中国がアフリカに遭遇するとき

■ 海外論潮短評(12)

◇中国がアフリカに遭遇するとき  初岡 昌一郎

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◇中国がアフリカに遭遇するとき


  アメリカの国際問題専門誌で、民主党に比較的近いと見られている『フォーリ
ン・ポリシー』2008年5/6月号の「中国がアフリカに出会うとき」という
記事に目が留まった。おりしも横浜で日本政府主催の日本・アフリカ・サミット
が開催され、アフリカにほとんど関心を払わない日本のジャーナリズムも、珍し
くこの大陸を取り上げていた。日本政府の対アフリカ政策を刺激しているのが、
中国の目覚しい進出振りであろう。また、日本がアメリカ政府にしりをたたかれ
ていることも間違いない。

 この8ページにわたる長文の解説的記事の筆者は、国際記事で定評のある『ル
モンド』紙(フランス)西アフリカ特派員、セルジュ・ミシェル記者だ。パリで
最近出た彼の共著『中国のアフリカ―試練に遭う中国の暗黒大陸進出』は欧米で
話題となっている。

 豊富な資源を求めて中国がアフリカに大々的に進出していることがしばしば報
道され、欧米では脅威としてこれを捉える向きが少なくない。市場と影響力の拡
大を狙う中国と、資源は豊富だが、投資が少なく、グローバリゼーションの過程
から排除されているアフリカはその利害が完全に一致しているように見える。中
国のアフリカ進出は見るべき成果を挙げつつあるが、その反面、かなり強引な手
法と未熟なやり方が現地の反発をまねいている。想像を超えたアフリカの貧困と
政治腐敗に、世界で最も野心的な発展途上大国もたじろいでいるという。彼の指
摘のいくつかをピックアップしてやや読み物風に紹介して見る。


◇子ども達が街頭で"ニーハォ"


  コンゴ・ブラザビルの街頭では、子どもたちが白人にも"ニーハォ"と呼びかけ
てくる。かつては、"ハロー、ミスター"とか"ヘイ、ホワイティー"といっていた
ものだ。今や彼らにとって、すべての外国人は中国人だ。これは理由なしとしな
い。ここではすべてのものが中国製。スタジアム、空港、道路、アパート、テレ
ビ、電話、ナイキの模造品、そして精力剤までも。

 それだけではなく、1,000戸以上の住宅のプロジェクト、外務省ビル、テ
レビ局、水道システム、アミューズメントパークも中国が建設。アメリカ大使館
に隣接するグレコローマン様式のパレスは、中国製の建設大臣公邸だ。


◇投資と貿易の飛躍的急増


  西欧諸国やアメリカは、対アフリカ援助をチャリティ(慈善事業)とみなして
きたが、中国は投資と見ている。2000年から7年間に中国とアフリカの貿易
額は、100億ドルから700億ドルに飛躍的に増加した。旧宗主国のフランス
とイギリスを抜き、アメリカに次ぐ第2位となった。2010年にはアメリカを
抜く。

 中国輸出入銀行は向こう3年間に200億ドルの信用を供与する。これは世界
銀行が同期間にアフリカ向けに振り向ける資金とほぼ同額だ。中国とアフリカの
関係はウィンウィン(互恵)と見られている。中国は、石油、銅、ウラニューム
、コバルト、木材などの資源にアクセスしている。中国が提供するのは、基礎的
だが、信頼性のある技術と多数の労働者を建設に動員する能力である。これを支
える外貨準備金は今や世界一。

 中国人にとってアフリカは約束の土地のように見える。アフリカに住む中国人
は今や55万人に達し、まだ増えている。これに次ぐフランス人は10万人、ア
メリカ人は7万人にすぎない。他のすべての国が失敗したこの大陸で奇跡をもた
らすマジックの力を発揮する中国。アフリカの変容に指導的な地位を獲得しつつ
ある中国。こうしたイメージが急速に広がった。


◇中国に依存する政府


  多くのアフリカ諸国政府は、中国の関心を歓迎し、政府が本来果たすべき責任
の一端を中国に任せることに躊躇していない。政治家たちは競って学校、住宅、
病院などを中国に求める。特に、選挙前には人気取りとして。

 アルジェリアでは、中国が高速道路を建設した。1000キロ以上もトンネル
と橋による難工事をこなして高い評価を受けた。コンゴでの大規模ダムは200
9年に完成予定で、電力が倍増する。これは10年前に世銀が、返済不可能な高
額資金が必要として断念させたものだ。中国は2002年に2億8000万ドル
を供与し、これを石油で返済させることにした。

 中国の公共工事は低価格だが、西欧の技術者からの批判がある。(1)セメン
トや鋼材の質が基準以下(2)現地労働者を酷い低賃金で雇用 (3)工事が粗
悪で、ダム崩落の危険などが囁かれている。中国の技術はアフリカで初めて試さ
れるもので、中国企業もアフリカ初体験だ。中国側はアフリカ人労働者が仕事を
覚えないとか、直ぐ辞めるなどとこぼしている。


◇直面する問題は同じ


  西欧が直面した同じ問題に中国も直面している。権力層の底なしの腐敗、政治
的不安定、住民の無関心、過酷な気候等々。中国の調印した鳴り物入りの契約の
いくつかはすでに破棄された。スニーカーなどの安価な製品が地元業者を圧迫し
、反発を買っている。中国人は労働者の権利に無関心で、彼らが想定しなかった
反発と敵意が現地で生まれている。

 中国のアフリカにおける代表的成功例はアンゴラだと見られていた。27年に
わたる内戦、不透明に消えてしまう石油収入などを理由に、西側企業はこの国か
ら手を退いていた。アンゴラ政府は中国に頼り、100億ドルの資金を信用供与
された。アンゴラは中国にとって最大の石油供給国になるはずだった。

 内陸部からロビト港までの鉄道建設が約束されていたが、2007年9月にベ
ースキャンプが突然解体された。理由は不明で、中国側はこのプロジェクトを担
当する中国国際基金(本社は香港)が上層部と交渉中という。その後、ロビト港
での石油精製所建設企画もキャンセルされた。これはアメリカ企業に任されそう
だ。

 あるヨーロッパの外交官は、こう評する。「中国はアンゴラのキックバック要
求がそんなに高いとは予想していなかった。アンゴラ人も中国人と一緒に散歩を
しばらく楽しんだ。だが、大リーグでプレイしたければ、借金を返済して、われ
われのところに帰ってくる」


◇バックラッシュの始まり


  他の世界が振り向きもしないとき、中国はアフリカ諸国にとって意欲のあるパ
ートナーである。しかし、指導者たちが中国に決して満足しているのではない。

 アンゴラは、過去5年間に中国から1000億ドルを引き出し、2002年以
降世界最高度の成長を達成した。こうなると取引を自分の条件で求めだし、中国
を今度は締め出そうとしている。

 ルアンダは中国の援助でインフラを整備したが、今や中国のように要求の多い
パートナーを避ける。ギニアでは、ボーキサイト採掘、アルミニューム精錬、水
力ダムを対象とする10億ドルの包括契約が流れた。

 これらいくつかのケースでの契約不調は、したたかなアフリカの指導者たちの
意図的な策略によるものだ。中国との契約を鳴り物入りで発表して従来の欧米パ
ートナーを驚愕させ、その後に彼らとの取引を有利に進める戦略戦術を採ってい
る。

 中国は友好や植民地主義の汚点のないことを強調しているが、人気があまりな
い。「彼らはわれわれを尊重しないし、なんでも取ってゆく」との文句がタクシ
ー運転手や建設労働者から聞かされる。中国人は、政治家やエリートと関係を持
つだけで、一般市民との接触はほとんどない。建設現場でも中国人労働者とアフ
リカ人労働者が、仕事の後に交歓する光景は見られない。

 ザンビアの銅山で爆発事故があり、50人が死亡した。鉱山労働者が使用者の
中国人に対して抗議行動を行なった。新華社も中国企業が安全規則を無視したと
認めた。胡錦濤主席が同国を訪問した際は、抗議を避けるためにその地帯の訪問
をキャンセルした。
2006年に北京で中国・アフリカ・サミットが開催された時、主催者が『中国
とアフリカ、1956-2006』という小冊子を配布した。その中で、「災難
としての民主主義」が、アフリカ諸国内の緊張を激化させていると論じ、「幸い
にも、民主化の波は弱まりつつある」と述べた。


◇功罪と成否が交錯


  開発と民主主義を求めるアフリカの必要と、資源を求める中国のニーズの間に
緊張があっても、石油が両者の共通する利害の絆である。中国の投資が最も多く
集中しているのが産油国であり、そのアフリカ政策の成否を判断する尺度は石油
であると多くの専門家がみている。中国が市場で調達する石油(輸入の僅か2パ
ーセント)ではなく、現地で生産する石油のことである。

 中国は投資を集中させているこれら産油国が友好的となることを期待している
が、成果はあまりあがっていない。中国の石油会社は沖合で水中から採油する経
験と技術に乏しく、ハンディを負っている。このため、最も魅力的なギニア湾の
石油開発に参加できない。中国企業の持つ6採油区は困難すぎて、昨年政府に返
上された。

 中国が成功を収めている例はスーダン。1980年代のスーダンは内戦とアメ
リカによる制裁のため、外国企業は撤退を余儀なくされた。この状況を利用して
中国は多額の投資を行い、石油採掘を始め、精製所とパイプラインを建設した。
中国のおかげでス-ダンは石油を輸出し、経済的なブームを享受しており、アフ
リカのドバイのようだ。

 この状況がアフリカにおける中国のアプローチに内在する問題点を示している
。一方では、平和勢力としての名を汚さないために、ダルフールにおける虐殺を
やめさせるようにスーダン政府を説得するのを支持しているが、他方では、かっ
てスーダンで操業していたシェブロン、トタール、シェルなどの国際企業が復帰
するのを阻止するために、政府の機嫌を損ねないようにするという、高い政治的
リスクを負っている。

 中国のすべてが失敗しているのではないが、奇跡を起しているのでもない。中
国にとって良いことが、アフリカにとって良いことではない。アフリカにとって
良いことは、野心的な中国を含め、外国がそれを外から配達することはできない


◇評者のコメント


  記事の筆者、セルジュ・ミシェルは数少ないアフリカ専門家の一人で、この大
陸の民主化と自立に期待する立場から中国に辛口の批判をしているが、全体とし
てみれば、バランスの取れた見方を示している。彼が憂慮しているのは、これま
での先進国による援助が、贈り手と受けての双方の側で底なしとも言える腐敗を
助長してきたことだ。援助の金が現地の支配層と先進国の援助を配るものたちの
ポケットに入り、結局は先進国の金融機関に還流していった。残ったのは、アフ
リカの国家と民衆にとっての巨額な債務と荒廃した大地と民心だけだ。この罠に
中国も落ちる危険を経験しつつある。

アフリカに本格的な援助を開始しようとしている日本政府はこうしたリスクを
認識しているとも、回避する意思があるとも思われない。日本の援助はほとん
どが借款によるもので、受益国(?)は利子をつけて返済しなければならな
い。ところが、こうした援助の金は現在の支配者が勝手に使い、長期返済のツ
ケだけをあとにくるものに任せる。ところが、後継者たちは直接の契約者でも
受益者でもないので、返済の義務感など当然持たない。したがって、債務は膨
らみ、返済不能の債権が残る。これを債権国が棒引きし、税金で処理すること
になる。その無駄となった援助の実行ははるか昔の事なので、誰も責任は取ら
ないし、関心すら持つ人がほとんどない。こうしたことが繰り返されてきた。

 日本では、軍事と外交が天皇の大権となっていて、国会の有効な監視を受ける
必要がなかった戦前の伝統を受け継いでか、軍事費と援助のカネは国会で十分な
監督を受けずに垂れ流されえてきた。国会の状況が変化した現在でも、これがあ
まり改善されたとは見えない。中国のアフリカにおける状況を対岸の火災視して
、他人ごとと思える状況ではない。

 国際的にはこれまでの援助のあり方が反省され、国よりも人間をその対象にす
ることに重点が置かれてきた。この理念は定着してきているが、国家レベルで実
行されているとはとても思えない。相変わらず、戦略的援助論が支配的だ。

 スウェーデン社会民主党の理論的指導者であり、ノーベル賞受賞者であった経
済学者、グナール・ミュルダールは、その古典的な大著『アジアのドラマ』の中
で、早くから民衆の教育と社会開発が経済的開発のカギであり、そのための社会
改革が必要と指摘していた。彼の「福祉国家から福祉世界へ」というビジョンこ
そグローバリゼーションのなかで生かされるべきなのだが。

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