【沖縄の地鳴り】

どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない

毛利 孝雄


辺野古埋立土砂搬出反対全国連絡協議会・沖縄学習交流集会レポート
 (沖縄大学地域研究所特別研究員/反辺野古土砂搬出・首都圏グループ)

 辺野古新基地は総面積205ヘクタールのうち8割160ヘクタールが埋立地となり、その高さは地上10メートルに及ぶ。埋立必要土砂2,100万立方メートルは東京ドーム17個分、10トンダンプにすると274万台分に相当する。約8割にあたる1,644立方メートルを香川県小豆島、福岡県門司、山口県防府・周南、長崎県五島、熊本県天草、鹿児島県佐多岬・奄美大島・徳之島の採石場から、残りを沖縄県内(本部・国頭)から調達する予定だ。
 「辺野古埋立土砂搬出反対全国連絡協議会」は、昨年5月、関係する全国の7団体で結成された。この1年、沖縄と西日本の土砂搬出地、さらには三重県津で建造される埋立用ケーソンに反対する運動など12県18団体がつながり、去る4月17日〜20日には初めて沖縄現地での学習交流集会・フィールドワークが実現した。メインとなった18日、名護市内で開催された集会には、「本土」からの28名を含む300名の市民らが参加した。

(写真1)辺野古埋立土砂採取地(『沖縄タイムス』2016/04/19)
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◆辺野古土砂採取をめぐる問題点−3名の講師の基調講演から

 18日の集会では、メイン講演として(1)向井宏さん(海の生き物を守る会代表・北海道大学名誉教授)(2)湯浅一郎さん(ピースデポ・環瀬戸内海会議副代表)(3)北上田毅さん(沖縄平和市民連絡会・現地抗議船船長)の3名が報告に立った。

 向井さんは、戦後沖縄本島では埋立事業によって自然海岸が消滅していくなかで、辺野古・大浦湾を守る意義を強調し、奄美での調査の経験から、採石は山の自然を破壊するだけでなく、貯蔵場所からの土砂流出で海洋汚染をもたらし、サンゴを死滅に追い込んでいる実態を報告。辺野古に送る、送らないに限らず、採石自体が公害の源であり自然破壊であることを強調、土砂を搬出させないことが故郷の自然を守ることにつながるとした。
 湯浅さんは、瀬戸内海での海砂採取反対運動の経験から、海砂採取は海底からの強引な吸収により海底地形の変化を生み、洗浄作業による泥水が透明度を下げることを指摘。瀬戸内海では、海砂採取でイカナゴが減少し、イカナゴを餌にするタイやサワラ、スナメリクジラが減少するなど、食物連鎖に影響を与えたと報告。辺野古では海砂採取と埋立が相乗的効果を生み、ジュゴンやサンゴの生態系にとどめを刺す可能性を警鐘した。
 北上田さんは、米軍基地内の土壌汚染が問題にされるなかで、キャンプシュワブ内の土砂が埋立に使用される危険性、県外土砂に紛れ込む特定外来生物対策などが事業者任せになっている点等を指摘、県の土砂条例に罰則規定を設けること、土砂を点検する期間を90日から大幅に延長するなど改正の必要を提起した。今後、土砂採取場所や採取量の変更は不可避で、その都度県知事承認が必要になる。沖縄と全国が連携すれば埋立は阻止できると強調した。

(写真2)300名が参加した学習交流集会(20160418名護市内
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◆土砂採取側にも広がる環境・生活破壊
 集会は、続いて土砂採取とケーソン建造の各地から9名の発言を受けた。
 鹿児島・奄美/自然と文化を守る奄美会議、香川・小豆島/環瀬戸内海会議、福岡・門司/「辺野古埋立土砂搬出反対」北九州連絡会、熊本・天草/辺野古土砂搬出反対熊本県連絡会、長崎・五島/五島列島自然と文化の会、山口・周南防府/辺野古に土砂を送らせない!山口のこえ、鹿児島・佐多岬/南大隅を愛する会、三重・津/辺野古のケーソンをつくらせない三重県民の会、沖縄/本部町島ぐるみ会議−各地からの報告は、この集会に合わせて発行された後掲のパンフレット『どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない』に詳しい。これまでほとんど報道のなかった土砂採取側の現状が、カラー写真を多用してわかりやすく解説されている。ぜひ広めてほしい冊子だ。
 以下は、報告から印象に残った点、学ばされた点についての私的メモ。

 第1に、私自身の反省から。“全国各地からの土砂搬出ができなければ辺野古新基地はできない”−問題の焦点をこのように考えてきたが、埋立側と同等の環境破壊が採取側にも生じるのだ、あらためてこの事実を突きつけられた。
 第2は、関係する各地で環境問題に関わって長年の継続した取り組みがあったことである。それが辺野古土砂搬出をめぐって各地の連携を可能にした条件だろう。
 第3は、多くの搬出地が過疎地・離島のかかえる問題のなかで呻吟している事実である。1,300億円といわれる土砂採取・運搬費は、“二束三文の土砂が金になる”という辺野古バブルを生み、長年築いてきて地域の生業をも破壊しようとしている。
 第4は、佐多岬・五島・奄美の採取地につきまとう、核廃棄物最終処分場計画である。掘ったあとを核廃棄物で埋め返す。辺野古新基地は、原発をめぐる闇の部分とも深く結んでいるのかもしれない。

◆少数者運動の連携が時代の精神をつくる

 この「全国交流集会」が開かれていた同日同時刻、辺野古ゲート前ではCTS闘争の中心を担った崎原盛秀さんを講師に「第II期・辺野古総合大学」が開かれていた。
 「復帰」を挟む沖縄の70年代、ガルフ社や三菱開発のCTS(石油備蓄基地)建設が相次ぐ中、金武湾埋立に反対する市民らは「金武湾を守る会」を結成、食料のない終戦直後に海の恵みに生かされた経験から「海はひとの母である」と訴えた。CTS闘争は、「復帰」とともに押し寄せた開発の波に抗う沖縄各地の住民運動を、「琉球弧の住民運動」としてつなぐことで、沖縄の環境問題に共通の認識をつくり出していった。それは今日の辺野古問題につながっている。現状に抗う運動は常に少数者の運動から始まる。その連携がやがて時代の精神をつくり出していくのだ。
「全国交流集会」に参加した300人、そして「辺野古総合大学」に参加した300人。沖縄北部の一地方都市に、過去と現在から学ぶために600人の市民らが駆けつけていた。そこに、未来への希望を見たい。

(写真3)辺野古ゲート前に座り込む(2016/04/18)
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◆政府、自治体、企業へ要求を対置しよう

 最後に、今後の活動の課題として思うことを2点。
 ひとつは、「山口のこえ」からの提起。山口県は県内に繁殖する特定外来生物アルゼンチンアリ防止のため、県外自治体と広域協議会をつくっている。沖縄県が県外土砂搬入規制条例を制定したように、搬出自治体からも県外への土砂搬出を規制する声を上げるべきではないか。
 もうひとつは、現在取り組まれている「土砂搬出反対」「ケーソンつくるな」の署名活動を継続し、対政府・対関係企業との交渉を強めることだ。政府はもとより、私企業の経済活動であっても、環境破壊や沖縄の自治権破壊、戦争に連なる基地建設への荷担は許されない。
 これらは「本土」側民衆運動が担うべき課題である。

(付記)
*4月18日の集会と前後して、佐喜真美術館、普天間・嘉手納など中部米軍基地、高江、伊江島、二見以北および大浦湾などへのフィールドワークが、沖縄現地の皆さんの協力を得て精力的に取り組まれた。
*4月18日の集会報告については、19日付『沖縄タイムス』『琉球新報』の関連記事を参考にした。

<パンフレット紹介>
『どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない』
 —全国の土砂搬出地と沖縄・辺野古がつながって—
 発行:辺野古埋立土砂搬出反対全国連絡協議会
 カンパとして 1冊500円
 申込みは 首都圏グループ/毛利 080-1054-0409・若槻 080-8725-8360

(写真4)全国協パンフ『どの故郷にも戦争に使う土砂は一粒もない』
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