日中間の不理解に挑む(6)

無関心こそ罪

李 やんやん


 昨日、衝撃的な事件が起きました。新宿駅で、安倍政権が集団的自衛権を憲法解釈によって強引に容認しようとするやり方に対して、焼身自殺で抗議しようとする男性がいました。幸いにして一命は取り留めたようですが、NHKがこのような大事件について、夜のニュースでも朝のニュースでも一切触れようとしないことに、ネット上で批判の声が上がりました。実際私自身も、このニュースを知ったのは、中国のメディアを通してでした。

 北海道道議会議員の小野寺まさる氏がこの焼身自殺未遂について、「犯罪行為だ」「愚行だ」と罵倒し、それを一斉に大きく取り上げた海外のメディアについては「いかれている」と一蹴。「民意に寄り添えない議員はやめてほしい」と寄せられて批判に対しては、「一人の迷惑行為が民意だと?笑わせないで下さいな…貴方」と反撃したと言います。事件そのものも衝撃的ですが、その後のNHKによる故意の無視と、想像力が貧弱で思い込みだけが激しい地方議員の言動から、「右寄り」と海外で批判されるような方向に日本社会全体を引きずり込もうとする勢力の強大さを見せつけられた気がします。

 周辺国の脅威を煽り、国民の自由を制限し、見せる情報と隠蔽する情報を使い分け、人々を洗脳しようとするのは、何時の時代においても、どこの政府においても、社会問題が山積して手に負えなくなってくるとすぐに使いたがる手です。問題はそんなときに、違う視点から物事を見ることのできる人間が、その社会でどれだけ発言力を保てるかです。不幸なことに、いま中国も日本もそのような時期にさしかかっており、冷静な発言ができる人間の「物を言う場」がどんどん制限されるようになっています。それなのに、無関心と受け身の姿勢から抜け出そうとする人は、依然としてごく少数に留まっています。

 無関心こそ一番の罪です。焼身しようとした彼が意図したのは、安倍政権への抗議というよりも、そんな無関心と受け身のどんよりとした空気の打破だったのかも知れません。抗議の方法には賛同できませんが、命をかけて無関心な人々に訴えようとした彼に、敬意を示すべきなのではないでしょうか。

 (筆者は駒澤大学教授)

日中市民社会ネットワーク(CSネット)2014年7月号(第39号)より


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