その後の夕張と夕張現象の拡散

■【北から南から】北の大地から            南 忠男

その後の夕張と夕張現象の拡散


◇人口減~予測の2倍


  夕張市が財政再建団体になって(07年4月1日)から1年が経過しようとして
いる。道内は勿論全国のさまざまな団体・個人からの支援の輪が広まっている
なか、残念ながら当初の想定の2倍近い人口減が続いている。
  去る12月20日の定例市議会で市長から人口減の現状ついて、若年・中年層
(15歳~59歳)が471人、各層併せての総人口では700人近い人口減となったこ
とが報告されている。

  再建計画の人口推計では、07年当初の12,300人が計画最終年の2025年(18年
後)には約7,300人に減少するとされているが、この計画の2倍を超える人口
流出が始まっている。そもそも、再建計画の人口推計自体が根拠不明で、計画
を作るための適当な数字合わせ、つじつま合わせの架空の数字に過ぎない。

  財政再建団体になれば住民が「全国最高の住民負担」と「全国最低のサービ
ス」に甘んじなければならないことになっている。住民にはなんの責任も無い
のに、住民が負担を負わなければならない理由はない。夕張から脱出できる人
は脱出するのが最善の道かもしれない。しかし、脱出できない人が大勢いる。

  北海道の冬は厳しい。夢がなければとても住めるところではない。ガソリン
・灯油の値上げはこれに追い討ちをかけている。「冬来たりなば春遠からじ」
と云われるが、春の到来を展望できなければ、冬を忍ぶ気力は生まれてこな
い。
  人口減で地域は崩壊し、税収・地方交付金の減少で再建計画自身を見直さな
ければならないところに追い込まれている。


◇夕張市職員~給与の3割カットとサービス残業


  06年4月に220人在席した夕張の市職員は昨年の年度末には大量の退職があり、
今年度に入っても引き続いての退職により在席職員は90人になることが確実に
なった。明年(08年)度の88人(計画)を先取りしている。夕張市の職員はこ
のような予想を上回る人員減に対応するため過酷なサービス残業が続き、予算
の補正で若干の残業手当が計上されたが、この残業手当の中味は、「給与の
2.5%以内」という制約があって、サービス残業は依然続いている。新年度には
10人程度の新規採用が(総務省に)認められるというが問題はいろいろ残る。
まず、このような給与水準で夕張の自治体を支える人材が集まるか疑問であ
る。

  いま、夕張市には道職員も数人派遣されているし、総務省も1名を派遣してい
る。東京都が複数の職員を近く派遣することになっている。道職員は幹部職員
なので、雑巾がけからできる一般職の職員に替えてもらうよう夕張市は道に要
請している。総務省や東京都から派遣された職員が果たして夕張の現場で役に
立つのか、人間関係も旨くいくのか疑問である。総務省や道の派遣職員は、よ
く言えば連絡要因、悪く言えば監督要員に過ぎないと思う。東京都と夕張市で
は給与その他の条件に天と地ほどの開きがある。一方は全国一の高級与・夕張
は全国最低の給与である。この両者が机を並べて果たして人間関係がうまくい
くだろうか疑問である。


◇ 夕張現象の拡散


  地方公務員の給与水準比較に「ラスパイレス指数」というものが使われてい
る。これは、一口に説明すると、国家公務員の給与を100にして個々の地方自
治体の職員の給与水準を比較するという仕組みであり、「自治体職員の待遇は
国家公務員より上であってはならない」と云う理不尽な理屈である。ひとこ
ろ、どの自治体も給与・待遇を良くしなければ人材が集まらないという状況に
あったので、全国的に見ても各自治体は高い級与で職員を採用していた。従っ
て自治体職員のラスパイレス指数が100を超す自治体は沢山あったが、旧自治
省(現総務省)はペナルテイ(地方交付税交付金を減額する)をかけて自治体
職員の給与を抑制してきた。

  去る12月26日総務省は自治体職員の07年4月1日現在の給与実態(ラスパイレ
ス指数)を発表したが、夕張市が全国最低の68.0であり、ワースト10には、上
砂川町74.9、歌志内市75.9。いずれも旧産炭地で夕張市と同じ財政状況~この
ような状況は「夕張現象の拡散」~である。ちなみに、道内全体を見渡すと都
道府県職員では、北海道が90.5で2年連続の全国最低。政令市では札幌市が
99.5で全国5番目の低さ。中核市旭川市が97.0で全国最低。同じ中核市函館市
が97.2で3番目の低さである。この広い北海道にところ狭しと夕張現象が拡散
している。


◇ 自治体職員の給与カット先にありき


  どの自治体も行政改革の名のもとに、人件費の削減を先行させているが、
道職員も一昨年、二年間の時限を条件に職員の給与の10%カットを行った。そ
の結果、先に見たように、ラスパイレス指数が90.5で都道府県職員中最低の水
準になっている。新年度は復元する約束になっていたが、道の財政難を理由
に、今度は9%の一律カットを提案して来た。
  どの自治体も「職員の給与カット先にありき」である。夕張市と同じ旧産
炭地の赤平市も、昨年職員給与の15%削減を行ったが、さらなる収支の改善が
必要なため、新たに15%の削減を追加し、夕張市と同じ30%の削減を行おうと
している。
  不況の嵐で地場企業の賃金が大幅にダウンしている状況下では、自治体職
員の抵抗にも限界があり、ここにも夕張現象の拡散が見られる。


◇夕張市に対するさまざまな応援


  冒頭に述べたように夕張には全国の団体・個人から多くの励ましと物的支
援が寄せられている。最近の例でも、札幌市が職員の研修用に配置していた高
規格救急車を夕張市に貸与という形で提供したり、旭川市の自動車整備業者が
夕張市の救急車・消防車の全車両の整備を無償で行い、積雪と厳冬のなかで安
全な救急・消防活動が出来る体制をつくるのに協力している。

  財政破綻による補助金カットで、市老人福祉会館の運営や老人クラブへの助
成が危うくなっているし、市の養護老人ホームはすでに廃止されている。閉鎖
された施設も再開に望みを託し、とりあえずは積雪のため倒壊するのを防がな
ければならない。昨年に引き続き今年も「除雪応援ツアー」が組まれ、夕張市
の閉鎖施設を含めた公共施設の屋根雪の除雪が実施された。

  「ゆうばり国際フアンタステイック映画祭」準備委員会が市民有志の手で立
ち上げられ、「ゆうばり國際フアンタステイック映画祭2008」が3月19~23日
に開催されることになった。広告料その他で、全経費を企業の応援で賄うこと
になっている。


◇ 超高齢化の現実


  夕張市は市の人口の42%が65歳以上の高齢者であり、日本の高齢化率
(65歳以上の割合)は、2055年に4割を超すと云われているが、夕張市は約半
世紀前に超高齢化社会を先取りしている。しかもその内の3割が独居だといわ
れ、高齢者の独居死は年間15~6件あり、中には心臓発作で死亡し、3日後に発
見したという例も少なくない。「独居世帯への掛け声運動」を提案して地域お
こしを実践しているボランテア団体もあるが、若者は言うに及ばず中年層まで
が市外へ流失し高齢者しか残っていない地域は高齢者自身が独居高齢者宅を訪
問して安否の確認を行う「高齢者による・高齢者のための自治組織」が必要に
なってくるが、市の老人福祉会館の運営や老人クラブへの助成も打ち切られ、
高齢者の集会所までが閉鎖されるような状況では、独居世帯への掛け声運動も
組織できない。

  夕張は炭鉱住宅時代から地域ごとに共同浴場があって、炭鉱の閉山後も、
公共住宅には浴室が設備されていなかったため、風呂なし住宅が多い。この公
衆浴場も人口減で数箇所に集約され、営業日も間引きされていて、毎日の入浴
も容易でない状況にある。


◇ 鉛筆一本・消しゴム一個買うにも総務省の承認が必要


  財政再建団体になると再建計画自体が国(総務省)の承認を要するが、毎年
度の予算も再建計画の枠に縛られ、鉛筆一本、消しゴム一個も国の承認がなけ
れば予算の補正が出来ない仕組みになっている。
  夕張市は当初予算の補正のため4回にわたり国(総務省)の承認を求めてきた。
  第一は庁舎の修理。
  第二は市長の旅費。
  第三は職員の残業手当。
  四度目は職員の新規の採用と老人の集会所の再開の問題である。
  最後の問題は未だ保留になっているが、いずれも、夕張にすれば死活の問題
である。しかし、事柄の性質は「鉛筆一本・消しゴム一個」の類である。財政
再建団体がここまで国の制約を受けるのであれば、国の直接の管理下に置かれ
たに等しい。


◇ 地方自治が問われるとき


  去る1月31日の参議院予算委員会で、野党委員から「財政再建計画実施によ
る行政サービス低下を余儀なくされている夕張市に対しての支援策」を求めた
のに対し、増田寛也総務大臣は「地方自治の根幹は自主自立だ。借金を背負っ
た自治体が他の自治体と同じ形で扱われることで、国民の理解を得られるの
か」と否定的な姿勢を示した。と北海道新聞(2月1日朝刊)が報じている。

  しかし、この答弁はあまりにも乱暴ではないだろうか?国の旧産炭地に対
する支援策も無策であり、ハコモノを中心にした公共事業のばら撒きによる地
元負担の重積が地方自治体の財政悪化を招いていることなど国の責任がなんら
認識されていない。とりわけ、小泉内閣が「三位一体」改革と称して、地方交
付税を削減してきたことにより、都市と地方の格差は拡大され、地方の自立が
阻害されている。国の行財政政策が地方の疲弊を招いている、この根源の問題
を改めないで、地方の自立を強調しても説得力はない。

  各自治体ともいま、新年度予算の編成にあたっているが、どの自治体も、借
金の利息と返済金の重圧の中で、税収・地方交付金の減により予算の大幅縮小
を余儀なくされている。そして住民サービスと人件費の削減でこれを乗り切ろ
うとしている。住民の直接選挙で選ばれた首長が、選挙公約で住民に約束した
政策を予算に計上できない状況である。「三割自治」と云われて久しいけれ
ど、「三割」は限りなく「ゼロ」に近づき、自治は消滅しようとしている。
                                 (筆者は旭川市在住)

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