ウクライナ紛争・新たな帝国主義時代の始まり

ウクライナ紛争・新たな帝国主義時代の始まり
〜オバマの秘密戦争の失敗とプーチン〜

濱田 幸生

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■オバマの秘密戦争
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 バラク・オバマが大統領に就任した時、多くの人は「戦争と核のない世界を実現しようとする理想的指導者」が現れたと期待しました。しかし、現実のオバマがやったことは、ブッシュ・ジュニア時代の対テロ戦争を継続し、無人機や特殊部隊を使った作戦に切り替えただけにすぎませんでした。オバマはノーベル平和賞までもらったパシフィスト(平和主義者)の顔の下に、他国の主権と国民への無人機攻撃を好むもうひとつの顔を持つ人物でした。むしろ、米本土から軍事衛星を介して操作される無人機攻撃はピークを迎え、頻繁な一般人誤爆を招きました。

 それだけではなく、彼の政権は共和党政権以上に他国に対する陰謀工作や外国要人に対する盗聴は常態化しました。近年では同盟国のメルケルの個人携帯まで盗聴していたことがバレて、大恥をかいたばかりです。このオバマの他国への陰謀工作の一環が、今回のウクライナのヤヌコビッチ政権打倒だったようです。
 オバマはそれを引き継いで発展させ、今回のウクライナ政権転覆に利用したのです。

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■キエフにいた米国国務次官補が命じた組閣指令とは
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 ここに一枚の写真があります。米国の左派系ネット「グローバル・リサーチ」などからから流出したものですが、おそらく本物と思われます。
 そこに写された中央の女性が米国務長官補ビクトリア・ヌーランドで、右が暫定政権首相になるヤツェニュク、奥がクリチコ、左側の人物がネオ・ナチ政党スボボダの指導者であるオレフ・チャフニボクです。

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 2月上旬に、アメリカのヌーランド国務次官補とジェフ・パイエト駐ウクライナ大使とが、ウクライナ野党勢力の今後の人事について相談している電話の会話が Youtube に流出しています。なおこの電話がほんものであることは、国務省報道官が認めています。
 この電話で、ヌーランドはこう言っています。
 「クリチコが政権に入るのはよい考えではない。経済に関する経験や政治の経験があるヤツェニュクが首相になるのがよい。チャフニボクとクリチコは閣外にいればよい」
 結局、このクーデター政権は、このヌーランドの言うとおりのメンバーで組織されました。一国の合法的政権を暴力的に倒し、自分の思う通りの新政権を作るとはなかなかいい根性です。
 米国はかつてイラクで、ありもしない大量破壊兵器で言いがかりをつけたあげく、合法政権を武力で倒し、テロと内戦の地獄に変えたことをまるで総括していないようです。今回のウクライナ紛争で、ヤヌコビッチ前政権と野党との合意ができそうなたびにそれを暴力的に破壊したのは、「右派セクター」やスボボダのようなネオ・ナチの「暴力装置」でした。彼らは戦闘部隊として組織化されており、治安部隊への攻撃の手段を選びませんでした。そして彼らは今まであった野党勢力からの指令ではなく、まったく別個に行動していたのです。

 一説によれば、ウクライナのネオ・ナチは、歴史的にナチス・ドイツの手先であると共に、戦後は貴重な旧ソ連圏内の反共組織として米英の情報機関によって保護されてきました。彼らは2004年以降、バルト3国にあるNATOの訓練施設で軍事訓練を受けていたとさえ言われています。(未確認)

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 スボボダの集会の時のチャフニボクの写真を見ると、彼のネオ・ナチの本性がわかるでしょう。(今の西欧で政治家がこんなナチ式敬礼をしただけで失脚)
 ちなみにヌーランドは共和党員で、夫はネオコンとして有名なカール・ケーガンです。
「Voice of Russia」(ロシアの声)は、本当かどどうか確かめようがありませんが、こう書いています。
 「ウクライナのコレスニチェンコ地域党議員は、同国で起こっている出来事について、外国のスパイから資金援助を受けていると述べた。コレスニチェンコ氏は、「キエフの状況は1年以上かけて準備された。外国のスパイたちは、クーデターを起こすために、最近数年間で100億ドル以上の資金を提供した。スパイたちは、非政府組織を装って最高会議で活動している」と述べた。コレスニチェンコ氏はこれより先、ウクライナで起こっている出来事は、「欧州と米国が計画したクーデターだ」と述べている。」(「ロシアの声」2月23日)
 100億ドルうんぬんは眉唾だとしても、欧米、なかんずく米国がこのウクライナ政変の影の主役であることは相当な確率でたしかだと思われます。「ロシアの声」がロシアの代弁者だということを差し引いても、今回のウクライナ紛争の真の火付け役は、米国ではないか、という疑惑は深まるばかりです。このようにウクライナ新政権は、国際投機資本、石油パイプライン資本、そしてネオ・ナチの合体によってできあがったものです。

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■ガリツィア地方とウクライナ民族主義
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 では、なぜウクライナにネオ・ナチが発生したのでしょうか。またそれがどうして西ウクライナに多かったのでしょうか? いくつかのキイワードがあります。おもいつくままに挙げてみましょう。「ガリツィア地方」「ホロドモール」「スターリン」「ナチス・ドイツ」・・・。
 ご存知の方も多いでしょうが、近代ウクライナと隣国ポーランドは大国の勝手な領土拡大欲によって、まるでサッカーボールのようにあっちに蹴られたり、こっちに蹴られたりしてきました。今なにかと話題を提供しているガリツィア地方がある西ウクライナは、かつてハプスプルク帝国(ハンガリー・オーストリア二重帝国)の版図でした。

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 ウクライナ全体から見ても特殊な地域で、宗教的にも他のウクライナが東方正教会なのに対して、カソリックの一派であるユニア派に属しています。さて、この地域は、このハプスプルク帝国が崩壊した後18世紀から第2次世界大戦まで、ポーランド領となりました。ところが、ヒトラーとスターリンの独裁者間の密約によって、ポーランドはナチス・ドイツとソ連に分割され、民族分断と強制移住による悲劇を生み出しました。
 このガリツィア地方もその時の分割の結果により、ソ連領ウクライナであった東、南、中部ウクライナと統合されて、今のウクライナの版図になります。

 こう見るとまさに大国の狭間で、国土を寸断され、チェスの駒のようにいじられまくった東欧の悲劇が見えてきます。このガリツイア地方はその中でも、ひときわ独立の気風が強く、既に18世紀のハプスブルク帝国時代から独立運動が始まっています。
 第2次大戦が勃発し、1939年にヒトラーがポーランド侵攻を開始すると、それに呼応して反露、反共でヒトラーと共闘することになります。その時、ウクライナ民族主義者を率いたのがステファン・バンデーラです。
 今やバンデーラ主義(バデーロフツィ)とすら言われて、ウクライナ民族主義、いや有体にいえばウクライナ・ネオ・ナチの思想的カリスマになっています。

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 (左端がバンデーラ、右端がスボボダのチャフニボク。右上の黄色の三本指がスボボダのシンボル・マークのひとつ)

 ウクライナ民族主義者が目指したのは独立国家でしたが、結果として彼らが成したのはユダヤ人虐殺でした。バンデーラの率いるウクライナ民族主義者組織(OUM−B)は、進行したナチス・ドイツ軍と共同して、多くのポグロム(ユダヤ人虐殺)とポーランド人虐殺を繰り返します。こうしたウクライナ親ナチ勢力は、ナチス・ドイツの敗北と共に崩壊しますが、まだ悲劇は終わったわけではありませんでした。

 ヒトラーがソ連との戦争に敗北すると、ガリツィアに戦車で乗り込んで来たのはスターリン・ソ連でした。ソ連は西ウクライナを奪い、東、中央、南ウクライナ地方すべてを武力併合します。この時、ガリツィアの宗教であったカソリックは捨てさせられ、ロシア正教が強制されました。そして当然のように、未だかつてない規模の独立運動への大弾圧が襲いました。

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■スターリンの大飢餓とウクライナ
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 かつての大戦で、日本軍を「解放軍」として迎え入れた東南アジアの独立運動家がいたように、ウクライナのみならず東欧、北欧の諸国ではナチス・ドイツを歓迎する動きがありました。ウクライナにおいては、独立運動家の多くはSS(ナチス武装親衛隊)「ガリツィア師団」、別名「SSウクライナ師団」に入隊しています。たしかにウクライナ・ナショナリストには、独自に国家社会主義的思想を持っていたことは確かですが、それだけがナチスに走らせた理由ではありませんでした。

 ウクライナは1922年に、スターリン統治下のソ連の一共和国に編入されます。
 当時、ソ連は革命直後の内戦が終了したばかりであり、国庫は見事にからっぽでした。そのためにぜがひでも輸出して外貨を稼ぐ必要があったのです。外貨を稼ぎ、重工業化を進めるというのが、当時のスターリンの強い意志でした。そのためにもっとも手っとり早い外貨獲得手段として目をつけられたのが、ウクライナの穀倉地帯だったわけです。ここでスターリンが取った手段が、悪名高い飢餓輸出です。

 これはその名の通り、洗いざらい強制的に徴発して輸出に廻すことです。1930年代、GPU(国家政治保安部)は強権的にウクライナの農業集団化を実施します。「集団化」とは、土地を農民から奪い、コルホーズ(共同農場)に一元化することです。
 この集団化の過程で共産党は、村の指導者層は「富農」として処刑し、農地を手放すことを拒否する農民は「反革命」「人民の敵」というレッテルを貼って、これも処刑するか、家族もろともシベリア流刑に処されました。
このときにGPUは、ウクライナ民族主義者、知識人、自由主義者を根こそぎ逮捕し、「人民の敵」として処刑するか、ラーゲリ(強制収容所)送りとしました。まさに悪鬼の所業というにふさわしいでしょう。
 また、共産党の官僚たちは点数稼ぎのために、徴発の水準を恣意的に高くしたために、ノルマ達成が困難な村が多く出ました。そうでした。このノルマという言葉も元はと言えば、そのスターリン主義の時代に使われた忌まわしいロシア語です。豊穣な穀倉地帯であったウクライナもみるみるうちに疲弊し、農民に不満が鬱積していきます。たとえば、集団化と強制徴発政策を共産党官僚の言う通り実施すれば、農民自身が食べる麦も残らず、翌年の種籾すら食べてしのぐ状況がどの村にも現れます。

 穀物の取引さえ禁じられたために、農業地帯の街には餓死者が増加していきます。しかし、農産物は共産主義体制の下では、農民の私有物ではなく「人民の財産」とされ徴発ノルマの不達成はラーゲリ送りを意味しました。畑に落ちた落ち穂を拾ったばかりに流刑地に家族もろとも10年間の流刑に処せられた例すらあります。飢えのあまりエンバクなどの飼料用穀物を食べた農民は、「人民の財産の悪用」として流刑にされました。

 「都市から派遣された労働者や党メンバーから構成されたオルグ団は空中パトロールで畑を監視し、農場にはコムソモール(共産青年団)のメンバーが見張りに送り込まれ、肉親を告発すれば子供にも食物や衣類やメダルが与えられた。党の活動家達は家々を回り、食卓から焼いたパンを、鍋からカーシャまでも奪っていったと言われる。食料を没収された農民達はジャガイモで飢えをしのぎ、鳥や犬や猫、どんぐり、イラクサまで食べた。」(Wikipedia)

 「スタニッツァ・ボルタフスカヤという人口4万人の村は、食料調達に応じる事が出来ず、村の住民が丸ごと追い立てられ、男性は白海・バルト海運河建設へ、女性はウラルのステップ地帯に送られ、離散を余儀なくされた。」(同)
 その上、逃散しようにも1932年に国内パスポート制度が始まり、移動は原則禁じられました。中世の農奴ですら、生きるための穀物は得ていたのですから、まさに共産主義という名の狂気です。「ウクライナ人たちは強制移住により、家畜や農地を奪われたために家畜を奪われ、穀物を収奪されたことによる死亡者は、400万人から1,450万人と言われ、400万人の出生が抑制された」(Wikipedia)とされています。
 (※飢餓による死亡者数は複数の説が存在します)

 その上、スターリンはこの大飢餓の責任をウクライナ共和国政府に押しつけました。そのためにウクライナ・ソヴィエト政府主席以下多くのウクライナ人が、スターリンによって処刑されるか自殺する運命となります。また、スターリンは国外の亡命ウクライナ人に、「祖国建設のための帰還」を呼びかけました。しかし彼らに待っていたのは「人民の敵」「帝国主義のスパイ」という罪状でした。スターリンは自由主義的思想を根こそぎにしたかったのです。彼らもまた処刑されるか、強制収容所送りとなります。

 ウクライナ政府は独立後、この大飢餓をホロドモールと呼び、ウクライナ人に対する絶滅政策であったとしています。このような時代を背景にして、国がそのまま巨大な強制収容所と化しました。このウクライナ人の怒りが、ウクライナ独立への運動へと転じたのも当然のことです。この怒りの土壌からウクライナ・ファシストは誕生し、そして今また現実政治の中に蘇りました。

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■EUなんかに入るのはお止めなさい
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 さて、もし私がウクライナ人から、「EUへ加盟したいんだが、どう思う」と聞かれたら、絶対にお止めなさいと答えると思います。いいことないですよ、あそこは。
 ウクライナはEU加盟によって、法の支配、恐怖からの解放、腐敗の一掃、そして自由市場が得られると思っているのでしょうが、その望みは叶うでしょうか。まぁ「自由市場」とやらだけは叶えられでしょうが、それはウクライナ人が素朴に思っているのとは真逆です。その前に、前項からの続きのウクライナの独立からの経済を簡単に振り返ってみましょう。これがわからないとウクライナの難問が解けません。

 ウクライナ自体の経済構造は、ソ連の一共和国だったために大変にいびつでした。旧ソ連は、傘下の共和国に、お前はナニを作れ、お前はコレを作れというような、ソ連を一国と見立てた垂直分業システムを持っていました。ウクライナには、そのうち戦車や航空機、艦艇などの軍需工業と、小麦生産があてがわれました。逆に言うと、他の分野はひどく貧弱です。スホーイ27やT72などの戦闘機や戦車は山ほどあっても、民需品はないに等しいのです。

 その上すべて国有企業でした。独立後しばらくは国有経済のままで、ようやく「オレンジ革命」で解体されました。しかし、その時に大変な汚職が起きました。国民の財産のはずの国有企業が、国民が知らないうちにただ同然で払い下げられていたのです。これで誕生したのが、今のウクライナを代表する6大財閥です。これをオルガリヒと呼びます。こんどの大統領選に出るという元首相のユーリ・ティモシェンコもこれで巨富を得ています。彼女の場合は、ラザレンコという地方政治家に政治資金を与えました。

 そして、彼が首相に就任すると、今度はティモシェンコの会社UESUにウクライナ全土をほぼ独占するガスの輸入・販売権を与えて、この会社はウクライナGDPの30%を占めるという法外な利潤を生み出していました。こうして彼女は一気にウクライナでもっとも富裕な人物になったのです。彼女は政治犯でなかったにもかかわらず、EUの「連合協定」の民主化要求で釈放されました。このような独立後のドサクサに紛れて国有資本を私物化する者は多く、彼らの財閥は輸出利益の免税などの特権を得て、それをせっせとタックス・ヘーブン(租税回避地)のキプロスに逃避させ蓄財に励みました。

 これは今の中国にも言えることですか、政府高官と財閥が癒着し腐敗したダーティ・マネーをやりとりしたあげく、それを海外に持ち出すという構図です。おそらく国外へ逃げた金だけで、数百億ドルと言われ、このダーティ・マネーを投機にまわそうとして、折から猛威をふるっていた国際投機資金と結びつきました。これが今でもある、ティモシェンコとジョージ・ソロスとのご縁です。この勢力が作ったのが、今の暫定政権与党の「祖国」です。

 もうひとつ馬鹿にならない実入りが、ロシアからの天然ガスのトランジット(通過)代でした。ウクライナには西欧へのロシアからのエネルギー動脈が伸びていますが、この利権も一部の人たちに独占されて、巨富を築いたのがビクトル・ピンチュクです。
 このピンチュクが作った政党が、これも今政権与党にいるUDARです。しかし、これらはリーマン・ショック以降ガタガタになり、今やウクライナのGDPは独立前の1989年の75%程度まで落ち込んでいます。国民の平均賃金は隣のポーランドの3分の1で、月収は3万円ほどだと言われ、人口は1989年から680万人も減って、現在4500万人にまでになっています。
 旧宗主国・ロシアからの150億ドルの巨額支援と、18億5千万ドルの天然ガス代金の不払い、果てはガスの抜き取りなどでなんとかやりくりしていましたが、とうとうデフォールトしかないところまできています。ウクライナは、いまや優秀な重工業と、世界有数の穀倉を持ちながら、ヨーロッパ最貧国となってしまったのです。この現状に国民の不満が溜まらないわけがありません。この不満を背景にしてぐんぐんと勢力と伸ばしたのが、オレフ・チャフニボクの率いるスボボダのようなネオ・ナチでした。

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■EUは過激なTPP
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 ではこのような状況のウクライナがEUに加盟することを考えてみましょう。
ひととでいえば、EUとは自国の主権を捨てて経済・社会・軍事的共同体を形成することです。軍事はNATO(北大西洋条約機構)ですが、EUとNATOはほぼ重なっています。プーチンは既に2008年のNATO−ロシアサミットで、クライナがNATOに加盟した場合ウクライナ東部とクリミアは、ロシア人保護のために併合すると宣言していました。今回それが現実になったわけです。

 それはさておき、TPPは経済分野だけで、財政、金融、軍事は枠外です。その意味でEUは、過激なTPPのような性格だと思えばいいでしょう。EUは前身であったEEC(欧州経済共同体)の名どおり、「共同体」である以上、主権のかなりの部分を捨てねばなりません。それはどういうことでしょうか。たしかに今までロシアに借金だらけだったり、油代金が積もりに積もっても、あるいはロシアに宗主国のような顔をされていたとしても、ウクライナは立派な主権国家でした。

 しかし、EUというグローバリズム経済の「社会実験装置」に加盟すると同時に(それ自体かなりハードルが高いですが)、半主権国家に転落します。あたりまえですが、EUは仲良し連合でもなければ、互助会でもありません。ドイツが盟主のグローバル経済の修羅場です。ヤヌコビッチ前政権がEUとの「連合協定」を破棄したことで今回の紛争になったわけですが、ヤヌコビッチが拒否したのは単なる親露派だったからではなかったと思います。

 欧州連合への加盟希望を表明している国に対しては、その地ならしとして加盟希望国の政治、経済、財政、金融、貿易、人権改善などを求められます。服役中の反露派のティモシコの釈放などもこのEUの要求だったはずです。しかし、そんなものはほんの一角にすぎません。EUから見れば、ウクライナなど単なる巨額な負債を負ったデフォールト寸前の最貧国でしかありません。本心でいえば、ウクライナなど加盟させたくはないはずですし、「連合協定」と引き換えに出さねばならない支援金も本心はビタ一文も出したくはない、それが財政危機に悩むEUの本音なのです。

 元々はロシア主導の「関税同盟」からウクライナを引き剥がすために、しかたなくウクライナと「連合協定」を進めているというのがほんとうのところだったはずです。その時は10〜20億ドルの短期支援でお茶を濁すつもりだったのでしょうが、しかし、今後、クリミアのロシア領編入という緊急事態を受けてウ〜もス〜もありません。

 例によって国際社会のキャッシュ・ディスペンサーの日本は、米国より多い12億ドル(円借款)出すはめになりました(やれやれ)。もちろんEUも、「ロシアがヤヌコビッチ政権崩壊前に確約した支援規模に匹敵する150億ドルを拠出」(ロイター3月6日)するそうですが、まちがいなく支援の見返りは安くないはずです。たとえば、EUでは財政の権限はヨーロッパ中央銀行(ECB)しか持っていませんから、財政赤字削減のための政府支出の大幅緊縮が命じるはずです。これはウクライナが独立国でありながら、自分の国の予算執行を自由にできないことを意味します。

 ギリシアやポルトガルなどではECBの命令で、一挙に公務員給与や社会保障費、公共事業費などに大鉈が振るわれ、政府資産の売却が進みました。それと同時に、ECBは、グローバル化のための規制緩和を緊急支援の条件にするでしょう。これにより、関税自主権は奪われ、外国産の高品質の工業製品や食糧が津波のようにウクライナに侵入します。EU域内の外国企業は内国法人と同様の権利をもちますから、関税以外でも国内産業保護ができなくなります。

 特許権などの知的財産権や環境基準ついても、EUと同じ基準が課せられるはずです。このようなグローバル化の嵐が吹き荒れた場合、国内企業は軒並み倒産の憂き目に合うでしょう。唯一ウクライナを支えていた軍需産業と穀物、鉄鉱輸出も、ユーロの為替水準に合わせるために通貨切り上げになり、軒並み不振に陥ります。特に今の時期はユーロは他の通貨に対して高値ですから、最悪の時期に加盟となることになります。

 国債もギリシア10年もののように17.5%ていどくらいに跳ね上がるでしょう。
 現時点のスペインの失業率は20%、ギリシアに至っては28%(!)です。ウクライナもこれに近い水準になるでしょう。その時セーフティネットになるはずの社会保障費や福祉・医療関係予算は、緊縮財政で既にボロボロになっているはずです。主権国家ならば、このように経済がボロボロになった場合の救命ボートとして為替の切り下げという特効薬があります。

 国家には金融主権がありますから、貨幣を多く刷ることで為替安に導き、輸出競争力をつけたり、観光客に安さでアッピールすることも可能です。古都キエフも暴動で焼け焦げましたが、復旧すれば観光客を呼べます。優しく親切なウクライナ人の気性は外国人旅行者を慰めてくれるでしょう。しかし先ほど述べたように、ユーロという共通通貨になることでその不況の特効薬が使えません。ユーロという共通通貨になっていい思いしたのは、ヨーロッパでは今までそれなりに高い為替相場で苦しんできたドイツなどの先進国だけなのです。EUはよくドイツの一人勝ちといわれますが、それはドイツ製品が無関税で域内に輸出できることと、それまでのマルクよりはるかに安いユーロの為替相場が使えて、急にドイツ製品大ディスカウント大会になったからです。

 東欧一の工業地帯を持つウクライナは軍需産業に傾斜しすぎていますから、無関税で入ってくる高品質の輸入品に太刀打ちできるはずもありません。おそらくドイツ製品が津波のように国内に入ってきます。その逆に、ウクライナ製品はユーロ相場に合わせたために値上がりして、売れなくなります。貿易はゼロサムゲームですから、ドイツ製品が勝てば、それだけウクライナの貿易赤字は増えるのです。そして最後に、サービスや人の移動も自由化されますから、ネオ・ナチの皆さんが大嫌いな「ユダヤ資本」や、外国人移民が流入するでしょう。

 ちなみに外国人移民が増えた諸国は、軒並みに極右政党が伸びています。また高賃金を求めて、医師、看護婦、技術者、教師、技術者などの技能職は外国に流出します。というわけで、たしかにデフォールトが回避された代わりに、こんな未来が予測できます。

㈰関税自主権がないから国内産業はバタバタ倒れ、失業者が激増
㈪金融自主権がないので為替レート切り下げが自由にできず、輸出がピンチ
㈫財政自主権がないので緊縮財政を命令され、社会保障がボロボロ
㈬ヒトとサービスが自由化されるので外国人がワラワラ入ってくる
㈭共通通貨ユーロの縛りで為替高。来てほしい観光客は来ない

と、まるでいいところなしです。だからお止めなさい、と言っているのです。
 こう整理してみると、たしかにTPPとEUはグローバリズムだけによく似ています。違うのは㈪㈫㈭です。ただEUのほうがはるかに劇薬だということです。とてもじゃないが、今のウクライナが服用していいものではありません。EUではなく、米国主導のIMFがやったらもっと冷厳にしめつけてくるだけで、内容的には似たようなものです。

 EUに行くことはグローバル経済の餌食になるだけで、まったく救いにならないのです。ウクライナはいままでまともな市場経済を持っていませんでした。ソ連型中央指令型計画経済から、国有財産の盗っ人による寡占経済、そして今の革命と混沌。西欧を頼りたい気分はわからないでもありませんが、今のような未成熟な資本主義からいきなりグローバル経済の草刈り場に突入するのは、とてもお勧めできません。

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■早くも始まったIMF支配
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 このように見てくると、私たち日本人は、ロシアから歴史的に圧迫を受けてきただけにウクライナに感情移入しやすいのですが、今回に関してはむしろロシアのほうが気の毒なくらいです。さて、暫定政権のこんな甘い思惑とは別にIMFはいたって冷厳でした。IMFはウクライナ向けとして緊急支援枠として140億ドル〜180億ドルを了承しました。もちろんタダではありません。しっかり改革要求がついてきます。財政の建て直しを名目とした緊縮財政です。

 今まで2回のIMF支援策案は拒否されましたが、今回はウクライナも飲まざるをえなくなったようです。EUやIMF側は、ここでウクライナをデフォールトさせてしまうと、貸し込んでいるオーストリアやドイツの銀行まで連鎖させることになりますから、強力な圧力をかけたと思われます。
 このためにロイター(3月27日)によれば、ウクライナ議会はIMF支援の受け皿として「危機対策法」を可決し、5割の補助を出していたガス料金補助を打ち切ることとなりました。国民からすれば、これは5割ものガス代値上げになります。ウクライナは伝統的にガスによる集中暖房方式に頼っているために、このガス代値上げは国民の生活を直撃するはずです。

 今年もヨーロッパ全域の寒波のために、ガス菅が破裂して事故が多発したそうですが、今年から寒波だけでなくガス代の大幅値上げまで心配せねばならなくなりました。
このガス代補助以外にも、ウクライナは元社会主義国家だけにいくつもの生活補助を持っていて(それがあるから平均月収3万円で暮らせるわけですが)、これに対してもバサバサ切られることになるはずです。

 この低賃金と補助金カットに加えて、10%を越えるインフレが始まっており、ますます国民の生活は苦しくなる一方です。5月の大統領選挙という天王山に向けて、「改革」を押しつけたい欧米と、受け入れたら国民からソッポを向かれて選挙に負けることがわかってきた暫定政権との綱引きとなります。

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■ウクライナ暫定政権の混乱とその先
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 3月末に米露外相会談がパリで開かれましたが、なんの進展もありませんでした。ロシアは、ウクライナが憲法を変えて連邦制を認め、東部の自治を拡大すべきだと発言したようです。もうロシアは東ウクライナまで視野に入れた動きをしています。
 「インタファクス通信によると、ラブロフ外相は、米国側との協議が「建設的なものだった」と評価したうえで、ロシア系住民が多く住むウクライナ東部の自治拡大に向けて、ウクライナの改憲を通じた「連邦制」の導入以外に事態打開の道はないとの見解を示した。」(産経3月31日)

 さて、次のウクライナの政治的焦点は、5月25日に予定されている大統領選挙です。これに欧米が推す暫定政権が負け、IMF支援を拒否する親露勢力が勝利した場合、欧米の目論見はこの時点でお終いです。欧米はなにがなんでも暫定政権に勝ってもらわねばなりません。そういった中、暫定政権に加わっている「右派セクター」のリーダーだったオレクサンダー・ムージチコが治安部隊に射殺されました。

 暫定政権は、繰り返しになりますが、2004年の「オレンジ革命」の勢力であったソロスなどの金融資本がバックにある勢力と、独立後に火事場泥棒で国有財産を盗んだ旧共産党幹部(オルガリヒ)の合体したものです。ひとつかつての「オレンジ革命」と異なるのは、ネオ・ナチが「暴力装置」としてこれに加わったことです。「右派セクター」は、多くあるネオ・ナチの中でもひときわ過激で、2月の反政府闘争を一気に内戦状態までもっていった組織でした。彼は過激なネオ・ナチで、ロシアから指名手配を受けています。いわば暫定政権内のハネ上がりといったところでしょう。危険人物が治安部隊に殺されるというのはよくありそうな話ですが、彼が死ぬ前に YouTube にアップした「遺言」が波紋を呼びました。

画像の説明

(YouTube) http://www.youtube.com/watch?v=X-rlNNx82UE

 ムージチコは映像でこう言っています。
 「検事総長室や内務大臣が自分の処分を決定して、自分を殺害するか、捕まえてロシアへ引き渡し、全ての責任をロシアの情報機関になすりつけて非難する段取りになっている」
 彼の言うとおりなら、射殺を指令したのが他ならぬ検察を握ったネオ・ナチの主流派・スボボダのオレー・マクニスキーだということになります。
 その上、これに承認を与えたのも、同じくスボボダの大物で、次期大統領の有力候補とされているオレフ・チャフニボクだという説もあります。

 ムージチコはAFP(3月29日)によれば、チェチェンでのつながりからイスラム過激派のパイプ役をしていたと見られています。
 またソース不明情報では、天然ガスパイプラインを攻撃するという脅迫をしたという噂もあるそうです。内務省が、パイプラインを「ウクライナでもっとも重要な資産として軍が保護する」命令を発しているところをみると、実際そのような動きがあったのかもしれません。この事件はおそらく、EUやIMF、つまりは欧米と協調して彼らの支援と引き換えに要求を呑むべきだという暫定政権主流派と、ロシアのみならず欧米とも対決姿勢を鮮明にする過激派との間の争いです。そして前者が後者のハネ上がりを排除したと読めます。

 米国は、IMFの支援と引き換えに、暫定政権内に居すわったネオ・ナチを一掃するように要求しているはずです。多数のネオ・ナチがいて、しかも治安関係の要職についているような暫定政権は、国際社会の承認をえられないばかりか、ロシアにとって格好の攻撃材料となっています。戦後、ネオ・ナチ残党を温存し育成して、今回のヤヌコビッチ政権のクーデターに用いたのが他ならぬ米国だったことも暴露されたくはないはずです。この米国の要求を受け入れて、純正ネオ・ナチでありながら、党名をスボボダ(自由党)に掛け替えたといったセンスを持つプラグマチックな政治家のチャフニボクが、「右派セクター」との権力闘争を決意したという仮説も成り立ちます。
 今の暫定政権は、その名のとおり合法性を持っていません。クーデター直後の民衆に拍手で「承認」されたような政権です。

 ネオ・ナチと国有財産の簒奪で富を稼いだような連中の野合政権に、統治能力があると思うほうが無理があります。また東ウクライナのロシア系住民の反発は既に開始され、3都市で叛乱が開始されました(4月11日現在)。おそらく、各派の民衆や民族が激しい抗争をしていき、再びロシアの介入もありえます。オバマ米国の火遊びから始まったウクライナ紛争は、いまや新たな帝国主義の時代の扉を開けてしまいました。
 オバマは、アレクサンドル・ブーギン(露の国際政治学者)の、皮肉なこの言葉をかみしめるべきでしょう。「米国が介入すると必ず、アフガンでもイラクでもリビアでもシリアでもウクライナでも、 人々は狂わされ、社会は分断され、国家は瓦解する」(「ロシアの声」) 了(4月11日執筆)

 (筆者は行方市在住・農業者)


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