アテネから北京へ

■アテネから北京へ (オルタ編集部座談会)

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司会 オルタも7号になり、読者から問題に真面目に取り組む姿勢は よろしいというような反響も戴いて編集部も元気がでているのです が、今月は少し角度を変え、先日終わった「アテネオリンピック」 と次の「北京オリンピック」の課題について話し合って見たいと思 います。   まず、A君から自分の感じた「アテネオリンピック」を話し てください。

A  僕は日ごろ、あまりスポーツ観戦に趣味が無いほうなのだが、 今度ばかりは日本が金メダルをとったからというのでなく、まず、 力の限りを尽くして闘い抜く柔道、特に重量級の選手の活躍に、ス ポーツのもつ「美」・さわやかさを素直に感じて引き込まれ、他の 種目も結構見ました。

B  たしかに、何年もの間、時間のすべてを集中して金メダルに 挑戦する個々のアスリ-トたちの姿からは、感動するものがある。 だけど、どこの国でもそうらしいのだが、日本が金を何個だ、メダ ルの総数は東京オリンピック以来だとか大騒ぎするのには僕はいさ さか懐疑的なんだ。 ついでに言うと参加国が202カ国、参加選手15000人、警備費用だ けで10億ユーロ(1300億円)五輪関連総費用は100億ユーロ(1兆 3000億円)を越すといわれ、オリンピックは肥大化しすぎて問題が 大いにあると感じたね。これからは膨大なインフラ投資に耐えられ るのは豊かな一握りの国の都市に限られる。簡素化をはからないと 五大陸に根を下ろした本来のオリンピックは死んでしまうのではな いかと思う。

C  国別のメダル獲得競争といえば、冷戦時代にアメリカとソ連 は自己の体制の優越性を  メダルの数で示そうとしたし、東西ドイツの競り合いも大変だった のを思い出すね。  今から考えれば、何の意味をもたない体制誇示だったんだが、金 メダルの記録を見ると、イスラエル選手7人が殺された1972年のミ ユンヘン大会ではアメリカ33ソ連50、西ドイツ13東ドイツ20、冷戦 時代最後のオリンピックとなったソウル大会でもソ連55、東ドイツ 37、アメリカ36でアメリカは3位だった。 その頃、国家の資金で養成される社会主義国の「ステートアマ チュアー」はアンフエアーだという議論が西側諸国から盛んに出さ れていた。ところが、今ではどの国も大きな報奨金を出し、企業も 資金を提供し、なかには生涯の生活を保障したりして当時の社会主 義国顔まけだ。まさに資本主義の「スポーツの祭典」になった。 「平和の祭典」のほうはどうかといえば、アメリカが会期中の停 戦呼びかけを拒否してフアルージヤ攻撃を止めなかったし、テロの 脅威に空前の厳戒下での大会となり、「平和の祭典」には、ほど遠 かった。

D  選手の報奨金アップ、は、世界中の国でやっているのだが110m 障害で金メダルをとった中国のリュウシアン選手の例を見ると270 万元(約3510万円)で国と地方政府が100万元、あとはオートバイ メーカーが出したのが典型的だ。もっとも中国は社会主義国か資本 主義国か疑問があるけれど。

D  日本の場合、金は300万円でその他競技団体から別に出る。こ んど日本の成績が良かったのは個人の報償金というより、政府から の強化資金20億円を勝てそうな競技に重点配分したからだという説 がある。これに気をよくした政府は次には25億円に増やすらしい。 B  僕は各団体に政府の資金が出ているのだからメダル争いに納税 者の視点を加えよという考えなのだ。

C  本来、オリンピックはその憲章で「個人・団体競技の選手間に よる行事であり、国家間によるものではない」とうたわれている。 「国家対抗競技会」ではないのが理想なのだが現実は自国選手の応 援に血眼上げるところに魅力がある。  たとえばイラクサッカーチームはスンニ派・シーア派・クルド人 が一緒になったチームだけどイラク国民の熱狂的興奮はすざまし かった。あれを見ただけでも国別のメダル争いはいただけないなど というのは理想論だね。

A  理想と現実のギヤップは、それとしても、国と国の闘いとして ではなく、国や民族・人種などを超えて、頂点を競うアスリ-トた ちの技を楽しみたいものだね。色々と肌の色が違う人間が同じフ ィールドで競い合う姿は美しいよ。 そういう点で僕の印象に残った競技はでロシアの選手が世界記録 をつくった女子棒高跳びだった。

B  日本の金メダリストたちの活躍を別にして、僕の印象に残った のはイラクのサッカーチームが困難な条件下で随分頑張ったのと最 後の男子マラソンで妨害にあったブラジルのデリマ選手がゴールの あとで示した態度、体操競技で採点をめぐる観客のブーイングを静 め、競技を進行させた選手などは立派だった。それこそ、スポーツ マンシップここにありでさわやかさを感じた。 司会 あまり良い印象を残さなかったのは。

B  女子レスリングで金をとれず銅になった日本の選手の態度は 感じが悪かった。それに同じ女子レスリングでの日の丸鉢巻の応援 団のマナーもよくなかった。  それから「長島ジヤパン」「長島ジヤパン」とTVが連呼し、ベン チに3が入った日の丸を掲げるスタイルは日本プロ野球の古い体質 そのものを映していたようで良い感じをもたなかった。

D  なんといってもドービング問題は後味が良くない。これも選手 個人の報償に絡むものだろうが、この大会での違反は過去最多の24 件で金3を含め7個のメダルが取り上げられている。  新聞によれば、つぎはDNA(遺伝子)操作でやれば発見はより難し くなるというからやっかいだね。北京への大きな課題になる。

B  これは悪印象とは違うのだが、日本のメデイアが実力以上に前 景気を煽りすぎて、期待感と結果にギャップが出来ちゃったのが野 球・男子サッカー・女子バレーだった。  一般国民はメデイアを通してしかオリンピックに参加できないわ けだが、この問題に限らず日本のスポーツジヤーナリズムに相当問 題があるように強く感じたね。

C  報道の姿勢では、やたらに女子アナや女優を動員して騒ぐ民放 のスタイルはいただけなかった。

D  絶叫調の「がんばれ日本!」も繰り返されると食傷気味だ。 日本選手が出ない競技でも普段は見られない色々なスポーツについ ての知識も欲しいし、世界のトップについての情報も貰いたい。  あらかじめ用意されたお定まりのような金メダリストについての 感動物語だけでは物足りない。特にTVの場合、大衆迎合的という か、スポーツ報道というよりスポーツをエンターテイメント化=娯 楽化してしまっている。

C  その一つだが、やたらに女子アナや女優を動員して騒ぐ民放 のスタイルはいただけなかった。

D  ともかく、「勝った」。「負けた」。「がんばった」「感動 の涙」調だけの報道スタイルからもう少しスポーツそのものの本質 を伝えてもらいたい。 新聞では選手同士がゲームを終わったあとお互いをたたえたり、 ライバルの競技内容を賞賛したなどの記事が少しあったが、オリン ピックは勝ち負けだけでない姿をもっと多くしたい。

B  反対にTVのおかげで、マスコミの前評判は高くなかったのに 確りとしたプレー振りを見せてくれたのが女子サッカーだ。もっと Jリーグと組めば盛んになる予感がした。

A  意外というか本質的なものが見えたというか、世界最強のプ ロバスケットリーグ(NBA)の選手中心のアメリカチームが敗れて 3位だったこと。野球で日本を2度破っただけでなく、金メタルや メタル総数でも米・中・ロにつぐ4位と強かった豪州の活躍に注目 した。とくに人口が多くないのに地域に根ざしたスポーツクラブを 発達させた結果として成果を上げている豪州に学ぶものは多いと思 う。

C  スポーツもそうだけれど「国」として関心を深めたのは開催 国のギリシヤだ。古代ギリシヤについての知識はともかくとして現 代ギリシヤ国民のいろいろな側面を知ることが出来た。 司会 ギリシヤといえばいよいよアテネから北京にバトンは渡され たのだが、大きな課題があるとすればなんだろうか。

B  施設などハードは問題ないだろうがソフトには課題があると思う。

D  重慶でのサッカー試合ブーイング問題で日本の一部マスコミは 中国国民はスポーツと政治をごちゃごちゃにする遅れた国民だ、北 京大会を開催する資格はないなどという石原慎太郎流の極論を煽っ ているがとんでもないよ。たしかに、あのブーイングや公使の車を 壊すなど良くない。しかし、これは中国政府の反日教育のせいだと いう殆どのマスコミの論調には反対だ。それをいうなら周辺諸国が 不快感を示しているのに、総理大臣は意固地になって靖国参拝を繰 り返すし、中国と歴史教育問題を共同で協議研究しようともしない 姿勢に問題もあるのだ。

B  この際、中国国民の反日意識が予想以上に高いということは 認識すべきだ。けれど、同時にサッカー観戦にはヨーロッパでも フーリガン騒ぎがつきもののような側面もあるんだね。この失礼な ブーイングを認めることはできないが、もし、逆に、スターリン時 代の党大会のように整然とした長い拍手が誰かの合図でピタリと静 かになる風景が今の中国「社会主義」体制で見られたとしたら、そ のほうが日本にとって気持ち悪いねと思うね。

B  いまの日韓サッカーは良きライバルとして熱烈な雰囲気で盛り 上がっているけれどワールドカップ共催以前はソウルなどで日本選 手に相当厳しいことがあったらしい。

A  僕は北京大会までに世界が『憎しみのナショナリズム』を乗り 越えて、スポーツをスポーツとして楽しむ本来のオリンピックにな んとか近づいて欲しいと思う。

D  しかし、中国政府は国威発揚型大会としての最大のものを目 指すのではないか。

C  まさか、アリアン人種の代わりに漢民族を持ち出してヒット ラーのベルリン大会型の再現を狙うなどはアナクロニズムで考えら れないよ。

B  オリンピックの歴史を見たとき、開催都市の選定から始まって 政治と密接に関わってきたことは明らかなのだが、次の北京大会は いままでにもなく大きな政治的意義を持つと思う。中国政府自体が 国力=中華民族発展のシンボルとして北京大会を位置づけ活用しよ うとする姿勢を隠していない。

A  それは東京でもソウルでも狙いは同じだったと思うが今度は世 界の超大国ネライで少しスケールが大きいのではないか。なにしろ 13億の人口と今の経済発展の勢いをバックにしてのオリンピックは 鼻息が荒い。

C  北京大会がベルリン大会に、そして『憎しみのナショナリズム』 で不愉快なブーイング大会にならないためにも必要なことは「東ア ジア連帯」を強めていくのが一番大切だ。政治的連帯には日本がイ ニシアチーブをとって進めるのは難しい問題も多いが、スポーツで サッカー(これは始まっている)・野球・柔道・水泳・陸上などあ らゆる競技で東アジアのリーグ戦なり、対抗戦なりを組織すること は可能性がある。  かってのピンポン外交を思い起こすまでもなく、日韓サッカーの 現状を見ればスポーツが国際連帯を形成していく舞台として有効な のは明らかだ。

D  北京大会を4年後に控え、世界への手前もあって中国政府も 「ブーイング」を抑制しようとしたのは事実だが、民衆のウネリを 権力だけでは抑えきれなかった現実もある。この現実を日本・中国 の両政府が前向きにとらえて北京大会に臨んで貰いたいと思う。  まず、日本政府は歴史問題に正面から取り組んで東アジア連帯の 舞台づくりに汗をかくこと、中国政府は高度成長一辺倒から環境重 視・国内格差是正などバランスの取れた政策重視に軸足を移し、仮 にも政策への不満をスポーツ大会で発散せざるをえないような状況 をつくらないことだと思う。

A  そうだね。4年後の北京大会に向かって日本も中国も変わり、 進化して大会を成功させたい。東アジアの経済発展が目覚しいよう にスポーツでも世界のトップは東アジアでありたいし、そのなかで 日本も強くなりたいものだ。