ビルマ/ミャンマー通信(2)

ビルマ/ミャンマー通信(2)              中島 滋?

────────────────────────────────────

****************************

◇「最後のフロンティア」と日本

****************************

 
 民主化の進展とそれに対応した欧米の「制裁解除」によって、ビルマ/ミャン
マーへの海外投資は、確かに急増しています。NHKの海外向け放送でも時々取
り上げられていますから、日本でもよく報道されているようですが、「最後のフ
ロンティア」との位置づけなのでしょうか、ここヤンゴンにいて投資ブームの高
揚は感じられます。

 昨年11月に改正・施行された「外国投資法 = Foreign Investment Law」を印
刷したパンフレット(英語版とビルマ語版)が車の間をぬって物を売り歩くスト
リート・ベンダーの手によって販売されていて、驚かされています。

 そんな中、年頭に、麻生副総理・財務相がビルマ/ミャンマーを訪れ、テイン・
セイン大統領、ウィン・シェイン財務・歳入相等の要人と会見するとともに、首
都ヤンゴン近郊のティラワ経済特区開発地域を視察しました。約5,000億円に上
る延滞債務問題の解消(3,000億円の帳消しが中心)と、新たな円借款500億円の
供与も表明されました。官民一体となった経済協力・支援の強化の表明は、民間
企業の取り組みに「お墨付き」を与える効果をもちます。

 ティラワ経済特区開発には、既に日本から三菱商事、丸紅、住友商事の企業連
合が参画し、工業団地を整備して日本企業をはじめ製造関連企業の誘致を進める
としています。これに対するビルマ/ミャンマー側の反応は、Myanmar Business
Today など地元紙によれば、工業団地開発でミャンマー側の責任者を
務める商工会議所連合会 = UMFCCI (Union of Myanmar Federation of Chambers
of Commerce and Industries) 会頭のウィン・アウン氏の雇用拡大と
経済発展への寄与に大いに期待できるとするコメントに代表されるように、経済
界を中心に概ね良好なものです。

 日本側の投資意欲の旺盛さを示し、地元の期待をさらに高めたのが、2月初旬
に行なわれた米倉会長を団長とした日本経団連の視察団でした。企業のトップ60
人を含む総勢140人という超大型視察団は、大統領をはじめ政府や経済界の要人
と会い、インフラをはじめ投資環境整備を進めることを要請するなど、投資拡大
に向けた日本企業の積極的な姿勢を示しました。

 このような動向は、当然のようにいくつかの副作用的な状況を生み出していま
す。その典型例が、関係地域の土地価格の高騰で、ティラワ経済特区周辺のみな
らず、ヤンゴン市内、郊外などにも及んでいます。マレー半島の付け根近くまで
下りバンコクとほぼ同緯度に位置する港町ダウェイではASEAN随一になると
いわれる深水港開発が進められていますが、この周辺でも土地価格の高騰が問題
になっています。

 計画が発表されてほぼ2年が経ちますが、海外からの投資への期待が土地価格
高騰を呼び起こし、地元紙が不動産業者の声として「売り手の言い値はもはや誰
も買えない価格になっている」と伝えています。ビルマ/ミャンマーとタイとの
ジョイント・ベンチャー(日本の加入が予想されている)による500億ドルのプ
ロジェクトが本格スタートすれば、さらに高騰するだろうと言われており、UM
FCCIの起業家は、税制面でのチェックを強化して高騰をおさえるべきだとの
主張をしています。

 しかし、投資問題をも担当している大統領府のウー・ソー・テイン大臣は、
「車の価格は、新政権の少なくとも6回に及ぶ政策変更によって、下がり続けて
いるが、土地の価格に関してはそのようにはいかないだろう」と述べたことが伝
えられています。
 
 発言の背景には、おそらく外国からのビジネス来訪者が増加の一途をたどって
いる状況があると思います。2012年一年間にヤンゴン国際空港に到着したビジネ
ス来訪者は、空港出入国管理局によれば前年と比較して1.64倍になっています。
ビジネス・ビザによる入国者は、2011年の69,943人から114,456人に増加したの
です。

 ヤンゴン国際空港への外国からの来訪者全体は、2011年の359,359人から
554,531人に増加し1.54倍になっています。来訪者が一番多い国は隣国のタイで
91,817人(全体の17%)、次いで日本が47,501人(9%)、第3位が中国で41,542
人(7.49%)、第4位がアメリカで36,476人(7%)、これら上位4国で全体の40
%を占めていることになります。ちなみにヨーロッパからは、フランスの29,686
人(5%)、イギリスの23,291人(4.2%)、ドイツの21,856人(3.9%)が主な
国で、全体では135,697人(25%)を数え、アジア全体の347,241人(64%)に次
いでいます。
  
 この統計からみると、1日平均で130人以上の日本人が毎日この国を訪れている
わけで、その内の60%以上がビジネス目的だとすれば(平均が64%ですから日本
はそれ以上と想像できます)、日本がこの国の経済的・社会的発展に与える影響
は非常に大きいといえます。日常生活の中で、街中にあふれている中国製の粗悪
品を使わざるを得ない環境を強いられていることからいうと、日本ができること
は多くあると思われます。目先の金儲けにうつつを抜かさずに、持続的な発展に
貢献できる対応があると思います。
  
 ディーセント・ワークの実現を目指すという観点からすれば、未だ多くの課題
がありますが、例えば日系の縫製関係企業が他国系企業とりわけ韓国系や中国系
の企業と比較して良好な労働条件で雇用し安定的な労使関係を目指し労働組合と
の交渉・協議を重視している実態は、そうした対応の一つの方向性を示している
のではないかと思います。
  
 つい先日、韓国系企業で組合結成を理由に中心メンバー7人を解雇する事件が
起きました。さらに組合員となった生産ラインのスーパーバイザーを首にしよう
とし、彼女の下のライン要員の80名全員で抗議したところ、ビルマ人マネージャ
ーがそのラインの操業ストップ・全員帰宅を命ずるという事態に発展してしまっ
たのですが、FTUB(ビルマ労働組合連盟)の適切な対応があり、7人の解雇
に関する仲裁審議の場で、企業側がマネージャーの非を認め、全員の解雇撤回、
マネージャーを解雇する解決案に同意し解決を見ました。
 
 トカゲの尻尾切りの感がありますが、労組側の全面勝利で決着を見たことは、
今後の組合運動の展開に好影響を与えるに違いないと思います。労働組合を敵視
し、中心メンバーを解雇するなどの強硬手段を安易に用いる企業は、まだまだ多
く存在します。それがまかり通ってしまう社会環境もあります。

 そうした企業がブラック企業として社会的信用を失うことになり、企業間競争
にも耐えられなくなるような社会環境をつくり出していくことも、労働組合運動
の創成期にあるこの国での大きな課題であろうと思っています。 
  

****************************

◇「義務教育」についてミニ情報

****************************

 
 ビルマ/ミャンマーは、優秀な労働力を有する国だと評価されています。その
評価は、識字率の高さが一つの根拠になっています。その基礎にはしっかりした
義務教育制度があると思っていました。しかし、実態はそうではないというので
す。複数の組合関係者からの話で分かったことですので、詳しく調べて後日報告
しようと思いますが、とりあえずの情報としてお届けします。

 この国では、満5歳で0年生となり初等教育は4年生までの5年間、中等教育は5
年生から7年生までの3年間、8年生から10年生までの3年間が高等学校にあたり、
その上に大学があるという学制がとられています。

 問題は、0年生への入学は全く親の判断に拠っているということです。行政側
からの通知や働きかけは一切ないそうです。教育に一定の理解があり、経済状態
も入学させることが可能な場合に親が入学させるということで、させないからと
いって何の指導も罰も受けません。都市部では、周りの影響もあり入学する数は
多いそうですが、4年生終了時にやめさせられて徒弟奉公や裕福な家庭に家事労
働に出されるケースが多くあるそうです。

 ヤンゴン市内に昔からある市場を訪れると、明らかに児童労働と思われる場面
を多く見ます。地方の農村部ではさらにひどい状態だそうで、学校に行けない子
供とくに女の子たちが多くいるそうです。それらの子供たちは、お寺でお坊さん
から読み書きを習っているそうです。

 先日、カチン州の農民が、要請に来ました。村に学校がなく、農民たちでお金
を出し合って先生を1人雇い、掘建て小屋の校舎を建てて、村にいる0年生から8
年生までを一緒に教えてもらっているので、せめて校舎を日本大使館が行なって
いる草の根無償援助で建ててもらいたいので、働きかけてほしいという要請でし
た。貧しい中でもこうした農民もいます。彼らは農民組合の組合員です。国民の
70%を占める農民の中に、彼らのような人々がいることは、この国の希望でもあ
ります。

        (筆者はITUCビルマ/ミャンマー事務所代表)

==============================================================================
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップ>バックナンバー執筆者一覧