【自由へのひろば】

バングラデシュに広がる交通抗議学生デモ
~非人道的な弾圧と沈黙する日本大手メディア

坪野 和子


 バングラデシュ人の友人たちが「なぜ日本のメディアは今バングラデシュで起きていることを全く伝えてくれない」「お姐さん、日本に教えて欲しい」
 …ということで、8月10日現在も続いている学生及び保護者たちによるデモと鎮圧のために行われていることをお伝えし、若干の補足をさせていただきたい。

1.交通安全を訴える抗議デモが大きくなり暴力的な鎮圧が続く

 7月29日、首都ダッカにある空港幹線道路で猛スピード走行するバスにディア・カナム・ミームさん(17)とアブドゥル・カリム・ラジーブくん(18)がはねられ死亡した。他に7名が負傷した。目撃者によれば、もう1台の別のバスとラリーのように煽り追い越し運転をしていたとのことだ。

 翌30日午前、中等学校(バングラデシュは10年制と12年制+大学)の生徒たち約1,000名から数百人がバス路線封鎖による抗議デモを行った。交通安全に何も策を持たない政府に対するものだ。警察と衝突が始まり、生徒たちは車両の破壊などを行い抵抗した。この抗議活動は丸1日で一掃された空港ホテル付近を含む3か所ではじまったと伝えられている。
 翌々日8月1日には抗議活動が広がり、大学生たちも加わっていった。ダッカ市内では6か所が確認されている。

 8月3日。「私たちは正義を求める」が多くの学生のコールとなり、メディアに対して「セーフティ・ロードを求めて活動している」。この日から学校閉鎖休校とした大学・学校が出始めた。登校して警察や「政府支持者(政権政党アワミ連盟に雇われている殺し屋)」に捕まる、下校して家庭で捕まること回避したためとみられている。

 8月4日。警察がイースト・ウエスト大学のキャンパスに学生を追い詰め、催涙ガスとゴム弾を向けていたことが表に出てきた。この時までは座り込みやデモ行進の画像や動画が大手メディアとツイッターやフェイスブック投稿から見られた。デモ行進の動画を見ると、さすがに人口が多く若者が多い国だと規模の大きさに驚いた。
 表に出ていなかったが、警察と「政府支持者」の暴力と殺戮が激化しはじめていた。「政府支持者」たちは警察の制服のシャツを与えられ(ズボンは普段着だ)警察のふりをして暴力をふるっているのだ。または偽の学生証を与えられ、学生に近寄りそのままリンチへと及んでいる。

 8月5日。世界の大手メディアがこの問題を取り上げるようになった。BBC、CNN、ニューヨークタイムズ、アルジャジーラなど。しかし、これらの日本語サイトには出て来なかった。この日から、バングラデシュ人の友人たちから多くの画像や動画が送られてくるようになった。またバングラデシュ駐在アメリカ大使は「学生に野蛮な攻撃をすることは許せない」と述べ、同日、テロに襲撃されたが本人も周辺警護も無事だった。

 8月6日。ダッカ市内のアジア・パシフィック大学のデモ隊が、石や木の棍棒を持った政府支持者たちに襲撃されたことが明るみになった。インターネット上で、様々な実態がわかる画像や動画が流出した。片方の目玉をくりぬかれた男性、顔の一部を刃物で切られて失った男性、追い詰められて打ちのめされる男性、血まみれの服で横たわる美しい女性たちと上半身裸の女性(どちらもご遺体に見える)、ヒジャブで顔を隠してレイプを訴えた勇気ある4人の女性、両腕・両足を四方4人で引っ張って背中を打ち付けられている…おそらく子ども(身長が低い大人かもしれない)。まるで地獄の沙汰のようだ。

 8月7日。この日からバングラデシュ全土で携帯電話のインターネットが止められた。この日、アルジャジーラの報道カメラマンのシャヒドゥル・アラム氏が警察に囚われた。翌8日、このカメラマンは病院送りとなった。

 8月8日。この日を境に各国の大手メディアの報道が停滞した。外国人ジャーナリストが襲撃されているからだ。後で気付いたのだが、数人に追い詰められて棍棒で殴打されていた画像の一つはアルジャジーラの現地テレビレポーターだった。
 今は国外にいる人がそれまでに知りえたことを伝えるだけだ。私も個人的に送ってもらった情報や画像や動画の一部がインターネット上で消されている。
 尚、このデモはダッカだけでなく、バングラデシュのかなりの地域で行われているという。さらに、インド・コルカタやマレーシア、そして小規模に在日バングラデシュ人数人が日本・東京で座り込んで抗議活動を行っていた。

2.沈黙する日本

 この件に関して、日本の新聞は各紙とも全く報道していない。唯一NHKのみ数分、デモがあったことだけ伝えた。あるいはAFPの翻訳でいきなりネットが止められたことだけを伝えている。外務省の「安全情報」サイトでは時々刻々、このデモについて危険情報を出している。不思議なことに8月7日には河野外務大臣がバングラデシュを訪問し、首相、外相と会っており、夕食会も開かれている。日本には伝えたくない事情があるのだろう。
 その他、政府の下部機関がツイッターになにやら緩いムードを持つバングラデシュの画像を投稿している。交通安全で現地の人がデモをしているというのに「外務省やわらかツイート」にリキシャの画像を挙げていて無神経だ。リキシャと自動車の道の差別化ができていないから渋滞が起こると考えている人も多いのに。

3.補足解説 ※私個人の見解

 実際、この国の交通事情は政府の無政策状態を象徴している。一般道と高速道路の整備ができていない、空港につながる道路が一般道だったのだ。しかも無免許でバスを運転することもできる国、さらに運転免許が近隣諸国と比べても、いや日本と比べても簡単にとれてしまう。
 渋滞は当たり前、そして交通違反の取り締まりがきちんとできない警察、日本でも官公庁が縦割りだと感じるのに、バングラデシュの内閣の権限が細かすぎていて、道路・橋のインフラ、道路、鉄道、別々である。45人分の大臣ポストがあるのだ。なんでこんなに大臣がたくさんいるのかと驚くほどだ。しかも権力は政治と軍を掌握している最終的に首相につながる。

 今回の交通事故で謝罪を要求し、「よくあること」と自分のせいではないという態度で笑みを浮かべ、国民を怒らせたシャジューハーン・カーンは日本の運輸大臣に当たる。バングラデシュ道路交通労働者連盟総裁であったり、交通に関する法律を自分の都合がよいように改定したりしている経歴を持つ。バングラデシュの内閣は彼だけではなく、2009年から続いたハシナ独裁政権の下、それぞれの大臣と省庁が自分の利権を貪っている。バングラデシュでは、しょっちゅう抗議デモが起きている。今回は歴史的な規模である。

 現地ジャーナリストのスワデッシュ・ロイ氏は現地大手メディアにタゴールの詩になぞって、今回のデモで亡くなった若者たちを偲んで「死ではなく、ひとつの美しい花が咲く種になった」と詩のような論評を書いた。ただし今はネット上ではフェイスブックでしか読むことができない。この詩のような論評に「1971年 パキスタンから独立するために命を捧げた人たち」という言葉があった。
 この残虐な弾圧が続けば、12月の総選挙を待たずに、革命まで進む可能性を感じる。

 (高校時間講師)

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