アメリカの選挙資金とスーパーパック

■【米国大統領選挙報告】

アメリカの選挙資金とスーパーパック  武田 尚子

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 今回2012年の選挙では、これまでの選挙にみられなかった大きな問題が出
現した。それは、2010年にシチズンズ・ユナイテッド 対 連邦選挙委員会―
FECの判例が米国最高裁で裁決され、企業、組合、個人が、候補者とは独立に
キャンぺーンを行うなら、政治献金の金額に全く制限がなくなったこと、その結果、
前例のない、スーパーパックと呼ばれるパック
(POLITICAL ACTION COMMITTEE政治行動委員会)が生まれたことである。

 もうひとつ、スーパーパックについで顕著な事実がある。共和党は何よりもオ
バマ落としで一致している為に、共和党と民主党間の距離がこれまでになく広が
った。2010年の中間選挙で下院のマジョリテイを得た共和党は、オバマの提
案がどれほど重要なものであれ、ことごとく通さない体制で大統領に対抗してき
たことである(総選挙を4ヶ月後に控えて、きわめてわずかな例外が起きてはい
る)。

 この稿では、アメリカの選挙史で前代未聞といわれる、スーパーパックとその
影響について考えてみたい。

 米国最高裁の9人の判事は、大半の審理で、5人の保守派と4人のリベラル派
に意見が分れる。最高裁のマジョリテイ5人を占める保守派にいわせれば、シチ
ズンズ・ユナイテッドの決定は、憲法第1条の言論の自由という最も基本的な原
理を擁護、立証するものである。政治的な言論を規制することはまったく最高裁
のしごとではないから、選挙寄金の額を制限するのは間違っているというのであ
る。

 4人のリベラル派は、企業の金がキャンペーンという政治市場に流入すること
は、民主主義の腐敗につながると抵抗したが、無駄であった。

 元々アメリカの選挙資金にはあまり規制はなく、個人献金がその主要部分であ
った。最も富裕な、総人口の4%が、個人献金のほぼ100%をまかなっていた
という。パック、つまり政治行動委員会は存在したが、個人献金からはかなり遠
い2番手だった。企業や労働組合からの直接献金は禁じられていた。2010年
1月、最高裁は20年来認められていた、企業と組合が彼等の金庫から、彼等自
身の出した候補者のキャンペーン広告に金を使ってはならないという州法を覆し
てしまった。

 シチズンズ・ユナイテッドの判決後はじめての、2011年6月のアリゾナの
判例では、公的な選挙資金を受ける候補者には、それに見合う公的な財源を供給
するというアリゾナ州の法律を、最高裁の判事たちが5-4で否決した。彼自身
もその1人である5人のマジョリテイに向けて、主任判事ロバートは書いた。
『アリゾナの匹敵資金のような条例は、健全でオープンな政治論争に水をかける
もので、十分な正当性がない。したがって認めるわけにはいかない』と。

 まもなく中間選挙が始まると、ほとんどが出所の明らかでない多額の献金が怒
濤のように、ロムニー個人にも、共和党の陣営にも流れ込み始めた。同時に、オ
バマに対する否定的な宣伝が、全国のテレビやラジオにあふれる。民主党の議員
たちは、裕福な共和党支持者や企業利益を求める献金者が、このたびの最高裁に
よる選挙法の規制変更に力を得て、選挙を買収していると難じた。

 アメリカの選挙制度改革の試みは1974年以来何度も繰り返されたが、ほと
んどその都度、共和党のフィルバスターによって、議案が引き延ばされたあげく、
没になっている。

 スーパーパックへの寄金は、候補者と独立して使われる限り、その金額に上限
はない。しかしその金の寄贈者名と金額は定期的に、連邦選挙委員会に報告する
義務がある。このパックの主目的は、企業や組合や富裕な個人や庶民からパック
に向けて寄付された金を無制限に使って、選挙に影響を与えることである。ただ
しその献金者なり献金組織なりは、その金を彼等の支持する候補者と連携させて
はならない、あくまでも候補者からは独立した外部団体として、候補者を支持す
るのが本命である。

 では候補者とスーパーパックはどうやってコミュニケートするのだろう。それ
は一応メデイアを通して候補者が自分の意見を述べ、パックは同様にメデイアに
託して意向を述べるというきまりになってはいる。しかし現実には、或る候補者
は自分の選挙事務所とスーパーパックの選挙事務所を同じビルの筋向かいにおい
ているというお笑いさえある位だから、決して此のルールは固く守られてはいな
いらしい。

 さて、共和党側にいくつかのスーパーパックが生まれたように、オバマの側に
もスーパーパックが作られた。オバマ自身のスーパーパックは
PRIORIIES USA ACTION と名付けられているが、ロムニーには
RESTORE OUR FUTURE という彼のお気に入りパックの他に、なんと40も
のスーパーパックが肩を並べている。

 前述の通り、2010年以前からパックはあったが、現在のスーパーパックの
ように、外部団体としてではなかった。そしてその献金額には上限があった。ま
た、ユニオンや企業が連邦選挙の候補者や政党に寄付をしたいときには、パック
を通さなくてはならなかった。企業や労働組合の金庫から直接献金するのは不法
とされていたから、彼等はパックをスポンサーして、その管理と資金集めに財政
的な援助を与えることはできた。

 現在、候補者への献金は、スーパーパックからだけでなく、直接の個人献金が
2500ドルまで認められている。企業や労働組合は上記の伝統的な連邦パック
に直接献金はできないが、その特定の企業や組合関係のパックの管理コストを支
払うことはできる。企業関係のパックは重役、株主および彼等の家族だけから献
金を要請できる。しかし組合は組合員以外からは献金を求められない。

 さてプライマリー選挙の間、ロムニーには共和党内のライバルを一人一人落と
してゆく仕事があった。選挙戦の始めには8人、次いで4人、2人と競争がしぼ
られてゆくあいだ、多くの共和党寄りの組織や個人は、ロムニーへの大型献金を
見合わせていた。また彼等の献金は何人かの共和党候補者に分裂せざるを得なか
った。5月ごろまで、オバマが献金額で相当な優勢を見せていたのはそのためだ
った。

 オバマは、金の力で選挙を動かすことをきらい、当初はスーパーパックを使い
たがらなかった。しかし現実に直面して、妥協せざるを得なくなった。同じルー
ルを持たなくては公正な勝負はできないと宣言してから、彼にもスーパーパック
が協力するようになったのである。

 これに関連した動きはいろいろあるが、総選挙をほぼ4ヶ月後に控えた6月末
の時点で、重要な問題をあげてみよう。

 2012年6月25日のニューヨークタイムズは、ワシントンDCからの報道
として、アメリカの最高裁が、2010年の中間選挙での大型爆弾であった選挙
基金に関するシチズンズ・ユナイテッド 対 連邦選挙委員会
Federal Election commission の判決の再審議の申し立てを却下したという、無
署名の簡単な決定を報じた。

 つまりモンタナ州の最高裁は、会社や組合や個人による選挙献金の金額を制限
するモンタナの州法を支持していた。彼等は、米国最高裁の裁決したシチズンズ・
ユナイテッド法に賛成できないので、再審議してほしいと申し入れた。しかしそ
れがこの日、米国最高裁の5名の判事によって 拒否されたことを明らかにした
のである。

 『モンタナ最高裁の決定は米国最高裁の裁決とはまったく相容れない。なぜな
ら憲法修正第1条は、国民の支持する、あるいは反対する連邦選挙の候補者の為
に、企業および組合の組織や個人が、無制限に金を使うことを許しているからで
ある』と米国最高裁はいった。

 これはほぼ予想された結果とはいえ、民主党支持者や一般のリベラルなアメリ
カ人に大きな失望を与えた。なぜなら、2010年に最高裁をパスしたシチズン
ズ・ユナイテッド法は、憲法修正第1条の極端な解釈にもとづき、「金の力は言
論の力に等しい」という考え方を具現したものだからである。

 『ここで問題になるのは、シチズンズ・ユナイテッドの判決をモンタナの州法
に適用すべきかどうかということだ。適用できることに疑問の余地はない。しか
しモンタナの議論は、既にシチズンズ・ユナイテッドで拒否されているか、ある
いは此のケースを特別に際立たせる意味深いものが含まれているかどうかである』
と米最高裁の4人のリベラル派の1人ブレイアー判事はいう。そして彼の『シチ
ズンズ・ユナイテッド法自体が間違いだった』という意見に、他の3人のリベラ
ル判事は同意したが、通らなかった。

 では、はたしてこれが最高裁の望んでいた結果なのだろうか? 米国最高裁の
マジョリテイの判事たちは、どの程度の、あるいはどういった言論-論争がある
べきだと言うことは、最高裁が決めるべきことでない、そして言論が多ければ多
いほど、最終的にはよく教育された投票者が増えることになると決めたのである。

 米最高裁の自由言論の擁護者たちの意見はこうだ。キャンペーンの財政をあず
かる法律は、善意とはいえ、現職者に奉仕するものであり、現職者は政治献金の
大半を得る。それは不公平だ。ではなぜ、全ての人間に自由に意見をはかせ、国
民に決めさせないのだ? マジョリテイの判事、アントニン・スカリアは記して
いる。『民主主義の前提を持ってすれば、多すぎる言論など存在しない』。

 米国最高裁はこうして、候補者に影響を及ぼすのは金ではなく、最終的には人
間、つまり投票者だけだとした。今シーズンの大統領選挙キャンペーンに、洪水
のように放出された金は、このナイーブで有害な見解のもたらした直接の結果で
ある。最高裁は、裕福な団体や個人が、キャンペーンをしている別の候補者の声
をかき消してしまうことを許したのである。

 この問題についての最高裁の議論では、いつも‘言論の自由’が無制限献金の
正当化に使われる。しかし、言論の自由は果たして、自由に費消される金の力と
等価に考えられてよいのだろうか。

 選挙資金の財政をどう扱うかは議論の多い問題である。党派の利益を自由な言
論への関心と要求につなげるかにみえる保守派に対抗して、リベラル派は政治の
不平等と腐敗の可能性を声高に述べて取り組んだ。現在の最高裁が右寄りである
ことは誰の目にも明らかではあるが、国家最高の制度が下した無制限献金の判決
を、はたして公正なものと呼べるだろうか。

 いずれにしても、シチズンズ・ユナイテッドの裁決、スーパーパックの出現と
ともに、この選挙は次第にマネーゲームの様相を濃くしてきた。総選挙まで4ヶ
月に充たない今日、ロムニーのキャッシュにオバマのキャッシュが対抗できるか
どうかが、政治論争の陰で、メジアの日ごとのホットな話題になってきたのであ
る。 ここでいったい誰がどの程度のスーパーパック献金をするのかを瞥見して
みよう。主として、きわめて裕献で党派的な意識を持つ個人や会社や労組が献金
をする。

 2008年の選挙でオバマを支持した最多数は、青年層や庶民であり、一口が
200ドル以下の小口の寄金者多数が、オバマの最大の力になった。今回もその
人達は存在するだろうが、その数は減っているという。『貴方の失業はオバマの
せいだ、彼は経済を知らないからアメリカをいつまでたっても立て直せない』と、
彼等はテレビ、ラジオで間断なくロムニー陣営に洗脳されているのである。

 オバマの支持者には大体において、学術関係やテクノロジー関係が多いといわ
れている。2012年の選挙で、今のところオバマ献金のトップ数社には以下の
ようなものがある。

1.マイクロソフト   $387.395
2.カリフォルニア大学 $330.258
3.DLA PIPER      $306.727
4.グーグル社     $271.300
5.SIDLEY AUSTIN LIP  $257.296
6.ハーヴァード大学  $232.158

 他にも、スタンフォード、コロンビア、シカゴなどの大学があり、タイム・ワ
ーナー社他いくつかの企業もある。

 個人でも、多くはないがかなり大型の献金者もいる。2012年の選挙に向け
て、アニメーションのドリームワークスのCEO、ジェフリー・カツェンバーグ
は、オバマのスーパーパック、PRIORITIES USA に200万ドルの献金をした。

 2008年の選挙で、オバマのために大きな寄付をしたジョージ・ソロスは、
1930年ハンガリー生まれの財政家、慈善家である。

 ソロスはナチスを逃れたあとイギリスの叔父のもとに身を寄せ、
LONDON SCHOOL OF ECONOMICS で勉強した。1956年、ニューヨークに
移住し、1970年、みずから創立した SOROS FUND MANAGEMENT の社長
となる。

 同年、人種差別政策のさなかの南アフリカで、黒人学生をケイプタウン大学に
送る学資を供給した。以来、ソ連の不平分子にたいする援助や、ソ連崩壊後の東
欧諸国ほかのために広範な慈善活動を続けている。

 彼は世界で22番目の長者、世界で最も裕福なヘッジファンドのマネジャーで
あり、アメリカ最富裕者400名のなかでは7位にランクづけられていて、その
資産の正味は200億ドルと推定されている。

 2012年の大統領選挙キャンペーンでは、なかなか寄金の腰を上げず、関係
者を心配させたが、けっきょくオバマへの献金200万ドルを誓約した。スーパ
ーパックには乗り気でないことをほのめかしている。多数の著作がある。

 では同じくリベラルの慈善家、ワレン・バフェットはどうだろう。おそらくそ
の名は世界中に知られているバフェットは、現在、世界で第3位の金満家とされ
ている。

 今年の年頭演説でオバマは、バフェット氏の若い秘書嬢は、サラリーの30%
以上の税金を支払っているが、それはボスであるバフェット氏の税金の2倍以上
になる。年間100万ドル以上の収入を持つものは少なくとも30%の税金を払
うべしと言明した事実を紹介して、それを‘バフェット・ルール’と呼んだ。こ
れは最近のオバマの税金対策の演説に取り入れられて、富者の税金カットに反対
する共和党から大きな非難を受けている。

 此の提案を受けて、共和党の上院リーダーのミッチ・マコーネルはいった。
「そんなに税金を払いたいなら、率先して米国政府に寄付をするがよろしかろう」
 それに対して、バフェットはいった。「それでは、国の赤字を減らすために寄
付をする議員には、私が同額の寄付で見合うことにしよう。上限はない」そして
また付け加えた。「ミッチ・マコーネルが寄付してくれるなら、私は1対1では
なく1対3の寄付で応じよう」と。

 マコーネルの資産は1000万ドルと評価されているが、今のところ彼からの
反応はないという。 ちなみにマコーネルは、2010年の中間選挙後「何が何
でもオバマを追い払うことが共和党の最重要な政策だ」と宣言したご本人である。
 バフェットはオバマと親しく、2008年の選挙では、献金から資金集めの晩
餐会まで様々な形で応援をした。2012年の選挙では、今のところ何回かの小
型献金を除いて、大型献金の事実はない。

 オマハ(ネブラスカ)の聖(ひじり)と呼ばれるバフェットは巨万の富を持ち
ながら、質素に徹しているといわれる。自分の資産440億ドルの大部分は慈善
事業に向けるといい、成人するまで、父親がそれほどの富裕者であるとはゆめに
も知らなかった子供たちには、生活の心配なく過ごせるものだけ残すのだと言う。
彼はマイクロソフトのビルとメリンダ・ゲイツ基金に、6年間に、今日の株価で
ほぼ15.2億ドルの、彼の会社の株を寄贈した。

 教育と健康問題の改善のために寛大に寄付をするのはバフェットの毎年定例の
伝統になった。彼は自らのファンド(基金)と子供たちの基金の他に8件の慈善
組織と、ビジネスコンテストのファイナリストになった小学校15校のこどもた
ちとに、総計200万ドルの株を与えてもいる。

 彼は、富者の社会への義務と信ずることを、こうした彼自身の模範でみせてい
るのである。ところで、国会議員だったバフェットの父親は、同僚が議員年俸の
値上げを提案したとき『聞き苦しいことを言うな』と、断固として反対した。

 バフェットがオバマの遠縁のいとこだという血縁が発見されたというが、その
真偽は別として、オバマが2期目を続けることをバフェットは強く望んでいるは
ずだ。しかし彼はオバマのスーパーパックには献金したくないと公言した。超富
豪の金が選挙を左右できるスーパーパックが、民主政治にもたらす害悪に加勢し
たくない気持であろう。それは元々オバマの立場でもあった。オバマの胸中は複
雑であろう。11月までの情勢を見守ってゆきたい。

 ゲイツ夫妻のマイクロソフトは、言うまでもなくオバマの強力な応援者である。
功なり名とげたビル・ゲイツはマイクロソフトの最前線からしりぞき、メリンダ
夫人とともに文字通り慈善事業にいそがしい。目下は世界で最悪の疾病-エイズ
や結核、マラリアーを根絶すること、女性の真の平等を実現すること、その一端
として、共和党が廃止を計画している家族計画組織を維持すること、堕胎の権利
を守ることなどが重要なプロジェクトであるらしい。

 昨秋バフェットはゲイツ夫妻と、彼等の薬品やワクチンのおかげを大いにうけ
るインドへ旅行もしている。また新しいプロジェクトが生まれるに違いない。バ
フェットが自分の慈善金の受け手としてゲイツ夫妻を選んだのは、彼等に託せば、
金を生かす最上の道を必ずみつけてくれるからだという。

 またニューヨークには、コメデイアンで時事問題の風刺家であるビル・マーと
いう、辛辣で実に面白い人がいる。或るとき聴衆に向かって、こんなコメントを
口にした。「2010年以来、民主党は確かにいくらか右寄りになった。しかし、
右翼(共和党)はどうなったか? 彼等は右へ右へとにじり寄って、とうとう精
神病院にはいってしまった!」

 聴衆は大笑いをしたが、それがあまりにも的を射ているので、笑い声はなかな
かやまなかった。現在の共和党の反理性的な姿勢には、こんなコメントを瞬時に
納得させるのにふさわしいものがある。

 そして此の人気者のコメデイアンは、100万ドルをオバマ(のスーパーパッ
ク)に献金した。また、ハリウッドは伝統的に民主党支持であリ、有名な監督や
俳優のじつに多くが、オバマを支持している。

 ここではとりわけ顕著な人だけをとりあげたが、いうまでもなくオバマを支持
する大多数はつつましい庶民である。巨大な金の力に惑わされることなく、彼等
の数が巨大な票数になりますようにと、筆者は念じている。

 さて ロムニーの応援者に目を向けてみよう。
 ソロスやバフェットのような異色の寄金者を持つオバマの支援者に対して、ロ
ムニーの陣営はどうだろう。オバマの場合のように、トップ数件の献金者をあげ
ると、次のようになる。2012年の献金を数字は示している。

1.ゴールドマン・サックス $593.080
2.JPモルガン      $467.089
3.バンク・オブ・アメリカ $425.100
4.モーガンスタンリー   $399.850
5.クレジット・スイス   $390.360
6.カークランド&エリス  $264.302

 そうそうたる企業がこの他にもひしめいている。ロムニーのキャンペーンに金
があふれるのも無理はない。

 個人で言えばまず、ロムニー支援者には33名の共和党の億万長者がいること
をあげたい。彼等は33名の総計で1637万2500ドルをロムニー支援のス
ーパーパック『RESTORE OUR FUTURE』に献金した。

 筆者の資料によると、2012年のロムニー献金者のなかに、強力なヘッジフ
ァンドマネジャーのケネスとアン・グリフィン夫婦が存在する。アン夫人は女性
の主導する最も有力なヘッジファンド、アラゴングローバルの創立者、マネジャ
ーである。2012年の選挙サイクルでは、夫婦で50万ドルを共和党知事連盟
に、30万ドルをカール・ローヴの『アメリカンクロスロード』に、15万ドル
をウィスコンシンの『成長クラブ』に寄金した。

 アンの夫君はプロの醵金家であり、2008年には、マッケインとオバマの両
方のために金を集めた。モネ、ドガ、セザンヌ、8000万ドルというヤスパー・
ジョーンズの絵も持っている。共和党のエリート献金者のリストに加えられた。
資産23億と言われるシカゴの人である。

 同じく、ヘッジファンドマネジャーのジョン&ペニー・ポールソンは、此の分
野の目覚ましい成功者であり、アメリカで17位の長者である。資産は155億
といわれる。

 2010年、金融市場の崩壊を乗り切った後、ポールソンは49億ドルを手に
した。2011年10月のオキュパイ・ウオールストリート運動のとき、群衆は
マンハッタンの、彼のほぼ800坪のマンションを包囲した。
 その翌月、彼は最近のポールソン・ファンドの不振を投資者に手紙で詫び、自
分で金を投入してファンドを400万ドルのレベルに調整した。

 2012年の選挙サイクルでは、ロムニーのスーパーパック
『RESTORE OUR FUTURE 』に100万ドルを寄付した。マサチューセッツの
上院議員スコット・ブラウンにも、夫婦で9600ドルを寄金している。

 しかしなんといっても、今回のキャンペーンで最高の献金者は、ラスベガスは
カジノの王者、シェルダン・エイデルソンである。彼は共和党に惜しみなく支援
を与えるといい、プライマリー選挙の初期はニュート・ギングリッチを懸命に応
援していた。17億も使ったが、はかばかしい進歩をみせないギングリッチを去
り、ロムニーを本命にした。

 カジノの LASVEGGAS SAND を世界的なカジノ王国に仕上げたエイデルソンは、
『オバマを落とすためなら、いくらかかってもよい。100万ドルかかってもよ
い』というが、彼の資産が250億近いことを勘案すれば、いくらでも必要なだ
け使うというロムニーへのコミットメントは、夢ではないだろう。

 以上の情報源(フォーブズ)によれば、78歳のエイデルソンは、アメリカを
オバマの『社会主義化』路線から守り、イスラエルの安全を確保することこそ、
彼の人生最大の選挙なのだと述べているそうだ。

 エイデルソンは言った。『私は選挙の行方をコントロールする大金持ちは嫌い
だ。しかしそれが可能である限り、自分はそれをやるつもりだ。なぜなら、ソロ
ス(ジョージ)のような人間は何年となくやってきているではないか。そして彼
等は、金を左右するレーダーの下に潜んでいるのだ。私には私自身の哲学がある。
私はそれを全く恥じていない。

 エイデルソンはイスラエル政治の強硬派の擁護者であり、ユダヤ人の大義のた
めに何百万という金を使ってきた。彼はまた前述の、オバマによるアメリカの社
会主義化を信じてこれに反対し、熱烈に彼流に戦ってもいる。

 さて、選挙はこんな風に動いていて、5月頃までのオバマのはっきりした選挙
資金の優位は、ロムニーの指名度が確実になるにつれて、数字の上ではっきりと
劣るようになった。オバマはそこで、一つの戦術を編み出した。民主党と共和党
には、いくつかの政策の違いがあるが、移民問題はその一つである。

 個々の議員や党員によって違いはあるが、共和党は全体としては移民を歓迎し
ない、それでもアメリカにいる大勢のイスパニック系の投票者を失うわけに行か
ない。共和党は、不況下の今ではとりわけ移民につらくあたり、早く自分の国へ
帰ってしまえ、非合法移民をみつけたら拘留所か刑務所にぶち込むぞと脅しをか
け、実行もする。一方オバマにとって、イスパニック系の移民は2008年には
オバマを大きく支持したし、今回もオバマの力になるはずだ。

 オバマには、シリーズ『ゆれる移民の国』で筆者が書いたように、ドリーム・
アクトという非合法移民にたいする特別制度の案がある。それは、両親につれら
れて、子供としてアメリカに入国したものの、未だに市民権を得られないまま、
今は本国送還を強いられ始めた青年たちに、アメリカの高校か大学を卒業してい
れば、すぐに送還せずアメリカ滞在を認め、将来、何らかの形で市民権への道を
開いてやるというものである。
  もちろんイスパニックの青年たちも親たちも、躍り上がって喜んだ。彼等には
アメリカが祖国であり、多くの若者は他に国を持たないのである。此の発表の後、
オバマの人気はイスパニックの間でかなりあがリ、選挙に向けての人気度ではロ
ムニーをまたしのいだ。

 ほっとしたのもつかの間、6月のデータでは、専門家も向上を予測していた失
業率が低下していた。一方ではヨーロッパの不況がアメリカの経済をじわじわと
圧迫する。オバマの責任ではなくとも、スーパーパックの金にあかせて、ロムニ
ーキャンプはテレビを通して、オバマの無能非難に明け暮れる。対抗しようにも、
民主党には到底、共和党ほどの金はないのである。

 もうひとつ、共和党が躍起になって廃止させようとしているオバマの健康保険
アフォーダブル・ケアを存続させるかどうかについて、7月8日、最高裁での判
決があった。思いがけないことに、ロバート主任判事がリベラルの4人に加担し
て、アフォーダブル・ケアのほとんどの条項を通したのである。

 これはリベラル側を驚喜させ、それと同じほど保守側を怒らせた。共和党の怒
りがあまりに激しいので、ひょっとすると、ロバート主任判事の不思議とも見え
るリベラル加担を、逆陰謀と読む人も出てきているのである。

 それやこれやで現在は、この選挙サイクル始まって以来の、オバマにとって最
大の危機かもしれない。現在オバマキャンプは、ロムニーの資産を、彼がスイス
やケイマン島、ドイツなど海外に投資していることや、彼のかつて主宰したベイ
ン・キャピタルとロムニーとのつながりの不明確さが法律に触れるかどうかなど
で論争しているが、正直言ってオバマの苦戦は明らかである。

 スーパーパックは確かに、金の力をいやというほど発揮している。もう一度、
シチズンズ・ユナイテッドの判決に対する、リベラルなアメリカ人一般の素朴な
疑問をここに繰り返して、此の稿を終えることにしたい。金の力を言論の自由と
等価に見ることは、民主主義を堕落させつつあるのではないだろか? (了)
          (筆者は米国ニュージャーシー州在住・翻訳家)

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