アフガニスタンにおける戦争に勝つ方法~

■ 海外論潮短評(27)        初岡 昌一郎

~タリバンの立場を転換させるために 

アフガニスタンにおける戦争に勝つ方法~             
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  アメリカで大きな影響力を持つ国際問題評議会が発行し、時の政権の政策を左
右する影響を与えることも珍しくない国際問題専門誌『フォーリン・アフェアー
ズ』7/8月号は、「アフガニスタンを救うために」という特集を表紙のトップ見出
しに掲げている。その中心をなす論文が、「タリバンの立場を転換させるために
  ― アフガニスタンにおける戦争に勝つ方法」である。筆者たちは、戦闘によ
って勝利する道に見切りをつけ、タリバンとの交渉による平和的政治的解決の必
要性と可能性を強調している。

 この論文は二人の若手専門家によるものである。共著者の一人、フォティーニ
・クリスティアはマサチューセッツ工科大学(MIT)準教授、もう一人のマイ
ケル・センプルはアフガニスタンとパキスタンの地域専門家で、タリバンと多く
のインフォーマルな対話を重ねてきている。


●タリバンの立場を転換させるために
  -アフガニスタンにおける戦争に勝つ方法


  ブッシュ政権による7年間にわたるアフガニスタンに対する軽視と誤った対策
の後に、オバマ大統領は就任早々21,000人のアメリカ兵の増派を命令した。司令
官の交代も戦争努力強化の意図に沿ったものである。アメリカの同盟国もこの範
に続くように期待されている。戦闘部隊を派遣できないまでも、少なくとも資金
と訓練を提供することによって。

 タリバンが、外国による占領と戦うために自分を犠牲とするのを厭わない、何
万もの青年を獲得するのに成功したことは注目に値する。タリバン支持者たちは
アフガン政府とその同盟軍を広大な農村地帯から追い出し、カブールの門口に迫
っており、空白地帯に代替的行政とイスラム法を持ち込んでいる。

 丁度、ムジャヒディーンが20年前にソ連軍に安全な退却口を提供したように、
タリバン指導者ムラー・ムハマッド・オマールは、国土からの撤退を選択するN
ATO軍に安全な退却口の保障を最近提案した。

 反乱軍に対してバランス・オブ・パワーを図るために軍隊増派は必要であると
しても、大多数のタリバン戦士に銃を手放し、戦闘を止めるよう説得するための
本格的な努力による"政治的増強"を伴ってはじめて、これは持続的なインパクト
を与えるものだ。

 アフガニスタンとパキスタンに関する最近の包括的米政府白書と、アフガニス
タンにたいするアメリカの新戦略が発表された、3月27日のオバマ演説も、和解
しうる反乱者たちとの政治的統一が、軍事的増強の目的の一環と述べている。し
かし、反乱の正確な性格についてこれまで認識が欠如していたことを反省してい
るにもかかわらず、タリバンの一般兵士をアメリカ側に寝返らせることと和解を
同一視している。

 このような単純なアプローチが平和をもたらすとは思えない。反乱の本質につ
いて適切な理解を基にして、アフガン政府、NATO同盟国、パキスタンとの連
携の下に、迅速かつ高度な政治作戦を展開することが必要だ。イラクにおけるア
メリカの経験における最大の教訓は、いかなる占領軍も殺傷と逮捕によって反乱
を鎮圧し、勝利に至ることをのぞみ得ないことである。何よりも、友人を敵の中
に作らなければならない。


◇風の向く先


  アフガニスタンにおける戦争は30年以上にわたって絶え間なく継続されている
ので、独自の奇妙な法則、スタイル、ロジックを発展させてきた。その法則の一
つは、勝ち馬に乗ることである。アフガン人指令官たちは、整備された軍事マシ
ーンの一齣ではなく、特殊な権益の擁護者である。司令官たちは、上からの命令
というよりも、従う戦士たちの利益や、それらの戦士の属する部族的宗教的政治
的権益によって行動している。個々のアフガン人司令官にとって、勝利する側に
立つこと以上の願望はない。彼らは、しばしば戦闘中にすら陣営を乗り換えてき
た。その際、立場を変えたことの理由は宣言されない。力関係などの状況変化が
戦略の転換を求める。

 彼らの論理は明白で、長期の戦争では、家族と自分の村を救うのと同じように
、生き残り、勢力を維持するために陣営の変更が必要になる。アフガニスタンの
戦争は、戦闘よりも、戦線離脱によって決着がつくことが多い。立場の変更、戦
線離脱、転換などいいずれの表現とろうとも、陣営の変更がアフガン方式の戦争
である。

 アフガニスタンの最近の歴史は、司令官が戦闘よりも立場の転換を選択したこ
とによる決着の実例に満ち満ちている。ソ連が後押しした政権の崩壊した1992年
から,タリバンが国土の80%以上を征服した1998年秋までの内戦において、ムジ
ャヒディーン諸集団の指導者は絶えず忠誠心を変化させた。ウズベク人のドスタ
ム将軍は、最初、タジク人のマスード司令官の友人だったが、その後は敵となっ
た。ハザラ人指導者アリマザリは、以前は手を組んでいたパシュトン族長ヘクマ
ティヤールと戦った。内戦の帰趨を左右したのは戦闘行為以上に陣営の鞍替えで
あった。

 タリバンはアフガン諸派の中で内部的結束が最も固いことで知られているが、
2001年にアメリカ主導の戦争が開始された時、その内部的同盟関係は流動的であ
った。大量の米ドルが投入されると、当初は相互に戦っていた部族と軍閥の指導
者・司令官たちは相互に接近し、新秩序で約束された名誉ある地位をめぐって立
場の組み換えが始まった。タリバン指導者も交渉意欲を持っていた。2001年12
月、タリバン運動が完全に崩壊した時、オマール師はアフガン部族指導者たちに
タリバンの拠点、カンダハールの降服を公然と申し出た。タリバン崩壊直後、ア
ルカイダと同盟関係にあったムジャヒディーン・トップの兄弟もアフガン政府と
の協議に参加していた。これらの協議が実を結ばないと分り、初めて彼らのネッ
トワークは反乱に参加した。あらゆるファナティズムが喧伝されていても,タリ
バン司令官たちは、条件が整えば運動を離脱し、立場を変えている。


◇幽かな曙光


  これまでのところ、アフガン人指導者とアメリカの支援者たちは、タリバン司
令官たちの立場転換の可能性を追求しようとする努力をほとんどしてこなかった
。タリバンとの和解をカルザイ政権とワシントンが重視したことはなかった。さ
らに悪いことに、政敵をイスラム・テロリスト容疑者として恣意的に拘留し、叩
こうとするカブール政権よってアメリカが誤導されてきたので、協力する可能性
のある人々を反乱者側に追いやってきた。

 例えば、2002年2月、タリバンの外務大臣で指導者の中最も話が分ると広く見
られていた、ワキル・アフマッド・ムタワキルが自主的にアフガン新政府に接触
し、新秩序に参加する意向をしめしたのに、アメリカは彼を逮捕し、バグラム空
港のアメリカ軍刑務所に18ヶ月拘留した。その後、彼は自宅監禁下に置かれた。
このような事例は多い。タリバンの情報副大臣アブドル・ハク・ワシクと上級司
令官ラマトラー・サンガルヤールが保護を求めてきたのに、彼らはキューバのグ
アンタナモ監獄に送られた。

 彼らの影響下にあったタリバン軍の多数の兵士が過去にアフガン政府を認め、
武器を手放す用意を示したが、オリーブの小枝を差し出すのか、彼らを投獄する
のか、ワシントンとアフガン政府の態度ははっきりせず、それは沙汰止みとなっ
た。アメリカと同盟国は、政敵を出来るだけ追い払い、外国との関係を独占しよ
うとするアフガン現政権の罠にかかっている。

 アフガン政府と同盟国あらゆる失敗の中で最も深刻なものは、いかなる和解の
努力をもせず、一般のアフガン国民に安全保障を提供するのを怠っていることだ
。和解を図るためには、普通のアフガン人に安全を実感させなければならない。
反乱を克服するためには、和解が軍事攻勢の一部とみされるべきある。


◇平和の代償


  タリバン国民の重要部分との協力を獲得するキャンペーンが成功する基礎は存
在する。それは先ず何よりも、アフガニスタンにおける和解に大衆的な支持があ
るからだ。2009年2月、ABCニュース、BBC,ドイツのARDが共同で行な
った全国的な世論調査において、64%の回答者がタリバンとの交渉による解決に
賛成し、彼らが戦闘の中止に合意すれば、タリバンを政府に加えるべきだと述べ
た。

 サウジアラビア政府の仲介により、昨秋、アフガン政府とタリバンの会談が行
なわれた。サウジ政府はタリバンの中に大きな道義的影響力を保有しており、会
談に先立って、そのイニシアティブにたいする支持を彼らから取り付けていた。

 短期的中期的に包括的な解決を図る展望に焦点を絞ると当てが外れる。タリバ
ン指導者が現アフガン政府と広範囲な取引をするとは思われない。タリバンの側
も決して一枚岩ではないので、そのようなことは出来ないだろう。

 タリバンはパシュトン人が支配的で、保守的だが、その運動は狂信的イスラム
とまったく関係のない戦士集団を抱えている。多くのものにとっては、反乱が生
きる道なのだ。戦士たちは特定の指令官に所属し、その集団内で保護と仲間扱い
を受けている。麻薬密輸ルートを守護しているのでない限り高給はもらえないが
、司令官が時折くれる手当ては失業よりはるかにましだ。

 したがって、和解の努力はそれぞれの集団の特殊的性格、すなわち、部族的繋
がり、その伝統、活動の諸条件などにピントを合わせなければならない。それか
ら、信頼される仲介者が和解を先導すべきである。地方司令官たちを同時的にこ
のプロセスに関与させることがカギである。


◇政治的サージ(大攻勢)


  和解努力の核心は、先ずアフガン人各派指導者間での交渉でなければならない
。しかし、現在は紛争が国際化しているので、和平には国際的関与も必要だ。ア
フガンにおけるNATO軍の基本的存在理由は、アフガニスタンをアルカイダ同
盟者がテロの基地として利用するのを阻止することにある。このメッセージをワ
シントンとNATO同盟国は反乱者側にはっきりと伝える必要がある。

 サウジ会談以後、タリバン側のスポークスマンや何人かの指導者が、これまで
より政治的な立場を表明している。安全保障に対する協力を含め、和解プロセス
の進展が外国軍隊撤退を促進することを反乱側に納得させることは、彼らの前向
きな反応を引き出すのに役立つ。

 アフガンの警察と軍隊が自国の治安に責任を持つようになることに、アメリカ
はコミットしている。アメリカのいかなる軍事的サージも一時的なものである。
この点では、皮肉にも反乱側とアメリカの政策は接近している。オマール師やそ
の支持者たちがアメリカの支持するネーション・ビルディング・プロセスについ
て合意する、グランド・バーゲンはありそうにないものの、このような取引のミ
ニ版は達成可能だ。’愛国的'タリバンが安全保障のアフガン化に部分的成功を
収めている、という主張を容認すべきである。各派の司令官や戦士たちを警察や
軍隊に正式に統合、吸収すべきだ。そのことが、外国軍隊が後景に退くのを可能
にする。


◇パックス・パック(パキスタンの平和)


  軍部の影響力拡大と順法化努力の麻痺という、パキスタンの最近の動向はアフ
ガン和解にとって脅威であり、また同時に機会である。パキスタンにおけるパシ
ュトン人とパンジャブ人の戦闘分子は、オマール師のタリバンとはっきり区別で
きる。しかし、これらのグループはタリバン支配下のアフガニスタンで固められ
た同志愛を共有している。

 アフガンのタリバンは、パキスタン政府がその闘いを断念するよう圧力をかけ
ることはないとみている。パキスタンのタリバンが自信と軍事的力量を増してい
るのが、自らの武力闘争に支持を拡大するチャンスとして捉えている。

 アフガン反乱の中枢を担っている指導者、司令官、オルガナイザー、資金担当
者、その家族たちは戦争地帯から離れたところにおり、多くはパキスタンに本拠
を置いている。反乱軍司令官の主要なネットワークを和解に取り込むのを基本目
的とする交渉は、彼らのネットワークと接触しやすいパキスタンにおいて開始し
されるべきである。ワシントンは、国際的仲介者が反乱司令官たちとのパキスタ
ンにおいて集中的な対話を行なうのを歓迎し、それを調整するのに協力すべきで
ある。

 必要なことはパキスタンに安全な交渉の場を創出することである。西北国境地
区、バルチスタン、いわゆる部族地域、大都市など司令官ネットワークが利用し
ている地域で、パキスタン政府による迫害の恐れなしに、調停チームが作業でき
るようにしなければならない。このような行動の自由が、将来の解決のために必
要な信頼と基盤を作り出すのに役立つ。


◇静かなる対話外交


 アフガニスタン再建努力を救出するためには、オバマ政権とアフガン諸勢力は
多くの問題を改革、是正しなければならない。新戦略を成功させる主要な内容の
一部が反乱者たちとの和解である。カルザイ大統領は叛徒との和解を支持すると
のべてきたが、彼の影響力は低下していることからみて、その将来は不確実であ
る。彼が政策を転換するか、交渉を進めうる信頼感を持つ新大統領が登場しない
限り、重要な進展はありそうにない。

 政権の腐敗、恣意的な逮捕拘留、派閥化している地方統治があまりにも多くの
人たちを武力抵抗に参加するように追いやってきたことからみて、このような略
奪政治を抑制することが出来れば、そこから進展が見られるだろう。最後に、ア
メリカの軍事的大攻勢がパシュトン地域で反乱を押さえ込めることを立証して、
初めて戦闘的分子が政府との再統合が生き残りうる道であると理解するかもしれ
ない。

 これらの諸条件が充たされるならば、静かなる対話外交によって進められる包
括的和解がアフガニスタンに安定をもたらす。このような努力は反乱を全面的に
止めさせるものではなくとも、非和解的勢力を一掃することに残る期間の軍事行
動を集中させることに役立つ。残る時間は少ない。タリバンとの効果的な合意形
成こそが、長引き、勝利のありえない武力衝突をプラクティカルに解決する道で
ある。


◇◆コメント◇◆


  アフガニスタン情勢は、オバマ大統領によるアメリカ軍増派以降も、ますます
軍事的な勝利にとって絶望的と見られるようになっている。首都カブールの治安
維持さえもおぼつかなくなっているようだ。これまで320億ドル以上の巨額な
国際援助がアフガニスタンに注ぎ込まれたが、政権とその周囲を富ませ、腐敗を
大幅に助長しただけで、民生の向上と大衆的な支持の獲得に役立った兆しは一向
に見られない。

 ロンドンの『エコノミスト』も、近着の8月22日号でアフガニスタン問題の
特集を組んでいる。その論説は「アフガニスタンを失う?」という見出しの下に
、オバマ戦略に疑問を投げかけている。アフガン戦争がますます高価で犠牲の多
いものになりつつあり、ブッシュのイラクのようになる懸念を表明している。

 長文のエコノミスト巻頭記事では、カルザイ政権の底なしの腐敗振りと選挙で
の低支持(低投票率)を指摘し、今のアフガン援助が単にカネをどぶに捨てるよ
うなものであるだけでなく、アメリカとその同盟国の利益にも反するものになっ
ている状況を詳述している。アフガン人とアメリカとその同盟国に厭戦気分が広
まっており、現地のアメリカ軍とNATO軍司令官たちも勝利の展望は持ちえず
、交渉による解決しか残されていないという、この論文の提起を裏付ける記事と
なっている。

 総選挙直後のテレビ番組に出演した日本民主党国防外交専門家と称する議員は
、現在の自衛隊によるアフガン戦争向け給油支援が事実上パキスタン内戦を遂行
するパキスタン軍支援になっているのを認めた上で、それに代りアフガニスタン
国内での日本自衛隊による陸上輸送支援を提起した。これには唖然とすると同時
に、民主党がアメリカとの協調という名分の下に、アフガン戦争を利用して、自
民党でさえなしえなかった海外派兵の道を開きかねないという懸念も脳裏をよぎ
った。これが民主党の代表的見解とはみなすものではないが、そういう主張はこ
れまでも耳にしているので、党内には根深いものがあるようにおもう。

 民主党として対米協調的政策を続けるのは正しい選択で、緊密な対話をオバマ
政権と行なうべきである。しかし、過去の負の遺産をそのまま引き継ぐことはな
い。アフガン戦争支援の是非をこれまでの延長線上で論ずるのでなく、アフガン
戦争を交渉によって終わらせるための役割を担い、アメリカと静かなる対話を始
めることこそ民主党新政権の歴史的な役割であろう。それが、今や必要かつ可能
であることを紹介した論文や記事が示唆している。

           (筆者はソーシアルアジア研究会代表)

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