【コラム】
あなたの近くの外国人(裏話)(6)

ウイグルからの留学生たち(1)

坪野 和子


 2月中旬、埼玉大学卒業生の教え子から電話がありました。三郷市でウイグル人の日本語スピーチコンテストがあるので審査員をお願いしたい、という主旨でした。その当日ゾンカ語の個人レッスンが入っていたのですが、予感が働いたので、日程調整をしていただき参加しました。主催者のローズさん(ウイグル出身実業家)と電話でお話しを伺ったら、審査員ではなく審査する日本人ということでした。電話の最後に「もし、一緒に来てもらえる日本人の友達がいたら連れてきてください」…と言われて…考えました。数日しかない日程で三郷まで来れる日本人の友達…いや…日本人の友達…えっ? えっ…私…日本人の友達いなぁ~い!! この話しを請けて自分の友達が、いつの間にか日本人が少なくなっていることに気づきました。…決して「いない」わけではないのですが。

 三郷まで来れる友達のほとんどが外国人! このいきさつひとつで今の自分に気づいたのと同時に、日本の状況にも気づきました。いかに日本で暮らしている外国出身者が多くなっているのか、結婚で帰化のため国籍日本、本人の祖父母いずれかが帰国者(残留孤児)で日本国籍取得、いわゆる「ハーフ」(二重国籍)、帰国者などなど。または日本出身ではあってもルーツが外国、国籍日本人ではないけれど日本に3代以上在住、そして、母国の地に一度も足を踏み入れたことがない人、母語をまったく話せない人などなど。
 日本という国は「単一民族国家幻想」という言葉が死語になりつつある国であるということに気づきました。今回は日本語スピーチコンテストでのルポ。当日MCをつとめてくださったエルファン・ヤルマイマイトさんによるプレゼンテーションをまとめました。

◆ 1.「政治抜き」スピーチコンテストの開始前
 私は自宅の松戸市から約1時間かけて自転車で会場に着きました。ウイグル人男性数人が準備をしていました。すべて手作り。会場はお寿司屋さんの宴会場でした。三郷市の国際交流協会の日本人のかたが会場手配してくださったそうです。お寿司屋さんは淡々としていました。会場がお寿司屋さんであることを知っていればここでお昼を食べたのにとおっしゃっていた日本人のオーディエンス審査のかたがいらっしゃいました。なぜかチラシには会場の住所しかなく、たぶん食事付きとか食事の会費が必要という誤解をふせぐためだったのでしょう。表記が難しいですね。
 このスピーチコンテストのお約束事がありました。「政治抜き」。これは彼らの微妙な問題だけではなく、日本の地域のスピーチコンテストによくあるルールで「政治NG」「宗教NG」です。別の地域におけるスピーチコンテストで、IS問題が多くのメディアで取り上げられたとき、イスラム圏の若い子がそれに触れてしまって失格となったこともあるくらい、主張したくなる問題ではあります。今回はものすごく「政治抜き」を強調していました。「政治」を語らないのが日本の流儀ではありますが、それだけではないことを察しました。

◆ 2.ウイグルからの留学生:MCエルファン・ヤルマイマイトさん概略
 まずは主催者からの挨拶。そして「司会者」エルファン・ヤルマイマイトさんから日本語話者に向けてのウイグル人留学生事情についてお話しを伺いました。良いプレゼンでしたし、それ以降、MCとしてプロのような上手な進行。元同業者(大学非常勤講師)としてわかる笑いのとりかた…大学非常勤講師お笑い芸人…退屈させたら寝るもん!! 「日本語で司会をするのははじめただから」と言いながらかなりうまかったです。東京藝術大学の博士課程在学中、デジタルハリウッド大学大学院非常勤講師、アニメ監督。

 アニメを学ぶのに日本しかないでしょ!!という若い彼の熱い自己紹介の経歴でした。私個人としては彼がもう少し早く生まれていれば、アニメは東欧だっただろうと思います。情報が少なかった文化大革命時代の中国領で、良質なアニメは東欧発でしたから。というか、情報量がそこそこにあったいわゆる西側諸国でも、東欧のアニメの技術はイタリアのアニメから進化させた優れていたものでしたから。ですが、その後、日本の映画のカメラワークのような平面の漫画、そしてそれをさらにアニメーションとして細かいアナログなコマ割りの技術などを考えると、いい時期に生まれてきたなぁと感じました。そして彼の人柄も素晴らしい。
 「遠くでみたらどこの国の人かわからないくらいだったけれど、あらっ、近くで見たらウイグル人。だって眉毛…」「眉毛つながっているって」「うふふふふ、そう!!」「親が結婚の心配をしている」「日本人とかイスラムでない国の人との結婚は考えているの」「いや、ダメでしょそれ。ウイグルの文化を守るためにウイグル女性と結婚したい」…ステキな女性と巡りあえますように。

◆ 3.ウイグルからの留学生超概略
 今回は簡単に。エルファン・ヤルマイマイトさんのプレゼンから。1985年、ウイグル人初の国費留学生来日。その後、2000年から私費留学生が増え、現在3,000人のウイグル人が日本在住。私費留学生が多いため、学校とアルバイトで生活を賄っていますが、先輩の日本在住の実業家たちが彼らの活動を支援しています。例として2013年に発足したノルズ(NORUZ)で学習発表会を行う、FCシルクロードというサッカーチームを支援するなど、それこそ政治抜きの純粋な支援。この話は字数の関係で次回へ。

<参考文献>
安瓦尓 安蒂娜(アディナ アンワル)『日本における中国ウィグル族の生活実態に関する考察』 http://ci.nii.ac.jp/els/110007016710.pdf?id=ART0008937864&type=pdf&lang=en&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1489576703&cp=

 (高校日本語コミュニケーションアドバイザー&専門学校時間講師)


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