メデイア対策から見た2007参議院選挙

■政治の考察 

メデイア対策から見た2007参議院選挙    岡田 一郎

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 2007年7月29日に執行された第21回参議院議員選挙は、民主党の大勝・自
由民主党(自民党)の歴史的大敗という結果に終わった。このような選挙結果と
なった原因については様々な要因が考えられるであろうし、「オルタ」でも様々
な視点から今回の参議院議員選挙は分析されるであろう。本稿では、2005年総
選挙の結果を左右したと言われる各党のメディア対策が、今回の参議院議員選挙
ではどのように展開されたのかを見ることによって、このたびの選挙およびそれ
を報じる日本のマスコミの特徴について考察してみようと思う。


○2005年総選挙における自民党のコミュニケーション戦略


 今回の参議院議員選挙について考える前に、2005年総選挙の際に注目された

自民党のマスコミ対策について振り返ってみたい。

 2005年総選挙の際、自民党はNTTで企業広報の経験を積んだ世耕弘成参議

院議員を中心に徹底したマスコミ対策を実施した。その特徴を要約してみよう。

(1)テレビ映りを徹底して計算した上で、自民党の出演者を決定する。
ただ、無闇に自民党の有力者をテレビに出すのではなく、例えば、感情的な話
し方になりやすい菅直人が出演する番組には、たんたんとした話し振りの竹中
平蔵を出す。また、テレビ慣れしていない民主党の川端達夫幹事長の出演を執
拗に要求するなど、テレビ出演によって自民党支持が拡大し、民主党支持が下
落するように、党中央で自民党側のテレビ出演者を調整した。

(2)支持者の苦情には迅速に対応する。
マスコミの注目を浴びやすい刺客候補の言動について、たとえ1件でも苦情が
自民党に寄せられた場合、候補者に改めさせた。例えば、「ブランド物を多く身
につけているのが不快」という苦情が寄せられた候補者にブランド物を身につけ
ることをやめさせたり、割り当てられた選挙区について他人事のように話すこと
が批判された候補者に「嫁ぐつもりで来た」など殊勝なセリフを言うよう指導し
たりした。

(3)スポーツ紙や週刊誌など、これまで政治の話題をあまり扱ってこなかった媒
体を優遇する。(1)
一般紙や論壇誌に比べて、ジャーナリズムの世界で軽い扱いを受けるスポーツ
紙や週刊誌の記者を優遇することで、そうした媒体で大きく取り上げてもらえる。
それによって、スポーツ紙や週刊誌の読者である若者や主婦の支持を得る。また、
スポーツ紙の記事はテレビのワイドショーでも取り上げられることが多く、ワイ
ドショーの主な視聴者である主婦層に自民党への支持をアピールすることが出
来る。

(4)インターネットが持つ影響力にも十分配慮する。
有名ブログの書き手(ブロガー)を自民党に招待し、自民党に好意的な記事を
書かせ、インターネット利用者の自民党に対する心象を改善させる。

 上記のようなコミュニケーション戦略に当時のマスコミが翻弄されたことは
事実である。マスコミ関係者は世耕ら自民党のコミュニケーション戦略チームが
繰り出す話題に飛びつき、世耕らの計算どおりに知らずのうちに自民党の宣伝を
おこなってしまうこととなった。


○2007年参議院議員選挙とコミュニケーション戦略


 2005年総選挙は、選挙結果に対するマスコミの影響力を政党やマスコミの関

係者に改めて気づかせる結果となった。

それでは、2007年参議院議員選挙では自民党は2005年総選挙のようなコミ

ュニケーション戦略を展開できたといえるだろうか。選挙結果を見てもわかるよ
うに答えは否である。それは、残念なことであるが、マスコミが2005年総選挙
において自民党の戦略に乗せられたことを反省し、公正中立な報道を心がけた結
果ではない。単に自民党のコミュニケーション戦略が今回はあまりにも稚拙であ
り、民主党の戦略が優れていたというだけである。

 

今度の選挙における自民党のコミュニケーション戦略は混迷を極めた。2005
年総選挙では完全に有力者のテレビ出演をコントロールし、支持を伸ばすことに
成功した自民党が今回はまったくテレビ対策がなっていなかった。例えば、安倍
晋三首相は「消えた年金問題」で低落した内閣支持率を再び上げるべく、ニュー
ス番組に次々と出演したが、出演したニュース番組で「消費税を上げないとは言
っていない」と述べて消費税引き上げの可能性について触れるなどかえって内閣
支持率を押し下げる結果となった。インターネット上でも安倍首相のテレビ出演
は不評であった。安倍首相がテレビカメラ目線で話すことには多くの人々が違和
感を覚えたし、余裕を見せるためか、テレビ討論などで安倍首相が終始、笑みを
絶やさないことも「他人を馬鹿にしている」と視聴者の反発を買った。特に、赤
城徳彦農水相の事務所費問題が発覚したときに、赤城農水相の両親の発言内容が
二転三転したことについてテレビ番組で質問され、「赤木農水相のご両親はご高
齢ですから」といった趣旨のコメントを笑みを浮かべながら述べたことや7党首
テレビ討論会で国民新党の綿貫民輔党首から2005年の郵政解散についての評価
について質問された際、はぐらかすような答えをした上に笑みを見せたことは特
に不評で、「安倍首相は老人を馬鹿にしている」といった書き込みがインターネ
ット上で多くなされた。早口でまくしたて聞き取りにくい安倍首相の口調や他人
の発言のあげあしをとったり、突然、何の脈絡もなく民主党批判を始める安倍首
相の話しっぷりも視聴者をいらつかせた。(2)

2007年6月17日に放送されたテレビ朝日の「サンデープロジェクト」には
安倍首相の指名を受けて、大村秀章代議士が自民党代表として出演し、年金問題
について民主党の長妻昭代議士と対談したが、相手が話している際にそれをさえ
ぎって話し出すなどマナーの悪さが目立ち、司会者やコメンテーターにまで注意
され、かえって自民党に対する心象を悪化させただけであった。こうした自民党
の失態は先に挙げた2005年総選挙の際のコミュニケーション戦略のうち、(1)(2)
の要素がまるで今回は出来ていなかったことを物語っている。

(3)(4)の要素については、今回の選挙では自民党側に特に目立った対策がおこな

われた形跡が見られなかった。一方で、ホワイトカラーイグゼンプションの導入
を目指したことや定率減税の廃止などなど有権者の生活を直撃する政策を打ち
出す一方で、「消えた年金問題」など一般市民の生活にかかわる問題に対する対
応が後手にまわったことは2005年総選挙の際に自民党支持にまわった若者や主
婦の離反を招いたと思われる。さらに、度重なる閣僚の不祥事はスポーツ紙や週
刊誌の格好のネタとなり、それらの論調を政権に批判的なものとした。自民党が
年金問題の責任をかつて厚生相をつとめた菅直人や自治労になすりつけようと
したり、民主党の政策に対する批判一色のビラをまいたりとネガティブ・キャン
ペーンに走ったことも自民党に対する有権者の心象を損なった。アメリカと異な
り、日本ではネガティブ・キャンペーンはあまり受け入れられていないのである。

このような自民党の混迷は、2005年総選挙のときのような戦略チームを自民
党が結成できなかったからではないかと思われる。2005年総選挙の際、まだ1
期目の参議院議員に過ぎない世耕が党のメディア対策を仕切ることが出来た背
景には、2004年参議院議員選挙における自民党の敗北があった。この敗北を期
に、自民党内では党の広報活動に対する疑問の声が沸きあがるようになり、かね
てから党の広報政策を改革する必要性を説いていた世耕に権限が与えられるよ
うになっていったのである。しかし、2005年総選挙で自民党が大勝した後は、
世耕の提言は再び党内で無視されるようになった。2006年に安倍内閣が成立す
るや、世耕は広報担当の補佐官に任命されるが、内閣広報全般の権限を与えられ
たわけではなく、塩崎泰久官房長官と広報に関する権限をめぐって対立せざるを
得なかった。(3)

 自民党の広報政策は、世耕が今回の参議院議員選挙で改選されるために選挙区

に戻ったこともあって、広報局長の片山さつきに委ねられた。だが、片山が世耕
の広報戦略を継承した形跡は認められない。継承していれば、今回のような失態
を犯すことはなかったはずである。


○民主党のメディア対策


意外に聞こえるかもしれないが、コミュニケーション戦略で自民党の一歩先を

行っていたのは、実は民主党であった。世耕が広報戦略構築の必要性を痛感した
のも、実は2004年参議院議員選挙における自民党と民主党の党首の遊説先の割
り振り方の違いであった。この選挙では選挙最終日、小泉純一郎首相は東京都選
挙区で、岡田克也民主党代表は高知県選挙区で最後の遊説をおこなった。東京都
選挙区は当時、1回の改選時の定数は4であるのに対して自民党の候補者は1人
に過ぎず、自民党候補者の当選は絶対視されていた。一方、高知県選挙区は自民
党候補と民主党候補の接線が伝えられていた。「自民党は選挙情勢や世論とは無
関係に党首の遊説先を割り振っているのに対して、民主党はきめ細かな世論調査
に基づいて党首の遊説先を決めているのではないか」という世耕の疑問が彼の徹
底した広報戦略を生み出したのである。

 今度の選挙における自民党・民主党の党首の選挙最終日の遊説先を見ると、
安倍首相は東京都選挙区で丸川珠代候補の応援をおこなったのに対し、小沢一
郎民主党代表は激戦区の鳥取県や島根県などをまわっている。
東京都選挙区で自民党候補が2人当選するのは各マスコミの終盤情勢分析でか
なり困難とされており、安倍首相が行くべきところは他にあったはずである。
現に、東京都選挙区では苦戦が伝えられていた丸川候補は当選したが、
自民党はベテランの保坂三蔵候補を落す結果となった。一方、鳥取県では民主党
候補が、島根県では民主党が推す国民新党の候補が当選している。このことは自
民党の広報戦略のレベルの高さが3年前のレベルに逆戻りしてしまったことを
示している。

今度の選挙で小沢代表は地方の農村部をくまなくまわった。これは農村部の自

民党の支持基盤を崩す目的があったと言われているが、メディア対策の面におい
ても効果的な方策であった。地方には全国紙よりもその土地の地元紙のほうがよ
く読まれている地域が数多くあるが、ニュースの乏しい地方において小沢代表の
来訪は大きなニュースとして地元紙に大きく取り上げられ、地方の人々に小沢代
表の存在を認識させる結果となった。また、小沢代表は好んで人口の少ない離島
や山村に足を伸ばしたが、有名人があまり来ることのないそのような地域に小沢
代表が足を運ぶことは民主党がそのような地域も無視していないということを
地域の人びとにアピールして土地の人々の心をつかむと同時に、小沢ファンとな
った地方の人々が口コミによって民主党支持のネットワークをさらに広げてく
れる結果となった。地方の人々にわかりやすく話しかける小沢代表の話し方は、
テレビに出演した際にも、視聴者に好印象を残す結果となった。小沢代表の党首
力イメージは選挙戦を通じて上昇している。(4)


○今後の政党のメディア戦略と選挙報道の見通し


 今回の民主党のメディア戦略の勝利は敵失によるものが大きいように思われ

る。自民党が2005年総選挙並みのメディア戦略を駆使した場合、民主党がここ
までの大勝を得ることは困難であったろう。一方、歴史的惨敗を喫した自民党は
再び世耕を責任者に据え、コミュニケーション戦略チームを立て直して、次の総
選挙に臨んでくることが考えられる。特に、演説が巧みで、漫画・アニメに関す
る造詣が深く、インターネット利用者に多いオタク層の圧倒的支持を受ける麻生
太郎外相が自民党総裁となり、世耕と手を組んだ場合、メディアが再び2005年
総選挙の時のように自民党にジャックされる可能性がある。民主党は選挙の勝利
におごることなく、メディア戦略のさらなる練り直しに着手し、最悪の事態を想
定した対応を今から研究することが必要であろう。また、自民党のメディア戦略
に踊らされることのない確固たる支持基盤を打ち立てる努力を今後も続けるこ
とも民主党の課題であろう。

 

日本のメディアは2005年には自民党寄り、今回はやや野党寄りの報道をおこ
なったが、これは広報戦略に長け、世論が支持するほうに肩入れしているだけで
ある。政党が広報戦略に力を入れるようになっている今、メディア側はそれに左
右されない自主的な姿勢を構築する必要に迫られているのに、そのような意識が
メディア側にあるとは到底思われない。小泉首相が退陣し、安倍内閣が誕生する
と、テレビ局は争って、未だ歴史的評価の定まっていない小泉首相を礼賛する番
組やまだ首相としての能力が未知数の安倍首相を礼賛する番組を放送したとい
う事実はメディア(特にテレビ・メディア)の意識の低さを象徴する出来事であ
る。

 政党がメディアにいかにより良く取り上げられるか切磋琢磨する一方で、メデ

ィア側が特定の政党に利用されないように政治意識を高めていかなければ、メデ
ィアは単なる政党の宣伝機関と堕すであろう。そうならないためにも、まずメデ
ィア関係者が政党の広報戦略の実態を学ぶ必要があると思われる。
                    (筆者は日本大学講師)

注記
(1)これは世耕の発案ではなく、小泉内閣時代に秘書官の飯島勲が既に実行し
ていた。上杉隆『小泉の勝利 メディアの敗北』草思社、2006年、37~39ページ。
(2)2007年7月14・15日に朝日新聞社が実施した世論調査によれば、「最近の発
言や行動をみて安倍首相の印象がよくなったか」という質問に対して、「よく
なった」と答えた者が6%だったのに対して「悪くなった」と答えた者が45%に達
した。一方、小沢代表に関する同じ質問では、「よくなった」が10%、「悪くな
った」が14%であった。『朝日新聞』2007年7月16日付朝刊。
(3)鈴木哲夫『政党が操る選挙報道』集英社新書、2007年、228ページ。
(4)2007年7月21・22日に朝日新聞が実施した世論調査で、安倍首相と小沢代表の
党首力を比べた質問に対する質問をおこなったところ、同じ質問をおこなった
同年5月26・27日に実施された調査と比べて次のような結果がでた。
『朝日新聞』2007年7月23日付朝刊。
リーダーシップがあるのは、 安倍氏 31%→31% 小沢氏 43%→50%
政策をアピールする力があるのは、安倍氏 41%→37% 小沢氏 33%→40%
改革が期待できるのは、 安倍氏 33%→31% 小沢氏 34%→45%

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