「ビタミンCがガン細胞を殺す」

■ 書評 

「ビタミンCがガン細胞を殺す」(柳澤厚生著 角川SSC新書、2007年)

           安藤 潔・ 浜崎 智仁
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安藤 潔


  最近、ビタミンCのがんに対する作用が一流科学雑誌で注目されている。
きっかけは2005に米国科学アカデミー紀要に報告された「ビタミンCは選択的
にがん細胞を殺す:過酸化水素を組織に運ぶプロドラッグとしての作用」とい
う論文である。引き続き2007年にはキャンサーセル(Cancer Cell)誌にその
作用機序を明らかにした「体内における抗酸化剤の抗腫瘍効果は低酸素誘導因
子によって担われている」という論文が発表された。
  前者は米国国立衛生研究所(NIH)と米国がん研究所(NCI)、後者はジョンズ
ホプキンス大学医学部の著名な研究者による報告であり、極めて信頼性の高い
研究結果と言える。このように今ビタミンCが米国で注目されている理由は何
なのだろうか?

  杏林大学の柳澤厚生教授が著された「ビタミンCがガン細胞を殺す」(角川
SSC新書、2007年)では、米国におけるビタミンCの抗がん作用の研究の背景が
きわめてわかりやすく解説されている。話は1960年代まで遡る。最初に着目し
たのはノーベル化学賞受賞者である故ライナス・ポーリング博士であった。そ
の後医学界での論争を呼び、一時はビタミンCの抗がん効果は否定され、忘れ
去られていたのである。それが先の2005年の論文で再発見されたわけだが、実
はこの研究はポーリング博士の死後も遺志を引き継いだ弟子たちの地道な研究
継続によるものであった話は、研究の世界における人間模様を興味深く描いて
いる。

  さらに第1章では著者自身のドラマティックな臨床経験が紹介されており、
第4章では米国のビタミンC治療の本拠地への来訪記は臨場感がある。いずれも
著者の熱意が伝わる文章である。現在米国ではビタミンCの抗がん効果を実際
のがん患者さんで確認する臨床試験が進行中でありその結果が待たれるところ
であるが、わが国でのパイオニアとして柳澤教授の今後の活躍が期待される。
           (筆者は東海大学医学部血液・腫瘍内科教授 )

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浜崎 智仁


  60gのビタミンCを点滴静注すると聞いたときは、そんなバカなと思った。
確かに大部分の日本人医師にとってこれはとんでもない治療法と映る。ライナ
ス・ポーリングのビタミンCの話は昔聞いたことがある。風邪、ガンにまで効
くという話で、そのうち消えてしまったと思っていた。ところがそうではな
く、未だにというどころか、もっと大々的にアメリカで始まったようだ。
  この本を読むとそのあたりの状況が分かってくる。しかも、なぜ有効なのかも
記載されている。自分がガン患者となった場合に当てはめてみると、結論とし
て自分が受ける標準的なガンの治療法で80-90%治るということでもなけ
れば、この代替療法をどこかの時点で試してみたいと思うようになった。ガン
の種類・ステージにもよるが、80%以上治るケースはそんなに多いわけでは
ない。
  ビタミンC療法の圧倒的に有利な点は、ほかの治療法に比べて桁違いに安いこ
と。次に、桁違いに副作用が少ない。健常人に使用しても全くおかしくない。
このような抗ガン治療法は今までにない。例え効かなくても損失は微々たるも
のだろう。しかも、他の治療法との併用は問題ないかも知れない。
  いいことずくめだが、評者は、本書の中に指摘があるように「高濃度ビタミン
C点滴療法はまだよちよち歩きの赤ん坊のようなもの」と考える。今まで幾度
ガンが治るという療法を聞かされたことか。万人が認める標準的な臨床試験で
有効性を示すことがまずは最初だろう。二重盲検法での研究は偽薬が難しいか
も知れないが、無作為対照試験なら可能だ。まず全例に基本的な治療を施し、
その上で無作為に半数の被験者にビタミンCを加え(あるいは残りの半数に偽
薬を上乗せし)比較検討すれば簡単に(とはいかないだろうが)証拠が得られ
る。現在では医師主導型治験のお膳立てができている。製薬会社は安い抗ガン
治療薬を作るという滅私奉公的な研究はできないので、製薬会社から資金を得
ることは無理だが、資金を得る方法はほかにいくらでもありそうだ。
  柳澤氏がビタミンC点滴療法を紹介したのは、大いに評価できる。ほとんどの
日本人が知らないのだから。今後、臨床試験にどうつながるかが問題となる。
          (筆者は富山大学教授 和漢医薬学総合研究所)

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