【コラム】風と土のカルテ(43)

カジノ解禁の中、理解進まぬギャンブル依存症

色平 哲郎


 「ギャンブル依存症」の現実を、われわれ医師ももっと知ったほうがいいのではないだろうか。

 「ギャンブル依存症問題を考える会」 http://www.gamblingaddiction.jp の代表、田中紀子さんが雑誌『月刊保団連』(全国保険医団体連合会)2017年9月号の特集に寄せた記事を読んで、つくづくそう感じた。

 田中さんは、祖父、父、夫がギャンブル依存症で、一時はご自身もギャンブル依存症と買い物依存症となり、壮絶な経験をしておられる。現在は回復し、前記の「考える会」の代表を務めている。

 世間のギャンブル常習者への「だらしない」「怠け者」「落伍者」といった排除の論理ではギャンブル依存症には全く通用しないことを教えられた。例えば、田中さんご夫婦はバリバリのギャンブル依存症だったころ、年収が2人合わせて2,000万円近くあったという。決して落伍者ではなかったが、競艇にのめり込み、借金地獄。自殺も考えるほどになる。

 依存症を治すには「自助グループ」の役割が大きい。「依存症は『頑張って止めよう』から『頑張ってるのに、自分だけでは止められない』と認識を改めた時から、回復が始まる不思議な病気です」と田中さん。「負けを認める」ことから、回復への道が開けるようだ。医師には、自助グループにつなぐ役割が求められている。

 『月刊保団連』の特集では、日本人のギャンブル依存症の比率は海外に比べて高いというデータが紹介されている。パチンコや競輪、競馬、競艇、、、日本では「ギャンブル」が身近にあり、若い頃から手を出せる環境ができてしまっている。依存症のリスクが高いのは、そうした環境の影響も大きいのだろう。

 にもかかわらず、昨年12月には、「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律」(いわゆるカジノ解禁推進法)が強行採決された。「観光先進国の実現」という名目で、カジノ付きの「統合型リゾート(IR)」を建設しようとしているが、これだけ依存症リスクが高い現状をどう捉えているのか。

 「先進国でカジノがないのは日本だけ。成長戦略の柱に」などとカジノ推進派は主張するが、根拠は曖昧だ。そもそも、先進諸国でカジノ(IR)を経済成長の柱にした国など、果たしてあるのだろうか。

 (長野県・佐久総合病院・医師)

※この記事は著者の許諾を得て日経メディカル2017年9月29日 http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/irohira/201709/552976.html から転載したものですが文責はオルタ編集部にあります。

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