【「労働映画」のリアル】

第29回 労働映画のスターたち・邦画編(29) 濱田岳

清水 浩之


 《ハマちゃん・風太・金太郎・・・頼もしき「一芸採用」男子の人間味》

 《はまだ・がく》という名前をまだ知らない人でも、au(KDDI)のCMで「金太郎」に扮した彼を見たことのない人は少ないだろう。「気は優しくて力持ち」をそのまま実体化したような「おとぎ話」系の風貌で、老若男女を問わずに好感度の高いプリティ・ボーイ(妻子あり)。今年6月にようやく30歳になるという、若手俳優の注目株だが、活動歴は既に20年。小学生の頃から数々の映画・テレビドラマで活躍してきた、実力派のベテランでもある。

 現在放送中のNHKの朝ドラ『わろてんか』(2017~18)では、大阪で寄席の経営に乗り出したヒロインを支える番頭(後に専務)・風太に扮し、ヤンチャな性格だが根は純情な“兄貴”キャラを好演。人気映画シリーズを基にしたテレビドラマ『釣りバカ日誌~新入社員 浜崎伝助~』(2015~、テレ東)では、若き日の釣りバカ・ハマちゃんが「こんな新人がいてもいいだろう」という理由で採用され、出世コースには目もくれず、マイペースかつポジティブに会社員生活を楽しむ姿を演じている。
 その役柄に共通するのは、学歴などでは判断できない、人間としての「一芸」を持っていること。眉目秀麗でも成績優秀でもないが、生きていく上でのスキルはしっかり身につけているため、職場の仲間たちにも頼られるムードメーカーだ。いつの時代にも支持されそうな「一芸採用」男子の姿を、労働映画の視点から辿ってみよう。

 1988年、東京出身。9歳の時、父親と野球観戦していたところをスカウトされ、ダウンタウン・浜田雅功主演のドラマ『ひとりぼっちの君に』(1998、TBS)でデビュー。ちょっと生意気な男の子役で注目される。中学・高校時代はラグビー部で活躍していたが、『3年B組金八先生(第7シリーズ)』(2004、TBS)の生徒役に選ばれたのを機に、「同じ役柄って二度と来ないし」「勉強はいつでもできるから」と考えて高校を中退、役者に専念する道を選んだ。

 身長160センチ、いわゆる二枚目ではないが愛嬌はたっぷり。男女三人組の「三人目」的ポジションで次第に頭角を現し、中村義洋監督の映画『アヒルと鴨のコインロッカー』(2007)で主人公の気弱な大学生を演じてからは、『ゴールデンスランバー』(2010)、『ポテチ』(2012)、『みなさん、さようなら』(2013)など、中村作品には欠かせない存在となる。『ゴールデンスランバー』では、首相暗殺犯にデッチ上げられそうになった男(堺雅人)を助ける「親切な連続殺人犯」という、彼以外には向かなそうな役どころ。『みなさん、さようなら』では、寂れていく団地に居残り続ける男の子を、13歳から30歳まで一人で演じきり、日本版「フォレスト・ガンプ」のような味わいを生み出した。

 2013年は大ヒット作『永遠の0(ゼロ)』(監督・山崎貴)をはじめ、6本の映画に出演する売れっ子に。『謝罪の王様』(監督・水田伸生)ではアジア某国のうさんくさい通訳として登場するなど、凡人から超人まで変幻自在の活躍をみせるようになる。テレビでも、黒柳徹子の自伝をドラマ化した『トットてれび』(2016、NHK)で、八面六臂のテレビディレクター役を颯爽と演じたのが印象に残った。

 彼ならではの「人間味」を堪能できるのが、映画監督・木下惠介の生誕百年を記念して作られた映画『はじまりのみち』(2013、監督・原恵一)。監督第4作『陸軍』(1944)のラストシーン、出征する息子を見送る母が、行軍を延々と追い続ける描写が「女々しい」と批判された木下(加瀬亮)は落胆。辞表を出して故郷の浜松に帰り、病床の母(田中裕子)をリヤカーに乗せ、兄(ユースケ・サンタマリア)とともに山奥に疎開する。二泊三日の道中は木下にとって失意の旅だったはずだが、彼に復活のきっかけをもたらすのが、濱田扮する臨時雇いの「便利屋」だ。「なんかうまいもんが食いたいずら」と屈託なく語り、カレーライスやかき揚げを味わう様子を演じてみせる(落語家のように見事な語り口!)気のいいアンちゃんは、木下がその作者とも知らずに、映画『陸軍』を見た時の感動を熱弁する。

 「いやー、おらぁ泣いたね。俺が戦地に行く時も、おっ母さんあんな気持ちなのかやって」
 「ああいう映画、まっと見たいやぁ」

 名もなき男の呟きが木下を映画界へ押し戻し、戦後の名作群を生み出した―という物語。男が生きて終戦を迎えられたかどうかはわからないが、そんな男は確かにいただろう・・・と思わせるだけの説得力が、濱田の生き生きとした演技によって形作られていた。

 NHKの古典落語バラエティー『超入門! 落語 THE MOVIE』(2016~)ではナビゲーターを務め、軽妙洒脱な「おとな」への道を着実に歩んでいる濱田岳さん。フランキー堺にも渥美清にもなれる可能性を秘めた「一芸」ある男、30代の仕事も非常に楽しみです。

 (しみず ひろゆき、映像ディレクター・映画祭コーディネーター)

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●労働映画短信

◎働く文化ネット 「労働映画鑑賞会」
 働く文化ネットでは、毎月第2木曜日に労働映画鑑賞会を開催しています。お気軽にご参加ください。

◇次回のご案内 
【2018年2~3月期】 統一テーマ:マチ工場のいまとこれから
第46回 労働映画鑑賞会~伝統産業の未来への挑戦~
・2018年3月8日(木)18:00~(参加費無料・事前申込不要)
・会場:連合会館 201会議室(地下鉄 新御茶ノ水駅 B3出口すぐ)
・上映作品:
『SAMURAI シルク世界へ!~ニッポン北限の絹産地の挑戦~』(2017年、24分)
  絹産業の復興に努める山形県鶴岡市。行政や市民、高校生が様々なアイデア出して取り組んだ7年間の記録。(制作:山形放送、ディレクター:新野陽祐)
『希望のかけはし~割り箸に込める折れない心~』(2016年、24分)
  福島県いわき市にある割り箸工場。間伐材を有効活用し林業の再生を図る人々による、高級割り箸開発の取り組みを紹介。(制作:福島テレビ、ディレクター:齋藤善徳)
 詳しくは、働く文化ネット公式ブログをご確認ください。 http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/

◎【上映情報】労働映画列島! 2~3月
※《労働映画列島》で検索! http://d.hatena.ne.jp/shimizu4310/00180303

◇新作ロードショー
『ザ・キング』《3月10日(土)から 東京 シネマート新宿ほかで公開》
 駆け出しの検事が、悪に染まっていく姿を描く社会派エンタテインメント。猛勉強の末に検事になった主人公が、大統領選を利用して権力を掴んだエリート部長と対決する。(2017年 韓国 監督/ハン・ジェリム) http://theking.jp/
『馬を放つ』《3月17日(土)から 東京 神保町 岩波ホールほかで公開》
キルギスの小さな村で「ケンタウロス」と呼ばれる男。伝説を信じて毎夜馬を盗み、野に放つ。馬を盗まれた権力者は、盗人を捕えるために罠を仕掛けるが…。(2017年 キルギスほか 監督:アクタン・アリム・クバト) http://www.bitters.co.jp/uma_hanatsu/
『素敵なダイナマイトスキャンダル』《3月17日(土)から 東京 テアトル新宿ほかで公開》
 「写真時代」「パチンコ必勝ガイド」などの編集長として知られる末井昭の自伝的エッセイを映画化。1970年代、エロ本業界に入った若者を描く、笑いと狂乱の青春グラフィティ。(2018年 日本 監督:冨永昌敬) http://dynamitemovie.jp/

◇名画座・特集上映
◎全国
【札幌シネマフロンティアほか56館】 2/24~3/23「午前十時の映画祭 結婚するって本当ですか?」…麦秋/招かざれる客(週替り上映)

◎北海道・東北
【夕張 ひまわり体育館/他】 3/15~19「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018」…ダンガル きっと、つよくなる(インド)/コーヒーノワール ブラック・ブラウン(韓国)/穴を掘る(日本)/他
【弘前 スペースアストロ】 3/11「harappa映画館 3.11-私たちは、忘れない。」…祭の馬/被ばく牛と生きる/息の跡
【大館市民文化会館】 2/24・25「昭和名画座 第15集」…秋津温泉/少年/心中天網島/復讐するは我にあり

◎関東・甲信越
【東京 ラピュタ阿佐ヶ谷】 2/18~4/21「ミステリ劇場へ、ようこそ。2018」…青春銭形平次/点と線/影なき声/砂の器/新幹線大爆破/危いことなら銭になる/他
【東京 江古田 ギャラリー古藤/ほか】 2/24~3/11「第7回 江古田映画祭」…水俣 患者さんとその世界/被ばく牛と生きる/アトミック・マム/逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者/他
【東京 シネマヴェーラ渋谷】 3/10~30「ピラニア軍団・役者稼業」…極道社長/河内のオッサンの唄/三池監獄 兇悪犯/夜明けの旗 松本治一郎伝/竜二/他
【東京 池袋 新文芸坐】 3/18~30「香川京子映画祭」…山椒大夫/おかあさん/どん底/女の暦/まあだだよ/赤い鯨と白い蛇/他
【川崎市市民ミュージアム】 3/10~18「毎日映画コンクールを彩った男優たち」…マタギ/襤褸の旗/ザ・中学教師/火まつり
【十日町シネマパラダイス】 2/24~3/9「ありがとうアンコール上映」(※3月11日閉館)…夢は牛のお医者さん/Music of Life/星くず兄弟の新たな伝説/他

◎東海・北陸
【名古屋 シネマスコーレ】 2/24~3/9「橋本忍監督特集」…私は貝になりたい/幻の湖
【名古屋学院大学白鳥校舎】 2/24・25「福祉映画祭in名古屋」…彼らが本気で編むときは、/ギフト 僕がきみに残せるもの/千と千尋の神隠し/シンプル・シモン
【穂の国とよはし芸術劇場PLAT/他】 3/2~4「ええじゃないか とよはし映画祭」…東京ヴァンパイアホテル/小さな橋で/アイコ十六歳/シネマ狂想曲~名古屋映画館革命~/他

◎関西
【大阪 九条 シネ・ヌーヴォ】 2/24~3/9「誕生!ヘルツォーク」…アギーレ 神の怒り/カスパー・ハウザーの謎/フィツカラルド/キンスキー、我が最愛の敵/他
【大阪 梅田ブルク7/他】 3/9~18「第13回 大阪アジアン映画祭」…朴烈 植民地からのアナキスト(韓国)/ネオマニラ(フィリピン)/仕立て屋 サイゴンを生きる(ベトナム)/ニュートン(インド)/他
【神戸 パルシネマしんこうえん】 3/12~21 パターソン/オン・ザ・ミルキーロード(2本立上映)

◎中国
【尾道 しまなみ交流館/他】 2/23~25「尾道映画祭2018」…花筐 HANAGATAMI/野ゆき山ゆき海べゆき/恋人よわれに帰れ/他
【広島市映像文化ライブラリー】 3/14~18「台湾映画特集」…悲情城市/海角七号 君想う、国境の南/父の初七日/あの頃、君を追いかけた

◎四国
【徳島あわぎんホール】 3/16~18「徳島国際映画祭2018」…ハモニカ太陽/黒の牛/ガチ★星/ハルフウェイ(韓国版)/他

◎九州・沖縄
【福岡市総合図書館 シネラ】 3/1~4「アレクサンダー・クルーゲ監督特集」…昨日からの別れ/サーカス小屋の芸人たち 処置なし/定めなき女の日々/愛国女性/他
【大分 シネマ5】 2/17~3/9「大映女優祭」…ぼんち/女系家族/赤線地帯/浮草/しとやかな獣/他

●日本の労働映画百選
 働く文化ネット労働映画百選選考委員会は、2014年10月以来、1年半をかけて、映画は日本の仕事と暮らし、働く人たちの悩みと希望、働くことの意義と喜びをどのように描いてきたのかについて検討を重ねてきました。その成果をふまえて、このたび働くことの今とこれからについて考えるために、一世紀余の映画史の中から百本の作品を選びました。

『日本の労働映画百選』記念シンポジウムと映画上映会
  http://hatarakubunka.net/symposium.html

・「日本の労働映画百選」公開記念のイベントを開催(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160614/1465888612

・「日本の労働映画の一世紀」パネルディスカッション(働く文化ネット公式ブログ)
  http://hatarakubunka-net.hateblo.jp/entry/20160615/1465954077

・『日本の労働映画百選』報告書 (表紙・目次)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen_index.pdf

・日本の労働映画百選 (一覧・年代別作品概要)PDF
  http://hatarakubunka.net/100sen.pdf

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