オバマの視点―イスラエルとパレスチナ

【アメリカ・レポート】

オバマの視点―イスラエルとパレスチナ        武田 尚子

   2013年3月21日のイスラエルでのスピーチから
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「ご歓迎ありがとうございます。」(喝采、拍手)

「すぐる二日以上、私はナタ二ヤフ首相とペレス大統領にお会いし、我々両国を
結ぶ絆を再確認いたしました。Shrine of the Book (イスラエル博物館の一部
で死海の巻物を含む多くの考古学上の遺物の展示がある)ではお国の古代史を目
撃し、お国の科学者や企業家にはイスラエルの輝かしい未来を見ました。貴国は、
博物館とパテントの国、不朽の聖蹟、死海の巻物と火星の遊歩ロボットテクノロ
ジーが共に起源を有する国であります。」(拍手と歓呼)

 「しかし私がもっとも待望していたのは、あなた方青年と直接お話しすること
でした。それは我々を今日ここに集わせた歴史と、あなた方が未来の何年かに作
られる歴史のためであります。」

 このように話し始めたオバマは、彼がきたのは、すぎ越しの祭りという聖なる
日の前夜であること、そしてそれは、‘わが国土、わが家’を夢見る何世代もの
ユダヤ人たちが祭りのテーブルを囲み、歌とワインと踊りで誓いを新たにし、
1948年にはイスラエルという国でそれを実現させた誠に重大極まる祝日であるこ
と、さらに彼は家族や友人とそれを祝った後、「この祭日をホワイトハウスに持
ち込んだことを私は誇りに思います」と述べた。

「なぜそうしたか? それは私が、この季節をこれほど強力なものにしているパ
スオーバー(過ぎ越の祭り)の物語の真髄を、私の娘たちに理解させたいと願っ
たからなのです。それは奴隷たちの何十年もの砂漠での放浪の物語であり、何世
紀もの迫害の中での忍苦と、神とトーラーへの信頼を抱き続けた人達の物語であ
るからです。そしてこれは、人々は彼等自身の国土で自由に生きるに値するとい
う、単純な理念にしっかり根をおろしているのです。

 アメリカは、この国に自由を求め、新しい生活を目指して海を渡った人々の国
であります。アフリカ―アメリカ人にとって古代ユダヤ人のエジプト脱出は、彼
等が待望するよりよい未来は必ず開ける、奴隷の束縛から解放され、尊厳を持つ
一人の人間として待遇される日が必ず来るという希望を与え屈従を耐えさせまし
た。

 何世紀にもわたる苦難と追放と偏見と大虐殺をさえ通して、ユダヤ人は約束の
地への旅を歩みました。そしてその期間全てを通し、家郷に帰るという夢をもち
つづけました。そしていうまでもなく、あなた方の全ての夢の中でもっとも重要
な、あなた方自身の家郷で自由に生きるという夢が果たされたのでした。

 過去65年間はイスラエルにとって最良の時代でありました。お国の人々は、約
束の土地についたとき、彼等の責任は終わったのでない、いやまさに始まったの
だと知っていました。イスラエルは、ヨーロッパからもかつてのソ連からも、エ
チオピアからも、北アメリカからも、離散のユダヤ人に手を伸ばして招きいれま
した。(拍手)

 イスラエルは繁栄する国家を作り上げました。キブツを通して砂漠に花を咲か
せ、ビジネス活動を通して中産階級を増加させ、革新者たちは最小のマイクロチ
ップから宇宙の軌道に至る新しいフロンティアを開きました。
 イスラエルは生き生きした市民社会と誇りある政党、疲れを知らぬ自由プレス、
活発極まる市民の討議を通して、繁栄する民主主義を築き上げました。

 さあこれがイスラエルの物語です。そしてこれは何世代ものひとびとの夢の実
現なのです。そしてイスラエルはその一歩ごとに、私の国アメリカとのゆらぐこ
とのない友情の絆をますます強いものにしてゆきました。

 その友情の絆が生まれたのはイスラエルが建国されてわずか12分後のことでし
た。ご承知のように、アメリカ合衆国は、イスラエルを世界で真っ先に承認した
国でした。
 その決断をするときトルーマン大統領はいいました。“これは輝やかしい未来
を持つ国だと私は信じる。これはただの君主国ではなく、我々の大文明の持つ大
理想の体現者なのである”と。

 そして我々は相互の利益を促進する友情を建設してきました。国の防衛、中東
と北アフリカの安定。さらに地球規模で経済を振興し、それぞれの国で中産階級
を強化する。中でも我々は民主主義の成功に、共通の利害関係を持っています。

 けれど我々の友情は、その源が政党や個々のリーダーの利害を超越していたよ
うに、単なる利害にもとづくものではありません。アメリカは移民の国であり多
様性によって強化され、信仰によってよって豊かにされてきました。我々は単に
男や女によってだけでなく、法によって統治されてきたのです。各世代が、我々
自らの国を吟味し刷新することを許容する民主主義的な談論によって定義されて
きました。だから我々はイスラエルが、我々と異なることを認めながらも、共通
項を見出すのです。我ら両国の絆の核心はまさにそれであります。

 ところで私は、我々両国にとって現在が誠に複雑な時期であること、世界中に
ある危険や大変動に直面しているのを知っています。そしてアメリカの青年たち
をみたとき、この21世紀の国家として自国がすべき選択を、彼等がどのように考
えるかを想像するのです。我々が戦争と、大恐慌以来最悪の景気後退からやっと
抜け出そうとしているときにあたってはなおさらです。

 しかし私が青年たちと話すことを好むのは、直面する挑戦がどんなに大きくと
も、あなたがたのエネルギーと野心は常に希望を与えてくれるからなのです。
(拍手、喝采)

 そして私はあの同じイスラエルのスピリットを今日の青年にみています。(拍
手、喝采)私はあなた方が未来を形創ることを信じています。そして両国の絆を
考えるとき、あなた方の未来は我々のそれとつながっていると信じます。

 ここで聴衆から喝采とブーが飛ぶ。

 オバマ大統領、“ノーノー”、そしてくすくす笑う。
 「これこそさっき話した活気ある討議の見本です。実にけっこうだ。(拍手、
喝采)(含み笑い)(オバマが何度も話しだそうとしては拍手、喝采が繰り返さ
れる)。ええと、実をいうと我々があのヤジを用意したのです。それが一度もス
ピーチの間に起こらないと、私は不安になるのでね。(くすくす笑い)

 さて私はここで、青年たちが――当代を定義する三つの分野―防衛、平和、繁
栄という分野で前進してゆくためにいかに協力して行けるかに焦点を当てたいと
思います。(拍手)

 先ず防衛から始めましょう。私はアメリカとイスラエルの防衛関係が、かつて
なかったほど強固であることに誇りを持っています。(拍手、喝采)我々の軍隊
がこれほどの訓練を重ねたことはこれまでになかったことでした。我々の政治、
軍事情報官の大交流がなされているのも未曾有のことです。またお国の上質の軍
事力を支えるためにこれまでで最大のプログラムが存在します。

 これらは事実であり、私の意見ではない、事実なのです。
 しかし私はこれがバランスシートの問題などではなく、イスラエルにおいては、
防衛はもっと個人的なものだと理解しています。これらの問題を考えようとする
とき、私はスデロットで出会ったような子供たち、私の娘の年齢と変わらない子
供たちが、単にどこに住んでいるかという理由だけで、ロケットが寝室にぶち込
まれる不安に怯えながら暮らしていることに思いを馳せるのです。

 その現実が、私たちにアイアンドームシステムという、ミサイル対抗のシステ
ムを創る投資をさせたのです。あの子供たちが、安らかに眠れるように、そして
無数の命が救われるようにと。(拍手喝采)

 だからこそ我々は何度にもわたって、イスラエルはガザからのロケットを受け
いれられないと明確にし、イスラエルの自衛権のために立ち上がりました。(喝
采、拍手)それだからこそイスラエルはハマスが暴力を放棄し、イスラエルの生
存権を認めるのを期待する権利を持つのです。(喝采、拍手)

 イスラエルの保安問題を考えるとき、私は又ブルガリアのバスで爆破された5
名のイスラエル人を考えずにいられません。彼等はどこからきたかという理由だ
けで、生きて愛して家族を育てる未来を失いました。だからこそ私は、正義を尊
ぶ国は全て、へズボラをそのありのままの姿、テロリスト組織と呼ぶべきだと思
うのです。(拍手、喝采)無垢な市民を殺し、諸都市に向けてロケットを発射し、
いまシリアの男女も子供も殺すロケットを貯蔵している組織を、世界は容赦でき
ません。

 ヘズボラの同盟者であるバシャール―アサドの非道にたいして、我々は防衛の
協力を続けるつもりです。 シリアの国民は、政権を放棄するよりは自国民を殺
してしまうという独裁者から解放されるべきです。シリアが未来を生き始めるた
めに、アサドは去らねばなりません。
 私は又、イスラエルの保安を考えるとき、ホロコーストの生きた記憶を持つ人
々を思わずにはいられません。核武装したイランが、今はイスラエルの壊滅を要
求しているのですから。イスラエルがこれを実存的な脅威と呼ぶのも無理はあり
ません。

 しかしこれはイスラエルだけの問題ではなく、アメリカを含む、全世界にたい
する挑戦です。(拍手、喝采)核武装したイランは核によるテロの危険を高めま
す。それは核不拡散条約にコミットした政権を傷めつけます。不安定な地域に軍
備競争を起こさせます。自国民の権利や国家の責任を重んじない政府を大胆にし
ます。
 イランが義務を怠ることに対して、イランの支払う代価を高める連合をアメリ
カが創ったのはそのためでした。イラン政府は今、かつてないプレッシャーを受
けていますが、そのプレッシャーは増しています。イランは孤立している。その
経済は大きな窮境に陥っています。その主導権は分裂し。そしてイランの地域と
世界における地位は弱くなる一方です。

 しかし私はこの問題を平和的に解決できると信じています。強力で規律ある外
交―(拍手)―強力で規律ある外交手段こそ、イラン政府に核兵器を放棄させる
最良の策です。平和は戦争より遥かによいものです。そして、戦争の代価、その
予想もしない影響は、何としてでも問題を外交的な手段で解決せねばならないと
いう結論に導きます。我々二国間の提携関係があるので、私は問題を未だ外交的
に解決する時間があると思います。
 しかしイランに無限の時間はありません。イランは核兵器を持ってはなりませ
ん。私は大統領として明言したのですが、アメリカは、イランの核武装を防ぐた
めに必要なことはかならず行う覚悟です。

 イスラエルの若人たちよ、君たちは多くの隣邦がお国の存在権利を拒否すると
いう国に暮らしています。君たちのおじいさんは、この世界で生きてゆくために
命をかけねばならなかった。親御さんはユダヤ人の国が生き延びるために、戦争
につぐ戦争を生き抜かれた。君たちの子供らは、彼等が出会ったこともない人達
が、子供が誰であるかという理由だけのために彼等を憎むかもしれない、不穏な
地域で成長しています。

 イスラエルがこうした挑戦に直面しているとき、私の心に浮かぶのはこういっ
た状況、つまり―自らを拒否するものに囲まれて生きるイスラエル人の生活なの
です。だからこそ、イスラエルの防衛は非常に重要であり、現状維持でよいとは
考えられない。しかし、間違えないでいただきたい。イスラエルの生存権を拒否
する考えを持つ人々は、彼等の立つ足下の土地をも、頭上の空をも同様に拒否す
るかもしれないということを。イスラエルはどこへも行くわけではないというの
に。(拍手、喝采)

 そしてアメリカが存在する限り、ことに若い君たちにいいたいのは、貴方は決
して一人でないと知ってもらうことなのです。

 イスラエルはどこにもいこうとはしていない。しかしこの聴衆の中の青年たち
に、イスラエルの未来は何を用意しているのだろう? それは私を平和の問題に
ゆきつかせます。(拍手)

 メナヘム・ベギン、イツハク・ラビン―はお国の二つの隣邦と協定を結びまし
た。あなた方はアナポリスで、パレスチナ人に対して、信頼できる提案をした。
しかしあなた方がガザとレバノンから撤退すると、テロとロケットが待っていま
した。

 地域中にあなた方は友情の手を差し伸べたが、ほとんどの場合、その手は拒否
され、或る場合には醜悪な反ユダヤ主義の現実に向き合うことになった。だから
私は、イスラエル人は平和を求めていると信じていますが、それと同時に、なぜ
ますます多くのユダヤ人ーそして多数の青年たちが、平和が達成できることに疑
いを持つのか理解できます。

 また私は、私のいおうとすることに対して、只平和の達成を疑うだけでなく、
その根底にある前提に疑問を持ち、イスラエルに別の未来を夢見る人がこの会場
の中にいることを知っています。民主主義にはあることでそれ自体はかまいませ
ん。しかし私は友達としてあなた方に語りかけているので、互いに、友達に対し
ては開けた心で、正直でありたいと思います。

 アメリカにおける超党派のイスラエル支持のもとで、私にとってもっとも容易
なのは、この問題を脇に置き、イスラエルがしようと決定したことに条件付きの
支持を与えることです。それは政治家としてはもっとも安易な道なのです。けれ
ど私はお国の将来に大きな関心を寄せ、コミットしている友人として話している
のです。だから三つの問題点ついて考慮してほしいのです。

 第一に、平和は必要です。(拍手、喝采)私は、平和が、イスラエルの真の防
衛への唯一の道だと信じます。お国のヨルダン川の西にいる人口を考えれば、ユ
ダヤ人の、民主主義の国として栄えるためには、独立した、発展可能なパレスチ
ナ国家の実現を通しての他はないと思います。(拍手、喝采)それはほんとうに
そうなのです。(拍手と喝采が長く続く)

 他の問題も絡まっています。このイスラエル、パレスチナ闘争に、国際社会が
鬱々と欲求不満を抱えていることを考えると、イスラエルは孤立という暗流を逆
転させさせねばなりません。そしてお国のテクノロジーの強力な行進をみれば、
イスラエル人を真に長期間保護するためには、戦争の欠落、戦争をしないことが
必要です。なぜならどんな壁を立てても十分高くはないし、アイアンドームにも
全ての敵を防ぐほどの強さはないのです。(拍手)

 アラブ世界を大なぎした変化を見れば、以上が真実であることはよりいっそう
明らかです。この地域の不確実さ、街路に集う人々、リーダーシップの変更、政
治の世界における宗教的な変化を考えると、自分の殻の内部に閉じこもりたくな
るのは当然です。
 イスラエルを取り巻く外の状況はあまりにも混沌としているのですから。

 けれど、実は今こそ、平和への決意とコミットメントを持って応えるときなの
です。―(拍手)―ますます多くの政府が人民の意思に応えるようになりました。
しかしイスラエルが一握りの独裁者と平和を交渉できた時代は去リました。

 平和は政府とだけでなく、人々の間で創られねばなりません。(拍手)誰一人、
あるいはどんな一歩も、何百万の人々のハートと頭を一夜にして変えることなど
できません。どんな一歩も、何年もの歴史とプロパガンダを消し去ることはでき
ません。しかし、闘争と分裂をえさにして栄える過激派を脇に置いて、パレスチ
ナ人との交渉に進歩を画することはよい第一歩になります。(拍手、喝采)

 だから、平和は必要です。けれど平和は又正義でもあるのです。平和は正義で
もあるのです。イスラエルが、恐怖に訴えるパレスチナの党派、歴史的な機会を
のがしてしまったリーダーたちのテロに直面したのは確かです。だからこそ、い
かなる条約でも防衛が中心に据えられなくてはならないのです。(散漫な拍手)。

 さらに平和への唯一の道が交渉を通してであることにも疑問の余地はない。そ
してそれこそ、我々の受けた批判にも関わらず、アメリカが国連を通しての一方
的なやり方に反対する理由であります。(拍手)それは両当事者によって双方か
ら果たされねばなりません。

 しかしパレスチナ人の自決の権利、彼等の正義への権利もまた承認されなくて
はなりません。(拍手、喝采)彼等の立場に自分をおいてご覧なさい。世界を彼
等の目でみてご覧なさい。

 パレスチナの子供たちが、彼等自身の国で成長できないのは公平ではありませ
ん。―(拍手、喝采)―彼等若者だけでなく、全生涯を、両親や、祖父母の動き
までを日々、外国軍隊にコントロールされて過ごすというのは公平ではありませ
ん。(拍手)パレスチナ人が彼等の土地を耕やせず、ウエストバンクを動き回る
学生の行動は限定され、―あるいはパレスチナ人の家庭を彼等の家から追い出す
というのは不公平です。(拍手、喝采)イスラエル人が彼等の国をその郷土に建
設したように、パレスチナ人は彼等の土地で自由である権利を持っているのです
から。(拍手)

 ちょっとここで原稿を離れますが、私は―私はここに来る前に15歳から22歳の
パレスチナの青年たちに会いました。話してみると、彼等のいうことは私の娘た
ちとさして違わないのです。あなた方の娘さんや息子さんとさしたる違いはない
のです。

 私はもしイスラエルの親御さんたちがこれらの若者と一緒に座られたとしたら、
おそらく彼等は、この若者たちを成功させてやりたいといわれると思います。
(拍手)私は彼等がそれぞれに成功してくれるのを望んでいます。私の娘たち同
様、機会に恵まれてほしい。もしそんな青年たちの声を聞くことができたら、イ
スラエルの親御さんもきっとそう思われるでしょう。(拍手、喝采)私はそう信
じます。(拍手、喝采)

 ところで、どんな形の民主主義を選ぶかを決めるのはあなた方だけです。しか
しあなた方がこうした決定をするとき、あなた方はパレスチナとの未来の関係だ
けでなく、イスラエルの未来をも決定しているということを忘れないでほしいの
です。(拍手)エリアル・シャロンがいったように―彼を引用していうのですが
―「ユダヤ人の民主的な国家を持ちながら、同時に、エレツイスラエル全土を統
治するなど不可能だ。もしも我々が我らの夢の全体を満たそうとするなら、我々
はそれを全て失うだろう。」(拍手)

(エレツイスラエルはイスラエルの国としてトーラーに記されたカナーン、パレ
スチナ、約束の地、あるいは単に聖地と呼ばれる土地。只その境界については、
聖書の創世記、出エジプト記、民数記、エゼキエルによって違いがある。それを
神からイスラエル人に与えられた正統の遺産と信じるユダヤ人はユダヤ教正統派
に多い。筆者)

 また、小説家デヴイド・グロスマンは息子を失ってまもなく、平和の必要を説
いたときにいいました。“他に選択のしようのない平和”を、“他に選択のしよ
うのない戦争”を選ぶときと同じ決意で選ばなくてはならないと。(拍手)

 さてイスラエルは、自国を破壊しようとする相手と交渉をすることはできませ
ん。(拍手)パレスチナ・オーソリティと意見の相違のあったことを私は知って
いますが、アバス大統領と、ファヤード首相はパレスチナ相手の交渉のよきパー
トナーだと信じています。(拍手)そして彼等の実績がそれを証明しています。
彼等はウエストバンクに、2-3年前なら信じられなかったような公共建築を打
ち立てました。そして若者を含む多数のパレスチナ人が、彼等の願望を達成する
ために暴力を使うことを拒否したのです。

 チャンスがそこにあります。そこに窓があります。それは私の第3のポイント
に導いてくれます。つまり、平和は可能だと。(喝采と拍手)私はそれが保障さ
れているといってはいない。平和が生まれそうだとさえいってはいない。それで
も平和は可能なのです。

 そんな風には見えないことは承知しています。いつでもリスクを避ける口実は
あるものです。失敗は高くつきます。つきることのない交渉会談の話にはもうう
んざりさせられ、ああもう十分だ。自分は世界の片隅の私の家族と仕事に引きこ
もろうという人がいてもふしぎはありません。

 しかし、平和は可能なのです。交渉は必要でしょう。でもそれがどこに我々を
連れてゆくかには小さな秘密があります―つまり、二つの国民のための二つの国
がそれなのです。(喝采、拍手)

 そこにたどり着くにはいくつかの方法があるでしょう。その途上では厳しい選
択を強いられもするでしょう。アラブの諸国は、変化した世界に適応をしなくて
はなりません。機会の欠如や政府の腐敗や、政策の失敗から国民の目をそらせる
ために、イスラエルを非難したあの時代は過去のものにしなくてはなリません。
今こそアラブの国々が、イスラエルと関係を正常にするチャンスなのです。(拍
手)

 一方、パレスチナ人はイスラエルがユダヤ人の国であり、イスラエルはその防
衛を主張する権利があることを認めなくてはなりません。

 イスラエル人は、セトルメント活動の継続が平和のためには逆効果であること、
独立したパレスチナは描かれるべき国境線を持つ、発展可能な国であることを認
めなくてはなりません。(喝采、拍手)私が示唆したのは領土と防衛の原則であ
り、それはこうした交渉の基礎になるものです。

 しかし、一寸ここで、計画やプロセスのことはおあずけにしましょう。
 その代わりにおききしたいのですが、この二つの国民の間にどうやって信頼を
築くことができるでしょうか?

 4年前、私はカイロで青年聴衆の前に立っていました。政治的にも、宗教的に
も、彼等ははるか遠くにいる人のように見えました。だが、その青年たちの欲す
るものは、こちらの若者の欲するものとそう変わらないことがわかったのです。
彼等自身で決定をし、教育を受け、よい職を得、彼等なりのやり方で神を信仰し、
結婚し、家族を育てることを彼等は望んでいたのです。今朝あった若いパレスチ
ナのあの青年と同じでした。ガザでよりよい生活を求める若者と変わるところは
ありませんでした。

 平和は、リーダーの計画の中や、綿密にもくろまれたプロセスの中だけでなく、
人々の心から、日々のつながりや接触から生まれるのです。この国土に、そして
エルサレムの聖地に共に住む人々相互の共感や思いやりから生まれるのです。そ
して政治家としていわせていただくのですが、政治家等、誓って、「賭けろ」と
後押しされない限り、決してリスクをとらないものなのです。(喝采、拍手)

 あなた方が変化の実現を望むなら、あなた方自身が作り出さねばならないので
す。普通の人達が、想像もできないようなすばらしいことをやってのけるのです。
(長く続く喝采と拍手)

 あなた方の中には、ビジネス用の橋を造ったり市民社会を作り上げた人たちが
います。未だ不信を知らない若人たちをみて下さい、両親から受け継いだ不信の
心に打ち勝つことを学んだ若人をご覧なさい。彼等は、我々を分裂させる恐怖よ
りも大きな希望のあることを知っているのです。

 あなた方の声は、それを溺らせてしまう声よりも大きくなくてはなりません。
あなた方の希望が、進むべき道を照らさなくてはなりません。ユダヤ人、イスラ
ム人、クリスチャンが皆ともに、この偉大な聖地で、栄えつつ平和に暮らせる日
に想いを巡らせてください。その夢を信じて下さい。(喝采、拍手)そしてなに
よリも、貴方自身のお子さんのために、貴方の希望する未来を目指して下さい。
そこではユダヤ人の、民主的な、生き生きと震えるような国が、現在から未来に
わたり保護され、世界に受け入れられているのです。

 皆さんのなかにはそんなことは不可能だといわれる方がいるでしょう。しかし、
これを心に銘記して下さい。イスラエルは、この地域でもっとも強力な国であり
ます。イスラエルは世界で最強の国から、揺らぐことのない支持を受けています。
(拍手)イスラエルはどこにも行くわけではありません。イスラエルは世界をあ
るがままにみる英知を持っています――だがこれはあなたがたの特性なのですが、
イスラエルは世界はかくあるべきだという勇気をももっているのです。(拍手、
喝采)

 ベングリオンはかつてイスラエルでいいました。「現実主義者であるためには、
奇跡を信じなくてはならない」と。(笑い)
 時として、最大の奇跡は、世界は変化しうると信じることだと思えます。それ
は世界がユダヤ人から学んだことでした。

 そしてこれは私を最後に焦点を当てたい問題に導きます。繁栄と、世界におけ
るより大きなイスラエルの役割ということです。防衛と平和は時にメディアの見
出しを独占するかに見えますが、我々が生きているのはそんなところではありま
せん。日ごとに、直面する脅威のただ中でさえ、イスラエル人はかれらの作り出
す機会で、みずからを定義してきました。

 才能とハードワークで、イスラエル人はこの小さな国をグローバル経済の最先
端におきました。(拍手)イスラエル人は教育の価値を理解しこれまでに10名の
ノーベル賞受賞者を生みました。

 イスラエル人は発明の力を理解し、お国の大学はエンジニアや発明家を送り出
しました。そのスピリットは経済の成長と人間の進歩に導きました。ソーラーパ
ワーと、電気自動車、人の命を救った包帯や義手義足、ステムセルの研究や疾病
をいやす新薬、セルフォンにコンピューターテクノロジー、など(拍手)世界中
の人々の暮らしを変えました。

 だから、もしも世界経済の未来をみたいなら、何百もの新発のビジネス会社と
リサーチのセンターであるテルアビブをみればよいのです。(拍手、喝采)また
イスラエルのソーシャルメディアはものすごく活発なので、毎日のように、異な
ったフェイスブックのキャンペインが、私がこのスピーチをどこですべきかを提
案してくるほどです。(笑い、拍手、喝采)

 そうした革新性は、アメリカとイスラエルの関係においては、防衛関係の協力
に劣らず重要です。我々の最初のイスラエルとの自由貿易協定は、ほぼ30年前に
締結されました。(拍手)今日、我々2国間の貿易高は毎年400億ドルです。(拍
手)もっとも重要なことは、このパートナーシップが、新製品や医療法を作り上
げ、科学と探求の新しいフロンティアになっていることです。

 それはイスラエルが、世界中の国々と持つべき―そして持つことのできる関係
です。既に我々はそうした新機軸が、この地域をどう変え始めたかを知っていま
す。

 エルサレムには若いイスラエル人とパレスチナ人がテクノロジーとビジネスに
おける必須の知識を共に学ぶプログラムがあります。あるイスラエル人とパレス
チナ人は、パレスチナの新発会社に融資を行うベンチャーキャピタル資金を創立
しました。
 100以上のハイテク会社が、ウエストバンクに本社を創りましたが、それはパ
レスチナ人の企業力と才能を証明しています。

 もっと広い地域に目を向けると、人々が熱望していること――教育、企業力、
賄賂なしにビジネスを創業する力、グローバル経済とつなげる能力――がここイ
スラエルに存在するというのは、大きなアイロニーでもあります。ここは繁栄す
る地域交易と機会へのエンジンの集結地なのです。イスラエルは既に、世界経済

を強化する改革のセンターなのです。そして繁栄へのこれら全ての可能性は、防
衛が強化され、平和が永続することでいかほど強められることでしょう。

 この小さなひとひらの土地は世界の歴史の中心でありました。あまたの勝利と
あまたの悲劇を超えて、イスラエルは65年前には夢想することの困難だった新し
い何かを築き上げました。その歴史に賛辞を捧げるために、私は明日ヘルツエル
の墓参をいたします。彼はユダヤ人の未来は彼等の過去とつながっていなくては
ならないことを予見した人でした。

 イスラエルの戦争による勝利は平和への戦いでフォローアップされなくてはな
らないと考えていたイツハク・ラビンの墓参もいたします。よくよく目を見張っ
て警戒していない限り、ユダヤ人と人間全体を襲うかも知れない悪の雲を想起さ
せるヤド・ヴァシェムにもまいります。

(筆者註。ユダヤ人のために正義を行った義人の眠る場所。日本人では、第二次
大戦中に、ナチに追われるユダヤ人6000名以上に独断でビザを出したといわれる
杉原千畝もまつられている)

 我々はこれら全ての歴史を肩に背負っています。我々はそれをハートの中に持
ち運んでもいます。イスラエルの創立世代が黄昏を迎えた今日、君たちイスラエ
ルの若人こそ、この国の未来をわがものとしなくてはなりません。この偉大な国
の偉大な歴史の次の章はあなた方によって書かれるのです。

 そしてあなた方が信頼できる親友国の大統領として―(拍手)―これからの日
々にあなた方がこの約束を果たす助けをきっとして下さることを私は信じていま
す。ユダヤ人の体験の中にあるあの永遠の呼びかけ― TIKKUM OLAM ―(世界を
修理する)(拍手)に霊感を与えられた一人の人間として、私は我々が、自分の
なかの最善の資質を動員して、この戦争のありすぎる時代に平和への戦いに勝利
を挙げ、われわれの受ける挑戦に応じ、この不完全な世界を修理する仕事に励み
たいと思うのです。

 それは貴方の仕事であり、私の仕事でもあります。いや、我々全てに課された
仕事なのです。
 あなた方に、そしてイスラエルに神のご加護を! アメリカに神のご加護を。
(拍手、喝采)“トダラバ”ありがとうございました。(拍手、喝采)。(了)

 オバマ大統領のエルサレムでのスピーチには彼の中東政策の中心部分が明示さ
れているので、筆者の訳文を抜粋でお送りする。ただし後半はことに、イスラエ
ル、パレスチナ問題へのオバマの理解と人間的な解決への熱情がほとばしるもの
で、ほとんどスピーチのテキストをそのまま使ったことをお断りする。

 (筆者は米国ニュージャーシー州在住・翻訳家)
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