中国のアフリカン (その一)

■【北から南から】

深センから 『中国のアフリカン その一』     佐藤 美和子

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  先月末、いつものように香港へ買い物に行った帰り道のことです。その日はさ
すがに年末のためか人出も多く疲れたので、早めに帰途につこうと皇崗口岸とい
うイミグレーションへ向かうことにしました。とっとと香港出境手続きを終え、
次いでそこから少し離れた中国入境管理ビル行きのバス乗り場へと歩いていると、

 「すみませんマダム、ちょっと道を尋ねたいのですが」
と、アフリカンの女性に英語で呼び止められました。

 ワタクシ何故だかどこの国にいても、ものすごく頻繁に時間や道を尋ねられま
す。アジア圏ならまだしもヨーロッパでも、どこからどう見てもアジア人な私、
欧米人からも道を訊かれるのです。ある時はドイツで、台湾人らしき男の子に「
あの、人形博物館ってどこにあるんでしょう?」と尋ねられました。ちょうど行
ったばかりだったので、あぁそれならこの道を50mほど行って、あの左手の建物
がそうですよと教えてあげたのですが、その場に居た同行の友人(日本人)のキ
ョトン顔を見て、やっと気づきました。私は何の前振りもなくイキナリ中国語で
尋ねられ、こっちも吊られて思わず中国語で答えていたのです。海外では普通ま
ず、○○語はわかるかとか、相手が同国人かどうかを確かめますよねぇ?どうや
ら私は確かめるまでもないと思われるほどに、中国人か台湾人っぽい佇まいをし
ているようです。

 このイミグレでの時も、周囲にたくさん中国人香港人がいるにも関わらず、や
っぱり私が選ばれてしまいました。しかしまぁ、『マダム』と呼ばれたからには
足を止めねばなりますまい(笑)。

で、どこ行きたいのかと問うと、広州だと言います。皇崗口岸は香港側のイミグ
レと中国深セン側のイミグレが立地的に少し離れており、イミグレ間も各々の出
発地からそこ(香港出境管理ビル)まで乗ったのと同じバスで移動しなければな
りません。広州行きのバスにも種類があるので、ここまではどんなバスに乗って
きたの?と、数年ぶりの英文をまず頭の中で四苦八苦構築しつつ訊ねると、それ
がここへ来るのは初めてで、イマイチどのバスだったかもよく分からなくて・・
・・・ですって。

 そこのイミグレへは大雑把に、(1)香港空港から来るバス、(2)香港市街地からの
バス、(3)香港出境管理ビルと中国入境管理ビルのイミグレ間のみを行き来するバ
ス、の3種類があります。とにかく最初にバスに乗るときに貰っているはずのチ
ケット探せ!と、彼女にバッグの中をかき回させます。

 出てきたチケットは、(2)の『香港市街地→深セン皇崗行き』のものでした。チ
ケットには目的地などがすべて中国語で書かれていたため、中国語が読めない彼
女には何がなんだかわからなかったのでしょう。早速該当バス停に連れていくと、
そこにいたバス会社の係員、
  「あら?なんだこの人、うちのバスだったのね。さっき尋ねてきた時はこの人
チケットを持ってなかったし、広州へ行くのはどのバスか?なんて尋ねられたか
ら、あなたはうちのバスじゃないわよって言っちゃったわ~」
おいおい、そんないい加減な。そして、

 「この人広州に行くんでしょ?うちのバス、深センまでしか行かないのよね。
その先は深セン側のイミグレビルを出て左手のチケットブースで、別途深センか
ら広州までのチケットを買うようにって彼女に言ってやってよ」
え~っ、通りがかりに道を尋ねられただけの外国人の私に、非母語からまた別の
非母語へ通訳しろですって?まぁ、例によって私は中国人だと思われてるんでし
ょうが・・・・・。

 でもそんな簡単な説明だけでは、ここのちょっと特殊なイミグレを初めて通る
人には難しいだろうなぁ、 言葉が分かる私でも慣れるまではずいぶん試行錯誤
したし・・・・・と思い、仕方がないので彼女に付き合ってあげることにしまし
た。そんな複雑な説明の英語ができなかった、とも言えるんですけどね(笑)。
  しかし連れてってあげるとは言ったものの、中国入境管理ビルへ向かうバス、
彼女が乗るべきなのと私の乗るものとは違っていました。彼女は(2)のバスで来て
いたし、私は料金が一番安い(3)なのです。私はあなたのとは違うバスに乗らなき
ゃだから、先に向こうまで行ってイミグレビル前で待っていると言うと、ホント
に?助かったー!と喜ばれました。

 中国入境管理ビル入り口で20分ほど彼女が追っ付けやってくるのを待ち、入国
カードの書き方を教え、日本人の私は通関すっごく早いけれど、アフリカン(タ
ンザニア人でした)の彼女はジロジロしげしげとパスポートチェックされるので
時間がかかってまた十数分待たされ、なんとか通関を終えたらバスのチケットブ
ースに連れていって広州行きチケットを買うのを手伝い、そしてそのバス乗り場
へ案内しました。

 バス乗り場に着くともうお目目ウルウルで感激され、
  「わたし今日はあなたに出逢えて、本当に神様のお陰、とってもラッキーだっ
たわ!イミグレでぜんぜんバスとか分からなくてね、でもスタッフに聞いても道
行く人に聞いても、みんな知らないと言って誰も教えてくれないし、ほとほと困
り果てていたのよ!お陰で広州にたどり着けるわ、ホントにありがとう、あなた
に神様のお恵みがありますように!」
と、ぎゅーっとハグと両頬にチューされてしまいました。英語を話す人に「God
bless you!」と言われると、なにかホントにいい事ありそうな、験がありそう
な気がするのは気のせいでしょうか(笑)。

 そういえば以前深センで、やっぱり道に迷っていた南米系っぽいオジサンの列
車チケット購入と検札口への案内を手伝ったことがあります。その人も「中国で
はね、道を尋ねようと思ってもみんな知らないと言って逃げていくんだ・・・・」
と悲しそうに言っていましたっけ。

 中国には、英語がカタコト程度もできない人が、日本以上にたくさん居ます。
実はうちの相方もそうなのですが、中国が親ロシアで資本主義国アメリカを敵視
していた時代に学生だった人は、学校の第二外国語は全てロシア語だったために
英語の素養は全くのゼロなのです。田舎の人だと、(アジア人以外の)外国人を
怖がって話しかけても逃げちゃうこともあります。我々日本人や韓国人と違って
一見してすぐにガイコクジンだと分かり、しかも中国語が話せない人たち、中国
ではさぞかし苦労していることだろうと思います。特に中国人のアフリカ人忌避
は病的なほどですし・・・・・。次号では、その辺の事情をお話しようと思いま
す。
            (筆者は在中国・深セン日本語教師)

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