■【北から南から】

   深センから 『東日本大地震をうけて、中国の様子』    佐藤美和子
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  深センで毎日、日本の地震のニュースを見ています。
  オルタ原稿を書かなきゃと思いつつ、しかし何を書けばいいのかとパソコンの
前に座っているだけの時間をたくさん過ごしました。私は関西出身のため、身内
や友人に被災者は幸いにもいませんでした。それでも、祖国がこんなにひどい災
害に見舞われているというTVニュースの映像を見ていると、体も心も強張り、た
だただ呆然としています。

 前々回の続きを書く気持ちになれませんので、こちら中国での様子を少し、書
き記そうと思います。
 
  中国でも、今回の東日本大地震の知らせはとても重く受け止められています。
前日に起こった雲南省の地震がすっかり追いやられてしまうほどに、日本の様子
は常にどこかのチャンネルで報道しています。通常の番組を取りやめ、ほぼ丸一
日、日本の地震に関する特番を組んだチャンネルもありました。福島原発の事故
についても、日本のメディアから流用したのであろうパネルを使って、その仕組
みや事故原因を詳しく説明しています。自国、新疆ウイグル自治区で過去何度も
行われている核実験のことは一切報道されず、何も知らない中国人も多いのです
が……。

 重く受け止められた理由の一つは、地震規模の大きさのためです。2008年の四
川大地震では被害が凄まじかったために、本来は独立独歩の気質を持つ中国人に
一致団結する力や博愛精神を呼び起こさせました。しかし、さらにその20倍以上
だという東日本大地震の破壊度は、想像を絶しています。そして津波は中国では
あまり馴染みがないため、恐ろしい勢いの津波に追われて逃げる人の映像や、家
屋や車が押し流されていくのをなすすべもなく見つめる人々の様子はひどく衝撃
的でした。

 もう一つは、被害の多くが地震によるものではなく、大部分が津波によるもの
だったという点です。もしあれが中国で起こった地震だったら、津波がなくても
被害は20倍どころでは済まないはずだと、多くの人が恐怖感を抱いたようです。
そのことを指摘する意見には、長年にわたって地震対策をとってきた日本に反
し、四川大地震を経てもなおオカラ工事が後を絶たない自国への苛立ちが感じら
れます。

 そして、これは日本のメディアでも紹介されているかと思いますが、災害時だ
というのに保たれたままの秩序についてです。倒壊した商店から品物を強奪する
人がいないこと。水汲みやスーパーでの買出しなどではみなが整然と並んでお
り、割り込みを防ぐための整備スタッフが不必要なこと。

 公衆電話では、後ろで待っている大勢の人のことを考えて、みなが簡潔に伝言
を済ませ、少しでも早く次の人に順番を回そうとすること。立場を利用した配給
物資の横流しや、自分の知人にだけ多めに融通するような行為がなく、また被災
者による物資の奪い合いもないこと。

 そういった様々なエピソードがテレビ・新聞やネット上で紹介され、感動・賞
賛する人や、我々も見習わねばと反省を促す意見がたくさん出ています。人に迷
惑をかけないことを小さな頃から教え込む日本の教育システム、謙虚さや羞恥心
を重視する日本人の性質、個より衆の都合を優先する民族的文化など、色々な事
柄を持ち出して関連付けてみたり、分析してみたりして議論を戦わせています。

 今回の地震災害で、中国が少し変わった、と感じる点がありました。これまで
の中国なら、日本で起きた災難はよくて他人事であり、中には日本の不幸を喜ぶ
意見も少なくありませんでした。実は今回も、シャンパンで祝杯をあげようとネ
ットに書き込んだ人も少しはいました。でも、今までと違うのは、それを非難し
てたしなめる意見が殺到したことです。

 以前なら、「日本は嫌いだが、災害は気の毒に思う」といった意見が割と散見
されたのですが、今回は「日本は嫌いだが」という前置きをつける人が、ずいぶ
ん減っているのです。我々多くの在中日本人は、中国人の知人や中には見知らぬ
人から、気遣いや見舞いの言葉を貰っています。ネット上でも実生活において
も、ただ純粋に日本の災難を悲しみ、日本のために祈る、と言ってくれる人が圧
倒的に多いことに中国の変化を感じました。

              (中国・深セン在住・日本語教師)

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