『春節・張家界旅行記、その前に』

中国・深セン便り 

『反日デモ中の中国生活・その後』   佐藤 美和子

────────────────────────────────────

 春節好! 2013年の春節(旧正月)は、例年より幾分遅めの2月10日にスター
トしました。 ここ数年は寝正月ならぬ寝春節を決め込むことが多かったのです
が、今年は友人に誘われて、久しぶりに旅行することにしました。
 
 目的地は、広東省の北部に隣接する、湖南省の張家界市です。険しい峰が連な
るカルスト地形の奇観で知られ、またその風景区(景勝地の意味)は、ユネスコ
の世界遺産に登録されてもいます。さらに、2009年公開の映画『アバター』の舞
台モデルとなったことでも有名になりました(これにはかつて中国国内で論争が
勃発しており、安徽省の黄山がモデルだとする説もアリ)。

 旅行記に入る前に、最近の中国の春節事情に起きている変化に少し、言及した
いと思います。かつて中国人にとっての春節とは、「何が何でも故郷に帰り、一
家または一族郎党と共に過ごすもの」でした。広すぎる国土と未発達な交通事情
から、10日前後と年間でもっとも長い休暇である春節以外、帰省することが叶わ
なかったせいもあります。

 春節が近づき、故郷の両親や故郷に預けている子供にもうすぐ会えると思うと、
郷愁の念がさらに募って仕事にも手が付かなくなります。そして帰省するための
交通手段確保に奔走し、故郷で配る『紅包(お年玉)』や山のようなお土産を買
うための費用の算段に明け暮れます。

 十数年前までは、春運(春節期間中に起こる、全国帰省ラッシュのこと)とは
長距離列車か長距離バスのことで、飛行機はごく限られた富裕層のみのものでし
た。経済が発達した今では、国内線も席確保が大変になっています。

 当初は闇雲に実施したために、人々が殺到して大問題になりましたが、景気促
進目的で大型連休中の高速道路が無料化されたことにより、自家用車やバイクで
帰省または旅行する人が増えたのも、大きな変化です。春節にネットで知り合っ
た同じ趣味の人々が集まり、大型バイクや四輪駆動車で僻地へのツーリング旅行
をするチームもたくさんいます。

 昨年10月の国慶節休暇、東莞市郊外に住む知人夫婦が下の道でも20分で行ける
東莞市内へ、無料だと喜んで高速に乗ってみたところ、なんと片道4時間もかか
ったとか。彼の奥さん、「ねぇ、これって本当に“高速”道路なの?!」いつも
通り、下の道を走ったほうがよかったね……。

 そして、春節休暇に対する人々の意識がずいぶん変わってきているのも感じま
す。

 帰省せずに国内外へ旅行に出かける人、また大晦日と元旦に相当する『初一』
の二日間だけは帰省して実家で過ごし、残りの日は旅行するなどの盛りだくさん
プランを採用する人も増えました。年間で最も寒い上に交通費が値上がりして大
混雑する春節ではなく、もっとよい季節に休みをとって帰省するほうが効率がよ
いと考え、一族揃っての年越しに拘らなくなってきているのです。

 親や親類から、結婚や孫、果ては収入増などの立身出世を催促されるのが面倒
で帰省しない独身者。帰省して親戚中にばら撒かねばならないお年玉やお土産に
蓄えを費やすより、自分の欲しいものを買うことを優先するイマドキの若者。そ
れに夫婦の出身地が遠く離れている場合、今年はどちらの実家に帰るかと毎度ケ
ンカするくらいなら、旅行しちゃうほうが家族円満ですものね(笑)。

 また、いっそ帰省も旅行もせずに居住地でのんびり過ごそうという人も出てき
ました。海外に行ったって、この時期はどの国も中国人観光客だらけ、海外の雰
囲気ぶち壊しで楽しくないよ~だそうです。帰省も旅行もしない分、近くの高級
レストランで豪華な料理を楽しむなど、優雅に過ごすのですって。

 故郷に居る、親たちの意識も変わってきているように感じます。日々都会で忙
しく働く子供らに、春運ラッシュでさらに無理はさせたくないとか、年々熾烈を
極める中国の受験戦争のため、春節休暇中も塾三昧な孫の世話で忙しい子供一家
を気遣い、無理に帰省を促さなくなっているのだそうです。

 とある男性知人は、春節期間中の当番出勤にみずから立候補しました。なんで
も、今年は奥さんの実家に帰ることになっているのだが、婿の自分にダメ出しば
かりする妻の両親とせっかくの新年を過ごすのは、どうにも気詰まりだ。仕事を
理由に自分だけ面倒な帰省を免れられ、また法定祝祭日である春節の三が日の出
勤は、労働法の規定により給料が3倍に跳ね上がる。春節中はどうせ仕事もヒマ
で事務所でのんびりできるし、まさしく一石三鳥なんだ!……なんとなく、複雑
な家族関係が垣間見えますね……。

 我が家も、中国北部を中心とする大気汚染事情から、健康のほうが大事だから
今年は帰省してこなくてよいとお墨付きをもらいました(笑)。そこで、同じく
帰省を取りやめたという深セン在住の友人一家と、5人で旅行することにしたの
です。

 上述の、昨年国慶節に高速を利用した友人夫婦の経験談を踏まえ、私たちは春
節初日の深夜に車で出発することにしました。深センから張家界まで1100km余
り、混んでいなければ高速を飛ばして10~12時間の道のりを、数人が交代で運転
します。万一渋滞に陥ったときのために、カップラーメンやパンやお菓子に飲み
物をたっぷり積み込んで、時折どこからか聞こえる爆竹や花火の音を聞きながら、
真っ暗な中を出発しました。

 往路は、比較的順調でした。2~3時間ごとにインターチェンジに寄って給油や
トイレ休憩をするのですが、元旦に相当する春節初日の深夜はさすがにみな家で
過ごすのでしょう、走っている車もインターチェンジで休息している人も多くあ
りません。ただ、北上するにつれ気温がどんどん下がっていき、湖南省に入って
からは何の前触れもなくものすごい濃霧に突っ込んでしまい、2~3m先すら見え
ずに肝を冷やしました。もし車が多く、車間距離が十分でなければ、確実に多重
玉突き事故が起こっていたことでしょう。

 暖冬の深センでは最高気温20度前後と暖かい春節だったのに対し、湖南省では
0~8度ととても寒かったです。張家界での観光は山登りばかり、山上はなおさら
寒く、湖南省では高速道路だけでなくずっと濃霧に見舞われ続けました。見通し
の悪い高速は困るものの、霧をまとったカルスト地形の山々も神秘的でとても美
しかったのですが、どうも中国人的にはそうは感じないらしく……。行きかう観
光客、みながぼやいていましたね(笑)。中国人は、スッキリハッキリ遠くまで
見渡せる景色がお好みみたいです。

 今回の旅行で一番印象に残ったのは、湖南省人に対するイメージです。
 実は広東省では、湖南省人の評判はあまり芳しくありません。出稼ぎの地であ
る広東省で犯罪を犯す人が多いとか、徒党を組んで悪さをするとか、嘘つきだと
か、地元広東人には色々湖南人の悪口を聞かされます。

 私にとって、96年に三峡下りをしたときにわずか数時間寄港しただけの岳陽市
以外、今回が実質初めての湖南省の旅でした。評判がイマイチな湖南省でなくと
も、有名な観光地というのは大抵ぼったくりだの何だのと、悪いイメージが付き
ものです。そのため私たちが身構えていたにも関わらず、道中や観光地で道やそ
の土地の文化や色々なことを尋ねても、嘘を教えたり無視したりする湖南人は皆
無だったのです。

 これが例えば広東省なら、行きずりの人に道を尋ねたら、人々はスリなど犯罪
行為の手口かと恐れて無視します。近くの商店などに飛び込んで店員にモノを尋
ねたら、ウチの店で何にも買っていないのにタダで教えてもらおうだなんて厚か
ましい!と罵られることも(笑)。たとえ教えてもらえても、10人に尋ねたら10
通りの答えが返ってくる、なんていうのもよくあることです。

 北京ですら、さすがに嘘を教えられることは少ないものの、言葉を発すれば損
をするとばかりに顎で方角をしゃくって終わり。えっ、どっちだって?と尋ね返
しても、もう二度と相手にしてもらえないほど、恐ろしく無愛想な人々が多いの
です。

 ところが湖南省では、通りすがりのツアーのガイドさんまでもが、明らかにツ
アーメンバーではない私たちの質問にも丁寧に答えてくれて、いい意味で本当に
驚きました。見知らぬ人には無愛想な態度をとることが多い中国人ですが、湖南
省人は言葉使いも丁寧で声色が柔らかいのです。

 観光地の入場料も、他省の有名観光名所に比べればずいぶん良心的で十分その
価値はあると思わせる料金設定だったり、観光地の駐車場料金が驚くほど格安だ
ったり、あまつさえ無料のところまであり、「えっ、本当に無料でいいの?!」
と、驚いてもう一度聞き返えしちゃいました!

 そんなことに驚いてしまう私たち、お金にならないことは一切が無駄!と考え
る広東人に、かなり毒されていますよね……。なんせ、深センでは駐車場出口の
時計を入り口のより数分早め、1元でも多く取ってやろうとか、車のナンバープ
レートで余所者だと分かった途端、何倍もの料金を吹っかけたりなんてことが、
日常茶飯事なもので~(笑)。

 お陰で今回の旅行では、ぼったくり、虚言、約束を守らないといった中国旅行
にありがちな不愉快な目にはほとんど遭わず、珍しく楽しく快適に過ごせた春節
でした。(次号に続きます)

           (筆者は中国・深セン在住・日本語講師)

==============================================================================
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップ>バックナンバー執筆者一覧