【コラム】技術者の視点(12)

中国の新型炉開発

荒川 文生
===============================================

◆ 1.山東省 威海を訪ねて

 日本・韓国・中国・香港にある4つの電気技術関連学会が毎年順番で開催を受け入れている国際会議(ICEE)が、今年は中国山東省威海市で開催されました。
 ここはかつて清朝の海軍基地があり、今でもその歴史を想わせる土地柄ではありますが、現在は「緑色都市」を謳い文句として海岸沿いに美しい公園を造るいっぽう、市の郊外に広い工場地帯が展開し、新幹線も走っており、空港から威海市の中心部へは往復6車線の広い道で40分の道程です。
 威海市の中心部から空港は南西方向にありますが、南東方向に90分ほど走った先にある石島湾に、原子力発電の為の新型炉が実証計画のひとつとして建設されていました。4基の高温ガス炉と2基の改良型軽水炉(APWR)です。

◆ 2.高温ガス炉の実証計画

 高温ガス炉はかつて1970年頃、既にその熱効率の高さが注目され、世界各国で研究開発が進められていました。日本でも最初に英国から導入した東海1号炉(マグノックス型ガス炉)の後を継ぐAGRに続くべきものとして導入開発が検討されていましたが、1973年の「石油危機」の煽りを受けその開発は断念されていました。それがなんと今中国で実証試験が行われており、核燃料は既に2013年に装荷済みで、2019年には20万kWで発電を開始する予定だそうです。(この年号は聴き取りの結果で、持ち帰った資料には明記されていません。)

 現場は黄海を挟んだ大連の向かい側にあり、広々とした海に面した小島の上に緑の植栽を施した敷地のなか、原子炉建屋を初め諸設備が真っ白な外壁の建物として整然と並んでいました。勿論、訪問者が中に立入る事は出来ず、展示模型の前で説明を受けるだけです。発電所の建設や運転の実務に多少でも関わった者なら、建屋の中に入って機器装置の状況を観ておおよその見当をつけることが出来るのですが、展示模型の前の説明では、説明者の目の輝きに感ずるものはあっても、実情を推し量る事も出来ません。

画像の説明

◆ 3.長期計画の位置づけ

 2010年に北京の清華大学を訪れた時に受けた説明では、商業運転中の原子力発電所は11基906.8万kWで、さらに25基が建設中。2007年の中長期計画で2020年までの原子力発電は4000万kWとし、更に1,800万kWの建設を見込むというものでした。それでも広大な領域への電力供給の中で原子力の占める割合は、2020年時点で4%程度です。その後、風力や太陽光等自然エネルギーの利用を拡大する計画の中で、原子力は2050年時点で3%程度とされています。

 2014年のICEEで100万kW・APWRの建設計画を説明した中国の原子力技術者が強調してやまなかったのは、2011年の福島事故の状況を綿密に調査し安全設計に反映していると言う事でした。その後、世界的に拡大している「原子力から自然エネルギーへ」の状況に対し、中国はなお原子力への依存(といっても数%のものですが)を続けるのでしょうか。4%から3%程度という数字から見るとこれ以上の拡大は無いように見えますが、分母の大きさから見るとその規模の影響は極めて大きなものとなります。

 中国の新型炉実証試験設備が真っ白な建屋に収められていることは、世界の動向からみてなにやら白々しく思われるのでした。

  梅雨空に白々しくも新型炉  (青史)

 (地球技術研究所 代表)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最新号トップ掲載号トップ直前のページへ戻るページのトップバックナンバー執筆者一覧