【コラム】
槿と桜(63)

「少しお待ち下さい」と「しばらくお待ち下さい」

延 恩株

 時間的長さを示す日本語の表現に「少し」と「しばらく」という言い方があります。韓国語にも同様の表現があり、日常生活ではほぼ日本と同じ場面で使われるのが一般的です。
 そこで、日本の方に「少しお待ちください」か「しばらくお待ちください」、どちらの言い方のほうが待つ時間は短く感じますかと質問すれば、多くの人が「少しお待ちください」だと答えると思います。
 ところが、同じ質問を韓国人にすると、かなり日本の方とは異なる答えが返ってきます。これについて、私は日本と韓国の大学生それぞれ150人ほどにアンケート調査したことがあり、その統計結果からも明らかです。

 このアンケート結果では、どちらが時間的に短く感じるかという質問に、韓国人学生は「少し」が短く感じると回答したのが48,4%と半数以下でしたが、日本人学生は88,5%と高い数字を見せました。日本では10人いれば9人までが「少しお待ちください」の方を短く感じたと言えそうです。
 それでは残りの日本人学生は「しばらく」の方が「少し」より短いと感じたのかと言いますと、そうではありませんでした。「無回答」が8,9%、「時間差はない」が2,5%でしたから、判断できないということでしょうか。いずれにしましても「少し」に関して、日本人学生の回答では「無回答」を含めて3種類の回答しかありませんでした。

 では「少しお待ちください」が「しばらくお待ちください」より短いという感じを持たなかった、残りの半数以上の韓国人学生はどう感じたのでしょうか。
 「しばらくお待ちください」の方が「少しお待ちください」より短く感じる人が9,3%にのぼりました。日本人学生には「時間差はない」はいましたが、「しばらく」の方が「少し」より短く感じる人はいませんでした。でも韓国では10人いれば1人は「しばらく」の方が短いと感じる人がいるということなのです。

 そのほかに、「時間的差はない」1,5%、「時間的長さの差がわからない」18,7%、「無回答」17,1%でした。
 韓国人には時間の長さを表現する場合の「少し」と「しばらく」では、その時間の長さの受けとめ方が日本とは逆転している人が少なからずいることがわかります。しかもアンケート調査を実施した韓国人学生の37%ほどが「少し」と「しばらく」の時間的長さの違いに明確な回答を出せなかったのです。

 なぜ韓国人学生たちがこのような回答状況になったのか、私には私なりの答えがあるつもりですが、もう少しアンケート調査について書いておきます。
 このアンケート調査では、「少し」と「しばらく」の時間的長さも訊いています。その回答分布はかなり細分化されていましたので、少し時間的幅を広くとって、示してみます。

○「少し」
 韓国人学生回答者
  1分~5分     10,9%    5分~10分    14,0%
  非常に短い時間  10,9%    10分以上     3,1%

 日本人学生回答者
  1分以内      12,8%    1分~5分     43,5%
  5分~10分     8,9%    10分~15分    2,5%

○「しばらく」
 韓国人学生回答者
  5分以内      6,4%    5分~10分     7,8%
  10分~15分     7,8%    15分~30分    1,5%
  30分~60分     6,2%
  そのほかに「ちょっと長い期間」 4,6%

 日本人学生回答者
  5分以内      6,4%    5分~10分     21,7%
  10分~15分    10,2%    15分~30分    19,2%
  30分~60分     6,4%

 この時間的長さを示す「少し」と「しばらく」に対して、韓国人学生と日本人学生では顕著な違いがあることがわかります。日本人回答者は「少し」では「1分~5分」に43,5%の人が集中しています。これに「1分以内」の12,8%を加えますとおよそ56%にものぼります。「少し」が短い時間と感じる日本人が多いことと連動している回答率だと言えます。
 また「しばらく」では「5分~10分」が21,7%、「15分~30分」が19,2%と2極化しています。

 一方、韓国人回答者では、「少し」で「1分~5分」が10,9%、「非常に短い時間」が10,9% で両者を合わせれば、およそ21%になり、ここでも「少し」の方が短いとアンケート調査対象者の半数近くが答えているのと連動しています。しかし、そのほかの時間の長さでは「少し」も「しばらく」も、いずれも分散傾向があります。つまり「少し」と「しばらく」を長さの区分で示すとなると、明確にできないことが窺えます。
 さらに言えば、「しばらく」で韓国人回答者は「15分~30分」の長さでは少数にとどまっていますが、「30分~60分」になりますと、日本人学生回答者とほぼ同数になり、注目すべきは「ちょっと長い期間」と「時間」ではなく、「期間」と回答している者も少なからずいたことです。

 同じ意味で使っているはずの言葉にも解釈の違いが生じることを示す良い例が、「少し」と「しばらく」にも隠されていると言えそうです。こうした言葉の解釈の食い違いが国際関係上でのもつれにもつながる可能性があり、それは現在の韓国と日本のギクシャクとした関係にも反映されてしまっているように思えて仕方ありません。
 私なりのアンケート調査からみた分析、解釈は次回にします。

 (大妻女子大学准教授)

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