いよいよ雨期の到来

【北から南から】ミャンマー通信(15)

いよいよ雨期の到来

中嶋 滋

 35度を超す猛暑の日々が続いてぐったりしていたのですが、いよいよ雨期がやってきました。1日数回雨が降り、涼しい感じが一時的にしますが、雨が過ぎると暑さがぶり返します。湿気を含んでさらに暑く感ずることもあります。雨の降り方も尋常ではなく、大粒で叩きつけるような降り方をします。そんな降り方をする時は、道路は瞬く間に川に変身します。しばしば車が走れない程の水嵩になります。

 舗装道路が多い中心街はまだいいのですが、舗装がないところは深い泥濘が至る所に出来て、歩くことも困難な状態になります。ヤンゴン郊外の農村部でも幹線道路以外は、車での行き来は不可能になってしまいます。人々はロンジーをたくし上げまるで短パンをはいているかのような状態にして水や泥の中を歩き回ります。もう少し経つと水が広範囲に溜まって湖のような有り様になります。そうなると村の交通手段の主役は小舟になります。

 灌漑施設が整っていない地域では、雨期のはじめ、田んぼに水気が来る時期に直に種籾まきが行なわれます。労働力不足の所為だといわれますが、田植えを行なわずに直播きのところが多いのです。夫婦2人で2頭の牛を使い10エーカーの農地で雨期に稲作、乾期に豆を作っている農民は、農業技術の向上と機械化支援に期待を寄せていますが、この面でも日本に対する大きなものがあります。雨期が始まる直前に日本のNPOが現地の農民組合と提携して行なった「営農講習会」に多くの農民が参加し、農業技術とくに土壌改良や害虫対策などについて熱心な質疑応答、意見交換がなされました。この取り組みは連合の「愛のカンパ」からの支援を受けてのもので、今後も継続的に実施されるということです。

 農業を経済の中心に据えてバランスのとれた経済発展を目指すという政策が確実に続けられるよう、直接生産に携わる農民と共同の取り組みを進めようとしています。農業分野も含めて目先の利益追求に血道をあげる傾向が強い中で、こうした取り組みの意義は大きいと思います。

●「スマフォ」ユーザーは金持ちだけ?

 ヤンゴンでも街中でスマートフォンを使う若者の姿を多く見かけるようになりました。地元で高級品扱いされていない中国製のものでも、労働者の月収(月100時間近い超過労働手当を含む)をはるかに超える120,000チャット(120ドル強)はしますから、通信費を含めると労働者やその子どもが手に出来るものではありません。手にしている若者は、クローニー経済に連なる特権階層の家族か、自由化した経済の中でビジネスチャンスをつかみ成功した者たちの子であろうと思っていました。

 ところが、そういう見方は表面的で、ミャンマー社会の一面しか見ていないと指摘されました。指摘した同僚は、「スマフォ」を使っている街中の若者の風体をよく見ろ、彼らが全員金持ちの子弟と思えるかというのです。確かに観察すればごく普通の若者たちです。だとすれば、どのようにして手にしているのか、決して少なくない通信費をどのように工面しているのか、という疑問が当然に生じます。

 にわかには信じ難い話しですが、多くは不法不当な収入によっているというのです。悪しき社会現象なのですが、「くすね」「チョロマカシ」などが蔓延していて半ば公然と行なわれているといいます。バス料金、駐車料、橋などの通行料など多くが、小額紙幣を指の間に挟んで集金し「おつり」を出している人々によって扱われています。似たような料金の扱われ方は他にもたくさんあります。それを適正に管理するシステムはありません。ちょっとしたチャンスがあれば残念ながら多くの人が不正に手を染めているというのです。

 同僚は、よくないことだが、それは特権によって莫大な収入を得てきたエリート層を見てきた貧しい人々の「知恵」でもあるといいます。月に100時間近くの超過労働をしても100ドルを稼ぐのが難しい工場労働者よりもはるかに低い賃金で暮らさざるを得ない人々が膨大にいる社会に、「自由化」の進展によって様々な魅力的商品が次々と流れ込んできます。それに労働者・庶民の消費能力の向上が対応できていないのが問題です。不正を正当化するわけではありませんが、そのレベルは「カワイイもの」ということができます。安定した適正レベルの収入が確保できる社会状況が実現すれば、おのずと解消していく性質の問題だろうと思います。

 問題は、地位や立場を悪用した不正の蔓延です。役人の賄賂が典型です。路上販売などの営業認可をめぐっての腐敗は日常茶飯事のようです。最近聞いて驚いたのは、農業の作付けに関する規制があるか否かの質問に対する農民組合幹部の回答でした。答えは「ないと同然」というもので、「袖の下」でどうにもなるというのです。公務員の賃金の低さは、そうしたことで補われているのでしょうか。法治でなく人治である弊害の一つに、ツテ・コネが実際上大きな効果を発揮するということがあります。

 それには「口利き料」のようなお金の動きがつきまといます。「マージン」が当然のことのように要求され支払われます。法治国では犯罪になるケースも多々あります。こうした「恩恵」に浴することができるのは、エリート層であって労働者・庶民ではないのです。長い間続いた軍政の下で、高級軍人らの特権が有無をいわせず行使されてきた弊害ともいえますが、民主改革の先頭に立つべきエリート層が悪習から抜け出さず腐敗に浸ったままになっている姿に暗澹たる思いを抱かざるを得ません。

●健気に頑張る人々

 ミャンマーのタクシーにはメーターがありません。乗る前に行き先を告げ値段を交渉して決まってから乗り込むことになります。おおよその相場は決まっていて「ボラレル」ことは滅多にありませんが、中には日本人だと1.5倍ぐらい吹っかけてくる運転手もいます。ちょっとしたやり取りがあって、お互いに何となく気まずい思いをして乗り込む場合もありますが、日本円にすると50円から100円の違いをめぐってのやり取りの場合が多いのです。しかし相場を崩すわけにはいかないので、そこは頑張るわけです。

 ヤンゴンのタクシーの台数の多さには驚きます。正確な数は分かりませんが、走っている車を見る感覚からすると、3分の1を占めているように思えます。
 公共交通がなく私営の路線バス(バス車両を使っているものとトラックの荷台を改造ものの2種類)と「フェリー」と呼ばれる従業員などの送迎バス(これも2種類)が主な通勤手段となっていますが、タクシーの役割も大きなものです。

 このタクシー運転手には様々な「夢」をもち実現に向けて頑張っている人が多くいます。私がよく利用するタクシー運転手は、一日も早く車を自分のものにして商売をしようと思っている人です。彼の説明では、1日当り車のオーナーに10,000チャット、ガソリン代が15,000チャット、自分の手取りに15,000チャットで、計45,000チャット以上稼げば妹と2人でアパート借りて暮らしていけるので、それ以上稼いだ分は車の購入のために貯金しているということです。時々お世話になる運転手は、高校卒業資格を得て大学に行くために頑張っていて、助手席には教科書とおぼしき本が置いてあります。

 不正がはびこる中で、こうして頑張っている若者も多くいることに救われる気持ちになります。この若者たちの頑張りが報われる社会をつくる民主改革であって欲しいとの思いを強くしています。

 (筆者はヤンゴン駐在・ITUC代表)


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