【コラム】酔生夢死

グローバル化は止まらない

岡田 充
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 やはり世界は彼に振り回されている。近く米大統領に就任するドナルド・トランプのことである。彼は、国交のない台湾の蔡英文総統と電話会談し世界をアットと言わせた。続いて米TVのインタビューでは「貿易などで合意できなければ、なぜ『一つの中国』に縛られる必要があるのか」と述べ、「一中政策」を対中取引カードに使う可能性をほのめかした。 

 中国の「核心利益」中の核心である台湾カードを使い、北京の反応をうかがいつつ、対中外交を有利に展開しようとの思惑はミエミエ。不動産王らしく、最初からえらい高値をふっかけたもんだ。でも大統領就任前の「一私人」であり、外交上の責任は問われない。「際どいエッジボールを打った」(環球時報)というのは、的を射ている。

 もう一つのビックリは、ソフトバンク・グループの孫正義社長との会談だった。ニューヨークのトランプ・タワーでの会談後、ロビーに現れたトランプは、孫を子供のように抱きかかえながら「マサ(孫社長)は米国のビジネスに500億ドル(約5兆7千億円)を投資し、5万人の新規雇用をつくることで合意した」と、喜色満面で発表した。「米国に雇用を戻す」が公約だったから、まさに「渡りに船」ではないか。

 興味深いのは、孫がカメラに映るように見せた白地の説明書類。そこには「SoftBank」の横に「Foxconn」のロゴが。この会社、シャープを買収した台湾の鴻海精密工業(郭台銘会長)である。Apple 最大のサプライヤーで、中国広東省深圳で iPhone を組み立てる。書面の配列からすると「ソフトバンクが500億ドル、Foxconn が70億ドルを投資、両社がそれぞれ5万人の雇用を創出する」と読める(ロイター)。

 鴻海は台湾企業だが、IT関連でいち早く中国に製造拠点を移転し、大連や成都に20万人規模もの大工場を建設。大陸では子会社を含め2000万人の雇用を生みだした。郭と孫の親しい関係は以前から知られ、再生エネルギー分野でジョイントベンチャーを手掛ける。中国にも厚い人脈を持つ郭は、習近平国家主席の「中国の夢」を「中華民族の子孫として血が沸き立つ」と評価したことがある。

 トランプは選挙中、グローバリズムを批判し、保護主義的な経済政策を主唱した。新自由主義に基づくグローバリズムが、経済格差と社会の亀裂を広げ、それがトランプ現象を含め世界でナショナリズムを刺激した。グローバリズムはイデオロギーだ。しかしヒト、モノ、カネが国境を越えて移動するグローバリゼーション(グローバル化)は似ているが、別物である。トランプに孫と郭による新たな取引は、米国、日本、台湾、中国という環太平洋プレーヤーによるグローバル化が止まらないことを物語っている。

 (共同通信客員論説委員)


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