「復旧・復興促進」と「脱原発」の国会決議を

■ 2. 「復旧・復興促進」と「脱原発」の国会決議を     船橋 成幸

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ぶれる、場当たり、指導力の欠如などなど、野党やマスコミを中心に菅首相への
風当たりは激しさを増すばかりである。国民一般も、それに呼応していまの政治
と政権への不信、不満を募らせている。私も、2年前の政権交代を心から歓迎し、
熱い期待を寄せていただけに、民主党政権下の政情の推移にはまったく失望して
いる。
 
  とりわけ菅首相の言動が迷走を重ね、野党からだけでなく与党からさえ批判を
浴びている状況、まさに四面楚歌の中で、自身の進退の時期さえ不明確にして
『裸の王様』然としている姿には呆れ返る思いがする。

 ほんらい首相たる者の役割は、自らのゆるぎない信念に基づいて内閣の意思を
統一し、与党を結束させ、野党に対してもその協力を求めて全力を注ぐことであ
る。とりわけ、いわゆる「ねじれ国会」のもと、東日本大震災と福島第1原発の
損壊事故という非常事態に際会した状況下では、すべての政治勢力が結束して
「国難」に対処できる態勢をきずくため、一身をかえりみることなく最大限に汗
をかかねばならないのである。
 
  だがもはや、菅首相にそれを求めても無理である。かつて自ら唱えた「熟議の
国会」どころか、「辞めろコール」が拡がるばかりの政局では、菅内閣の命運も
日ならずして尽きることがはっきりとしてきている。

 だが、そこで新たに重大な問題が生じる。すなわち、辞めるにしても、後継の
体制をどうするのかがまったく見えていない。「誰が継いでも菅首相よりましだ」
という声もあるが、どうしてそのことを保障できるのか。被災地の復旧・復興が
いまよりも明らかにスピードアップされ、原発に対する住民と国民の不安を軽減、
解消する方策を、誰がどこに用意しているのか。

それが見えないまま首相を辞めさせ、政権を変えても、政局の混迷は続き、国民
の政治不信はますます深まるばかりだろう。一部で「大連立」などが噂されてい
るが、一時的にせよ、議会制民主主義の根幹に刃を向けるそんな構想は論外とい
うべきである。私は、菅首相が打ち出した対応策は不十分にしても、基本的に誤
っているとは思わない。
 
例えば菅首相のいわゆる「メド」の3条件(第2次補正予算、再生エネルギー特
措法、特例公債法の成立)は、いずれも当面の対応としては不可欠の課題である。
また、浜岡原発の停止要請そのものは適切といえるし、ストレステストの実施を
提起したことも、その具体的な方法と工程が示されるならば国民多数の納得を得
られる措置だと思う。

 ただ菅首相のふるまいには、国民世論と政治舞台で合意の幅を押し広げるため
の説得力が致命的に欠けている。何を考えているのか、結局は延命を狙っての思
いつきに過ぎないのではないか、というあらぬ疑念がそのために沸き起こってい
るのである。

 どれほど前向きの施策を打ち出しても、それを実現するための手順と段取り、
指導力を裏付ける政治運営の手法と作法が非常識といえるほどに混迷しているか
ぎり、菅首相とその内閣が執行の力を持続することは不可能である。

 それに何よりも、菅首相は、自らの信念に基づいて先行きの展望を明確にする
ことを怠っている。その曖昧な姿勢で目先の課題だけを打ち出しても、理解と支
持は到底ひろがらない。行き詰まった菅首相が態度を改め、苦境を逃れようとし
ても、もはや手遅れなのである。

 さてそこで、政権が変わり、新たな政権がフリーハンドで政策を打ち出すこと
になれば、菅内閣が掲げた施策のポジティブな側面はどうなるのか。震災被災地
の復旧・復興の課題にしても、関係各自治体・住民との信頼・協力の関係をより
深く再構築することができるのか。原発依存の利益共同体と果敢に闘い、脱原発
の方向に前進できるのか。万一にも、菅内閣が示唆した幾つかの前向き施策を逆
転させ、震災と原発事故への後ろ向きの対応を選ぶことはないだろうか。国民は
誰しも、菅内閣への不満や批判と同時に、まだ見えない後継の政権についても、
一抹の不安を感じずにはおられない状況である。

 私はこの状況を踏まえ、菅政権下における最後の課題は、震災被害からの復旧・
復興、原発依存からの脱却について、次期政権に対し拘束的影響を及ぼす方法と
して、国民多数の同意を得る見通しのもと、国会の決議を実現させることにある
と思う。国会決議は全会一致が慣例であり、それが望ましいには違いないが、1
995年6月の終戦50周年に際しての不戦決議は、衆議院の多数決で採択され
たという前例もある。

 提案者は菅内閣、あるいは議員提案のいずれでもよい。問題はその内容である。
私は、国会決議には少なくとも以下の趣旨・内容を含むべきと考え、これを提言
する。

 1、国は、地方自治体との信頼・相互協力をいっそう強め、一体となって復旧・
復興の実績を高め、かつ速めるために全力を傾注する。
  2、国は、全国の電力供給システムを見直し、再生エネルギーの導入促進、省
エネ政策の推進などにより、今後10年以内、平成33年度までに原子力発電依
存からの脱却をめざす。また、同時に送・配電網の多元化を実現する。

 これはいずれもドイツ、スペイン、スイス、イタリアなど欧州各国で実績があ
り、わが国でも、国民多数の同意を得ることが十分に見通せる内容である。菅首
相には、決議の提案者が誰であろうと、与野党の同意を得るために抵抗を排して
説得の努力を尽くしてもらいたい。そして、決議成立と同時に、即日、辞任すべ
きである。そうすることで、菅首相は状況が許す限りでの、最高の「花道」を踏
むことができるに違いない。
   (付言)この原稿送信の翌日、13日に菅首相が「将来の脱原発」の意を表
明した。良いことである。だがそれで、この『提言』の主旨が変わるものではな
い。                                 
                     (筆者は元横浜市参与)

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