【「労働映画」のリアル】

第20回 労働映画のスターたち・邦画編(20) 観月ありさ

清水 浩之


 《26年連続主演! 連ドラ界のイチロー姉さんが演じる 私たちの「お仕事」》

 毎年1月・4月・7月・10月と、日本の「連ドラ」=連続テレビドラマの大多数は3か月ごとに新番組としてスタートし、大体10話から13話のシリーズを放送する。主演俳優は舞台公演の「座長」のような存在で、その時代のトップスターの証明でもあるが、観月ありささんはなんと26年連続で主演を務め、現在もギネス記録を更新中だという。まさに連ドラ界のイチロー、いや「イチロー姉さん」とお呼びしたい存在だ。

 15歳の時の初主演作『放課後』(1992、フジテレビ)から、今年4月スタートの『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』(2017、フジ)まで、合計で30作。20歳の時の大ヒット作で、その後も続編や映画版が作られた『ナースのお仕事』(1996、フジ)以降、看護師、会社員、教師、お天気キャスター、旅客機のキャビンアテンダント、専業主婦など、現代に生きる女性の様々なワーク&ライフを演じ続けている。「仕事」ではなく「お仕事」という表現が重要なポイントで、出世より玉の輿、職場でのヤリガイより定時退社やステキな男性との出逢いを求める“割り切った”人生観が、役柄に共通していると思う。「女性活躍社会」以前のこの国に生きる同姓の視聴者にとっては、身近な同僚の姿そのものだろうし、自分自身の未来像にも見えてくるだろう。

 1976年、東京生まれ。4歳で子役モデルとなり、大人の中で「仕事」をしてきたことが彼女の「お仕事」観を育てたのかも知れない。中学生の頃、雑誌やCMでの「神秘的な美少女」ぶりが注目され、宮沢りえ・牧瀬里穂とともに「3M」と呼ばれるトップアイドルとなる。スラリと伸びた手足と小顔で、8頭身以上とも言われる抜群のスタイル。10代の頃はキリリとした眉で、あまり笑わないクールな表情が求められていたが、男の子のように活発な性格が知られるようになると、バブル期の余韻が残る「イケイケ」なドラマ界で、メグ・ライアンのような美人コメディエンヌへの道が開けていく。

 『ナースのお仕事』では着任早々、制服をミニスカに“改造”して先輩ナースに叱られる「今どきの若い娘」として登場。職場でドジや失敗を繰り返しながら、明るく元気に成長していくヒロイン=朝倉いずみを、マンガのように大きなアクションで堂々と演じきったことで、子供からシニアまで、男女を問わぬ幅広い世代の人気を集めた。その後、『私を旅館に連れてって』(2001、フジ)の女将、『あした天気になあれ』(2003、日テレ)のシングルマザーを経て、ダンナを尻に敷く「強い奥さん」を快演した『鬼嫁日記』(2005、関テレ)のヒットで、連ドラのアベレージヒッターとしての地位を不動のものにする。以後も国民的人気漫画の実写版『サザエさん』(2009、フジ)など、他の女優さんにはハードルの高そうなコメディ演技もきっちりとこなしていった。

 30代以降は有能なキャリアウーマン役を演じることも多くなったが、今度は「女性の生き方」の岐路に立って葛藤する姿が印象に残るようになる。結婚・出産を機に退社し、専業主婦になった『斉藤さん』(2008、日テレ)の主人公は、幼稚園の「ママ友社会」の旧弊に異議を申し立てる孤高のヒロインとなり、同調圧力との闘いを演じた。出産をテーマにした映画『BABY BABY BABY!』(2009、監督/両沢和幸)では、雑誌編集者としてバリバリ働いていた主人公が“酒の勢い”で妊娠したことから、出世も復職も諦めなくてはならないシビアな現実に直面するが、個性豊かな妊婦たちとの交友を通して、長い人生で「本当に大事なこと」は何かを見つめ直していく。生活費節約のため高級マンションから公団住宅へ引っ越す描写など、独身女性から見ると「夢も希望もない」展開が続くが、だからこそ映画の最後、赤ちゃんが次々と産まれてくる場面には余計に感激してしまうのだ。

 『ハケンの品格』(2007)の脚本家・中園ミホによる『OLにっぽん』(2008、日テレ)は、当時話題となっていた企業の「アウトソーシング」をテーマにした社会派ドラマ。総務の仕事を中国に委託することになった会社で、職場を失う危機に晒された日本のベテランOLが、中国側の研修生を指導する日々の中で、対立から融和への道を探っていく。言葉の違い、慣習の違いで衝突を繰り返しながらも、中国の女性たちの「仕事」への真摯な姿勢に共感したヒロインは、やがて日本独特の「お仕事」を見つめ直し、自分たちが働きやすい職場を求めて新たなビジネスを起こす。視聴率は振るわなかったようだが、「恋愛ものだけがドラマじゃない」という、作り手の気概を感じた。

 近年は、アラフォー婚活に苦闘するキャリアウーマンに扮した『ご縁ハンター』(2013、NHK)や、水商売で培った包容力を発揮する定時制教師の役が魅力的だった『夜のせんせい』(2014、TBS)など、新たな領域も広げている。これからも「今どきの40代」を演じる女優として活躍し続けてほしいし、クールな美貌を前面に出した文芸映画やミステリーなどにも、どんどんチャレンジしていただきたいです!

・参考図書=『リップクリーム』観月ありさ(東京ニュース通信社、1998年)
      『スキップしたり、ころんだり―わたしたちの幸福論』JUNON編集部(主婦と生活社、2002年)

(しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)
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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、ワークルール啓発事業、労働資料保存展示とならぶ基本事業として、労働映画の保存・上映・研究に取り組んでいます。昨年6月11日には『日本の労働映画百選』を刊行し、記念シンポジウム・映画上映会も開催しました。これを機に、毎年6月を「労働映画祭月間」とし、毎月定例開催の労働映画鑑賞会とは趣向を変えたプログラムを企画することといたしました。
 今年は、小津安二郎監督の名作サイレント映画を、活動弁士ハルキさんの語りでお届けします。ぜひ、多くの方々にお楽しみいただきたいと存じます。ご来場をお待ちしております。

◇労働映画祭2017/第39回労働映画鑑賞会~子どもの目で見た、哀しき「サラリーマン」
・2017年 6月 8日(木)18:00~(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館2階大会議室(地下鉄 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
・上映作品:『大人の見る繪本 生れてはみたけれど』(1932年/モノクロ/サイレント/91分)【労働映画百選No.06】
・監督:小津安二郎/出演:斎藤達雄、吉川満子、菅原秀雄、突貫小僧、坂本武、笠智衆
 《昭和7年、東京郊外の新興住宅地。会社員の父が、同級生の父親に服従するのを見た兄弟は憤慨し、それまで逆らったことのない父に反抗する。》
・活動弁士:ハルキ

◎【上映情報】労働映画列島!5~6月
※《労働映画列島》で検索! http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/00170603

◇新作ロードショー

『ちょっと今から会社辞めてくる』
 《5月27日(土)から 東京 TOHOシネマズ日本橋ほかで公開》 北川恵海の小説を、福士蒼汰と工藤阿須加の共演で映画化。ノルマの厳しい仕事に疲弊した青年が、幼なじみを名乗る男との出会いを通して生き方を模索し始める。(2017年 日本 監督:成島出) http://www.choi-yame.jp
『Viva! 公務員』
 《5月27日(土)から 東京 ヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開》 イタリアで大ヒットしたコメディ。子供の頃からの夢だった公務員になった男が、リストラ対象にされたことから巻き起こる騒動。(2015年 イタリア 監督:ジェンナーロ・ヌンツィアンテ) http://vivaitaly3.com/
『きらめく拍手の音』
 《6月10日(土)から 東京 ポレポレ東中野ほかで公開》 大工の父と、ミシン縫製工の母。耳の聴こえない両親と暮らしてきた娘が、家族の日常を切り取ったドキュメンタリー。(2014年 韓国 監督:イギル・ボラ) http://kirameku-hakusyu.com/

◇名画座・特集上映
【東京 池袋 新文芸坐】 5/20~30「追悼 渡瀬恒彦」…鉄砲玉の美学/神様のくれた赤ん坊/時代屋の女房/他
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 5/21~7/22「昭和の銀幕に輝くヒロイン 倍賞美津子」…喜劇 女は度胸/炎のごとく/復讐するは我にあり/他
【東京 京橋 フィルムセンター】 5/26~6/22「EUフィルムデーズ2017」…お母さん(エストニア)/私に構わないで(クロアチア)/ヴォイチェフ(スロヴァキア)/他
【東京 シネマヴェーラ渋谷】 6/17~7/7「ミュージカル映画特集II」…突貫勘太/シンコペーション/サマーストック/ほろよひ人生/他
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 6/18~8/19「vivid:日活文芸映画は弾む」…女中ッ子/にあんちゃん/青春のお通り/他
【藤沢 鵠沼海岸 シネコヤ】 5/20~6/2「北欧のおじいさん」…幸せなひとりぼっち/ハロルドが笑うその日まで(入替制)
【川崎市市民ミュージアム】 6/3~7/1「アルゴ・プロジェクト特集 1990年代傑作選」…12人の優しい日本人/喪の仕事/ひき逃げファミリー/他
【浦安市民プラザ】 6/3・4「第6回 うらやすドキュメンタリー映画祭」…息の跡/0円キッチン/薬は誰のものか/他
【北海道 浦河 大黒座】 6/3・4「うらフェス映画祭」…あした家族/ホドロフスキーのDUNE/他
【釜石 青葉ビル】 5/25「釜石シネクラブ」…『人生、いろどり』(2012年 監督/御法川修)
【新潟 シネ・ウインド/他】 6/2~9「第27回 にいがた国際映画祭」…カンダック・セーマー/疾風スプリンター/若葉のころ/他
【三重県内20会場】 5/21~9/9「男女共同参画連携映画祭2017」…これが私の人生設計/マイ・インターン/この世界の片隅に/他
【京都文化博物館】 6/3~25「EUフィルムデーズ2017」…フラワーズ(スペイン)/いつまでも一緒に(リトアニア)/猫はみんな灰色(ベルギー)/他
【宝塚シネ・ピピア】 5/27~6/30「文芸映画特集 第3弾」…夏目漱石の三四郎/私が棄てた女/台所太平記/他
【神戸アートビレッジセンター】 5/20~26「ポーランド映画祭2017」…地下水道/夜行列車/コルチャック先生/他
【広島市映像文化ライブラリー】 6/1~17「生誕100年 山田五十鈴特集」…浪華悲歌/女ひとり大地を行く/流れる/風流深川唄/他
【高知県立美術館】 5/27・28「巨匠が描いた明治」…婦系図(1942年)/吾輩は猫である(1975年)/歌行燈(1943年)/他
【福岡市総合図書館 シネラ】 6/7~29「中国インディペンデント映画特集」…静かなるマニ石/オールド・ドッグ/罪の手ざわり/他

◎日本の労働映画百選

働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf

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