ミャンマー通信(21)

ミャンマー通信(22)

変るヤンゴンの景観と市民生活

                          中嶋 滋


この地に足を踏み入れてから2年になります。2年間を振り返ってみますとヤンゴンの街の変貌ぶりに改めて驚かされます。街の様子の変化が日々実感できると言っても過言ではありません。私の住居は1階にスーパーマーケットがあるコンドミニアムの10階に位置し見晴らしが非常によいのですが、そこから眺める景観が変わっていくスピードに驚かされています。特に建設、交通、通信、ファッション、外食などの分野での変化が、著しいように思えます。
 止まることを知らないかのような不動産ブーム(バブル化していると思われます)の中で、多くのビルが建てられています。ホテル、ショッピング・モール、コンドミニアムなどが次々と誕生し、確実に街の景観が変ってきています。外国からの投資拡大がその要因の一つになっているのでしょうが、2006年の主都移転の後放置されていた軍用地を含む国有地が不動産市場に放出され始めたことが拍車をかけているようです。そのことに関しては、強制収容されたそれらの土地の元地主たちが、軍などからディベロッパーへの売却が明らかになると、土地の返却もしくは適正な補償を求めて裁判を起こす例も出てきて、新たな問題が引き起こされています。
 自動車台数の急激な増加による変化も大きなものです。当然のことながら激しい渋滞を引き起こしています。時間帯にもよりますが、自宅から事務所まで20−30分の通勤時間であったのが1時間以上かかってしまうことも時々ある状態です。タクシーの車の状態は明らかに良くなりました。2年前にはドアもろくに閉まらないような「ボロ車」が結構あったのですが、今はすっかり姿を消しています。小型車(日本でいう軽自動車)が増えているのも特徴です。この背景には手軽なビジネスとしてタクシー業に手を出す人が増えている事情があるといわれています。比較的安い小型車を買い、運転手に貸付けて貸付料金をとれば1年程で購入代金を回収でき、次の車を買って事業拡大する手法だそうです。小型の中国車やインド車が増えてきている事情が分かる気がします。
 スマートフォンの拡大にも驚かされます。街中至る所で目にするようになっています。若者だけではありません。中高年男女も職業とは関係ない感じで使っています。使用を煽るかのように、ミャンマー政府から参入を許可されたコレドー(カタール)とテレノア(ノルウェー)の宣伝がバスやタクシーをラップしたりして街に氾濫しています。
 2年前はほとんどの人がロンジー姿でした。最近はズボン特に若者はジーパン姿がめっきり多くなりました。女性のスカート姿も多く見かけるようになりました。少し寂しい感じがしますが、止め難い勢いを感じます。これと反比例するようにタナカで化粧をする女性が減っています。資生堂など海外の化粧品メーカーの出店も増え、西洋式化粧が定着しつつあるようです。
 もともと街なかに飲食店が多いところですが、最近外国料理とくに日本食レストランが増えてきています。とても地元市民が手を出せないような価格の高級料理店です。余程の金持ちか「社用族」にターゲットを絞った営業方針と思われます。
 こうした変化は、確実に進行しつつある貧富の格差拡大をともなって、進展しています。例えば、危険きわまりない建設現場で汗みどろになって働いている労働者の多くはロンジー姿、草履履き、手袋なし、防塵マスクなしです。ロンジーの裾が機械に巻き込まれる、建材などが足下に落下する危険と隣り合わせの仕事を強いられています。渋滞に苛つきながら小型車タクシーを運転する人を尻目に、ドイツ製や日本製の高級車を乗り回している若者(『将軍の孫かクローニーの馬鹿息子』とタクシー運転手はいいます)がいます。昼食に1,000チャット(約100円)もかけられないとして、多くの労働者は弁当持参ですが、家族連れで夕食をレストランでとる(1回で労働者の月収の半分以上は使う)人々が一方にいます。
 変らないものといえば、停電の多さです。一時期少しよくなったかなと感じさせる時もありましたが、良くはなっていないようです。高層階に住んでいると停電すると給水も止まってしまいます。3日間連続で、夕飯時に3時間以上も停電した時には困りました。以前、報告したように、この状況も特権層には無縁なのです。
 この国には、富の社会的再配分の機能が全くといって程備わっていません。社会的公正が行き届く基盤整備がなされていません。国家財政の40%以上が軍事費に使われ、軍事力の矛先は自国民(少数民族)に向けられているのですから、国民に遍く公正を実現することは困難この上ないことです。現状を変える唯一の方途は、民主化の徹底とそれを推進する民主勢力の次期総選挙での圧勝だろうと思います。しかし、その見通しは期待する程には明るくないようです。

激化する総選挙に向けた攻防
 来年秋実施予定の総選挙に向けた攻防が激化しています。攻防は、大きくは与党・野党・国軍の間で、場合によっては野党間でNLDと他の野党の不一致を含め、複雑な形でなされます。国会では憲法改正議論が行なわれています。31名の委員からなる憲法改正委員会の報告書が10月22日に提出され、これに対して100人を超す議員が議論参加の通告をしたと伝えられていますが、議論内容の詳細は定かではありません。しかし、議論の焦点が憲法436条に規定される非選挙軍人議席枠と大統領資格に関する59条にあることは間違いありません。
 憲法改正委員会の報告書には、国軍、NLDそして与党のUSDPを含む関係者からの様々な改正提言が含まれています。国会の議論は憲法のセクション毎に進められ投票を行なって改正内容を決定して、その結果を委員会が憲法改正法案として纏めあげ国会に提出するといいます。憲法改正には4分の3以上の賛成が必要ですが非選挙軍人議席が4分の1を占め事実上の拒否権を持っていることは周知の通りです。NLDは、外国人と結婚した者や外国籍の子どもを持つ者でも大統領になれるよう改正すべきだと主張していますが、国軍はこの主張および憲法改正に必要な賛成を3分の2あるいは過半数に条件を低めるべきだとの主張を払いのけています。また、USDPはこれらの事項について今のところ特別な見解を示さず、適切な時期が来たら明らかにするとしています。先に紹介した国会での議論プロセスからすると2つの条項(59条、436条)改正の見通しは決して明るくありません。絶望的ともいえる状況です。
 国軍が提起し委員会報告に含まれたNSDC(国家安全保障・防衛委員会)の役割強化に関する改正案の方は、NLDは警戒していますが実現可能性が高いようです。NSDCは、大統領、2人の副大統領、上下院議長、国軍最高司令官、同副司令官、国防大臣、内務大臣、国境大臣で構成されますが、この委員会の大統領へのアドバイザリー権能が強化されることが、改正内容です。メンバーのうち副大統領1人、国軍の正副最高司令官、3人の大臣(これらの大臣は憲法の規定によって国軍最高司令官の指名に基づき大統領が任命する)の計6人は国軍のいわば指定ポストですから、この委員会の権能が強化されることは、国軍の国政への影響力が更に増すということです。さらに国軍は、大統領が両院の解散権を持つべきであるとの改正提案もしています。
 選挙制度改正も問題になりました。7月に設置された選挙制度改正委員会の報告が出され、国会審議がなされました。報告は、現行の小選挙区制で得票1位の者が当選する方式(first-past-the-post)を継続するか、政党毎の比例代表制を導入するか、を主な選択肢にして、例えば第1位になった候補者が投票総数の50%に達しなかった場合は比例代表制を併用するなど、また州(少数民族居住地域)と管区(ビルマ族が支配的に多く居住する地域)で異なった制度とするなど合計8つのパターンを提案しました。NLDは比例代表制の導入には反対の態度を鮮明にしましたが、それに対して比例代表制の方が民主的で多くの先進国が採用している制度なのにNLDが反対するのはおかしいという批判がマスメディアからも出ていました。しかし、下院は11月14日に来年の総選挙に関して現行のfirst-past-the-post方式を維持して実施することを決定しました。

オバマ大統領来訪のインパクト
 北京で開催されたAPEC首脳会議に引き続きネピドーでのASEAN首脳会議に出席したオバマ米大統領は、ヤンゴンに立ち寄りアウンサンスーチー氏と会談するとともに、ヤンゴン大学で若者を対象に講演を行った。少なくとも私の知りうるかぎり、私の周辺には民主化に向けて闘い続けてきた人々が圧倒的に多いからかも知れないが、会談、講演に対する評価は極めて高いものでした。特に民主主の更なる徹底が必要であると明言し、その一つの試金石が次期総選挙であって自由で公正に実施されねばならないことを強調したこと、その実現に向けて若者への期待を表明したこと、アウンサンスーチー氏への実質支持を共同記者会見で明らかにしたこと、などが彼らの評価点でした。
 一方で、テインセイン大統領との会談で、民主主義の一層の推進を訴え、自由で公正な選挙への期待を表明したものの、宗教対立と人権問題などに踏み込みが足らなかったとの不満を述べる人もいます。またEUと日本がアメリカと足並みを揃えプッシュすれば状況が進展するのにと、EUと日本の対応を批判する意見もあります。
 オバマ大統領訪問の1ヶ月以上前に、米国労働省、AFL-CIO、ソリダリティー・センターの担当者が相次いでミャンマーを訪れ、ミャンマー政府(労働省)、ILOヤンゴン事務所、FTUM(ミャンマー労働組合連盟)、UMFCCI(ミャンマー商工会議所)、私たちITUCミャンマー事務所などを精力的に廻って実情調査を行っています。この調査を基にして投資と労働に関する総合的な提言を、ミャンマーの労働関係法の改正整備、労使関係の改善を中心に行なっています。最終的には日本やEUを含めた共同提言という形にまとめあげています。
 この2年間に何人もの大臣が来て、総理大臣も2回来ましたが、こうした動きを感じさせもしない日本との違いを痛感させられました。
(筆者はミャンマー駐在・ITUC代表)


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