【コラム】
フォーカス:インド・南アジア(20)

フォーカス:インド・南アジア(20)

日英原子力協定の改定をめぐる外務省のデタラメ

福永 正明

<一>

 原発輸出反対運動は、日々に勢いを増している。私が世話人を務める「日立製作所による英ウィルヴァ原発輸出反対キャンペーン」では、本年1月から4回の対政府のヒアリング・交渉(以下、「ヒアリング」)を継続してきた。また、同じく世話人を務める「核武装国インドへの原発輸出に反対する市民ネットワーク」では、10月下旬のモディー印首相の来日における原発輸出推進の協議に反対し、日印官民が秘密「作業部会」の実態を文書開示請求活用にて暴いてきた。

 特に日立の原発輸出事業への反対論は、日立による原発建設事業から、「日英原子力協定」、「英保管の日本プルトニウム」に問題が拡大した。これまでの「ヒアリング」においては、来年3月30日(日本時間)期限とする英の欧州共同体(EU)・欧州原子力共同体(ユーラトム)からの離脱との関係から、現行協定が不適の重要問題を取りあげた。
 ついに10月26日開催の「ヒアリング」では、「外務省のデタラメ」が明確となった。これは外務官僚が、一度発言・回答したことについて、後日になると誠実に訂正できない哀れな姿勢に起因する「デタラメ」である。

<二>

 私たちは、日立による英国への原発輸出に反対活動の一貫として、「ヒアリング」と院内集会を継続してきた。また国内メディアの多くは、「東芝の轍を踏む」と警告、「日立は英原発事業から撤退するべき」との論調が主流となっていた。
 「キャンペーン」では、日立社長宛、さらに日立・ホライズン社と許認可業務に関する請負契約を締結した日本原電社長宛のハガキ行動を開始し、全国に大量拡散し、ハガキが両社長に集中した。さらに「ヒアリング」・院内集会開催日には日立本社前、原子力産業協会前にて要請と抗議の行動を実施してきた。

 メンバーによる学習をすすめるなかで、「2019年3月30日(日本時間)のユーラトム離脱は、日立の原発輸出に影響しないのか?」との問題が浮上、調査と情報収集が続けられた(この問題詳細については、既報)。
 7月20日、超党派国会議員「原発ゼロの会」の協力により「ヒアリング」を開催、「外務省軍縮不拡散・科学部国際原子力協力室M企画官(以下、「企画官」)が原子力協定を担当するとして出席した。事前に議員事務所より「質問書」を提出、当日に「回答」を得て、さらに再質疑応答する形式にて行われた。

 「質問書」の中核部分は、日英原子力協定の協定文を提示しての指摘であった(文部科学省サイト掲載、http://www.mext.go.jp/component/a_menu/science/anzenkakuho/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2009/04/23/h101012_13.pdf)。

 第一、協定「前文」、
==ここから協定前文の引用==
 グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国が欧州原子力共同体(以下「ユーラトム」という。)の加盟国であることを認識して、次のとおり協定した。
==引用終了==

 まさに協定前文にて、「加盟国であることを認識」することが前提となり、協定したとされている。すると、英国がユーラトムを離脱したならば、この「認識」は不適となり、協定は継続できない。

 第二、第4条では英国内の原子力施設についての保障措置(査察)について次の通り定める、
==ここから協定第4条の引用==
 第4条 1(b)(i)
 (b)グレート・ブリテン及び北部アイルランド内においては、(1)第2条に規定する協定及び同協定に規定する保障措置に関する補助的措置並びに1957年3月25日に署名された&deco(u,,,){ユーラトムを設立する条約に基づくユーラトムの保障措置の適用を受けるものとし、
};==引用終了==

 日英原子力協定では、英の原子力施設の保障措置は、「英がユーラトムの保障措置の適用」を受けるのであり、ユーラトムを離脱したならばその保障措置適用は不可能となる。
 現行の日英原子力協定は、英がユーラトムに加盟することを前提としており、離脱した場合には協定が不適となる。だからこそ英政府は、改正のための交渉を日本と継続していると議会に報告したのであった。

 さらに、英政府が英議会に提出した「ユーラトム離脱に関する報告書(英文)」から「質問書」で問題を提起した。報告書では、「現行の原子力協定が離脱後には内容を変更する必要、あるいは、新協定を締結する必要がある。そのためアメリカ、日本、カナダ、オーストラリアの主要4カ国と協議を継続している。その協議は順調に進展しており、2019年3月末のユーラトム離脱までには議会承認を得られる予定である」と繰り返して論じられていた。実際、英政府はアメリカ、国際原子力機関(IAEA)との交渉・協定締結を先行させ、6月までに調印していた。

 英政府が議会に対して、「日本との改正交渉」を報告しているならば、日本政府は英政府との改正交渉を認め、その内容を明らかにするべきが私たちの主張であった。つまり、改正交渉の相手方が交渉進展を表明しているのだから、日本側も交渉の事実を認め、日立の原発輸出を後押しするような協定調印に反対する立場からの質問と追及である。

 ところが、「企画官」の議員事務所への事前説明では、英国がユーラトムを離脱したとしても、『移行期間があるから関係なく、現行協定は有効』と回答していた。つまり、英国がユーラトムを離脱しても、2020年末までの「移行期間」があるから、日英原子力協定は関係ないとの回答であった。
 ところが事実として「移行期間」とは、本年3月に英政府とEUが「暫定合意した離脱協定案に記された内容」でしかない。最終的に「移行期間」の設定は、離脱協定の締結で確定する。そして離脱協定の締結交渉は難航しており、本稿執筆時の11月10日現在でも調印されていない。すると「企画官」は、事実を曲げて、あたかも「移行期間の設定が既定事実であるかのように」説明を続け、交渉の状況を隠ぺいしていた。

 当然、私たちは「移行期間での現行協定有効論」を問い、否定する「質問書」を提出した。そこで外務省内の欧州局で離脱協定をウオッチする担当部局の職員の出席を求めた。7月20日「ヒアリング」で欧州局員は「移行期間は未決であり、離脱協定締結により最終決定される。現時点において離脱協定の交渉が継続しており、締結は行われていない」と回答した。これにより「企画官」の「デタラメ」な説明は崩壊した。
 そして同席の「企画官」も、「移行期間があるから大丈夫」とは繰り返すことができず、ただひたすら「適切に対処する、英政府と適切に対話している」と繰り返すのみであった。
 また英政府の公式議会報告の内容については、「他国政府の文書について、コメントする立場にはない」と繰り返し回答した。これには「ヒアリング」会場が仰天、誰が考えたとしても協定相手政府の「交渉中、順調に進展」との記述を認めないことは驚きでしかなかった。

 「ヒアリング」参加者たちは次々に、「なぜ隠すのか?」と質問を続けた。かつて日印原子力協力協定の交渉開始後、外務省は一貫して「交渉中のことは明らかにできない」との回答であった。だが今回は、「交渉」そのものも認めず、隠し通そうとする態度であった。
 国民の公僕として、何を考えての職務執行か、重大問題である。国民に情報を開示せず、正確に状況を明らかにないのは、なぜか。
 私たちはそれが、「日本からの原発輸出を後押しする協定」作りを行い、それに対する国民の批判を避ける目的と判断する。つまり、日立が進める原発輸出、原発電力事業を支援する内容の「新協定作り」が秘密裏に進行しているとの疑念を強くした。
 極めて歪んだ対外姿勢、外務省職員の不誠実な対応であり、厳しい批判を続けなければならない。

<三>

 外務省は、10月6日に突然にも「日英原子力協定の改定交渉の開始」とのプレスリリースを発表した。それは、「英国のEU/ユーラトム離脱に伴い同国における保障措置の適用に変更が生じるため,日英原子力協定にこれを反映すべく,今般,同協定を改正する交渉を開始する」との発表である(外務省報道発表、「日英原子力協定の改正交渉の開始」、https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_006564.html)。

 発表文は、私たちが指摘した通り「ユーラトムを離脱すれば、適用に変化が生じ、改正しなければならない」ことを示した。特に、現行協定が「ユーラトムの保障措置の適用」を明記しており、離脱で変更となるため、協定は改定が必要となることを認めた。
 10月26日開催の「ヒアリング」では、「企画官」は出席しなかった。「私がこの問題の担当者です」と明言していたが、雲隠れである。代わりに出席したのは上席者の課長補佐であった。
 「質問書」と回答のやり取りは、私たちが作成した「交渉録」によれば以下の通り。

~~~~~~~~
≪質問F-2≫
 発表文は、「英国のEU/ユーラトム離脱に伴い同国における保障措置の適用に変更が生じるため」とするが、この内容について詳細かつ丁寧に説明されたい。
≪回答≫
イギリスのEU/ユーラトム離脱に伴い、今、イギリスに適用されているイギリス・EU/ユーラトム・IAEA保障措置協定に規定される保障措置がイギリス・IAEAの保障措置協定(今年6月署名)に規定された保障措置に変更されたものになるとの説明を受けている。

≪質問F-3≫
 従来の交渉においては、「現行の日英原子力協定は、離脱した後も英国に適用される」との回答と説明であった。それが大きく転換した理由を説明されたい。
≪回答≫
 日英原子力協定は、離脱後も英国に適用される。一方、内容に変更が生じるため、協定にこれを反映すべく今後交渉することとなっている。

≪質問F-5-2≫
 新協定発効が来年3月末以降となる場合、日英間では「無協定状態」となることを確認されたい。
≪回答≫
 イギリスのEU離脱後も日英原子力協定は引き続き適用される。

~~以下は、口頭での再質疑応答~~

≪市民より質問≫
 繰り返されているM企画官の答弁(2018年7月)では「移行措置があるから大丈夫」「適切に」とされていたが、「離脱後も適用される」とはどういうことか?
 「英国のEU/ユーラトム離脱に伴い同国における保障措置の適用に変更が生じるため,日英原子力協定にこれを反映すべく,今般,同協定を改正する交渉を開始することで一致しました」と外務省発表にもあるのになぜ適用されると言えるのか?
≪外務省回答≫
 保障措置協定の内容が変更されるという状況の変化を受けて改訂する。他方、原子力協定そのものは引き続き適用される。

≪市民より質問≫
 「適用される」根拠は何か?
 我々は、イギリスが離脱した時には適用されないのではないかと言ってきた。今ある98年版協定が使えるならば何故改定するのか?
 協定前文は「イギリスがEUの加盟国であることを認識し~」となっている。我々は「認識できなくなったときはどうするのですか? ユーラトムを脱退するときですね」と尋ねてきた。
≪外務省回答≫
 今の原子力協定は離脱後も適用されることは変わりがない。ただ、イギリスの保障協定が改定される。それを原子力協定に反映させるということである。

≪市民より質問≫
 イギリスが、来年3月時点で離脱協定なしで離脱ということもありうる。その場合でも日英原子力協定が有効とされるのか?
≪外務省回答≫
 日英原子力協定は継続的に適用される。

≪市民より質問≫
 では協定前文は無くても良いと言うことですか?「EUの加盟国であることを認識し~」とある。加盟国でなくなっても大丈夫であるとどこに書いてあるのか?
≪外務省回答≫
 そのような規定はあるが、日英原子力協定は継続的に適用される。終わらせる理由がないからである。

≪市民より質問≫
 「適用される」との回答は、仮に条文の中に無効の部分があるけれども、イギリスとの間で「適用」としようとの合意があったからか?
≪外務省回答≫
 具体的なやり取りについては控えさせていただく。

≪市民より質問≫
 確認だが、日英原子力協定の国会承認は必要になるのですね?
≪外務省回答≫
 仮に改定されることになれば国会承認が必要になる。

≪市民より質問≫
 話がまとまらずに改定しない場合にも98年協定が引き続き適用となるのか?
≪外務省回答≫
 そうである。

≪市民より質問≫
 イギリスの方が、情報は出ている。今月10日に政府が議会に出した4半期ごとの活動報告で「日本を含む主要四カ国との新協定は、本年秋に英議会に提出される」とされている。我々はこれらを見ているから「大丈夫ですか」と聞いている。ちょっとそれはおかしい。
≪外務省回答≫
 ご意見については受け止める。(聞き取れず)

<四>

 外務省は、「改定交渉は開始する、しかし、離脱しても現行協定は有効」との立場に転じてきた。だが誰が考えても、現協定の内容、特に保障措置部分について適用が変更になるから改定が必要であることは明らかである。
 なぜ、このような理由にならない理由を付けて、抗弁するのか。

 考えられるのは、外務省は「離脱協定が早期に締結され、移行期間が設定される」と、状況判断を誤ったのではないか。「企画官」らは、「離脱協定が締結され、移行期間が設定されるから、協定改定は急ぐことはない」とノンビリ構えていた。だからこそ、英とEUとの離脱協定が締結されず、離脱協定なしでの来年3月末の離脱という話も出てきたことから、慌てて立場を転じたのであろう。
 しかし、来年3月末までに「国会承認を得て改定を実行する」とは、外務官僚は言うことはできない。国会審議や承認議決の進め方については、国会が決めることだからである。もし外務官僚たちが、「来年3月末までに国会承認できる」と考えているなら、それはまさしく国会軽視、国民の代表者である国会議員を愚弄することである。

 さらに、日立による英原発輸出の問題が大きく影響しているのであろう。日立が19年における事業の最終決断を表明している段階において、英との原子力協定の改定を行えば、日立の後押しとなり、内容も原発輸出推進の内容を含むのではないか。現政権の狂気とも言える原発輸出推進姿勢には、「何としても日立を応援して原発輸出を行う」との基本方針がある。
 すると外務官僚たちには、市民が日立を後押しするような協定改定に反発し、激しい批判が生じると想像したのであろう。つまり、協定を「問題として浮上させたくない」、批判を避けたいという姿勢からの回答となっていたに違いない。
 これに対して外務省が、「日立の原発輸出事業を後押しする内容ではない」と抗弁するならば、交渉してきた内容、今後改定される協定を明らかにすればよい。それを隠して、批判だけを避けようするからこそ、「ウソがウソを重ね」、「理屈にならない理屈を並べる」こととなった。

 こうした「デタラメ」を許してはならない。個人としてではなく、職責を担う者として「企画官」の虚偽回答、国民への背信行為を厳しく追及する必要がある。
 さらに、「日英原子力協定改定反対」が、日立による英原発輸出反対に直結することは明らかである。
 市民の運動や闘いは、状況や問題の正確な把握、そして先見的な活動方針の提示が重要である。ただ単に「中止を求めます!」だけでは、「国民の税金を原発輸出に使わないでください」と同様に弱い。日立が全額自己資金で原発輸出事業を強行しようとしても、つまり政府系金融機関からの資金拠出の有無にかかわらず、私たちの問題は「日本からの原発輸出を認めるのか」がカギとなり、最重要な主張となる。

 日本からの原発輸出を断固認めないという姿勢を保ち、原発輸出に関する政策、協定、事業に反対することが必要となる。だからこそ、日英原子力協定の改定反対、日本原電への海外原発事業からの撤廃要求と広がり、その主敵は日立である。
 メディア活用、非倫理的原発輸出を継続する企業として地方公共団体の購買企業からの締め出し請願、ハガキ行動、本社への継続的行動など考えられている。
 日立が、国際的信用を失墜させること確実な「英ウィルヴァ原発輸出事業」から全面撤退を決めるまで、私たちは強く闘い続けなくてはならない。

 (大学教員)

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