『就労する外国人から保険料を徴収』

■ 【北から南から】アジア・上海 

~就労する外国人から、保険料を徴収~  石井 行人

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  大きなニュースが入ってきました。中国国内で就労する外国人(約23万人)
を対象に、保険料を徴収し始めるというものです。社会保険加入を義務付けた、
「社会保険法」(2011年7月1日施行。第97条)に基づいた措置で、その詳細は
「中国国内で就業する外国人の社会保険加入に関する暫定弁法」(、2011年10月
15日施行)で示されているとのことです。

 中国の社会保険は、「5険」と呼ばれ 1)養老保険、2)医療保険、3)失業保
険、4)生育保険、5)労災保険、から構成されているそうです。今回の動きは、
この国内制度を外国人にも対象を広げる措置です。しかし施行日を目前にした今
でも、伝えられる内容は曖昧模糊としたものです。

 中国は省、市、自治区ごとに法の運用が異なり、開始時の混乱は避けられそう
もありません。この新法が、日本人に、どのような影響を与えるかを、入手でき
る資料を通して考えてみました。


◇<企業レベルから見る問題点>◇


  まず、企業レベルでの問題が、二点ほど指摘されています。まず、保険料
(40%)の両国にまたがる「二重払い」の問題です。約7万人ほどいる日系企業
の駐在員を(北京市ベース)例に取ると、1人当たりの保険料負担額(企業負担
と駐在員個人負担の合計)は、年間約83万円(推算)となり、約7万人で総額約
580億円もの二重払いが生じると予測されます。
 
  次は、保険料の「掛け捨て」問題です。中国では、15年を超えて初めて年金が
支給され(定年=男性60歳、女性55歳)ますが、日本の旧社会保険事務所の不祥
事が示すように、その年金記録の信頼性に疑念がもたれます。すでにドイツ、韓
国は中国政府と社会保障協定を取り交わし、負担を軽減しています。日本政府も
二重払い回避に向け、中国政府と協定締結交渉を開始しましたが、すんなりいく
か、先行きは不透明なようです。


◇<個人的なレベルからみる問題点>◇


  次に、より個人的なレベルの影響を考えてみましょう。典型的な駐在員ではな
く、私の知人の日本人大学教師に登場してもらいます。保険料率は従業員が中国
内で得た収入の約4割と聞き、仰天し震えていました。かれらは<専家証>と呼
ばれる<教育ビザ>を持ち、単年度契約です。駐在員と同様、「捕捉」の容易な
人々で、上海での平均月収は5000元(6万円、住宅手当を除く)ほどで、他の都
市をみると、3000元(南京市)程度に落ちます。しかも、最近は日本の人材派遣
業者が介在する場合が多くなり、低賃金化の傾向にあります。

 この人物は、国立大で教えていますが、契約書には手取りだけが明記されてい
て、税金その他がどのようになっているのか皆目わからないそうです。また、日
本円への換金のために銀行へ行ったところ、納税証明が必要だと分かり学科にお
願いしたところ、「そんなことを言ったのは、あなたが最初だ」といわれ、唖然
としたそうです。

 国立大学でも、こんな調子です。それ以後、街にたたずんでウインクしてくる
両替商に頼るしかないとのことです。「5年前と比べて両替率(日本円)で20%ダ
ウンし、物価は30%以上上昇し、給料は据え置きで、加えて本当に40%の社会保
険料を徴収されたら、生活は不可能だ。日本へ帰るしかない」と嘆いています。

 「法整備や運用方法が決定できないので、徴収開始を延期する」という結末を
期待するのは、甘すぎるでしょうか。この人物曰く「医療保険といわれたって、
どうやってあの人民病院の人の波の中に入って行けると言うんだ!」。「対価な
く取られるだけ」と、言いたいようです。

           (筆者は在上海・企業研究員)

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