『ジャパン・イズ・バック—安倍政権にみる近代日本「立場主義」の矛盾』

【本の紹介】

『ジャパン・イズ・バック 安倍政権にみる近代日本「立場主義」の矛盾』

安冨歩/著  明石書店/刊  定価1,600円(税抜)

                        浜谷 惇

 安倍晋三首相や連なる人脈からいちじるしく知性を欠いた発言や妄言、暴言がやまらない。
 石破幹事長が特定秘密保護法案に反対する国会周辺でのデモを「テロ行為」呼ばわりしたかと思えば、こんどは衛藤晟一首相補佐官が安倍晋三首相の靖国神社参拝に対する米政府の「失望」声明を批判。さらに桜田義孝文部科学副大臣は、旧日本軍が元従軍慰安婦への関与をしていたことを認めた「河野洋平官房長官談話」の見直しを応援すると発言。NHKの籾井勝人会長や経営委員の百田尚樹、長谷川三千子両氏の歴史認識や憲法観をめぐる相次ぐ妄言がそれらである。

 なぜ、こうした妄言、暴言が猛威をふるっているのか。アベノミクスとは何か。本書は、「イッポンをトレモロす」と「立場主義」をキーワードにして、安倍首相が「台詞」とする「日本を、取り戻す」ことの真の意味を明らかにすることを目的にして書かれてものである。
 プロローグで著者は安倍首相が取り戻したい「イッポン」とは「一本」であり、「トレモロす」とは近代日本を覆い尽くしている「立場主義」だという。そして、政治と経済と文化の3つの章によって「安倍政権にみる近代日本の『立場主義』の矛盾」を語り、エピローグでしめる構成で書かれている。

 著者は、「立場主義」を次のように言う。「日本社会は、日本人から成っているのではなく、『立場』から構成されている、と私は考えています。日本ではまず立場がそこにあり、立場同士の相互関係があります。個々の日本人は、その人の置かれた立場の詰め物として機能しているにすぎません。立場が主役の社会なのです。それゆえ日本人は、自分の立場を失うことを極度に恐れます。『そんなことになったら、俺の立場はどうなるんだ!』という叫びは、日本社会のあちこちで日夜聞こえてきます。」
 ジョークを交え、事例を交えわかりやすくをモットーにして本書は小気味よく展開され、あっという間に一気に読み終えることができる。安倍首相の「日本を、取り戻す」のねらいと、その論点を理解するうえで絶好の書である。

 第1章では、政治の視点から第2次安倍政権はなぜ誕生したのかが語られる。先の総選挙で自民党勝利と安倍内閣の高支持率の底流にあるのは、「『立場』を取り戻してみせる」と大見得をきり、「日本人であること」に過大な評価を与え、「日本は強いのだ」「美しいのだ」と演出しているからにほかならないと説く。
 しかし、安倍政権が「取り戻す」その内容は、㈰体制派が非体制派を切り捨て、国の富を「取り戻し」て自由に使う、㈪立場なき人々が「日本人である立場」(戦争で憂さの晴れる立場」を取り戻す)、というまことに危ういものだという。

 第2章では、経済の視点から安倍政権の目玉である「アベノミクス」は「成功すればするほど失敗する」と語っている。なぜか。アベノミクスではお金のスピードメーターがすごい数字を出しているから「うまくいっている」ように見えるかもしれないが、そこにはビジョンもなく、直面する高齢化、中国の台頭、コンピュータ社会への対応もなく、経済システム改革もない。あるのは「麻薬を、もっと麻薬を、と叫ぶ」ばかりの政策である、と解く。ここでは省略するが筆者はそれに替わる「日本経済活性化の処方箋」を示している。
 またこの章では、右翼の凶刃によって命を奪われた石井紘基衆議院議員が、現職時代に体制派による「国家予算の私物化」の政府追及に敢然と立ち向かった活動が高く評価されている。私事になるが石井さんとは長年良き友人であっただけに、その評価はとてもうれしいものであった。

 第3章では、文化の視点から歴史をひもとき、福沢諭吉の『学問のすゝめ』を「権威の借り所」とした安倍首相の「強い美しい日本」の「立場主義」の根拠付けの陳腐さをうきぼりにしている。著者によれば『学問のすゝめ』は、その時代には歴史的意義があったのかもしれないが、もはやまるで通用しない「近代的家制度、西洋的自主独立、古代中国的修身思想、それらがグチャグチャに煮込まれた闇鍋状態」の書物だと説く。

 そして著者は「エピローグ」で、再び「イッポンをトレモロす」の意味は、「ニッポンではなくイッポン」であり、「トレモロとは、単一の高さの音を連続して、また複数の高さの音を交互に、小刻みに演奏する音楽技法のことで」「昔やったやり方をもう一回やりますよ。何度でもやりますよ。どこかでもやりますよ」という宣言だった、と説いている。
 そのうえで著者は、あわせて「豊で柔軟で幸福な社会を創り出し、『日本を取り戻す』道」を示してくれている。時宜にかなった好書であり一読を薦めたい。

 (筆者は一般社団法人生活経済政策研究所参与)


最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧