中国の整風運動と中日・両岸関係への影響

【私の視点】

中国の整風運動と中日・両岸関係への影響

                               凌 星光


  
 過去一年余りにわたって中国で行われた「大衆路線教育実践活動」は、歴史的意義のある重要な運動である。それは延安整風運動が党内の意志を統一させ、その後の抗日戦争勝利と全国解放を導いたように、中国が自らの二つの100年目標(党創立100周年と建国100周年)を達成し、世界を強権政治(パワーポリティックス)から和諧世界に導く環境整備に繋がるからである。延安整風運動は複雑な政治状況の中、行き過ぎのミスも犯したが、今回は過去の経験を踏まえてかなり成功裏に全うすることができたと言える。
 
当初、運動という言葉を避け、整風の精神で大衆路線教育実践活動を実施するとしたが、実際には党中央の指導の下に行われる作風改善運動であり、今年になってからは整風運動と言われるようになった。中国共産党の歴史は、当初30年の新民主主義革命、建国後30年の社会主義建設、改革開放後の中国的特色のある社会主義建設30年に区分できる。社会主義建設の終わり10年間の文化大革命の教訓を踏まえて、「混乱収拾、秩序回復(拨乱反正)」を実施し、改革開放への道を開くことによって高度経済成長を達成した。
 
しかし、改革開放後30年の後半は、新自由主義の影響を受け、市場万能論の下、格差拡大、拝金主義、不正腐敗などが横行し、ひどく歪んだ社会が形成されてしまった。とりわけ、党政府幹部の腐敗は目に余るものがあり、白昼下の官職の売買に至っては正に言語に絶するものであった。この悪弊を如何に収めるか、これは党の存亡、国家の存亡に関わる大きな問題と位置付けられた。このような危機感の下、第二の「混乱収拾、秩序回復」が決断されることとなった。もし先進諸国において一般に言われているような民主選挙方式で解決しようとすれば、党の指導性が否定され国家は大混乱に陥る。そこで習近平政権は党の指導性を確保しつつ、大衆の積極性を発揮させる「大衆路線教育実践活動」を選択したのである。
 
中国共産党政治局は2013年4月19日、その年の後半から約一年の時間を費やして、上から下への方式で党の大衆路線教育実践活動を展開することを決定した。先ず、トップの常務委員7人が自己点検をして模範を示した。その後、部、省レベルの指導機関で行われ、更に市、県レベルの指導機関に下された。今回の整風運動を通じて、中国社会の雰囲気は大きく変わり、共産党の社会基盤はより強固なものとなった。それは中国の外交政策、対日政策に影響を与え、両岸関係の発展にも大きな影響を与える。本論文は、まず整風運動がどのように展開されたかを説き、日中関係と両岸関係に与える影響を論じる。

一 大衆路線教育実践活動の歴史的意義
 大衆路線とは「全て大衆のために、全て大衆に依拠し、大衆の中から生まれ出て、大衆の中に持ち込み、党の正しい主張を大衆の自覚的行動に変える」というもので、中国革命は大衆の支持を得て成功した。ところが政権獲得後は、個人崇拝が顕著となり、大衆路線の名の下に主観主義的政策が強行された。その最たるものが文化大革命であった。その教訓から、改革開放後は制度化が強調され、大衆路線や大衆運動はタブー視されるようになった。
 
中国的特色のある社会主義制度の構築が合言葉となり、法治国家を目指して諸領域での法制化が進められた。党の指導性、人民主人公、法治の三結合を目指した政治改革が志向されたが、市場経済化での利己主義、大衆無視の官僚主義、私利私欲を図る幹部の腐敗が跋扈し、今や法はあっても真面目に実行されないという由々しき状況になってしまった。トップクラスを含む幹部の整理整頓なくしては、党中央の政策や法規は貫徹できないという状況となった。

習近平は2012年12月、1982年憲法30周年記念大会で講演し、「憲法の生命は実施することにあり、憲法の権威も実施することにある」と、憲法の尊厳と履行を強調した。しかし、今の幹部陣では憲法を実施することができず、先ずは大衆路線教育実践活動を実施することとした。この実践活動によって腐敗した党を建て直し、憲法の権威が守られる条件を整備しようとするものであった。
 
習近平の推進する大衆路線教育実践活動は江沢民の三つの代表論の学習や胡錦濤の科学的発展観の学習とは本質的に異なる。「実践活動」という言葉が示すように、単なる学習ではなく、その目的は「党の先進性と純潔性を維持発展させる」ことにあるとしている。新味は正に「純潔性」にある。党員らしい党員が余りにも少なくなり、党員としての品性、「純潔性」が強く求められるとしている。

実践活動の主たる課題としては「人民のためである、実務的である、清廉である」ことが提示され、それぞれの幹部が「鏡に照らし、襟を正し、身を清めて、病を治す」よう要求されている。つまり自己点検である。お互いに批判と自己批判が展開され、それぞれが自己の欠点を認識し、改善を図るというものである。「実践活動の重点は県処長レベル以上の指導機関、指導グループ、指導者」としており、一般党員には上役の欠点克服を「助ける」役割が求められる。こうして「マルクス主義の大衆観点を確立し、工作作風を改善し、人民の信任と擁護を得よう」というのである。
 自己点検の照らす鏡としては、四つの作風(官僚主義、形式主義、享楽主義、贅沢風)反対、八つの規定(調査研究の改善、会議の簡略化、文書の簡略化、出国活動の規範化、警備活動の改善、新聞報道の改善、著作出版の厳格化、勤倹節約の励行)厳守、六つの禁止令(公費での相互訪問、贈呈、宴会などの新年挨拶活動;上級部門への地元特産物の贈呈;規定に反するモノ、金銭、有価証券、商品券、商品カードの贈呈・受領;モノ金銭をやたらに配ったり、見栄を張ったりした浪費;標準を超えた接待;賭博活動を組織したり参加すること)厳守が設けられた。
 
このような作風改善活動は、腐敗分子の摘発と密接に結びついている。腐敗分子は悪化した作風の中で生まれるのであり、作風改善の中で腐敗分子は炙り出される。最近はネットを利用した告発や告示が行われるようになり、大きな効果を上げている。党中央がリタイアした信頼できる高級幹部からなる巡視グループを各部、各省に派遣して実践活動の実施振りを監督する制度を編み出したことも、腐敗退治成果の重要な要因となっている。習近平は虎と蠅の両方を徹底的に退治すると言ったが、前者については周永康、徐才厚など大物を俎上に乗せ本気度を示し、後者については直接、大衆の目に見えるもの、大衆の利益と直結するものであり、実践活動は大衆から高い評価を得ることとなった。
 
不正腐敗退治の先頭に立っている王岐山常務委員は、最近、反腐敗の三段階論、つまり「不敢貪(汚職をしようとしない)、不能貪(汚職しようとしてもできない)、不想貪(汚職しようと思わない)」を説いている。一年間余りの実践活動と汚職退治によって、基本的に汚職をしようとしない雰囲気になったと自分でも評価している。確かに現在、汚職幹部たちは戦々恐々としており、作風は大きな改善を見ている。しかし、制度面での改革を更に推し進めなければ、一時的効果で終わってしまう可能性がある。そこで今は第二段階の制度改革の局面に入りつつあり、汚職しようとしてもできない環境をつくらなくてはならないとしている。第三段階の汚職をしようと思わなくなる環境をつくるには、更なる長い期間を必要としよう。
 
9月30日、政治局会議が開かれ、10月20日から23日にかけて四中全会が開かれることが決まった。四中全会では「法治を全面的に推進する若干の重要問題についての決定」が審議・採択されることになっている。また政治局会議は「党の大衆路線教育実践活動は2013年6月に始まり、2014年9月末に基本的に終了した」とし、「四つの作風反対・作風改善の集中的推進は経常的な作風建設に転じる」と宣言した。今回の整風運動は一段落を告げ、正常な状態に戻ったことを意味する。日常活動は、経済活動も含めて、整風運動の影響を一時的に受けたが、極めて妥当なところで区切りをつけたと評価できる。

汚職問題は世界的問題であり、国際社会でも議論され、国際協力が謳われている。中国の汚職分子が外国に逃亡しており、最も多いのがアメリカである。中国当局はアメリカ政府に汚職分子を中国に送還するよう求めているが、米中間には犯罪者引き渡し協定が結ばれていないため、実行されていないと言われる。米中間の新型大国関係が打ち立てられようとしている今日、汚職分子の中国への送還が期待できよう。それによって、アメリカは中国政府と大衆の信頼を得られるようになり、それが中国的特色のある社会主義民主政治の政治改革を更に推進していくことになる。中国国民のアメリカへの信頼が高まっていくと同時に、アメリカをはじめとする世界の中国政治改革への評価も高まっていく。

二 中国経済政治社会改革の日中関係への影響
 
外交は国内政治の延長線であると言われる。改革開放政策によって中国経済は大きな飛躍を見たが、社会政治改革の立ち後れによって、中国的特色のある社会主義の優位性は十分に評価されていないのが現状だ。格差の拡大、少数民族暴力事件、集団抗議活動、拝金主義によるモラルの低下、幹部の不正腐敗などが指摘され、国内においても海外においても批判を浴びている。こうした中で、中国外交は十分な展開を見せることができないでいる。
 日本において「中国崩壊論」と「中国脅威論」が交錯している。もちろんそこには歴史的要因による偏見が働いている、中国国内の抱える問題と政策的ミスが原因となっていることも軽視できない。日本、台湾、韓国は高度成長の中で、社会的格差は縮小し、社会的不均衡が緩和されていった。それに反し、中国は長い間悪平等下にあったということもあって、不均衡な経済発展が目立ち、社会的矛盾が先鋭化した。それ故、日本や台湾においては、中国の高度成長を評価しない論調が強く存在し、中国経済崩壊論、中国共産党崩壊論が横行している。
 
ところが、習近平の実行した整風運動が、不可能とされていた不正腐敗退治をやり遂げ、既得権益集団へのメスも入れられ、量的発展から質的発展への経済発展方式の転換も着実に行われようとしている。そのため、中国的特色ある社会主義政治の将来性への評価が高まりつつあり、近い将来において、日本世論の主流となる可能性が充分にある。安倍首相のブレーンたちは、中国は大きな困難に直面しており、そのうちに日本に頭を下げてくると見込んでいる。しかし、それは全く主観的願望に過ぎず、実際の中国は日本の2倍3倍5倍と伸びていき、そのうちに一人当りでも日本に追いついていく。中国崩壊論の破綻は目に見えている。
 
日本世論の主流は、今、国際政治において起きている地殻変動を正面から見ようとしない。相変わらず発展途上国を見下げ、アメリカの覇権的地位に期待を寄せる。台頭する中国については、今後10年以内に経済は行き詰まり、政治的にも破局が来ると見る希望的観測者がかなり多い。例えば元陸将補の矢野義昭氏は「中国は、長期的には崩壊の可能性があるが、10年程度の期間内では、年率1割以上のペースで軍事費増額を継続する可能性は高い」「近い将来、米中の軍事費が逆転することも予想される」「対中パワーバランスを維持するためには、2020年ごろまでに、少なくとも我が国の防衛予算を倍増させる必要がある」(インテリジェンス・レポート2014年8月号、32ページ)と述べている。つまり今後10年、防衛予算を大幅に増やす一方、集団的自衛権を行使して米国と共に中国をけん制すべきだと説き、10年後については、中国は崩壊するから今は考えなくてもよいというのだ。

しかし、今回の整風運動によって、中国の経済、政治、社会は大きく変わり、中国的特色のある社会主義の優位性が目に見えてくるようになる。すると、日本のマスメディアも論調を変えざるを得なくなる。日本の右傾化勢力による日本国民に対する反中世論操作も効き目が大幅にダウンすることになろう。その時、日本の世論は、十倍の人口を有する中国に対してより客観的な評価をするようになり、日本の対中外交も背伸びをしない身の丈に合ったものにならざるを得なくなる。
 
日本の対中国外交を左右している重要な要因として日米関係がある。日米安保条約によって日本は守られており、日米軍事同盟を強化することによって中国をけん制できると日本政府も多くの国民も考えている。しかし、米国は戦術的には日米軍事同盟の利用価値があるとみているが、戦略的には中国と新型の大国関係をつくる必要があると考えている。中国に対する見方は、米国は日本よりも現実的であり、理性的である。EUは更に現実的、理性的である。日本は距離的に近いが故に、中国について虫に浸食された樹木に目を奪われ森の全体像を見失う傾向にある。

それに対し、アメリカは習近平の国内政治における果敢な切り込みと外交政策における戦略的展開を冷静且つ理性的に評価している。アメリカ国務省のAPEC担当高官の話によると、APECが終わった後、丸一日を費やして米中首脳会談が行われ、それは私的交流方式で昨年6月の米中首脳会談8時間半を上回る時間が割かれるとのことだ。11月のAPECで日本が予想できなかった米中関係の進展をみる可能性がある。

1972年、日本はアメリカのキッシンジャーとニクソン大統領による頭越しの対中外交によって大きなショックを受けた。日本の世論も沸騰し、日中国交正常化が一気に進んだ。現在の日中関係はその時と似ているように思える。当時、中国は戦略的には米国も日本も重視したのであるが、戦術的には日本の佐藤内閣を無視して、先ず米中関係の改善を先行させた。現在も、安倍首相の反中国姿勢を無視して、米国の新戦略(国際協調主義)に前向きに対応して、安倍政権の国内での孤立化を図ろうとしている。高い世論支持率を得ている安倍内閣が倒れるなど余りにも現実からかけ離れているように思えるが、安倍の対中国包囲網外交は完全に破たんしており、国民がそれに気づく日は間近に迫っている。

現に、日本の世論の中には、安倍内閣の反中国的外交に疑問を呈する理性的な声があちこちで上がっている。日経新聞8月13日の「大機小機」に「ドイツに敗れた日本」と題するコメントが掲載された。それは「ドイツが独仏融和を軸に欧州連合(EU)を築き、近隣諸国との関係を深化・拡大させたのに対し、日本は中国、韓国という重要な隣国との関係でつまずいている」とし、そのため「日本は世界の成長センターの恩恵を十分に享受できない」でいる現実を指摘する。そして「戦後69年、なぜ日本はドイツに敗れたかを検証する」必要があり、「ドイツに何を学ぶかで日本の針路は決まる」としている。現在の安倍外交の歴史認識問題への厳しい批判である。

また、慶応大学准教授大久保健晴氏は、8月18日付読売新聞に「中国の夢 どう対峙」と題する小論を書いている。その内容は、欧州で生まれた「万国公法とは結局のところ、列強が互いに勢力の拡大をかけて鎬を削る」ものであり、日本の明治政府は「国際法を盾に条約外交を展開し、中国を中心とする旧来の東アジア秩序の改変を企てた。その象徴が日清戦争であった」とし、「近代日本における国際法とのとり組」が「アジア世界に平和と安定をもたらした」とは言えず、「日本近代の軌跡を無批判に肯定することはできない」と侵略美化論を批判する。そして「今日の国際法の発展は、19世紀とは異なり、他のアジア諸国との連帯をも可能にする。今こそ歴史を振り返り、未来を想像する力を養う必要がある」と説く。その言わんとするところは、「歴史を鑑として、未来志向で」ということであり、安倍首相の言う「法の支配」については、発展途上国を配慮した「新しい国際法の支配」に変えていく必要があると主張する。

三 本土の政治社会変革が促す両岸政治関係の発展
 
台湾の世論はアメリカと日本の影響を受けやすい。現在、中国国内における習近平の作風改善、汚職退治への高い評価が、アメリカや日本に伝わりつつあり、そのうちに台湾の世論にも反映されていくこと間違いない。

今回の整風運動について、一年前の今頃は「反腐敗掛け声論」が国内で主流を占めていた。つまり、本当に反腐敗をやり遂げるのは大変難しく、掛け声だけで終わってしまうであろうと見られていた。従って余り重視されていなかったし、期待もされていなかった。国内のこういった雰囲気が海外に伝わり、日本や米国でも掛け声だけで終わるであろうと見られ、マスメディアも取り上げることが殆どなかった。

その後、多くの高級官僚が取り調べられるようになってから、中国国内では大衆の支持を得られるようになったが、海外では「政治闘争論」が叫ばれるようになった。即ち習近平が自己の支配体制を確立するために、反対派潰しに取り掛かったというのである。これは整風運動の真実を顧みず、派閥闘争に矮小化したものであるが、日本などではこのような邪論がしきりに喧伝された。

今年の半ばころになると、腐敗分子が次々に摘発されるようになり、汚職に染まった公務員たちが戦々恐々としている状況が生まれ、日常の業務にも影響するようになった。そこで、中国国内の既得権益集団などから、大衆路線教育実践活動という整風運動が経済活動やその他の活動を妨げているという「反腐敗有害論」がしきりに言われるようになってきた。それは中国進出の外資企業にも影響を与え、海外においても整風運動有害論が言われるようになった。とりわけ、外資企業の不法行為への取り締まりが強化され、贈賄、独占禁止法違反などが問われるようになってから、習近平が展開する整風運動への反感が強くなっていった。

しかし、整風運動の真実は、着実に作風改善と腐敗摘発を推し進めており、社会の雰囲気は大きな改善を見ていて、大衆の絶大な支持を得ている。それは必然的に海外にも伝わり、中国大陸に対して強い偏見をもつ台湾の人たちも徐々に見方を変えるようになっていく。とすると、大衆路線教育実践活動は台湾の社会でも評価されるようになり、両岸関係の発展にもよい効果を生み出すことになる。
 
まず考えられることは、両岸関係の政治対話環境が生まれてくることである。馬英九は政治対話の条件として天安門事件の名誉回復、大陸の民主化を挙げてきた。しかし、今回の整風運動によって、中国的特色のある社会主義民主政治が確立するようになっていくとすると、当然、政治の民主化、天安門事件見直しの条件は影が薄くなっていく。天安門事件見直しは習近平政権の二期目に行われると見られているが、中国本土の政権が大衆から支持され、海外においても評価されるとなれば、両岸トップ会談の条件は整えられていく。
 
次に両岸関係の政治対話を妨げていた次の諸要因もよい方向に向かう可能性がある。
一つは中米関係の発展によって、台湾のアメリカにとっての軍事的価値が相対的に低下していく。台湾は米国にとって中国大陸牽制の不沈航空母艦として重要な存在であったし、武器輸出によるドル箱でもあった。しかし、中国の経済力と軍事力が増強されアメリカとの格差が縮小していく中、また東欧のウクライナ問題、中東のイスラム国問題など新たな国際的課題を抱える中、アメリカは平和発展を図る中国との新型大国間関係を構築することが唯一の望ましい選択と見なしつつある。更に、今回の整風運動によって、中国の政治改革推進の土台がつくられ、より安定した中国社会になれば、人権問題での米国世論の対中国圧力は緩和されていく。こうした中、米国の対中国戦略は牽制面が後退し、協力面が前進する必然性にある。今まで、アメリカの対アジア戦略が両岸関係の政治的対話を阻む重要要因となっていたが、それが弱まっていく可能性が十分にある。
 
二つ目は台湾における中華文明の共通意識が高まっていく。「中国の夢」として習近平は「中華民族の偉大な復興」を掲げたが、当初、それは漢、唐の時代復帰を想像させ、国際的に余り良い評価が得られなかったが、この一年余りで大同理念や国際的「運命共同体」論が展開され、「中国の夢」が国際性を帯びるようになった。しかもシルクロード経済ベルト構想や海上シルクロード戦略が提示され、インフラ整備などの具体的政策が実施されるようになると、周辺諸国からますます期待・歓迎されるようになった。それは今回の整風運動によって更に強まり、当然、台湾にも影響を与えるようになる。民進党時代に脱中国化が進められたが、現在、国民党政権によって脱脱中国化が図られている。今のところ十分成功しているとは言えないが、整風運動が展開される中、大陸においてマルクス主義と中華文明との有機的結合が進めば、台湾における大陸本土へのアレルギー性は弱まっていこう。

三つ目に、抗日戦争での国共合作が客観的に評価されるようになった。習近平は最初の国家指定の抗日戦争勝利紀念日である9月3日に講話を発表し、抗日戦争での国民党将軍の功績を客観的に評価した。また、南中国海での台湾の国防力強化の姿勢も前向きに評価されるようになった。これは両岸関係の改善に有利であるばかりでなく、日本の歴史に逆行する右傾化現象に歯止めをかける面でも重要な意義がある。カイロ宣言がルーズベルト、チャーチル、蒋介石の三巨頭会談によってまとめられ、日本軍国主義の徹底的清算と戦後のアジア国際秩序が規定された。しかし、国共内戦と中国共産党勝利によるアメリカの対アジア戦略の大転換によって、台湾の統一は阻まれ、日本軍国主義の清算は不徹底に終わった。その結果、日本はドイツとは全く異なった道を歩むことになり、今もって過去の侵略戦争へのけじめをつけておらず、アジア全体の不安定要因となっている。両岸関係連携強化の動きは、当然、政治的対話促進の効果を生み出す。

四つ目に中国本土主導の台湾を含む東アジア共同体の形成を促す。王毅外交部長は先日ASEAN10+3の外相会議で2020年に向けての東アジア共同体の形成目標達成を口にした。ということは日本が消極的でも中国主導で推進することを意味する。北東アジアにおいては韓国と中国とのFTAの話し合いが進んでおり、台湾の国民党政権は後れを取らないよう「物品貿易取り決め」(2010年「経済協力枠組み協定」の後続協議)や「サービス貿易協定」の締結と実施に力を入れている。東アジア共同体が形成されるようになると、台湾はより一層周辺化される可能性があり、それを防ぐために、両岸関係の政治的解決に取り組まざるを得なくなる。両岸関係の政治的枠組みができれば、台湾も共同体の一員となれるからである。
 馬英九は6年前総統に就任した際、両岸関係の政治的解決に意欲を示した。しかし、島内の抵抗にあって無為のうちに6年間を過ごしてしまった。両岸関係の平和発展のコンセンサスができ、経済的には顕著な進展をみることができたが、政治的対話、両岸首脳会談は遂に今になっても実現していない。実際に馬英九に残された時間はあと2年足らずで、今年11月の地方選挙が終わると、2016年の総統選とは無関係の彼にとって、来年一年は全く自由な身となり得る。もし歴史に残る政治的業績を残そうとするのであれば、最後の政治的チャンスとして、来年春頃の習馬首脳会談が考えられる。現在、整風運動が一段落した習近平政権は、かなりの余裕を持って両岸関係に取り組むことができる。海峡両岸の首脳会談実現の可能性は極めて高いと言えよう。

注)この原稿は全日本華僑華人中国和平統一促進会勉強会(9月13日)でのスピーチをもとに整理したものである。2014年 9月23日執筆、10月1日修正。


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