ミャンマー通信(24)

ミャンマー通信(24)

教育改革と運動の「ねじれ」

中嶋 滋


●現実の一端と改革の重要性

 「教育は国家百年の計」といいますが、ミャンマーの教育の現状は、悲惨としか言いようがありません。長年にわたる軍事独裁の政治が招いた結果なのでしょうが、この国の将来にとって何よりも優先して取り組むべき改革課題は教育だと思います。ミャンマーは識字率が高いと良く言われます。都市部では多くの人々が新聞を読む姿を目にします。ヤンゴンでは本屋が路端に簡易の店をズラッと並べている様は一見に値しますし、それで共倒れもせずに商売が成り立っている状況を見ると、その評価に首肯できる面があります。

 しかしそれがごく限られた一部分でしかないことを知らされました。農業研修と農業組合組織化のためにシャン州南部の山村を訪れた時です。研修会の始る前に、参加者に土壌のペーハー(pH)と適する作物を一覧表にした資料と肥料3大要素(窒素、リン酸、カリ)の主な働きを絵図で示した資料とをプリントした紙を配ったのですが、受け取らない人、受け取っても見もしないでしまってしまう人が、相当数いたのです。研修中、参加者の様子を見ていますと、誰もが熱心に聞いています。配った資料にメモを書き込んでいる人も多くいます。資料を受け取らなかった人も、しまい込んでしまった人も、積極的に質問をします。

 地元の中心人物に尋ねました。何故受け取らないのか。何故しまってしまい見ようとしないのか。答えは単純だが重たいものでした。受け取らない人の家族には読める人がいない。しまった人は読めないが家に帰れば読んでもらえる人がいる。年齢層にもよるが、こうした実態は決して珍しくはないのだといいます。小中学校課程の途中でドロップアウトしてしまう子どもを、非識字から救い出す役割を寺が負っていると聞き、それがこの国の識字率の高さに結びついているのは一部の真実ではあっても全体はそうではないのです。

 教育改革に向けた運動が、大局的に見ればどうでも良いような違いに固執して、進まないようなことがないよう努力せねばと思いつつ、最近の動向を報告します。

●極端に落ちたネットのスピード

 もともとミャンマーの通信事情はよくありませんが、ここ数週間、インターネットの接続が悪くスピードも極端に落ちています。事務所で働くミャンマー人の仲間に聞くと、「学生運動が原因」との答えが返ってきました。説明を求めると、学生運動の拡大を恐れる政府がインターネットの使用を制限・妨害している影響で、接続困難やスピードの極端な低下が起っているのだといいます。事務所以外の知人の何人かにも尋ねたところ、同様の反応です。私の周りにいる人々は、ほぼ同じ考え方にありますから、彼らの回答だけでそれが真実か否かを俄に判断するわけには行きませんが、私には「あり得ること」と思えました。

●国民教育法反対の学生の闘い

 学生たちが反対運動を進めているのは、国民教育法の制定に対してです。学生たちは、法案が過度に制約的で教育改革に繋がらないとして11項目にわたって問題点を指摘し改正を求めています。彼らは、この要求実現のため集会やデモを各地で行ない、反対運動の高揚を図ってきました。運動の中心は、全ビルマ学生同盟連合(ABFSU= All Burma Federation of Student Union)で、1月20日にマンダレーでの集会後、ヤンゴンに向けて約800km(500mile)におよぶデモ行進を開始しました。

 この取り組みは、マグウェ管区、エヤワディ管区、ラカイン州、モン州などの各地からヤンゴンをめざすデモが同時に実施される計画の中核に位置するものでした。デモ隊は、マンダレー出発の直後から沿道の村々で熱狂的な支持を得て、食事の提供や花や連帯幕での歓迎を受けたと地元紙は報道しています。途中でデモに合流する高校生たちも少なからずいたとの報道もなされています。若年僧侶協会(Young Monk's Association)の合流も報じられ、運動は大きな盛り上がりを見せつつありました。

●転機=話合いの機運の訪れ

 1月28日に一つの転機が訪れました。デモ行進が主都ネピドーに近づき、警官隊のバリケードを配した阻止線で止められるという緊迫した事態に立ち至り、「建設的」話合いによる解決の途の見通しがたったとされたのです。2月1日に、ヤンゴン大学で4者協議の場を持ち問題解決を図るという合意が、政府側と学生側とで成り立ったというのです。4者とは、政府代表(大統領府、教育省)、学生代表、国会議員代表、教育改革全国ネットワーク(NNER= National Network for Education Reform)代表をいいます。この場での合意は、88民主化闘争のリーダーで今なお国民的人気が高いミンコーナイン氏も「good start」、「協議を通じて問題解決に至る合意をしたことを双方が誇るべきだと思う」と評価していました。

●一方的延期通告

 しかし事は円滑には進まず、2月1日の会議ではデッドロック状態の解消に至りませんでした。そして2月3日に、政府側:3、学生側:15、国会議員代表:18、NNER代表(人数不明)が、再び会合することになりました。ところが政府側から一方的な延期の通告がなされました。協議の場の実現が危うくなっています。政府側は、大統領が決定したとして、2月12日の「Union Day」(アウンサン将軍が諸民族代表を集め統一して独立運動を進める合意をなした日を記念する祝日)まで協議を延期すると、一方的に発表したからです。

 政府側は、「議題に関して異なる見解がある」とし、「不必要な対立を避けるためにとられる措置であって、会議の形式や議題について合意に至れば」会議は行なわれると説明しています。学生側は、3日当日協議に参加するため教育省に到着した時に初めて延期を知らされました。当然、延期通告を激しく批判し、1月28日の「合意」の際に「一時的に反対運動は止めるが合意に至らなければ直ちに再開する」としていたように、デモ行進の再開・継続を掲げて反対運動を一層強化するとしています。

●「ねじれ」の出現

 この過程の中で、反政府側に「ねじれ」が生じています。NLDと学生運動ならびにNNERとの不一致です。この問題に関する学生側の対応に一定の距離を置いていたNLDは、政府と学生側の対立が決定的になった2月3日に、党首アウンサンスーチー氏の談話で、NNERの主要メンバーで著名な教育問題専門家であるテインルウィン氏を「党員としての活動はありうるが、NLD中央執行委員会のメンバーたりえない」ことを明らかにしました。テインルウィン氏は、「これは私と私の党との間の問題である。党の決定は聞くが、私は学生たちの要求を歓迎しているし彼らを支持し彼らの側に立ち続ける」と、言明しています。この動向の背景に大統領府のアウンミン上級大臣の関与があったのではないかという記者の質問を毅然と否認したテインルウィン氏の姿勢に、希望を見いだしたのは私だけではないと思います。アウンサンスーチー氏は、日頃から教育問題の重要性を指摘し改革の必要性を強調していましたので、「ねじれ」の原因が何処にあるのか、その大きさはどうなのか、判断することは難しいのですが、一刻も早い「ねじれ」の解消を望むばかりです。

 (筆者はヤンゴン在住・ITUC代)

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