『interchange から transferへ』

■【北から南から】

   上海だより(1)             石井 行人
       『interchange から transferへ』
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 「アメリカ英語は、品がない」、「英国英語は、気品がある」こんなことば
を、上海の若者から聞いたことがある。その本人が、両方を聞き比べて下した結
論だろうか。恐らくそうではなかろう。私の学生時代にも、同じ意見が<常識と
して>流布していたものだ。つい、私の遠い学生時代を思い出してしまった。
 
  「本当は、英国人が好きです。中国人は」と、語ってくれた東京在住の中国人
留学生がいた。中国で、国内向け英語放送を目にすると、シンガポールや香港の
テレビを思わせるような構成であり、キャスターの発音は決してCNNのようで
はない。思えば、当たり前のことである。そうする歴史的な背景として香港やシ
ンガポールの経験がある。
 
  ここ上海で売られている外国映画の9割は、B,C級の米国版アクション映画の
コピーで、これはアジアの都市ではよく見られる、ありふれた風景だ。"『007シ
リーズ』を入手するか、奇跡的に,カズオ・イシグロ原作の『日の名残り』でも
見つけ出さない限り、気品あふれる英国英語に触れる機会は、皆無といっていい。
 
  今の若者が、『My Fair Lady』のような古典的な作品を見て、優雅な英国英語
に目覚めるとも思えない。英国英語は相対的に気高いとされ、美国英語は暗に貶
められて来た背景には、明らかに政治的な背景が感じられる。 昨年三月の全人
代の開幕時に、温家宝首相の記者会見が行われ、外国人記者のために 英語通訳
が行われ、張?(外務部翻訳室所属)という女性通訳者が個人的にもスポットを
浴びた。すばらしい通訳ぶりと美貌のため巷間で人気が高いそうだ。

 インターネットでたまたま目にした姿を見て感じたことは、発音が「米国的」
ではないということだった。さっそく調べてみると、中国外交学院→ロンドンの
大学院で外交学修士号取得→外務部翻訳室という経歴であった。たまたまの偶然
かも知れないが、ここでも英語は英国式を取り、米国式を捨てるという、明瞭な
選択を垣間見た気がした。考えすぎだろうか。

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 上海の地下鉄車両内の英語放送も、優雅な英国英語という中国のパラダイムに
従っている。「You can interchange to ~ / ~に乗り換えできます」というフ
レーズは、もちろん理解できるのだが、なんとなく気持ちが落ち着かない。「Yo
u can transfer to ~ / ~に乗り換えできます」と言わないと、しっくり来な
い。私が、悪しきアメリカ色に染まってしまったのだろうか?自分は英語研究者
でもないし、どうでもいいことなのだと、ずっと思っていた。
 
  昨年、上海万博も半分ぐらい終わったころ地下鉄に乗った時のことだ。そうし
たら、「You can transfer to ~」という車内放送があった。変更されたのだ!
念のため、もう一度耳を澄ましてみたが、確かに「transfer」と言う。その後、
中心部ばかりではなく新設の郊外線でも、「transfer」に変更されていった。

            ***** 3 *****

 アメリカ英語とイギリス英語に対する評価が示す含意を考えてみたが、次に、
視点を中国人留学生問題に変えてみよう。アメリカにおける大学院レベルの中国
人留学生数は、従来から非常に多い。学部を卒業してから大学院に進学する学生
は、基盤となる社会的な価値観を学部生のうちに形成し、国外に出て行く。学部
生時代に確立された思考は、ふつう容易には変化しないものだ。何もかもをゼロ
から学び、語学と格闘して卒業する学部生と比較すると、院生の社会接触は低い
し、相対的に文化的な葛藤も少ない。
 
  ニューヨーク・タイムスの報道によると、アメリカにおける中国人留学生の数
(学部生)が、2010年秋学期に、留学生総数の18%(690,923名)を占め、イン
ド人留学生数を追い越し、初めてトップに躍り出たという。高校を卒業したばか
りの学生の脳は柔軟だ。政治や歴史を含む教養科目までを履修し、4年間を英語
づけで学習するとなると、思考方法や知識の土台が、非人民中国的なものになら
ざるを得ない。これをもとの価値観に再修正するのは、容易なことではない。

 専門知識習得の大学院生から、学部生レベルへのシフトは、それゆえ、大きな
変化だと考えられる。主として、沿岸部大都市部の富裕層出身の「洗脳された」
学生たちは卒業後、故国中国に帰国することを、これまで以上に躊躇するのでは
なかろうか。政治体制の話は別としよう。従来の価値観の枠が国内で溶解し始
め、これまで否定・批判されて来た反極側へと、人々が流出しようとしているか
のように見える。少なくとも、ここ上海では、その傾向はとても顕著だ。
 
  カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)のある教授は、「UBCとは、
University of British Chinese ですよ」と、冗談を言っていた。世界中の大学
で増殖し続ける中国人留学生。そして、増加し続ける海外移民。
                                    
                               
   心連心:中日の若者が集う文化交流サイト
     http://www.chinacenter.jp/
   中国人留学生(高校生)のビデオクリップ
     http://www.chinacenter.jp/japanese/tv/sp5/
   心連心アニメ:しばわんこの和のこころ(かわいいよ)
        アニメで日本の文化を紹介
     http://www.chinacenter-c.cn/japanese/anime/Real Player
   で簡単にダウン ロードできます。
   客観日本
     http://www.keguan.jst.go.jp/

         (筆者は上海在住・企業研究所・研究員)

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