アメリカはなぜ銃を規制できないのか

■【アメリカ近況】

アメリカはなぜ銃を規制できないのか         武田 尚子

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 2012年12月14日、コネチカットのニュータウンで起った小学生の襲撃事件は、
アメリカだけでなく、世界の国々を震撼させた。人口2万8千人。「世界中でこん
なに安全なところはないと思っていた」と住民の語る静かな町である。

 ガンマンは窓を破って押し入り、ヤミクモに教室の子供たちに向けて発砲し
た。この学校で亡くなったのは、20人の子供たちと、彼等をかばおうとした6人
の女の先生ほか1人の職員だった。

 ガンマンは、この町の住民である20歳の青年で、精神のバランスを失った息子
を精神病院へ入れることを考えていたといわれる母親が、顔面を狙撃されて、ま
ず第一の犠牲者になった。

 16日の通夜(プレイヤー・ヴィジル)でのスピーチで、この事件について語る
オバマ大統領の声は割れ、何度も涙を抑えようとつとめる姿に、彼の人間的な暖
かさ、とりわけ、2人の幼い娘を持つ父親オバマを感じた人は少なくなかったは
ずである。

 オバマは聖書からの引用で、いまの苦しみが地上の幕屋に住む我々のものであ
っても、我々は神から与えられたより大きな建造物の中にいることを想起してほ
しいと告げ、集ったニュータウンの人々に心をこめて哀悼の言葉を述べた。

(スピーチの抜粋)

 「私はここニュータウンの町に、アメリカ中からの愛と祈りをお伝えするため
にやってまいりました。私は、ただの言葉が、あなたがたの悲しみに到底匹敵し
ないこと、またそれが、あなた方の傷ついた心を癒し得ないことを心にとどめて
います。」

 「私に希望できるのは、あなた方の悲しみが、あなた方だけのものではなく、
我々の世界も引き裂かれてしまったこと、私たちもあなたがたと共に泣いている
と知っていただくことが、いささかでも皆さんの悲しみに慰めをお送りできれば
ということだけなのです」

 「困難な日々のいとなみが様々な出来事を明らかにしてくれています。ニュー
タウンのあなた方は、強い力と決意と犠牲的な行為について語る事で、私たちに
霊感を与えて下さいました。サンデイフック小学校のホールに危険がやってきた
とき、この学校の職員たちはひるみませんでした。たじろぎませんでした。」

 「ドーン・ホックスプラング、メアリー・シャーラック、ヴィッキー・ソー
ト、ローレン・ルソー、レイチェル・ダヴィノ、アン・マリー・マーフィーの皆
さんは、こんなおそろしい状況に直面したとき、我々皆が心から望むように、勇
気と愛を持って、自分の責任下にある子供たちを守ろうとして命をかけられまし
た。」

 「また学校の生徒たちが、互いを助け合う情景もありました。手を握り合い、
幼い子供たちが時折やって見せるように、きちんと先生の指示にしたがいました。
そして1人の子供は大人をさえ力づけようとして叫んだのです。『僕は空手を知
ってるからみな大丈夫だよ。ぼくについてくりゃみな逃げ出せるよ』と。」

 「ニュータウンよ。あなた方は我々の心を高くひきあげてくれました。例えよ
うもない暴力。もっとも非道な悪に直面して、あなた方は互いを見失うまいと眼
を見張っていた。互いの身を心配し合った。愛し合った。このようにニュートン
は、人々のこころに長く記憶されるでありましょう。そして時くれば神の恩寵に
よって、その愛はあなたにもたらされることでしょう。」

 オバマ大統領は、12月19日、彼の第2任期の政策の中心にガン対策を据えるこ
と、そして遅くとも1月中に、根強い政治的な抵抗を克服して、新しく広範な銃
砲制限についての提案をすると言明した。

 ニュータウンの惨事後のオバマのこの誓約に対して共和党のリーダーたちは、
『銃砲や火薬に対する新しい制限を設ける事には反対である』という従来の党の
方針を再確認する声明をした。これはオバマの就任式の終わり次第、憲法修正第
2条の哲学的な解釈をめぐり、おそらく激烈な政争がくり広げられることを予想
させる。

 オバマ大統領はこの4年間、政治的には至難なガン問題に触れる事を避けてき
たが、今、アメリカ人の間に、精神衛生についての真剣な討議の起る事を待望し
ている。

 1月の就任式に次いで、2月12日には「アメリカの現状」(State of the Union
Speech) スピーチが予定されている。彼はガン対策を実現に持ち込むべく運動し
ようとしていて「このたびこそ、言葉だけではなく行動に持ち込まなくてはなり
ません。私は大統領に与えられた権限のすべてを投入して、こんな悲劇の再び起
ることを防ぐために力を尽くす覚悟です」と語った。さらに、ガン暴力の被害を
受けた人々の支払う苛酷な代価を明らかに示すために、12月14日の小学校射撃事
件以来わずか4日間に、メンフィスとカンサスの警官の死亡、ラスベガスの1女
性、アラバマ病院での3名、ミズーリでのドライブ射撃による4歳児の銃撃による
死亡をあげている。

 アメリカではいうまでもなく、これまでにいくつもの銃による殺人があった。
1982年以来、すくなくとも62件の大量殺人が、マサチューセッツからハワイにか
けて起っているのである。

 主要な学校襲撃だけでも、1966年のテキサス大学の学生による16名を死なせた
銃撃事件から、2012年12月、つまり、このたびのコネチカットのサンデイフック
小学校の襲撃までの間に、全米の歴史最大のガン暴力事件とされた2007年のヴァ
ージニア・テックの学生32名と教師の殺人事件、北イリノイ大学での殺傷事件が
ある。1999年のコロンバイン事件では、2人の高校生が12名の学生と教師を銃
殺、20人の生徒に傷を負わせている。最近の事件だけでも、コロラドの映画館、
ウイスコンシンのシーク教会、ミネアポリスの製造工場での銃撃がある。

 世界のガンによる殺人率と比べて、アメリカは英国のほぼ40倍、世界平均では
ほぼ20倍という。アメリカは、人殺しがよほど好きなのだろうか。人権擁護をう
たう国としてはいかにも不可解な現象ではないだろうか。

およそ人口一人につき1丁のガンが所有されているのだから、アメリカのガン所
有率は世界一である。

 この風潮の中で日本はたびたび、ガンの罪悪からほど遠い国として引き合いに
出され、ガン・コントロールの徹底を称賛される。ハンドガンを持っているだけ
で1-10年の刑務所行きとなる日本。小口径のライフルは買う事も、売る事も、
譲渡する事も、1971年以来禁止されたし、それ以前からライフルを持っていた場
合は所有を認められるものの、後継者は、所有者が亡くなった時点で、警察に引
き渡さねばならない。

 日本人が合法的に所有できるのは猟銃だけであるが、それとて容易ではない。
日本の読者には当然すぎるこれらの事実は、ガン暴力に悩むアメリカ人からみれ
ばまさに夢のようだ。アメリカの銃殺件数は、今や交通事故死の数に近付いてい
るという。

 恐ろしさでも、痛ましさでも、我々の想像をこえたコネチカット、ニュータウ
ンの小学校襲撃は昨日のことのように生々しいが、早くも1ヶ月なかばがすぎた。
いったいアメリカではなぜこんな事が繰り返されるのだろう。銃砲による大量殺
人が起るたびに、政治家は声明を出して、ガンを取り締まる体裁は見せるが、実
質的には何も起らない。

 しかし今回の襲撃は、幼い小学生が対象にされ、20名もの無垢な命が失われた
ために、それまでの銃撃事件の反応とは比較にならないほど大きな世論の反応が
起った。オバマの涙でもわかるように、子供たちを倒したガン暴力への市民の怒
りは大きい。この事件をきっかけに、ガン禍を防ぐための新しい立法の生まれる
可能性を巡って、激烈な政治抗争が生まれようとしているかに見える。

 ワシントンの全国ライフル協会(NRA=ナショナル・ライフル・アソシエイ
ション)本部の外側では、NRAをはじめとするガン擁護のグループに反対する
集会が催され、プロテストを行った。

 1871年にニューヨークで生まれたこのライフル協会は、元々南北戦争の兵士
が、敵を1人倒すのに1000回もの射撃(練習?)を要するほど拙劣で未経験な射
撃手ぞろいだったことから始まったと、南北戦争のユニオン記録にあるという。

 その後米軍隊の射撃兵の養成施設として協会は発展し、例えば、元大統領ユリ
シーズ・グラントは、この会の第8期の会長を務めている。1901年には、米国議
会はライフル協会NRA、米州立軍、米国立軍からの代表者を、議会の設立した
ライフル実習促進組織に入れるようになった。やがてこの射撃実習は民間にもも
ちこまれた。

 全米ライフル協会は現在ほぼ430万人の会員を持つ。ガン関係のスポーツをと
おして会員にはガンの安全使用、狩猟、自衛のためのトレーニングを与え、ガン
の購買を奨励して得た利益や莫大な会員費は、慈善事業にも使われる。

 それだけではない、近年はことに、政治的なロビー活動に莫大な金をばらまく
ようになり、全米のロビー団体としては最大になった。大多数の共和党の政治
家、ごく少数の民主党の政治家にも、活動資金が贈られているという。政治家に
は無視できない団体である。

 政治家にガンの功徳(?)を説き、ガンの普及をあおって、膨大な利益をあげ
る、さらにそれを贈賄に使って、間違ってもガン規制の法律が、今より厳しくな
らぬよう見張っているのである。

 ニュータウンの小学生20人の銃殺が報じられたとき、NRAにたいしてアメリ
カ中からの壮烈な非難が起った。副会長のラピエールは長時間を費やして、要旨
次のようなスピーチをした。

 「ニュータウンの悲劇以来のライフル協会への批判は全く筋違いだ。アメリカ
には実に多くの精神を病むモンスターが存在するが、彼等が起こす犯罪は、精神
の不均衡に由来するもので、我々とはいっさい無関係である。暴力をヴィデオゲ
ームにする玩具産業や映画、音楽産業はもっとも悪質なポルノ産業に等しい。彼
等の罪悪こそ糾弾されるべきである。彼等は未成熟な人間にアピールして、ガン
を乱用させるために害悪をまき散らしている。これまでのガン禍は、皆精神異常
者によるものだった。その対策こそ政府の仕事ではないか。」

 (ところがこれら上記の諸産業は、なんと銃火器や弾薬の製造産業とつながり
があり、NRAの財源に大きく貢献しているという事実が判明して、またしても
アメリカ人を呆れさせた。ラピエールのスピーチに戻る)

 「政治家はいくつものガン規制を作ろうとするが、それはまるきり無駄であ
る。例えば保安官のいない学校を明示すれば、頭のおかしい怪物たちは、その学
校を狙って銃撃を行うのだから、これは世の人を助けるためでなく、精神異常者
を助けて大惨劇を起こす結果になるというものだ。

政治家がこの上いくら法律を作っても浪費でしかない。今アメリカが子供を守る
ためにガンの統制をしようと思うなら、たった一つの方法しかない。それは各学
校に武装した警官-保安官を必ず配置すればよいのである。‘ガンを持つ悪者に
対するガンを持つ善人の防御’。これ以外にない。これは確かに怪物たちをひる
ませ、ガンの惨劇をふせぐ。」

 このスピーチに対しては否定的なコメントが殺到した。民主党のチャールズ・
シューマー議員が、警官を学校においたりするより、ハナからガンを持たせない
ようにすればよいではないかというと、ガン擁護側からは「それは警察国家をつ
くるに等しい。我々は憲法修正第2条に明記された銃を携帯する自由をどこまで
も守る自由の戦士だ。」と公言するのである。

 このスピーチの後「ガンではない、人が殺すのだ」という馬鹿げたフレーズと
ともに、「ガンを持つ悪者を殺すガンを持つ善人」が、巷間で流行になった。例
えば、サンデイフック小学校の射撃犯のように、護衛の見張っていない窓その他
からの侵入は無数に考えられるというのに、いったい一つの学校に何人の警官を
つければすむのだろう? またガンがロボットのように一人歩きして殺人をする
はずのないのはわかりきったことで、人がガンを持たなければ、被害は皆無か、
よほど軽微ですむだろうと考えない人はまれだろうと思うのだが。

 ニューヨーク市長のブルンバーグは、「ラピエールのスピーチは、我が国が現
在大きな危機に直面している事実の、恥知らずな証明だ。」と評した。彼はまた
別のガン報道に対しては、「冗談じゃない。我々は毎日殺し合いをしているんだ。
こんなにことをやっている先進国はアメリカだけじゃないか。」とコメントした
が、いかにもその通りである事は既述した。

 ブルンバーグ市長はガンの統制にきわめて関心が強く、総選挙でガンに正面か
ら取り組もうとしなかったオバマを批判した。しかし彼は共和党ながら、結局オ
バマを大統領候補として是認した。

 NRAの影響力があまりに大きいので、ガン規制を持ち出そうとする政治家
は、非常な恐怖を抱くらしい。こうした政治家の政治生命を絶つには、彼の政敵
にたいして巨万の金をつぎ込みさえすればよいのだから。大統領選挙でも、ガン
が問題にされなかったのはまさにそのためであった。

 市民の間でも、ガンの取り締まりをなんとかしてほしいという願いは、今回の
事件を機会にこれまでになく強くなった。ニューヨーク州ウエストチェスターの
地域新聞社「ジャーナル・ニュース」は、ニュータウンの事件後、近隣郡に居住
するピストルの保有者33,614人の姓名と住所を彼等の新聞に発表した。この記事
には、【ガンオーナーはあなたのお隣に住んでいる。貴方の知らない近隣事情】
という見出しを付けた。これは皆合法的なガンの所有者である。さらに同社のウ
エブサイトに全所有者の住所を地図上で明らかにした。

 たちまち、それまでの同社の歴史上最高数の2倍を超える100万件以上の反応が
寄せられた。この記事はガンオーナーに、自らのガンの合法所有そのものになに
やら後ろめたいものを感じさせただけでなく、同新聞社は全米から憤激を招くこ
とになった。電話やEメールによる威嚇が次第に激しくなったので、社長のジャ
ネット・ハツソン女史はホワイトプレインにある本社とウエスト・ナヤックにあ
る編集局に武装した護衛官をおくようになった。

 編集者、著述家、レポーターの自宅や電話番号も、子供たちの通う学校まで
も、オンラインに出されていたので、駐車場で射撃するぞと脅される社員もでて
くる。
このジャーナル・ニュースの従業員のクレジットカードを盗むべきだと提案する
ブログも現れた。無害である事が後でわかったものの、内容不明な白い粉入りの
箱が送られてもきた。社長は自宅を安全でないと感じる職員には、護衛をつけ電
話番号を替えさせポリスとの緊密な連絡体制を確立した。

 ところで、この事件に使われたガンオーナーのデータは、必要があれば誰でも
手にいれられるのである。ガンを合法的に入手したオーナーたちの大半は、おそ
らく、自分と家族を守るためにガンを求め、きちんと訓練を受けてガンの安全な
取り扱いを承知しているはずの、ガン所有者としてはもっとも安全なグループの
人達ではないかと考えられる。けれども現在のアメリカの雰囲気の中では、この
報道に対する世論はまったく分裂しているという。

 たしかに社長の言う「この機会に、ガンの統制について国民的な討議を起こす
ために」という記事の目的は有意義に思える。またNRAのいうように、「相手
もガンを持っていると知れば、潜在犯は銃撃を避ける。だから皆がガンを持てば
皆安全だ。」という、反論の多い理屈で、自家のガン所有を大きく公表されたた
めに、ガン襲撃を免れるケースもなくはないだろう。(現実にはガン所有数の多
いほど、ガン犯罪はふえている。)

 しかし住所姓名発表にまつわるプライバシイの侵害はどうなるのだろう?【ガ
ンオーナ-はあなたのお隣に住んでいる。あなたの知らない近隣事情】というか
なりセンセーショナルな見出しは、ハッソン社長の国民をあげての討議への貢献
希望よりも、合法的なガン所有者を潜在的危険人物に仕立て上げているとみられ
ても仕方がないだろう。ガンの合法所有者からの新聞社関係への意趣返しは、大
いに考えられるのである。

 実際に事故が起れば、ガンオーナーの発表は新聞社の浅慮だと非難されるにち
がいない。しかし、ハッソン社長には、引き下がる考えはないらしい。
 アメリカは確かに、この問題について徹底的に考える必要に直面している。

 ニュータウン、サンデイフック小学校の被害を免れた子供たちは 再開された
学校に戻った。学校には何人かのポリスが配備されているという。望ましい学校
のあり方ではないとしても、もっと大局的な政治問題として実効のある複合的な
処置がなされるまで、避けられないことではあるのだろう。

 さて、これほどの災禍に直面して、反省の一言もなく、これほど強気の意地を
張る全米ライフル協会のガン振興策を支える理論的な根拠はなにか? それは、
彼等が常時口にする憲法修正第2条にもられた、ガン携帯についての重要な記述
である。これは1791年に確定した武器保有の権利である。

 【規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を
保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない。】
 憲法修正第2条(元国連公使:緒方貞子訳)

 緒方氏の訳されたアメリカ合衆国憲法のこの修正第2条のページには、次の註
がある。『制憲当時のアメリカでは各州で州兵を保有していた。憲法の規定によ
り、中央政府が防衛の責任を負うことになったものの、各州における州兵の武装
は、中央政府では禁止できない事を認めたもの。後年の銃火器類の登録制度はこ
の規定には違反するという訴えがあったが、合憲判決がでている。なお、この条
項は、あくまでも州兵の武装を認めたものであって、個人の武器保有について特
別に定めたものではないと解されている。』(緒方貞子著、アメリカ合衆国憲法)

 さてこの修正第2条の短い文章は、後年その解釈を巡って、憲法の作成者が当
時は思いも及ばなかった議論を呼ぶことになった。この修正条文は元々、次のよ
うに書かれていた。

AMENDMENT II (1791) RIGHT TO BEAR ARM
 憲法修正第2条:武器を携帯する権利

A well regulated Militia, being necessary
to the security of a free State, the right of the people to keep and
bear Arms, shall not be infringed

 ところが議会をパスし、各州で批准された修正文は次の通りである。

A well regulated militia being necessary
to the security of a free State, the right of the people to hold and
bear arms shall not be infringed.

 ご覧のとおり議会をパスした第2の修正文には、第1の修正文にあった
Militia と Arms のあとの二つのコンマが省かれている。コンマがそれほど重大
かというと、200年前の句読点の付け方は、今日よリよほど自由だったのだか
ら、あまり意味がなさそうだというのが、この修正文についての以下の解釈をあ
たえた憲法の専門家 Michael Arnheim 氏の意見である。

 ところがこの修正文にコンマがあるかないかが、修正文の解釈をめぐる激論の
焦点になった。

 修正第2条-the second amendment-については大きく分けて2つの異なった
解釈がある。

 その一派は、ガンを保有する権利をもつのは個人であり、スポーツや、自己防
衛その他いかなる合法的な目的にも適用できるという。彼等は、軍隊やナショナ
ルガードまたはそのほかのあらゆる民兵と同じ権利を、どんな個人でも持ってい
るという。

 ところがもう一派は、修正第2条はナショナルガードのような民兵軍を設立す
る権利を州に与えるもので、いかなる権利も個人に与えるのではないと主張する。

 いうまでもなく、この2派の中間にあたる意見も存在する。この中間意見は次
の通りである。

 修正第2条はある種の民兵が銃火器を持つ権利を認めるが、彼等が国家防衛だ
けでなく、彼等自身の個人的な護身のためにそれを使う事をも認める。

 また背景のチェックを完了した後なら(つまり精神病歴や犯罪暦のない市民で
ある事をチェックする-筆者)遵法精神と責任感をもつ市民ならば、銃火器を所
有してもよい。

 個人的な使途のために銃火器を持つ権利を許容するが、そのガンは、標準的な
軍隊タイプである場合に限る。

 主として保守派に属する人達は個人としてのガン保有の権利を主張し、ガンの
売買に規制が加えられる事に反対する。

 一方、リベラルに属する人は、主としてガンを州の権利だと信じる。彼等は、
保守派のいうようにガンが個人の権利になったときには法を自らの手中にとりこ
む危険性があるので、規制が必要と考える。

 ともあれ、基本的にはこの違いが、今日の極端な分裂状況を生んでいる。ガン
保有の個人権利を修正第2条でぜったいに認められていると解釈するNRAは、
コネチカットの小学生が20人も殺されてさえ、ガンの災厄を防ぐにはこちらもガ
ンを持つことだとガンの統制に反対するのはみてきた通りである。

 ガンに執着するアメリカ人の心には、ひょっとすると、あの時代へのあこがれ
や郷愁めいた想いが混じっているのだろうか。

 いや200年以上を経てアメリカは、今や自衛の手段であったガンから自らを守
るために、国民の知性と良識を結集して新しい文化を創造しなくてはならなくな
った。できるだろうか?

 現実には、サンデイフック小学校の惨事の後、ガンのセールは一躍急増して、
今では製造が追いつかない機種もあると知って一驚した。しかし考えてみるとお
そらくこれは、この事件後に起りそうなガンの販売統制を恐れて、少なくとも
『自衛のために』早く買っておこうという集団的な焦りなのだろう。

 サンデイフック小学校の亡くなった子供たちはみな、3発から11発のブッシュ
マスター連発銃の射撃を受けていた。オバマ政府は、少なくともこの事件で子供
たちの襲撃に使われた上記ブッシュマスターA15 など、何種類かの強襲連発
銃を市場から除去しようとしているが、議会が通す見通しは皆無だという。

 ガン対策の具体案を副大統領バイデンに託したオバマは、もっと通しやすい面
をもつ法案をも含めて、より広いリサーチを試みるようにと彼に依頼した。そし
てこの段階で、オバマが一方的に議会の同意を抜きに、大統領令命令を出す事が
考えられ始めたという。それはそれで又大きな妨害が伴うだろうとはいわれてい
るが、彼の約束したガン統制を実現するためにはそれ以外の方法はないかもしれ
ない。

 これを書いている1月半ば現在、NRAにはサンデイフック事件後、既に10万
人の新会員が殺到して登録をすませたという。いったいアメリカはどうなってい
るのだろう。NRAの信じられないキャッチフレーズ【ガンを持つ悪者を倒すの
はガンを持つ善人】の効果を信じて、人々は本気で、自衛のためにガンをもちた
がっているのだろうか。

 何とも憂鬱なこの空気の中で、オバマとバイデン、今年退任するニューヨーク
のブルンバーグ市長、ニューヨーク州知事アンドリュー・クオモ、長年この問題
にとりくんできた民主党上院議員のダイアン・ファインシュタイン女史は、この
問題を解決するために、もっとも大きな希望を抱かせてくれる。

 ブルンバーグは、アメリカ有数の富者であり、ガン規制の強力な擁護者であ
る。そのために彼はNRAからは嫌悪されている。彼はニューヨークでのガン犯
罪を最低率にした功績を持つ。今、オバマと緊密な連絡を取り合い、ガン暴力の
絶滅のために立ち上がリ相当な金をその運動に投じるらしい。加えてファイン
シュタイン議員はなんといっても強力な政治家であり、これまで政治家が何もし
なかった、できなかったと定評のガン暴力対策を必ず前進させるだろうとの期待
を抱かせる。

 アンドリュー・クオモは同じくニューヨーク州の卓越した知事だった父親を継
いだ、若く有能な政治家である。彼は【州の現況】という、州レベルで最重要の
新年スピーチで、これまででもっとも厳しいガン対策をニューヨーク州で実現す
ると声明した。(そして事実、数日後に議案をパスさせた。)

 彼等に共通するがん対策には、次のような要素が含まれる。

・強襲連発銃(assault weapon)の禁止
・ガン購買者の背景チェックの厳正化(犯罪歴や精神障害者へのガンの販売はこ
 とに厳重にする
・ガンの不正取引を重罪にする
・アルコール、タバコ、銃火器局に責任者を任命する(このポストはなぜか6年
 間空席だった)

 ここまで書きおえたのが1月13日のことだった。ところが、オバマの重要なガ
ン政策がその2日後には発表されることになり、それを無視する事は到底できな
くなった。

 オバマは今回もNRAと妥協して、ニュータウン事件以来の意気込みは不発に
終わるだろうと危惧した人は多かった。しかし数人の小学生も大統領を囲んで、
「危険なガンを取り除くために、できるだけがんばって下さい」と懇請する情景
も見せながら、大統領は今度こそ、ガンの災禍に対応しようとしている。

 憲法修正第2条にうたわれたガンの携帯と保有の自由は、最高裁のお墨付きで
あるが、それはガンを規制するための障害にはならない、と大統領は情熱こめて
断言した。

 「我々の生活を自由に生きて行く上で、我々には自分以外の人々も同じように
自由に生きる事を許容する義務が生まれる。」そして、ニュータウン事件以来、
大半は大都会や小さな町で既に900件のガン暴力による事件があった。もっとも
基本的な生きる権利、幸福を追求する権利が、ガンのために失われる事があまり
にも多かったと述べる。

 オバマのテレビ放送の前に、極右のガンロビー側からは、「オバマは暴君だ。
市民からガンを全くとりあげようとしている」とプロパガンダをまきちらし、狩
猟や自衛のまともな目的で家にガンをおいておく事に反対はしないのだから。

 昨日発表されたオバマの新対策議案は、既存のガン法をひきしめて強化し、議
会をパスしなくてはならない新しい法案をミックスした行政命令(大統領命令)
をだすことである。

 それには背景チェックの強化と、ガン-ショーやオンラインでの背景チェック
なしのガン購買というルーズな抜け口を塞ぎ、中断されていたガン暴力サーチの
復活そのほかが含まれる。そしてこれらは非常な抵抗にあって、議会をパスする
事が難しいことはオバマもバイデンもよく知っている。しかし彼等は、ニュータ
ウンの事件ほどアメリカの良心を揺さぶった事件にはいままで出会わなかったと
いう。アメリカ中の人々が、自分の地域の国会議員に呼びかけて立ち上がれば、
実現するのではと希望している。

 NRAのちからは非常に大きく、彼等に今対抗できるのはもっぱら虚偽の宣伝
を使う事しかないらしい。オバマが行政命令を出すなど憲法違反だ、その罪で大
統領を弾劾して辞任させよ、という議員の声をこの2-3日何度かテレビできい
た。呆れるほかない。

 さてこれがどう落着するか。今日のタイムズには、ガンのために35人が殺され
たオーストラリアで、当時の首相がガン暴力を法案の変更と、ガンを政府が買い
上げる事で解決したという話を書いている。またある著名なジャーナリストは、
旅行する国で、「アメリカは生命の安い国なんだね」といわれてぞっとしたとい
う話を書いている。

 オバマ第2期の重要な仕事は多いが、ガン暴力を絶滅する事はあり得なくと
も、減らせることができれば、あるいはオバマ自身がいうように、1人の命でも
助ける事ができたら、新しいアメリカの出発を祝うべきだろう。

       (筆者は米国ニュージャシー州在住・翻訳家)