【宇治万葉版画美術館】

宇治 敏彦


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(6)故郷を懐かしんで歌う
 「年月もいまだ経(へ)なくに」で始まる万葉集第7巻1126の歌は作者不詳だが、故郷の明日香を偲んで詠まれた一首。「故郷を離れてまだそんなに経っていないのに明日香川の瀬にあった石橋はもう無いようだ」。一つ前の歌も明日香の甘南備の丘を懐かしく歌い上げており、同じ作者によるものとみられる。

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(7)天平時代に新羅に派遣された官僚の歌
 「外国への旅立ちの日が荒波に遭遇して大変だったことを都の人たちは知っているだろうか」。作者は壬生使主宇田太麿(みぶのおみうだまろ)という役人で、そう高い位ではなかったようだ。天平8年(736年)新羅へ1年間派遣された。その出発の日、対馬の港が荒波に見舞われ出港が大変だったのであろう。

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(8)旅人は大雪に難儀した
 「山道の先が分からない。白い樫の木の枝がたわむほどに大雪が降っているので」。万葉集第10巻2315の歌だが、柿本人麻呂歌集からの転載という説と三方沙弥(みかたのさみ)の作という両説がある。三方は出家した経験を持つ人物で、万葉集には七首の短歌を残している。

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(9)「春雨じゃあ、濡れていこう」
 万葉集に一番多く登場する植物は萩(142首)で、桜(46首)は12位。掲載歌は「山のほとりを輝かす桜花は、この春雨で散っていくのだろうか」と心配している。作者不詳。

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(10)「飛鳥(とぶとり)」は「明日香(あすか)」にかかる枕詞(まくらことば)
 この歌の作者は太上天皇(おおきすめらみこと)といわれるが、元明天皇あるいは持統天皇という説もある。藤原宮から寧楽宮(ならのみや。平城京)に遷都(710年)されたときに作られた歌で、作者は「飛ぶ鳥の明日香を後にしていったなら、あなたのいるところが見えなくなるのだろうか」と旧都の明日香を懐かしく思っている。

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