『英国の子育て・教育?』 (4)

■【【北から南から】

英国・コッツウォルズ 英国の子育て・教育』(4)   小野 まり

    「びっくり仰天の英国初等教育」
───────────────────────────────────

  前回は、英国の公立小学校に英語を母語としない海外生が転校してきた場合の
対応についてご紹介しましたが、今号からは小学校の教育現場について、保護者
としてカルチャーショックを受けた数々をご紹介していきます。

 まず今でも忘れられないこと・・・というよりは、これこそが英国にあって日
本にない教育メソッドだと感心したことがあります。それは息子が英国の小学校
へ転校して間もなくの頃、担任の先生から「次のターム(学期)のテーマは第2
次世界大戦なのですが、お子さんを授業に参加させますか?それとも自習させま
すか?」と聞かれたのです。
  その場では、この質問が何を意味するのかまったく分からず、「自習などとん
でもない」と即座に思ったので「もちろん、授業に参加させます」と即答しまし
た。それにしても、歴史を本格的に学ぶ中学校ならいざ知らず、小学3年生(日
本ならば実質2年生)で、第2次世界大戦を授業で取り上げるということ自体、
大きな驚きでした。そして、始まった授業の内容を探ってみると・・・。

 まず図工の時間は、厚紙でガスマスク作り。理科社会の時間には、当時配給さ
れた食品類や量を再現。実際にそれらを使ってパン生地をこねたり、簡単な調理
体験。音楽の時間には、当時流行った軍歌を視聴。つまり、国語と算数を除くほ
ぼすべての教科を、過去の大戦をベースに学習していく・・・という授業だった
のです。その方法はその学期に限ったことではなく、例えば、その次の学期は1
5世紀の英国チューダー朝時代をベースに授業が進む、といった具合でした。

 そして、私に向けられた質問の真意は、「敗戦国日本の出身者として、子供を
授業に参加させますか?」という意味だったのです。実際、同じく敗戦国であっ
たドイツ出身の子供たちは、世界大戦がテーマの授業には、親の意思で参加しな
いことが多いそうです。

 戦争を初等教育の授業のテーマにすることの是非を論じるのは、また別の機会
に設けたいと思いますが、私が感心したことは、こうした授業を通じての子供の
習熟度の高さでした。

 英国の小学校には教科書というものが存在しません。ノートも学校から支給さ
れ、家に持ち帰るのは宿題があるときぐらい。鉛筆や消しゴムなども、クラスに
置いてあるものを皆で使うため、家から持っていくのは、本当にお弁当ぐらいで
す。大きな学校では給食がもちろんありますので、ほとんど手ぶらで登校するこ
とも珍しいことではありません。

 そういった状況ですので、保護者が我が子の習熟度を知るのは至難の業です。
決まった時間割もなければ、教科書もない、ノートは学校に置きっ放し、さらに
各学期ごとの通信簿などもありません。あるのは年に1度の「スクールレポート」
のみといった具合です。

 この「スクール・レポート」とは、担任の先生が教科ごとに各児童についての
感想を書いたようなもので、例えば、私自身が小学生だった頃(もう半世紀近く
前ですが・・・)にあった5段階評価などはなく、あくまでも先生の感想のみが
300ワードほどの短い文章でまとめられたものでした。しかも、どの教科も最
後の一文は「Well done!(よく頑張りました。)」といったお褒めの言葉で締め括
られているような内容で、これでは実際の習熟度などはかり知ることは出来ません。

 しかしながら、子供自身の授業への取組む態度を見たり、感想を聞いたりして
いると、どの単元も実に楽しく、ときには遊びやゲームのような感覚で取組んで
いることが見受けられました。これは、現地校へ転校してから1年も満たない頃
の印象ですので、言葉が100%理解できないなかで、これだけ興味を持って授
業を受けていること自体が、親としては奇跡のような出来事でした。

 そしてこの教育メソッドの良さが再確認できたのは、息子が中学、高校へと進
級し、高度な歴史の授業に触れたときであり、また歴史に限らず、人文学系の授
業の根本が、この小学校での学びを土台としているのだと、気が付いたときでし
た。

 初等教育において教科書がないということは、クラス担任の先生が、各単元ご
とに授業内容に添った資料を準備します。例えば、担任の先生がかつて日本を訪
問したり日本に興味を持っていたりすると、ある学期のテーマが「日本」だった
りします。先生自らが日本についてインターネットで調べたり、「日本協会」の
ような組織から日本関連の様々な教材を借りたり、日本人をゲストに呼んだりし
ながら、授業を進めていきます。

 それはそれで、児童にとっては毎回何が飛び出してくるかワクワクドキドキの
授業です。私自身、日英の文化交流のお手伝いをさせて頂いているので、時折こ
うした小学校へゲストとして招かれますが、その際に受ける子供たちからの質問
の数々には、舌を巻くような突っ込んだ質問も珍しくありません。

 こうした授業は、あるひとつのテーマを「広く浅く」学ぶのではなく、集中的
に深く学ぶため、興味を持った児童にとっては、非常に有益な学びとなります。
暗記などの詰め込み式の教育ではなく、まさに「知」を「育成」する「知育」の
場を感じることができます。

 しかしながら、こうした教育メソッドは、各担任の知識と力量の差がはっきり
と出てしまい、教育の場における不平等性など、また別の問題が多々あることも
事実です。また日本の全国模試にみられるような学力の向上についても、こうし
た授業だけでは補えません。次回はこうした問題を踏まえ、実際の教育現場の実
態をさらにご紹介していきたいと思います。

  (NPO法人ザ・ナショナル・トラストサポートセンター代表・英国事務局長)

                                                    目次へ