上海日本人学校の課題と展望

■上海日本人学校の課題と展望

       小暮 剛一


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 はじめに
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 昨年4月、世界初の日本人学校高等部が上海日本人学校浦東教区(なぜ「教区」
等と表現するのかは後程説明。また上海日本人学校には虹橋校と浦東校があり、
いずれも借地でそれぞれ2万㎡。虹橋校は小学生のみで、浦東校に小・中学生が
いる)の一部を使ってスタートし1年が経過した。「高等部校舎の確保」はスタ
ート時点から喫緊の課題であった。

 2012年4月の第2期の新入生を迎え入れるまでに確保しなければならない
というもので、極めてタイトな時間の中での作業は、素人だから出来たと思わず
にはいられない。そもそも場所の選定など、何の当てもない中でのスタートで、
上海市教育部、浦東新区の企画局・教育局など、市、区それぞれ各関係機関への
申請・承認手続きをとることも大変で、工事関係業者の選定、予算確保など(こ
れらについては日本でも手間暇のかかるものであるが、ましてや中国にあっては
…ご想像いただくほかない。)今振り返ると正に綱渡りの日々であり、この短期
間に良く出来たものだと思う。

 最終的に確保出来た場所は、浦東校舎に最も隣接した東和公寓(高層マンショ
ン群で、この中の1つの建屋)の1、2階の一部分(計約1600㎡)で、これ
を「商業賃貸料」で借りることを決定したのは8月末。そして工事開始は12月に
なってからであった。

 高等部の教育場確保に目途が付いたことにより当分の間、校舎問題は起こらな
いはず、であった。しかし、本年4月に入学予定の小・中生の予想を超えた増加
問題が浮上し、このため私たちは今新たに10万㎡の土地を確保するために活動
を開始し、そこに小・中・高の校舎を建てるべく対策プロジェクトを立ち上げ取
り組みを開始したところである。

 このような状況にある時、加藤宣幸さんから表題によるオルタへの投稿のお話
をいただいた。しかし、いかな私でも、学術論文などが掲載されているオルタへ
私の雑文を寄稿する勇気はなかったのでお断りをしたのですが、「面白いもので
なくとも良い。日本人学校高等部の設立の歴史、現状、課題などの事実を書けば
よい」とのお話をそのまま真に受けてしまった、という次第ですが、改めて書き
始めると加藤さんや、オルタの読者の興味とは全く関係なく、あれもこれも書か
ねば、といった心境に陥り、どうしたものかと悩んでいる間に期限がきてしまっ
たというところです。

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1.上海日本人学校の現状
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 ところで多くの方々は日本人学校についてどのように理解されているだろうか。
ほとんどの方がそもそも興味の無い分野であり、ご存じないのが当然と思われる
ので、幾つかの基本的な数字から、まず説明することにしたい。

 今年1月に発表された世界中の日本人学校は88か所(「月刊誌・海外子女教
育」から引用。以下同様)あり、その生徒総数は(小・中合計)19,811名
となっている。これに、補習校が203か所で、生徒は20,468名となって
いる。

 そして、500名以上の生徒数を超える(俗に大規模校と称している)日本人
学校はほぼアジアに集中している(ちなみに本校は虹橋校舎に1564名の小学
生、浦東校に1597名の小・中・高生が在籍し、総計3161名)。一方これ
とは逆に「補習校」はその校数、生徒数のいずれも欧米各国が多いことが特徴的
である。欧米への駐在者は現地校に、非欧米圏では日本人学校に子弟を入れる、
ということの結果である。

 駐在員の子弟の教育をどうするか。この問題を解決するために駐在員の中で教
育経験者が集まりお互いに協力しながら、大使館、領事館などの一室を借りて
「寺子屋」的な状態から始まったものと思われる。そして一定の時間が経ち規模
も大きくなり、日本政府の援助もあって専用の校舎なども確保し現在の姿になっ
たものと思われる。では現在はどのように運営されているのであろうか。

 日本人学校を経営的な視点から云えば、現地邦人が自主的に運営する私立学校
である。しかし、多くの方々は公立の学校と勘違いされているのではないか。

 この小・中学校に「義務教育」に責任を持つ文部科学省が「政府派遣教育制度」
により、いわゆる「派遣教諭」を国家公務員として派遣してきており(派遣期間
は2年から3年である)、不足する教諭を現地採用(この経費は学校納付金=授
業料で賄われている)して必要教諭数を確保している。

 そして、外務省の領事局が、校舎借料あるいは校舎補修料等援助、現地採用教
員謝金援助、在外教育施設の安全対策費の援助などを行っている。これが現状で
あるが、「高等部」に対しては現在のところ前例が無いとのことで、この種の援
助、補助はない。つまり高等部にかかわる全ての必要経費は生徒から徴収する授
業料で賄わなければならないということである。

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2.このような多くの生徒、教職員を要する組織はどうなっているか
 (改革の方向⇒「私立」上海日本人学校としての発展を目指して)
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 今年3170名ほどになり世界一の大規模校となった上海日本人学校であるが、
この組織を運営する最高議決機関が運営委員会であり、上海商工クラブ、上海総
領事館が発足以来の最大最強のスポンサー的存在である。

 このため両組織から運営委員会委員が選出され(毎年交代)、これに文科省派
遣の校長(長くて3年で交代)を加えて基本的な運営委員会が構成されている。
正副運営委員長は発足以来商工クラブの有力企業の現地責任者が担当してきた。
この経緯をみると、中長期に渡ってその任にあった者は居ないことが理解される。

 これだけ大きくなり、右肩上がりの経済成長が見込めなくなった今、日本人学
校を将来とも安定・維持・発展させるためには、組織的整備、経営主体の強化の
必要が認識される様になってきたと思われる。その結果の一つが運営委員長の専
任化(小暮)である。

 虹橋校舎が2005年に2000名を超えたため急遽浦東教区を増設した(一
昨年第2期工事も終了)が、今また来年には教室不足が推測されている。このた
め先に触れたように新たな校舎確保の活動を開始しているが、しかし、中国政府
の「1都市1校」の原則(分校は認められていない)があり、すでに事実上2校
存在(高等部は中等部に間借りしているとの解釈)している上海日本人学校が3
校目の学校設置など論外ということである。このため浦東校は学校と称すること
が出来ず「教区」と言っているのである。

 学校の設立当初と現状の違いは大きく、「新たな校舎確保」を取り組むに当た
っても、私達は、自らの立ち位置をどのように見定め、どのような将来展望をも
ってこれに取り組むべきか、基本的な諸問題を整理し、関係者の合意形成を図り、
今こそ、しっかりとした将来構想を策定しなければならない。

① 従来からの義務教育の実現という立場
②「小中高」を有する上海日本人学校
③ 家族とともに高校生活を送りたい、という在留邦人の強い要望で実現した高
 等部の特徴=入口は希望者全員の受け入れ。出口は多くの大学への進学希望。
④ 文科省派遣教員よりも現地採用教員の方が多くなったことについてどのよう
 に措置するか。

 これら設置のミッションを実現するためにどのような組織、運営が求められて
いるのか、中長期の将来計画を立てること主体形成をどうするか。

 小中高生という社会人となるための基礎的な知識、技術を習得し、心身ともに
大きく成長・変化するこの時期は、その感性も最も鋭く磨かれる時期でもある。
私たちにはグローバルな時代に相応しい人材育成が求められています。またこの
上海日本人学校は世界の教育市場の中にあり、競争のなかにあることを念頭にお
いて、確かな歩みを進めていかなければなりません。引き続き皆様のご理解と一
層のご協力をお願い申し上げます。

  (筆者は上海日本人学校運営委員会委員長)

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