オルタの映画批評83

■【オルタの映画批評】                川西 玲子

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  第二次大戦のヨーロッパ戦線で活躍した、日系二世だけの部隊である442連
隊。この442連隊の過酷な体験を、元兵士の証言と記録フィルムで綴るドキュメ
ンタリー「442日系部隊」が、10月に六本木で行なわれた東京国際映画祭の「あ
る視点」部門に出品されていた。すごく気になったのだが日程が合わず、観るこ
とができなかった。
 
  残念に思っていたことろ、11月3日から5夜連続で放映されたTBS開局60年記念
ドラマ「99年の愛 Japanese Americans」に、日系人部隊のことが出てきたので
ある。そこで調べてみたら、13日から新宿のK,sinmaで公開されることわかり、
勇んで観にいってきた。座席数84のミニシアターで東京一館のみの上映、しかも
公開二日目の日曜日ということで、満員だった。
 
  ロビーで話している人の会話を聞くと、この映画館の存在を初めて知った人も
多かったようだ。以前、ここには新宿昭和館という映画館があった。昭和7年に
洋画の上映館としてオープンしたらしいが、私が気づいた頃には任侠映画専門の
映画館になっていて、地下では成人映画を上映していた。ちょっと近づけない感
じの映画館だったのである。
 
  2002年に老朽化によって閉鎖した時には、正直言ってほっとした。そこだけ違
う空気が漂っていて、若者たちが驚いたような顔をして通り過ぎる場所になって
いたからだ。ちなみに近くの南口には、新宿国際劇場という成人映画専門館がま
だ頑張っている。時々入っていく男性の後ろ姿が見える。あの映画館が無くなっ
た時に、新宿の戦後は終わるのかもしれない。
 
  さて日系人部隊442連隊は、太平洋戦争下に強制収容された日系二世の志願兵
からなる部隊である。アメリカ本土の日系人は、日中全面戦争開始前後から監視
の対象となった。その後名簿の作成も行なわれ、1942(昭和17)年から強制立退き
の上、収容所に入ることになったのである。
 
  翌1943年初頭には、17歳以上の日系アメリカ人に対して忠誠心調査が行われ
た。特に日系人を驚かせたのは問27と28である。そこには「命令を受けたら戦闘
任務に服するか」「合衆国に忠誠を誓い、天皇や外国政府への忠誠を否定する
か」と書いてあったのだ。
 
  日系人たちは困惑した。問27にYesと答えると軍隊に入って日本と戦う可能性
もあるし、問28にNoと答えるとアメリカで生きていけないかもしれない。意見が
分かれた。そして両方にYESと答えた日系二世に対して志願者を募り、日系人部
隊がつくられたのである。
 
  彼らは日系人の名誉と将来のために、そして収容所に残った家族のために獅子
奮迅の働きをする。フランスの山中でドイツ軍に包囲されたままのテキサス大隊
も救出した。そこまでしなければ忠誠心を示せなかったわけだ。特攻隊に志願し
た朝鮮人の若者を想起させる。
 
  監督は、前作「東洋宮武が覗いた時代」で日系人収容所内部を撮り続けた写真
家、宮武東洋の半生を追ったすずきじゅんいち。ロマンポルノ時代に日活で助監
督となり、今はロサンゼルスで主にプロデュース業に従事しているという。これ
で日系人二部作となるわけだ。ちなみに夫人は元アイドルの榊原るみだそうで、
びっくりである。
 
  すずき監督は、アメリカに住むようになって改めて日本人としての意識を強く
持つようになったそうで、「日本人は素晴らしいということを知ってもらいたか
った」と製作の意図を語っている。しかし実際に観てみると、この映画はもっと
複雑な現実を映し出している。 442連隊はヨーロッパの最前線に送られ、全滅
覚悟の無理な作戦に投入される。

 ドイツ軍に囲まれて孤立していたところを救出されたテキサス大隊も、442連
隊の奮闘によってナチから解放されたフランス市民も、彼らの捨て身の行動を賞
讃する。今までそういう話を聞いたことがなかった子どもや孫たちも、「誇りだ」
「ヒーローだ」と讃える。
 
  だが元兵士たちは涙を流しながら、死んでいった戦友の様子を語り、さらには
自分が撃ち殺した敵兵が血を流して苦しんでいた姿を語るのである。日系人とし
て初めて下院議員に当選したダン・イノウエも、「教会で賛美歌を歌っていた私
が人殺しになった」「殺した人間の数は私だけの秘密」と言う。負傷して全身痣
だらけになった元兵士は、「私はヒーローではない。人殺しです」と述べる。
 
  それでも元兵士たちはヒーローだ。「彼らこそ真のアメリカ人だ」と讃えられ
ている。そして星条旗に向かって敬礼をし国歌を歌い、「誰にでもチャンスがあ
る。アメリカはいい国です」と語るのである。これがアメリカに根を下ろした日
系人の生き方なんだなぁと思うと、複雑な気持ちになる。この映画を製作したす
ずき監督自身も、そういうアメリカに定住しているのである。
 
  442連隊を絶賛したトルーマン大統領が、同時に日本に原爆投下を命じたこと
を考えると、日本人としてさらに複雑な心境にならざるをえない。日系人部隊は
私たちには想像もできない難しい立場に立って、困難な闘いを挑んだが、そうい
う彼らの苦難もまたアメリカ陸軍の輝かしい戦史の一部となったのである。
 
  アメリカは、自由と民主主義のために「尊い犠牲」になった兵士たちを讃えつ
づけている。そして今なお自由と民主主義のために、世界中で戦争をしている。
この繰り返しだ。おかしくないか。もっとも、最近は「尊い犠牲」を減らすため
にロボット兵器を投入しているが。武器輸出三原則の緩和で、日本の二足歩行ロ
ボット技術が兵器に転用されないことを祈るばかりである。
 
  現在、東京と横浜で上映中。順次、他の地域でも上映される予定。

                (筆者はメデイア批評家)

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