側は隊員搭乗・武器弾薬を含む貨物積み出し訓練、北東
側の飛行場は離着陸訓練に使う。中央の弾薬庫は空軍と海兵隊が共用)、強襲揚
陸訓練はアンダーセン・サウスの沿岸、銃撃訓練、都市型戦闘訓練、車列移動訓
練、歩兵訓練などはその内陸部が、第一候補に挙げられている。北飛行場や西飛
行場など軍用施設でほぼ埋め尽くされているテニアンの空・海や沿岸もグアム駐
留海兵隊の訓練場になる予定だ。

これらは、海兵隊司令部のある沖縄のキャンプ・コーテニー、普天間航空基地(
及び伊江島補助飛行場)、射撃演習場や都市型戦闘訓練場のあるキャンプ・ハン
セン、弾薬庫をもつ演習場キャンプ・シュワブ、ジャングル戦闘訓練のための北
部訓練場、強襲揚陸訓練が行われるキャンプ・シュワブ沿岸や金武レッド・ビー
チなどと、見事に重なる。2008年9月末現在の在沖海兵隊員は12,400人、家族は
7,600人だから、ロードマップ通りに海兵隊員約8,600人、家族9,000人がグアムに
移転するということになれば、これらの司令部・演習基地機能の移設に伴い、キ
ャンプ・コートニーの兵舎だけでなく、キャンプ瑞慶覧、キャンプ・マクトリア
ス、キャンプ・シールズの兵舎も移転し、沖縄からほとんどすべての海兵隊が消
えることになるだろう。


■日本だけが米国のアジア安保戦略を支持


  ところで、グアムにおける米軍の軍事機能強化の背景には、オーストラリア、
タイ、フィリピン、韓国といった「同盟国」がこれ以上の米軍基地受け入れに難
色を示したという事情があった。加えて、これらの国々は、集団安全保障条約や
二国間安全保障条約で米軍の地位、移動、出撃などにさまざまな規制を課してい
る。
 
ところが、日本だけは、対米テロ攻撃事件の翌年の2002年に始まった日米協議
で、日米同盟の維持・強化の名目の下、米国の世界戦略の一環をなす太平洋・東
アジア安全保障強化計画に賛同し、小泉政権下の日本政府が2014年までの普天間
基地の国内(辺野古)移設、移設後の海兵隊のグアム移転、その後の嘉手納以南
の基地の閉鎖・返還という連鎖的前提条件付き「パッケージ」に同意したのであ
る。

「(再編)実施における施設整備に要する建設費その他の費用は、明示され
ない限り日本国政府が負担するものである。米国政府は、これらの案の実施によ
り生ずる運用上の費用を負担する」、「第3海兵機動展開部隊のグアムへの移転
のための施設及びインフラの整備費算定額102.7億ドルのうち、日本は……グア
ムにおける施設及びインフラ整備のため、 28億ドルの直接的な財政支援を含め、
60.9億ドル(2008米会計年度の価格)を提供する。米国は、グアムへの移転の
ための施設及びインフラ整備費の残りを負担する」という、財政的支援までして。

 しかも、ロードマップによれば、沖縄には、「司令部、陸上、航空、戦闘支援
及び基地支援能力といった海兵空地任務部隊」で構成する海兵隊が残留し、キャ
ンプ・ハンセンは、陸上自衛隊が訓練に使用するという。航空自衛隊は、嘉手納
飛行場を使って米軍との共同訓練を行う。沖縄は、海兵隊のグアム移転後も「日
米同盟」のツケを背負い続け、沖縄の「基地問題」は据え置かれるという合意
である。
 
なお、在沖海兵隊の移転と並行して、グアム南部のアプラ湾に原子力空母接岸
埠頭が建設され、アンダーセン空軍基地の南西部(海兵隊司令部の予定地)には
陸軍ミサイル機動隊(AMDTF)が駐留するという。アプラ湾の西端には、すでに、
原子力潜水艦が母港とするキロ港がある。湾内のポラリス岬の北岸(海軍弾薬
庫に近い)に深喫水の原子力空母が一時的に寄航する埠頭ができると、海兵隊が
戦闘や演習のため艦載機で移動しやすくなる。原子力空母や原子力潜水艦は、た
びたび沖縄本島東岸のホワイトビーチに寄航し、海軍と海上自衛隊が沖縄近海で
展開する共同実戦演習にも参加する。ホワイトビーチの原子力艦船寄航機能もア
プラ港に移設されるのか、グアム統合軍事計画案や環境影響評価書は言及してい
ない。

アンダーセン空軍基地は、極東最大の空軍基地といわれる嘉手納空軍基地の 
およそ4倍の面積をもつが、最新戦闘機、爆撃機、輸送機、偵察機などが演習
や出撃のため常時飛び交う嘉手納基地と違って、ベトナム戦争後はそれほど利
用されていない。

しかも滑走路は海に向かっているものの周辺を住宅地域に囲 まれている嘉手
納空軍基地と異なり、上記のように、東西と北が海に面しており、南側に住む
住民の騒音被害や危険は相対的にきわめて少ない。この際、嘉 手納空軍基地
のグアム移設も検討したらどうだろうか。

      (筆者は沖縄在住・元桜美林大学教授)

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