【沖縄の地鳴り】

シーブサカッティー(やりたい放題)

平良 知二


 就任したばかりのトランプ大統領が他国など相手に直言、非難、罵詈雑言を乱発している。米国民や他国に混乱と波紋が広がり、入国関係では裁判になる有様だ。その“口撃”は世界の注目を集め、トランプ・ニュースがあふれる毎日である。就任1ヵ月足らずでこれだけ反響を呼び、世界の目を釘づけにするのは世界的指導者といえどもめったにないだろう。その意味ではすでに歴史に残る大統領と言えなくもない。

 ウチナーグチ(沖縄語)で言えば、イーブサカッティー、シーブサカッティー(言いたい放題、やりたい放題)である。できもしないことを自慢げに言い、自分ではやる気のないのに口だけは達者、あるいは皆が止めるのに構わずやりたい放題。そういう仲間には皆が「君はいつもイーブサカッティー、シーブサカッティーだな」とたしなめたものである。周囲にそういう自信家はよくいる。
 トランプ大統領の罵言はこのイーブサカッティー、シーブサカッティーそのものだ。政策を決定するまでの過程、実施までの手続きがほとんど見えない。あまりにも急である。思い付き的に見える。もちろん選挙期間中からの公約ではあるだろう。しかし、練り上げてきたようには思えない。すぐ今、実施しなければならないものなのか。理性的判断というより感情が先立っている。

 そのトランプ政権が沖縄の普天間飛行場移設問題で「辺野古が唯一」を日本政府とともに確認した。確認に当たったマティス国防長官は海兵隊出身であり、軍事の専門家だ。安全保障面で大統領の“行き過ぎ”を懸念し、まずは波立てず、これまでの両国の確認を追認、ということなのだろう。海兵隊上がりであれば、政権内では「辺野古問題」を承知している筆頭者だと思われる。当然、海兵隊の利害については敏感であるはずだ。現状追認という以上に、「辺野古新基地」建設を急がす恐れもある。

 翁長雄志沖縄県知事はこの確認を訪米先で聞いた。今回の3回目の訪米要請行動では国務省、国防総省、下院議員ら多くの関係者と会談した、という。大きな成果は得られなかったようだが、その最中での「辺野古唯一」確認であった。知事は強く憤り「沖縄県民はもう限界にきている。新基地を阻止する私の決意もかえって強くなってきている」と不退転の決意を口にした。
 知事が米国から帰任すると同時に2月6日、辺野古海上での「新基地」建設・埋め立て工事が始まった。前知事による2013年12月の埋め立て承認後、初めての海上工事である。日本政府は最高裁判決(辺野古埋め立て違法確認訴訟。県の訴えを棄却)を後ろ盾に、そして「辺野古唯一」の日米確認を“御旗”に、なりふり構わず工事を強行していくだろう。それこそ「シーブサカッティー」の事態となる。

 トランプ大統領の破天荒な言動に、ひょっとして辺野古問題も沖縄側の望む形に進むのでは、という期待がなかったわけではない。だが、新政権発足後の中国に対する姿勢を見ると(その行方はまだ判然とはしないのだが)、東アジア情勢は緊迫する危険性があり、トランプ政権は沖縄を「シーブサカッティー」に抱き込むかもしれない。

 大きな転換の年になりそうだ。昨年12月の最高裁判決後、沖縄県内には「埋め立て処分の撤回」を急ぐべきだという声が強まっている。前知事の埋め立て承認を取り消す訴訟を超えて、翁長県政として「埋め立ては県民に不利益をもたらす。その撤回を求める」という本質的な提起である。その提起を強固なものにするため、県民投票を実施すべきだという声も上がっている。
 時代が怪しく動いていきそうななか、流れに抗する闘いをいかにつくるのか。シーブサカッティーを許さない闘いは正念場である。

 (元沖縄タイムス編集局長)


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