スピーチにもられたオバマ第2期の政策

【アメリカ近況】

就任式と【アメリカ合衆国の現状】スピーチにもられたオバマ第2期の政策                    武田 尚子

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 2013年1月21日に行われた第2期の就任式で、オバマは久しぶりに生き生きした
表情を見せ、寒風をついて集った1万人近い聴衆に、新たな自信を投影して頼も
しかった。

 アメリカの歴史を振り返って、最高の演説はなんといってもリンカーン第2期
の就任演説と、マルチン・ルーサー・キングの自由へのマーチにすぎるものはな
いとよくいわれる、今日のオバマのスピーチはたとえその二つの演説を超えない
としても、その内容に実質がしたがうなら、おそらくもっとも重要な政治演説の
一つとして歴史に残るだろうと評された。

 スピーチの中核は、独立宣言の中で明らかにされた【全ての人間は平等に創ら
れ、その創造者から、生命、自由、幸福の追求という権利を与えられている】と
いう理念である。[アメリカ人を一つに結びつけているのは、肌の色や言語や風
習ではなく、その理念に対する忠節なのです]と彼は冒頭に述べ、この考えはス
ピーチを通して、【一緒に】という言葉で何度も繰り返された。それはただ中身
のない抽象的な言葉でなく、貧者や病者や無視された人達に対する市民としての
義務を意味していると彼はいう。

 1933年に就任式を迎えたルーズベルトは大恐慌のさなかの就任演説で、[恐れ
に対する恐れこそ克服すべきものだ]と訴えて職務に就いた。4年後の彼はより
大きな自信を持って、リベラルな国家の枠組みを描いてみせた。[ますます個人
にとっては厄介になりつつある複雑な文明の諸問題を解決するために、我々の共
通する目的にふさわしい道具を見つける必要があるのだ]と。オバマのスピーチ
からは、1937年のルーズベルとのこだまが聞こえてくる。

 さて実際の政治の場で、オバマは共和党と【一緒に】政策を実現できただろう
か。クリントンと違って、オバマは社交を好まないローナーだといわれている。
もっと共和党の面々をホワイトハウスに招待して、個人的なふれあいを求めない
から、共和党はオバマの政策に反対し続けるのだと。オバマがかなり内向的な人
であるのは納得できるが、実際には彼は例えば下院議長のベーナーを6度、ホワ
イトハウスでの正式の晩餐に招いたが、6度とも無視されている。

 クリントンのように個人レベルで気楽につきあえたなら、いまのオバマの対共
和党の困難はないはずだといわれる向きには、考えてみてもいただきたい。なる
ほどクリントンは付き合いに長けていると見える。しかし彼の素行が問題になっ
たとき、政治家にとって最悪のインピーチメントで彼を非難し、罷免しようとし
たのは、他ならぬこれら共和党の【友人?】たちであったことを。

 一緒に飲んだり食べたり、ゴルフに興じたりする超党派の仲間付き合いが、ア
メリカ最高の政治の場で最重要な政策の方角を変えるとは思えないが、就任以来、
オバマの食わされた肘鉄砲、どんな新しい政策もオバマから出たものである限り
ただただ拒否しつづけた共和党は、ひたすら「オバマ落とし」を最重要の政策に
してきた。その空気の中で、成長してゆく自分の娘たちにわずかな時間でも与え
ようとしたオバマ、独りの時間から生まれた深慮に、しばしば喝采を送ったのは
筆者だけではなかっただろう。

 ついでながら、昨年、オバマは新しい共和党議員87人をホワイトハウスのレセ
プションに招待したが、現れたのは27人だけだった。また先月オバマは、スチー
ブン・スピールバーグの最近の名作【リンカーン】を上映するからと共和党の議
会リーダーたちを招いた。最高責任者の2人、ベーナーとミッチ・マコーネルは、
やはり姿を見せなかった。

 レポーターの問いに応えてオバマはいった。「私は十分共和党の議員たちを招
待していて、きてくれた人とは【一緒に】楽しみます。来ない人は多分、政治的
に利益がないと思ってこられないのでしょう。」大統領に対するこんな対応が、
共和党永代のものでない事を願わないではいられない。

● State of Union Speechとその後

 さて、就任式をかなりの好評うちにすませたオバマは、2013年2月12日の第113
議会の合同会期で、[アメリカ合衆国の現状]というスピーチをした。
 これは今会計年におけるオバマ大統領の最優先問題をアウトラインするので、
非常に重要である。そのために、3月に発表される2014年の連邦予算の下検分も
行われる。スピーチの内容はおおむね次の通りである。

 アメリカは、オバマが大統領になって以来の経済政策を続行する。また、2013
年1月21日の就任演説で示された目標を実現するための具体的な対処の仕方をつ
ぎのように示した。主要な領域は次の通り。

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■国の借金を減らす

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 第一に、オバマはアメリカの赤字と借金を減らすという。ただしそのためにこ
の国を築いた人達を保護する社会保障とメディケアを犠牲にはしない。シンプソ
ン-バウエル・レポートで推薦された金額をメディケアからカットすると約束は
したが、その節約分の一部は、既にオバマケアのおかげでより低額になった医療
保険費から出されているのである。

 第二にその残りは処方薬の製造会社への、納税者の補助金をへらすことと、最
富裕な高齢者にもっと金を払ってもらう事でなされる。

 第三に、健康保険コストの節約はメディケアの料金を、テストの量ではなく、
質に依存させる事で果たされる。

 国の借金はいうまでもなく、共和党が‘オバマ落とし’の中枢におく重要な政
治問題である。それにしても、もし今すぐに、重要なプログラムをカットしてで
も借金を減らさなければ、アメリカは共和党のいうように、ギリシャにも似た衰
退の路をたどるのだろうか。

 ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンは、国の借財について何度も説明
している。その度に彼は困惑したり、怒り心頭に発した人々のコメントに出会い、
一般人の国の借金に対する理解の乏しさに驚かされるという。クルーグマンの明
快なレッスンはこうだ。

 「まず国の借金はアメリカをより貧しくしたか」と問いかけてみよう。もっと
具体的にいうなら「もしも借金がなければ、アメリカの消費する金はより少なか
っただろうか」と。その答えは、明確なノーである。確かにアメリカの納税者は
その借金に対して利息を払わなければならなかった。いったい誰がその利息を受
け取るか? アメリカの納税者自身である。いうまでもなく全く同じ人ではない
が、アメリカは借入人でもあれば、貸出人でもあったので、借りた金を自分自身
に払っていたのである。」

 「今日ではもちろん世界はより複雑になり、アメリカの金融市場は外国と絡み
合い、我々の借金の大きな部分が、外国人のものなのは事実である。しかしアメ
リカに対して外国人が請求権を持っているとしても、アメリカも又外国人にたい
して大きな請求権を持っている事を多数の人が知らないでいるのだ。」

 「だから米国の借金は、外国人に対する同等に大きな義務を伴っているわけで
はない。過去2-3年の間に予算の大不足が大問題になったとき、貿易赤字の方は
危機以前よりも少なかったのである。それは、アメリカ人が他のアメリカ人に負
っている借金が増大した事を意味し、外国人に対して借り入れ証文を売るのとは
ことが違うのだ。再びいうが、私は借金が決して問題ではないといっているので
なく、それは人々が一般に信じているような問題ではないといっているのです」

 [アメリカの現状スピーチ]から1ヶ月、クルーグマンは再び、ニューヨーク
タイムズへの寄稿論説で、過去3年間の、赤字是正こそなによリも重要という保
守派の固定観念がいかに間違っているかを、明らかにしようとした。赤字があっ
ても政府が金を消費する事は間違いどころか、必要なのだと彼はいう。

 「ところがこれをいう少数の経済学者は耳を貸してもらえない。(保守派の)
人々は、いまこの何世代かに最高のスピードで、赤字が減少している事実に直面
してさえ、赤字が爆発点にきていると語るのをやめない。驚くべき事だ。」

 「アメリカの国家赤字は2008年の財政危機で高騰し、失業保険ほかの社会保障
の支出のために、景気後退がそれに伴った。そしてこの赤字の増加は、実はよろ
こぶべきことなのだ! プライベート分野がパニックのために消費を抑制してい
るとき、連邦政府による支出金は国の経済を支える助けをした。議論はあるだろ
うが、大型の景気後退こそあっても、大恐慌に至らなかったのは、この連邦消費
のおかげなのである。」

 「さて2009年にピークに達してから、赤字は下り坂になった。我々が財政を支
える路上にいるためには、予算はいつも財政的なバランスを保っていなくとも、
赤字が、経済の成長より緩慢に増えてゆけばよいのである。古典的な例を挙げれ
ば、アメリカは第二次大戦の借金を返済しなくてすんだ。というのは、大戦後の
30年間に我々の借金は倍増した。しかしGDP-グロス・ナショナル・プロダク
ト-に対する赤字のパーセントは同期間に3/4におちたためだった。」

 「現在我々の財政を支え得る赤字は4600億ドルくらいである、実際の赤字はそ
れより大きいが。予算オフィスの新しい推定では、赤字の半分は未だに後退景気
の影響を反映している。もしも雇用が100%に近くなったらどうなるか―の試算
では、来年はその赤字金額がわずか1720億ドルになると予算オフィスは見込んで
いる。だから、来る10年間のアメリカの財政はほぼ安定しているだろうと同オフ
ィスは推定している。」

 「長期の展望では、国民の健康保険コストや高齢者問題などが2020年頃からプ
レシュアになるに違いない。しかしなぜこうした長期にわたる懸念が、現在の予
算政策を決定しなくてはならないかに、私は確答を得ていない。」

 「聡明な政策とは、私立分野が金を使いたがらないとき、政府が金を使って景
気を安定することだ。そして今、確実な景気回復がおとづれようとしている兆し
がある。だが、失業者、ことに高齢の失業者が、未だに多すぎる。“景気の衰退
期ではなく、ブームのときこそ、緊縮-耐乏政策をとるべきだ”、とメイナード・
ケインズは何年も前に宣言している。

 ベルトウエイ内の主要産業、とりわけ、彼等が真に望んでいる事をやり遂げた
がっている人々、つまり、メディケア、メディケイド、社会保障制度をなくそう
としている人々、赤字非難産業に重い投資をしてしまった人々は、明らかな反対
証拠をもちだして、彼等の脅し戦術を台無しにはしたくない。我々がこれから、
かれらの信じさせようとするインチキ数字の大吹雪に出会うのは確実だ。

 しかし我々は財政危機に面してはいないのだ。赤字は確実に減りつつあり、赤
字非難を政策の中心におこうとした人々のケース(判例)は、借用利子が低く、
失業率もかなり減った今、勝ち目はないのだ。
 ――ポール・クルーグマン(3/11/13 NY TIMES 抜粋)

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■税法のオーバーホール

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 オバマは中産階級の保護を重要とし、超党派による包括的な税法の精査を支持
した。アメリカ内の仕事を増やす企業の税金は安くし、海外に仕事を移す企業に
は罰金を科す。

 よく知られているアメリカの1%以内の超富豪に対する税金は、一般のサラリ
ーマンの課税レートよりよほど安い。これを是正することは、不平等を少しでも
なくしたいと思うオバマだけでなく、アメリカ中産階級の大部分が要求している
事だ。しかし、富者への税金を値上げすると投資が行われず、それは失業者をま
すます増やし、アメリカ経済をいっそう衰弱させる事になるのだと、共和党は口
を揃える。そして今のアメリカの景気後退はオバマの過剰な消費支出によっても
たらされたものだと、鳴り物入りで、国民に信じさせようとする。

 これについても、クルーグマンの優れた考察[この共和党経済]がある。共和
党の推奨する経済とは、政府のプログラム予算を削減し(富者への)税金をさら
に引き下げよという事だが、事実上、この2年間既に実施されてきたアメリカの
経済政策とは、まさにかれらの夢見る共和党経済だとクルーグマンは論じるので
ある。

 「人口増加とインフレ調整後の連邦、州、地域レベルでの政府のトータルの消
費支出は、朝鮮戦争後の動員解除以来のレートで縮小しつつある。オバマは大消
費家のはずではなかったか? いや実はそうではない。2009年後期、2010年初期
には景気に刺激を与えるための支出の高まりはあったが、それはずっと前の事で、
その後の支出は減る一方なのだ。金に困った州や市町村の政府は、教師や消防夫
やポリスなど政府の従業員を解雇した。その間、失業者数は極度に多いというの
に、失業保険は次第に消えてゆきそうだった。」

 「2012年のアメリカ経済は、全体として1937年のルーズベルトのおかした大誤
謬と酷似している。ルーズベルトは、景気の回復を十分待たないで、連邦消費を
カットした。おかげでそれまでノーマルに回復していた景気は、第二次の大恐慌
を迎えてしまったのである。この誤謬は議会を握っていたルーズベルト自身のお
かしたものだが、オバマは、共和党の議会マジョリテイに一歩一歩足取りを遮ら
れているので、その罪は完全な妨害者、議会の多数派共和党にある。」

 「この同じ妨害者、議会の多数派はオバマを脅して、ブッシュのもうけた“富
者のための税金カット”を全て継続させるのに成功した。その結果、国内総生産
における連邦税の割合は歴史的に低い。そして一言付け加えたいが、現在のアメ
リカ経済は(この記事は2012年6月に書かれている。武田)満足からはほど遠い
ものとはいえ、共和党の予言は何一つ実現していない。

 読者は共和党が、予算赤字は借入利息を高騰させるといっていたのをご記憶だ
ろうか? 事実は、アメリカの借り入れ利息は歴史的な最低点に下がった。また
彼等は、インフレと、ドルの価値低下も引き起こすといっていたが、インフレは
低きにとどまり、ドルはブッシュ時代よりも強い。」

 [言葉をかえて言うなら、共和党はオバマが景気をあおろうとしすぎてアメリ
カをギリシャの二の舞にするといったが、私もその一人であるケインズ派の経済
学者は、その反対に、オバマがあまりに乏しい刺激しか与えないから、日本のよ
うになると警告した。しかもアメリカでの日本化には、日本で経験されないレベ
ルの悲惨さえもともなって。]

 「ではいったい投票者はなぜこれらの事実を知らないのだろう?
 一つには経済レポートは根源的な事より、誰がああいったこういったであふれ
ているからだ。だがオバマチームは、共和党の妨害を明確に表してみせる事に失
敗してきたことも理由の一つである。おそらく、弱いとみられるのを恐れている
のだろう。

 またオバマチームは2-3ヶ月の経済ニュースの朗報に出会うと彼等の政策の正
しさの証明だと驚喜し、数字が又落ちると、失望してがっくりする。この間違い
が2010、2011、2012と3回も繰り返されているのだ。」

 「しかし今オバマチームに多くの選択肢はない。かれらは自動車産業のベイル
アウトを誇る事はできるが、全体としての経済の向上を喜ばしい話題にする事は
できない。最善の方法は、ハリー・トルーマン流に、“何もしない議会”――い
や“税金カットでもより大きな消費支出の点でも、民主党の提案を妨害しぬいた
議会”とぶつかり合い、やり合う事だろう。あの妨害がなければ2012年は現状よ
りもよほどよい年になっていたはずだ。」

 「最終的にはそれが、“我々は経済を立て直すことができる”という共和党の
主張に対するもっともよい反論であろう。我々は事実、既に共和党のいう経済の
未来を経験してしまったのだから。」 ――ポ-ル・クルーグマン

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■職を生み出す

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 職を作り出すためにオバマは以下を行う上で議会の助力を依頼した。

・政府と民間により15組のパートナーシップを作り製造業と技術の革新をする。
・研究-開発の水準をあげる。
・古くなったり、破壊されたインフラを修理する仕事をまず人々に提供する。
・アメリカ(経済)再建のために、民間の投資をひき付けるパートナーシップを
 創る。
・ジョブ・アクト法(*)の残りをパスさせる。
 (*2012年4月5日、超党派で可決したジョブアクト法は、職を増やすために
  小企業の資金導入を容易にし、小会社の創立や経営を助ける事で、職を生み
  出すことを狙ったもの。)

 このスピーチからほぼ1ヶ月後の3月9日には、失業率が7.7%にさがった! こ
の4年間最低の率であり、236,000の新しい職が追加されたことが報道された。
 既述の[借金]の項目に記したポール・クルーグマンの提唱する赤字対策はお
おむねオバマの路線でもあり、その正しさが、現実に証明されてきたようにみえ
る。

 さらに、以下の手段がとられる。
・連邦政府による最低賃金を時給9ドルにあげ、生活費の値上がりとともに、昇
 給を認める。
・女性の公平賃金法をパスさせる。
・長期の失業者および初めての仕事口を探している人たちを雇い入れる会社に報
 奨金を提供する。

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■気候変化への対策

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・エネルギーをよりクリーンに燃焼する研究開発を支持する
・新しいオイルとガスの開発許可をスピードアップする。
・連邦エネルギー税の収入で、エネルギー保障トラストを創り、車やトラックが
 今後オイルに頼らなくてすむための研究開発を行わせる。
・アメリカで浪費されているエネルギーを半減する。エネルギー効率を上げた州
 に報賞を出す。

 「我々はもっと天候変化に対して手をうたなくてはならない。超ド級の大嵐サ
ンデイと最悪の天災のいくつかは地球温暖化のあらわれである。」オバマは専門
の科学者を集めたグループ(Science debate.org)の問いに応えて、気象変化は
我々の世代を脅かす最重要問題の一つであるといった。が2008年の選挙運動では
彼が好意をもっていた方法、大気中に排出されるグリーンハウスガスに値段を付
け、放射量に応じて市場の交易に供する Cap and Trade 他、様々の広範なグリ
ーンハウスガス排気軽減の手段については言及しなかった。

 オバマ政府は車の排気ガスにはより厳しい規制を設け、クリーンエネルギーに
巨額の研究費を投じ、火力発電所からのCO2の放出にこれまではじめての制限
を設けた。
 彼は又アメリカが気候変化に関する国際交渉をリードしているといったが、こ
れらの会談は世界規模のグリーンハウスガスのレベルには未だ影響を与えていな
い。

 2012年の選挙キャンペーン初期のロムニーは、気候変化は人間の起こしたもの
かもしれないが、その証拠もないのに、何億何兆もの金をつぎ込む事は我々のと
るべき道ではない、といなしていた。が、その後共和党にかなり劇的な変化が起
った。

 気象変化に連なる環境やエネルギーは問題リストから姿を消して、クリーンエ
ネルギーの事は語られもしなくなった。しかしこれに先立つ4年前の2008年の共
和党の政策綱領は、環境変化への警報を打ち出し、国の保安にも、エネルギーの
独立のためにも経済のためにも、テクノロジーと市場経済に根ざした解決が必要
であるとしていたのである。

 ところが2012年の共和党の政綱は全く調子が違った。天候変化に向けられてい
た政策部分 はなくなった。只すっぱりと、グリーンハウスガスをEPAが取り
締まるのを防ぐために議会はいち早く行動せよというのだ。オバマ政府が、天候
問題を人間環境に対する厳しい脅威と呼んだことをも批判した。代替えエネルギ
ーとしての風力産業への税金控除は2012年末まで許容するという意見も出した。
そして代替えエネルギー産業にどう対処するかは、自由市場と国民の好みに応じ
てきめるという。

 これは一つには、オバマが52,800万ドルを貸与したソーラーパネル製造会社ソ
リンドラの失敗が、共和党に、政府のヴェンチュアキャピタリストとしての能力
を疑わせた結果ではないかといわれる。いずれにしても共和党は今、こうしたク
リーンエネルギープログラムの全てに反対している。

 そして共和党は最近、アメリカの莫大な化石エネルギー資源に焦点をあててい
る。これは理解できないことではない。過去4年間、アメリカはノース・ダコタ
のバッケン・フォーメイションや東部のマーセラス・シェイルでのオイルや天然
ガスの大量の産出をみている。シェイル岩への新しい掘削技術で、アメリカの石
油輸入は助けられ、国民総生産を高め、電気料金を安くする。アメリカ経済が未
だ回復期にあるとき、これらは見逃せない。

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■移民法改革

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 就任式でオバマ曰く。いまや包括的な移民法改革を行う時が来た。まず警備員
の増加を含めての国境警備の強化をする。そして英語を習い、犯罪歴がなく、滞
納税金を払った人ならば、1100万人の非合法移民に市民権への道を提供する。彼
等はそのための費用を払い合法的な移民(申請者)とともに列に並んで待たねば
ならない。また最上級の質の移民には合法的な移民プロセスを改訂適用する事も
許容する。さらに、この移民法では非合法移民を雇う企業を手入れすると同時に、
合法的なゲストワーカープログラムをも併用する。

 いうまでもなくこれはラテン系を中心とする移民のコミュニティを大喜びさせ
たが、彼等には実は未だオバマへの疑心が残っている。それは、オバマの第一期
中にも彼の移民援助への言明があったにも関わらず、史上最大数の非合法移民が
家族と離されて本国送還されたからである。オバマ政府による非合法移民の本国
送還は、これまでのどの大統領によるものより多く、4年間に150万人に達した。

 包括移民法によって、1100万の滞米非合法移民に、市民権への道を開こうとし
ているオバマには似つかわしくない、いや考えられないやり方ではないか。オバ
マの支持者である筆者にも、こんな強制送還の原因がすぐにはつかめなかった。

 調べてみると、オバマの意向が何であれ、彼の議会を牛耳っているのは共和党
である。少数の移民を導入するのと事が違い、1100万もいる非合法移民に市民権
の道を開くためには、議会との途方もなく大きな戦いが予想される。そして彼の
批判者は既に、移民法を創っても、それを守らせることなどできないと考えてい
るので、オバマが果たしてこの移民法案を議会に通させ得るかは大問題なのであ
る。

 まず犯罪歴のあるものから送還しているということだし、家族が離ればなれに
ならないよう、できるだけの顧慮も払っているらしいが、もちろん間違いは起る。
国家保安省のナポリターノ女史は、アメリカでこれほど困難な仕事は他にないで
しょうという。

 彼等が細心の注意で送還者を決めても、未だまだ少なすぎると共和党からは批
判され、何らかの理由で引き離された家族からは泣きつかれ、移民グループのリ
ーダーたちからはオバマのやり方は残酷だと責められるのが実情らしい。これが
どう決着するか。オバマハはいうまでもなく真剣にこの問題と取り組み、おそら
く小を捨てて大を得ようとしているのであろう。

 オバマ再選後の共和党には、目に見えるか見えないかのわずかな協調姿勢が感
じられるときがあるという。移民法がそれにあたるかどうかはわからないが、そ
れでも通らない場合は、おそらくオバマは大統領指令を使って、議会の承認なし
にこの法を成立させることになるだろう。ラテン系移民の生活に共和党が最低限
度の貢献でもしたといいたいなら、非合法移民に恩赦など与えたくないといい続
けて、移民法に反対してばかりいられないだろうと思うのだが。包括移民法がオ
バマの努力で実現しますように。

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■教育

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 オバマは小学校以前の早期教育プログラムを提案した。それは州と提携して、
高度の早期教育をアメリカの全ての子供に与えようとするものである。早期教育
に投資する1ドルごとに、何年か後それはドロップアウトを減らし、アメリカに
とって7ドルの節約になるという。連邦政府は州とともに、彼等が卒業したらよ
い仕事に就けるように、数学、科学、ハイテクを高校の生徒に教える会社とパー
トナーを組む。

 オバマは又、議会に高等教育法を改めて、支払い可能な授業料で価値のある教
育をする学校には連邦資金で報うようにするという。彼はまた大学の成績簿を創
り、両親と学生が、最高の価値ある学校を選べるようにするという。

 未来のアメリカにとっての最大の投資は人間だと考えるオバマは、共和党に、
借金や赤字の解決がなにより一番だと予算を執拗にカットするよう圧力をかけら
れている。【金で解決するものなら我が国の学校には問題は存在しないはずだ。
金を増やしたから結果がよくなるものではない。】と、どんな教育をするかより
も、教育に金をかけるより、赤字の解決が先だと保守派は迫る。

 共和党は、公立学校という一つの型にはめるのでなく、両親と子供たちに広い
学校の選択を与えることが学校の刷新のためにはもっと重要という。アメリカは
既に一人の子供に1年に1万ドル―全体では5500億ドルの費用をかけて公立学校教
育をしたが結果は良くない。要するに教育費を含むプログラムのカットを迫るの
である。

 共和党はアメリカ中で強力になりつつあるローカルレベルでの教育改造を次の
ようにアウトラインしてみせる。

・学校行政、両親および教師が責任をもつこと。
・学術の標準を高めること。
・数学、科学、読解、歴史、地理の学力の厳正な定期的評価。
・新しい焦点を憲法と建国者の文書にあて、正確な建国の歴史を読ませる。
・両親と教師が生徒に最適の学校を選べるように透明性をもたせる(学校差の明
 確化か?)。
・生徒の特別な必要に応えられるよう、教育に柔軟性をもたせ、教師と学校経営
 者が生徒の成績に責任をもつ。

 共和党は過去何年かで効果のある事のわかった政策や方法、例えば功績のあっ
た教師には教師の給与を上げ、学習を容易にするためのテクノロジーを教室に導
入する。
 しかし彼等は、共和党の執拗に主張する予算カットで、消防夫や警官とともに、
多数の公立学校の教師が職を失っている事実には触れていない。

 学校選択へのコミットメントの一部を反復し、共和党は“学習法の選択”を擁
護する。それには家庭学校(ホームスクーリング)、男子または女子専門の学校、
一日中授業をする学校、年中授業をする学校なども含まれる。また、州や市町村
の公立学校統制を妨げる多数の連邦規則を廃棄しようとする議会共和党の努力を
称賛する。

 総選挙のキャンペーン中に、大学の授業料があまりに高くなって、どうしてい
いかわからないと大統領候補ロムニーに直訴した少年がいた。ロムニーはいった。
【なるべく安くて質のいい大学を見つけるんだね。そしてどうしても困ったら、
お父さんに相談なさい。政府などあてにしてもだめだよ。】彼が落選したのは大
学に行く青年たちには朗報だったろうか、それともその逆だろうか。

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■防衛と外国貿易

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 アメリカはアフガニスタンから今年3万人の軍勢を帰国させる予定である。来
年は訓練と反テロリストの訓練に移行する。オバマは又サイバーアタックと戦う
情報増加に参加する大統領指令にも署名した。

 彼は又新しい、大西洋横断の自由貿易を提案した。また、民主主義を求める国
との連盟を強化し、イランとシリアには圧力を緩めず、イスラエルとの不動の関
係を保つ。世界で最上の軍隊を維持し、防衛費の無駄は減らす。彼は又兵士とし
ての同性愛者もその家庭も支持し、戦闘員にしての女性も正式に支持する。傷痍
軍人を支える業務、ヴェテランズ・アファエアーに投資する。

 新しい防衛長官として、共和党のチャック・ヘーゲルを任命しようとしたオバ
マは、議会共和党の執拗な抵抗に出会った。ヘーゲルはベトナムで実戦を経験し、
紫のメダルを二度得ているベテラン。軍隊の裏も表も自分で見て、オバマの軍費
縮小路線に賛成する。ここでも大国アメリカの威力を求める共和党の抵抗は熾烈
であり、ヘーゲルが共和党である為に、オバマのもとで働く事を裏切り者とさえ
呼んで問題にした。元防衛長官のロバート・ゲイツも共和党だった事を忘れたか
のように。しかし大騒ぎの末に、結局ヘーゲルは任命された。

 またリビアのベンガジのアメリカ領事館が襲撃されて、領事が落命した事実の
報道に粉飾があるといって、共和党はマッケーンを中心に、長い間問題にした。

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■投票の価値あり―銃砲規制

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 ガン暴力の全ての犠牲者は、少なくとも銃砲規制の是非について、議会の投票
を受けるに値するとオバマは論じた。オバマの提案は、販売される全てのガン購
買者の背景チェックをし、1994年に禁止されたが今は自由に販売されるアソール
ト・ウエポン(強襲兵器―筆者訳)の一つである強襲ガンの販売禁止を復元し、
連発銃は発砲を10回にとどめるものにし、弾丸防止服を貫通する弾薬を所有する
事は軍隊と警官以外は不可能にする。

 提案は又、精神障害者(の治療)により大きな助力をあたえること、連邦代理
業者間の共同作用を強めること、学校の銃砲襲撃に対する準備も訓練する。彼は
又、学校に警官や警備員を配置せよというNRAの意見も取り入れるという。

 アメリカの銃砲規制の難しさについては、オルタ109号に筆者も書いた(アメ
リカはなぜガンを統制できないのか)。全国ライフル協会NRAの政治力は、サ
ンデイフック小学校の子供たち20人を死なせた後でも、ノーマルな銃砲の統制を
拒む。強襲ガン(ASSAULT WEAPON) はなぜ必要なのだろう? 狩猟にもスポーツ
にも、強力な連発銃など不要である。

 人を殺すためにしかいらないのだ。サンデイフックの射殺された小学校の一年
生は、ブッシュマスターと呼ばれるこの手の連発銃で、皆3発から11発の射撃を
体に受けていた。強襲ガンは、実はライフル協会の大きな財源なので、彼等は決
してこれの販売禁止を認めようとはしないのである。それを支えるのはライフル
協会から大きな恩恵を受けている共和党なのだ。

 【STATE OF UNION 】スピーチの会場には、政治家と一般人のふれあう広場の
集まりで、ガンで頭部に重傷を負い、ようやく少し舌足らずでも話せるようにな
ったガブリエル・ギフォード国会議員も、元宇宙飛行士の夫君マーク・ケリー氏
に付き添われて出席していた。彼女は療養中に議員職を辞し、夫妻は今後の人生
を、ガン暴力の絶滅のために捧げるという決意を明らかにしている。

 さてサンデイフック事件から既に3ヶ月、その後のガン統制は、どうなっただ
ろう。
 オバマは副大統領バイデンに、ガン統制の仕事を課したが、バイデンはこの仕
事の困難を知悉している。なぜなら、最終的にはそれは共和党の握る議会が決定
する事だから。

 2014年の中間選挙には、共和党の国会議員と一握りの民主党上院議員が、再選
選挙に立たなくてはならない。これらの上院議員たちは、オバマやバイデンが希
望する通りにガン制限に立ち上がるについては、どうしても逡巡せざるを得ない。
党中枢の方針と反対だからである。民主党上院のリーダー、狩猟家のハリー・リ
ードはライフル協会の会員であり、彼にも逡巡はあったが、いまは自分の政治的
な資産をなげうってもオバマの方針にしたがおうとしている。それでも、結果に
ついては全く自信がない。なぜだろう。

 たとえば1994年に、連発銃など強襲武器が禁止された。その政治的な影響は、
民主党にとっては惨憺たるものになった。強襲武器の禁止が議会をパスして2ヶ
月後の選挙で、この禁止に賛成した民主党議員の多くは議席を失い、上下両院を
共和党に支配させる結果を生んだのである。

 今日下院の少数の共和党議員は既に、オバマのガン統制の声明に危機感を抱き、
警報を発している。テキサスの共和党議員、スチーヴ・ストックマンは、新しい
ガン規制を23の大統領命令(議会の承認を得るプロセス抜きで、大統領が独自の
判断で発する命令)と大統領行動で強化するというオバマ大統領を、憲法違反で
弾劾(インピーチ)する運動をリードするといっている。オバマの声明は共和国
アメリカのもっとも基本的な原則である、憲法(修正第2条)に保護された権利
への侵害だというのである。

 さてサンデイフック小学校の悲劇から3ヶ月の今日、ガン規制には何らかの喜
ばしい展開がみられただろうか。あれほど頑強に、銃砲規制の立法を警戒して、
「ガンをもつ悪人を防ぐのはガンを持つ善人」などと宣伝しまくったライフル協
会はあいかわらずの強気ではある。

 そしてごく最近、なんと学校の教師が、火縄銃―ハンドガンを教室に持ち込む
事が許されたのである。これはまんまと共和党の宣伝文句―ガンを持つ悪人に対
するガンを持つ善人―に乗せられた図式ではないか。いうまでもなく教師は、生
徒を守るために銃を持ち込むのではある。それにしても、、、、、、とため息を
つきたくなる。

 概観したオバマの今期の政策は、議会を未だに共和党に牛耳られている現状で
は非常に実現が困難である事は誰にもわかる。しかしユニオン演説を通して、オ
バマはアメリカが耐乏政策(AUSTERITY POLICY)の強いる耐乏生活によって借金
をかえし、赤字を埋める事に全力を注がせたい共和党の議論から遠ざかろうと努
力している。なぜならそれは経済の成長を制限するものだから。もしも予算カッ
トを続けるなら何が起るかはヨーロッパがそのよい見本である。

 ここアメリカでは防衛費のカットで、2012年第四期の経済が緊縮した。政府の
消費額はGDP(国民総生産) の構成要素であるためだ。この例だけでも、消費
をカットすれば、成長がカットされる事はよく分かる。

 もしも実現されれば、オバマの政策の大半は成長に刺激を与え、仕事を生み出
すだろう。しかしそれは将来の予算カットと、赤字減少とのバランスにおいて慎
重に行われなければならない。

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 今回の原稿では、ポール・クルーグマン氏の論説を何度も借用させていただい
た。明快で、大胆で、しばしばユーモラスなこの経済学者は、リベラルの得難い
筆頭論客である。

 議会を共和党に握られているオバマの苦衷は、察するに余りがある。時に、彼
が白人であったなら、大統領になれたかと考えてみることがある。彼を圧倒的に
支持した黒人とイスパニックの人達が多数を占めてきた事は、確かに彼の再選を
可能にした。

 しかしオバマが大統領という、陽のあたる場所にいる事が、どんなにある種の
共和党の面々に堪え難い思いをさせていることか。共和党のある人達のオバマ落
としへの努力は、常識や理性を超えている。国の利益でもなければ、党派の利益
でもない、オバマ憎しだけが原動力なのだ。2014年、オバマが選挙から退場する
と、共和党のお偉方は理性を取り戻すのだろうか?

 (筆者は米国ニュージャーシー州在住・翻訳家)
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