【コラム】あなたの近くの外国人(裏話)(8)

ウイグルからの留学生たち(2)

坪野 和子


 先月、ゆるしがたい居住地域での事件があり、今回の原稿は本来先月ご高覧いただく予定でした。
 3月末日。九段下に行きました。駅を降りると、ゆるーい中国語に満ちていました。構内を歩いていて、日本語が聞こえるほうが不思議な感覚になりました。ああ、靖國神社参拝に来て千鳥ヶ淵で花見に行く人達のようです。おじいさんおばあさんの兄弟が祀られているのでしょう。みな、家族旅行のようでしたから。え? 中国人が? 靖国神社って軍功を祀るから嫌いでは…。いえ、台湾人のみなさんです。日本という国は「多民族国家」だった…。お蔭さまでインド大使館の中に入ったら英語の切り替えがスムーズにできました。

 今回も日本語スピーチコンテストでのルポ。当日MCをつとめてくださったエルファン・ヤルマイマイトさんによるプレゼンテーションの続きと、スピーチから伺い知れる留学生事情と多言語話者である彼ら彼女らの日本語吸収について。

◆ 1.私費留学生だから…

 当然、国からお金が出ないので、生活は仕送りだけということは日本では難しいだろうということは想像に難くないでしょう。まずは学校とバイトの両立があっての日本の学生生活ということになります。これはウイグル人だけでなく、すべての私費留学生にとって、いや日本人でも日本出身でも日本在住でも同じことです。私より年上だとバイトしていたら苦学生となりますし、実父(生きていれば90歳)より上の世代は書生さんでしたがね。スピーチのエピソードとして、またはトピックとしてバイトにかかわる話しが出てくることになります。

 トピックとして「いらっしゃいませ」というタイトルでスピーチした東大生は、温かい飲み物とチョコレートを別の袋に入れなかったためにお客様が返品してきたといった話しでした。さらに、司会者エルファンさん自身もコンビニはすべて、つまりセブンイレブン、ファミマ、ローソンなどなど経験した、コンビニは留学生バイトの定番だよね、1週28時間以内(当該教育機関の長期休業期間にあっては、1日8時間以内)の範囲だからね、と。私自身はコンビニのバイトって良いと感じました。特に日本語学校や大学の留学生センターなどでは授業も型どおりであることが多く、外国人だけで顔を突き合わせて日本語を話すことになるので、「留学生日本語」になりがちです。だから、いろいろなシーンで日本語を覚えるのに適しています。留学生コンビニバイトの話題はいずれまた別の機会でも綴らせていただきます。

◆ 2.語彙力があるウイグル人 第三または第四言語としての日本語

 ウイグル人だけ、というスピーチコンテスト。それだけに彼ら彼女らの言語がどうなっているのかが窺い知れました。ウイグル自体、ウイグル語以外の言語を話す民族とともに居住しているので、すでにバイリンガル以上となります。そして、宗教的にも本来の使用文字もアラビア語が必要となります。さらに中国語で教育を受けています。ですから、日本語は第三または第四言語ということになります(言語教育では母語以外はすべて第二言語というのですが、あえて)。そんなにいっぱい喋って定着できるのか??と思うかたもいらっしゃると思います。かつて日本で小学校からの英語教育は母語が定着していないのに…日本語がおかしくなる…という議論をされていたことがありました。
 英語圏の片親を持つ…または帰国者、あるいはその両方の人たちの日本語を想定して、そのような議論になっていたのだろうと気づきました。そういう人たちは、年齢相応の言葉を覚えていないからであり、また家庭でバイリンガルであるためなのです。学んだ言語はまた別であり、学んだ言語を使うことで母語も外国語も伸びていくものだと、このスピーチコンテストで確信しました。「親の脛を齧って暮らしていた私が留学して」「十人十色」「私を驚かせたのは」「鬼のような形相で」「イヤでイヤで堪りませんでした」など、日本人の若者でもなかなか使いこなしていない日本語の語彙がたくさん出てきました。

 そして!! 休憩時間。なんといっても話題として無難なのが、豚とアルコールと血の問題をどうしているのか、というハラルの話し。コンビニおにぎりで、たまぁにポークエキスが入っている味付けがあるけれど、ツナマヨ、鮭のシンプルなものを選んでいる、お菓子や惣菜や医薬部外品など食品表示を見て、化学的な調味料が入っていてそれは何に由来するのかわからなかったらどうするの??と訊いたら…答えが「凄い」!! 凄かった…!! 「僕はメーカーに電話をかけて成分由来や原産地を質問します。わからないときはすぐに電話しています」…ええ!! 私でも外国語で電話するのが億劫なのに…なんという人でしょう!! こうやってどんどん日本語を使っていくからうまくならなきゃ嘘でしょう。

 思い出したのですが…これは、ウイグル人ではないのですが、お相撲さん。琴欧州関のこと。テレビのレポーターが「関取、日本語すごいですね。私なんか中学から8年も英語の勉強をしたのに、ぜんぜんダメなんです」(彼女の日本語も稚拙ですが)。返答「いや、勉強していなかったんじゃないですか」…努力している人・使っている人。言葉だけでなく、異境の生活も。日本に在住する外国人から学ぶことがたくさんあります。

 次回は上尾市のワールドフェアで知り合った友達とスピーチ大会の話。

 (高校日本語講師&専門学校時間講師)

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