いつあってもおかしくない巨大火山爆発の危険

【コラム】海外論潮短評(92)
                               

いつあってもおかしくない巨大火山爆発の危険
―火山と気象変動―

                               初岡 昌一郎


 ロンドン発行の国際的週刊誌『エコノミスト』4月11日号が、常設解説欄「ブリーフィング」で200年前に発生したインドネシア東部スンバワ島タンボラ火山の大爆発を最新コンピュータ分析をもとに回顧し、現在もある潜在的巨大噴火の危険について警告している。世界で最も地震が多発してきた地帯に住んでいる日本人にとって、とても無関心ではいられないこの長文記事を要約して紹介する。

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タンボラ火山大爆発の200年周年を迎えて
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 スンバワ島のタンボラ山はかつてモンブランに比肩しうる山塊であった。しかし、1815年4月、壮大な爆発によってその頂上部が吹き飛んでしまった。4月11日と12日に、過去500年でもっとも大規模な火山噴火により40キロ以上の高さまでに岩石・火山灰を噴き上げた。火山灰の傘は100万平方キロにも広がった。その下は日中も夜の暗黒に覆われた。

 何百万トンもの塵、ガス、岩石、灰が降り注ぎ、大量の溶岩が山を下り海に流れこんだ。近海諸島沿岸は巨大津波に襲われ、500キロ以上離れた東部ジャワも2時間後に2メートル以上の高波に見舞われた。火山の恐ろしい地鳴りは2000キロ離れたところでも聞かれた。その後何年にもわたり近くを航行する船は島の周辺に漂う軽石を目撃した。この噴火とその被害による飢餓など直接的影響によるインドネシアにおける死者は6万-12万人に上ったと推定される。タンボラ噴火は記録に残っている史上最大の噴火であり、その被害は高波と火山灰に襲われた地域に止まらなかった。

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サルファ(硫黄分)を含む爆風が成層圏に達する時 ― 地球の冷却と乾燥
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 大噴火の翌年、ニュージランドでは夏でも屋外に干した洗濯物が凍り、ヨーロッパ・アルプスの氷河は大きく張り出した。中国の雲南地方などで数えきれない餓死者が出る一方、ヨーロッパではチフスが流行し、寒冷化によって穀物と食料が深刻に不足した。これらの深刻な惨事の原因が、遠く離れた島での火山爆発によるものとは当時誰も気づかなかった。

 その後に、より小規模な噴火も地球上に見るべき影響を及ぼしたが、同じような世界的規模で大被害をもたらした火山爆発はなかった。しかし将来、タンボラと同程度あるいはそれ以上のものが必ず来ると予想されている。

 タンボラ火口から噴出した岩石その他の粉塵は30立方キロメートルを超え、5000万トン以上の亜硫酸ガスを含んでいた。そのかなりの部分が粉塵と共に成層圏に達した。灰塵の大部分は間もなく降下したが、亜硫酸ガスは残留し、赤道周囲と南北両極に向けて拡散した。これにより太陽光が遮られ、地球の冷却化が始まった。

 1816年、前年より地球の気温は平均1度下がった。だが、影響がより軽微だった海洋よりも、地上はより深刻な影響を受けた。各大陸の気温は地球平均よりも2倍以上も低下した。低温は水分の蒸発を抑制し、雨量の減少による乾燥化が進んだ。こうした分析は当時行われたものではなく、記録や痕跡をもとにした、現在のコンピュータ分析によって解明されたものである。

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歴史のコースを左右した、噴火による気候変動
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 1991年のピナツボ火山の噴火は、タンボラ噴火と比較して溶岩と灰塵・岩石の噴出では6分の1、サルファの量は約3分の1であった。この噴火後1年間に地球の気温は1度下がり、雨量もかなり減少した。現在のコンピュータモデルはかなり正確に予測と影響の計算をできるようになっている。

 暑い内陸部と低温の海面間の温度差によって発生する季節風は、噴火がもたらす地表の寒冷化の影響を特に受けやすい。モンスーンが弱まると穀物が不作となる。また、新鮮な水の不足がコレラなどの疫病の流行の原因となる。これがタンボラやピナツボの歴史的教訓である。もちろん、これらの災害の原因を単一の火山噴火だけに求めることはできない。

 様々な形で変動する気象に、火山活動がどのように特別な影響を与えるかを見極めなければならない。1991年のピナツボ噴火はエルニーニョ現象と重なっていた。タンボラ噴火はオゾン層を破壊したとみられるが、当時は人間の経済活動によるオゾン層破壊がそれほど進んでおらず、相乗的影響は軽微であった。しかし、今後タンボラ級の噴火があれば、オゾン層破壊の相乗効果は計り知れないものがある。

 ジェーン・オースチンの小説『エマ』には、1814年の春の訪れが遅れ、リンゴの花が6月中旬にやっと咲いたと記されている。この寒冷化傾向はタンボラ噴火によって加速された。1815年のウォータールーにおけるナポレオンの敗北も気候変動に影響を受けていた。雲南での大飢饉は換金作物としてのアヘン栽培に拍車を掛け、清朝支配下の漢民族のこの地方への移住を促進する結果を生んだ。ヨーロッパの凶作が農産物の飛躍的な輸出拡大でアメリカ経済にブームをもたらしたが、ヨーロッパの農業が回復して穀物価格が下がると、アメリカのバブルは崩壊した。

 3年間続いた冷夏による大不況がヨーロッパの政治を一時的には権威主義的強権に向かわせ、その後の革命的変動期を準備した。長引いた悪天候は人々を屋内に長間閉じ込め、作家たちの暗いムードがフランケンシュタインや吸血鬼などの怪奇物語を生み出した。冷夏が大量の凍死者を出し、バーモントの農民を宗教的熱狂によって西に追いやらなければ、モルモン教の歴史は違ったものになっていたかもしれない。

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真剣に考慮すべき将来のリスク
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 大噴火が今後勃発したらどうなるか。一般的に言えば、人々は火山活動を日常的に心配してはいない。スイスの再保険会社が最近作成した、被害額が大きく、人身の犠牲が多かった、1070年以後の大自然災害40件のリストには火山噴火が含まれていない。保険会社を悩ましてきた深刻な自然災害は、台風、洪水、地震である。だが、大噴火がもたらす経済的被害のモデルを一部の保険会社は真剣に検討を始めている。

 先進国の市街地を直撃すれば、小規模な噴火でさえ大きな被害をもたらす。ポンペイを破壊したものよりはるかに小さい、1631年のベスビアス噴火程度でも200億€以上の損害を生む。不動産の損害のほとんどは火山灰などによる建物の破壊である。1707年の富士山噴火はタンボラの僅か2%の火山灰を噴出しただけだが、大きな被害を出している。今日同規模の噴火があれば、東京が近いだけに大惨事が予想される。

 現在、世界人口の8人のうち7人が、潜在的噴火地帯とその100キロ以内に居住している。この3月に仙台で開催された「災害リスの軽減に関する国連サミット」に提出された報告によれば、リスクに曝されている人々の95%は、僅か7ヵ国に集中している。そのうちの5ヵ国(インドネシア、フィリピン、日本、メキシコ、グゥアテマラ)は太平洋沿岸の「火山の環」に位置する諸国である。他の2ヵ国はイタリアとエチオピア。

 地震と違い、火山活動には前兆がみられるので警報を出しうる利点がある。ほとんどの活火山は注意深くモニターされており、衛星と地震計が予兆を感知しうる。しかし、メキシコのミチョアカン州で発生した、唐黍畑の突発的爆発噴火のような例外もある。警報が予防効果を上げた例としては、今世紀に入って最大の噴火だった、2010年のインドネシア・メラピ山の噴火が挙げられる。35万人が避難していたので、死者は数百人であった。警報が事前に出されていた、ピナツボ噴火の犠牲者も同様に少なかった。

 メラピのような比較的小規模な噴火と異なり、巨大噴火を予測することはさらに困難である。大規模爆発は、長期の休眠によって巨大なエネルギーを貯めこんだ休火山によって起きる確率が高いからである。予測の有無にかかわらず、タンボラ級の大噴火はグローバルな影響をもたらさずにはおかない。

 すべての自然災害の被害規模は以前よりもはるかに大きく増幅する。2011年の日本における地震と津波は被害地を越えてサプライ・チェーンとツーリズムに大影響を及ぼした。2003年のインド洋津波(スマトラ地震に起因する)は、本国における近年のいかなる災害よりも多くのスエーデン人犠牲者を出した。アイスランドの火山噴火もしばらくの間、欧州の航空便を広範囲にわたりストップさせた。

 大規模噴火は、数週間にわたって広大な航空可能空域を封鎖する。アイスランド噴火が17億ドルの損害を航空会社にもたらしたが、利用者の間接的な損害は計り知れないほど大きかった。損害は等しく及ぶものではないし、範囲の予測も不可能である。アイスランド火山の噴火で最も深刻な直接的打撃を蒙ったのは、生花輸出産業とその労働者であった。タンボラ級の爆発は南極上空のオゾンホールを拡大し、深刻な気候変動をもたらしうる。

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予測される寒冷化と平原の乾燥化
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 タンボラやピナツボのような赤道地帯での火山噴火は、過去の経験から見て、北米、欧州、アジアおよびアフリカにおいて次の夏の温度を平均2度ほど引き下げるだろう。特に、アフリカ南部、インド、東南アジア、中国の気温が急激に下がる。冬季の温度は成層圏で上がるが、地表では一般的に下がる。だが、アメリカの内陸平原、西欧、中央アジアでは温暖化がみられ、他方で東部カナダ、中近東、中国南部では寒冷化が進むと予測される。

 農業に与える影響は予測困難である。タンボラの経験からすると深刻なものであるが、世界全体が悪くなるわけではない。一部地域では、寒冷化が豊作をもたらす。ピナツボの経験では、噴火後の寒冷化はマイルドで、全体的に見ると世界の植物は活性化した。理由は多様であるが、温暖化の影響で相殺されたことによる。だが、寒冷化よりも乾燥化が事態を悪化させるだろう。そして、過去の経験から見て、地表の一部での乾燥化は、他の地方での洪水を発生させている。

 しかし、気象観測機関はおおむね楽観的な予測に立っている。農業人口はこの200年間に各地で急減しており、農民に与える直接的な経済的被害は相対的に低く見積もられている。だが、他方で都市化が進んでおり、都市住民の生活や経済活動全般に対する火山爆発による攪乱の危険性は十分視野に入れられていない。

 今日では国際機関や民間救援団体が災害対策を国際的に行う経験を積んでおり、かなりの規模の災害に対し国際的に救援を迅速に組織できる。また、政府間の国際援助協力も以前よりも進んでいる。しかし、タンボラ級の火山爆発に対処した経験はないし、歴史的に見ればそれよりもはるかに大きな火山爆発もあった。ニュージーランドのタウポ火山は1800年前に世界史的大噴火を記録しているが、26,500年前にはそれの10倍もの規模で大爆発を起こしている。こうした大爆発がいつ起きても不思議ではない。

 大爆発の可能性は確率的には少ないかもしれないが、それより小規模な噴火でもその影響が深刻なもとなりうる。地震と噴火の予知はまだ信頼性が低く、前兆を正確には感知できない。人間は自然に対して巨大な力を持ってきたが、火山噴火を防止するのは不可能である。

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■ コメント ■
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 地震と火山噴火は阻止できないが、その備えと対策は人間の力によって左右される。「国土強靭化」というような土建的なハード面の対策は莫大な費用がかかる割に、効果面で疑問視されている。しかも、巨大噴火が原子力発電所に与える可能性は、日本政府の防災計画に考慮されていない。

 防災対策の根幹として、緊急な水と食料の確保、保健衛生面の緊急対策、救急医療などを手配できるネットワーク作りが不可欠だ。ソフト面の対策を充実するためには、ナショナルなネットワークと並行して、地方自治体とコミュニティー・レベルでの自治的ネットワークの活性化が必要だ。

 緊急災害対策では自衛隊が立役者のように持て囃されているが、これには軍備拡大という下心が見え見えだ。地方的な公共サービスを提供している諸機関、特に、火事の少なくなった昨今ではもっぱら救命活動に従事している感のある消防と、自衛隊よりも地方密着度の高い警察に災害対策上特別の訓練と装備を与えるべきではなかろうか。その方が特定地域に配置された自衛隊に依存するよりも、はるかに効果的な初動対応ができるはずだ。国土強靭化よりも、社会強靭化こそ優先度が高い。国家や国土の安全保障に優先すべきは、人間の安全保障であろう。

 ガラパゴス度が高いと揶揄されている日本社会でも、外国人が定住者と一時滞在者を含めて次第に増加している。災害時には、一般市民よりもさらに弱者の立場に立つこれらの人々に特別な配慮が必要だ。「おもてなしの心」というような情緒的なレベル外国人訪問者対策が語られることが多いが、緊急医療一つをとってみても外国人は大きなハンディを日常的に負っている。

 ほとんどの日本の病院は外国人の緊急入院を受け入れる用意が無いし、受け入れる場合でも、現金での即時支払いを要求するそうだ。外国ではクレジットカード払いや、医師が保険請求書類をその場で作成してくれるが、日本ではそのような便宜の図れる病院と医者はほとんどない。観光客が急増しているのに、外国人の緊急救命対策はお粗末というよりも皆無に等しいのではないか。

 (筆者はソシアル・アジア研究会代表)


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